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2015/5/27 新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会②-d スウェーデンとドイツ [東電核災害の検証・新潟県技術委]

2015年5月27日、新潟県の技術委員会があった。今日の資料は14もあり多かった。
県のWEB・・平成27年度第1回新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会(平成27年5月27日開催)
http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1356813191206.html

大別すると
①課題別ディスカッションの「課題1地震動による重要機器の影響」
②課題別ディスカッションの課題2から6までのこれまでの要約
ここまでは・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-29

③東電シビアアクシデントシナリオに関する鈴木委員と東京電力のディスカッション
福島第一で起きたこと、柏崎刈羽原発6号機、7号機で東電の想定箇所は
ここまでは・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-30
東電の回答、その根拠としたこれまでの試験、鈴木委員のコメント
これは先々回・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-30-1
メルトダウン防止・フェーズⅠの米国の耐圧強化ベント
これは先回・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31

④フィルタベント設備について東京電力の説明資料
⑤フィルタベント検証の位置付け

③の続き

スウェーデンではチェルノブイリ事故前に設置決定
TMI事故後の1980~1981年にスウェーデン政府の基本方針が出された。その中にフィルターベント装置の設置要求が入っている。86年8月末までにのBarsebäckバーセベック原子力発電所に、残りは88年末までに設置するとした。バーセベック原発は、スウェーデン第3の都市マルメ市の近郊にあり対岸20km先には隣国デンマークの首都コペンハーゲンがある。

1358377281.jpg

ECCS非常用炉心冷却系は本番で役立つか 1970年代初頭
こんなに早かったのは、何故だろうか。1971年に、半縮尺試験原子炉を使った試験実験が繰り返し行われた。稼働中の炉心を模するのに電気で熱した蒸気で加圧する。ECCS非常用炉心冷却系の実験で、その水蒸気でECCSの注水は妨げられ冷却水は炉心に届かないばかりか90%の冷却水は冷却水喪失した場所からあふれた。
http://www.nrc.gov/about-nrc/short-history.html#core-cooling
つまり、非常用炉心冷却系は屁のつっかえ棒ではないか??と疑問がもたれた。(日本も原研がROSA計画の下にセミ・スケールの専用施設を建設し冷却材喪失実験を行い、1977年からはBWRでの実験を開始している。)

 ECCSが期待されている炉注水しなくて、出来なくてメルトダウンした場合の対策は何があるだろうか??スウェーデン政府は人々の被曝での急性死亡の発生防止と大規模な土地の汚染を汚染を防ぐ事を目標にして、数値的には電気出力60万kwtの炉心にある放射能FPの0.1%以下にするフィルターベント装置の設置を要求した。(元素状ヨウ素とエアロゾル粒子をBWRでは100分の1以下、PWRでは500分の1以下にして排気する。)

92年ECCS稼働で原子炉破損
 ECCSは1992年にスウェーデンのバーセベック原発で間違って稼働中に作動し原子炉を壊している。ECCSは稼動すると蒸気噴出(steam jet)が炉から水蒸気タービンに流れ、タービンの回転でポンプがサプレッションプールS/Cの水を炉に注水する。水蒸気はS/Cに流れ込む。そうしたシステムである。試験では低温低圧時に動かしてみて作動確認する。
 しかし実際に稼働すると高温高圧の蒸気噴出(steam jet)はパイプを破損し、サプレッションプールS/Cに流れ込んだ水蒸気はS/Cの構造物を大量に破壊した。結果としてガレキの山が生れ、サプレッションプールにあるストレーナ(吸水口フィルタ)の上に積もって目詰まりを起こした。この時は、「メンテナンスの制御部分がショートして電源が停止し原子炉を緊急停止した。操作員により炉心溶融に至る前に2台の非常用発電機の復旧に成功」したので冷却水ポンプが稼働し原子炉に注水され、原発が止まったから良かったものの、そのままならECCSは目詰まりで停止、冷却停止、メルトダウンしていた。対岸20km先の隣国デンマークの首都コペンハーゲンやスウェーデン第3の都市マルメ市はどうなったろうか。
http://www.hilife.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2011/06/jiss111_tamura.pdfの69頁

バーセベック原子力発電所picture.jpg


運用・仕様
 ベント開始条件は格納容器の設計圧力Pd(約5-6気圧)または格納容器の設計圧力Pd×1.3(バーセベックのみ)。
事故開始から8時間までは代替格納容器スプレイは期待しないでも、この設計圧力までにスウェーデンのBWRは約20時間あるとみられていた。
 またフィルターで処理しきれない大量放出に備えて、ベントされるガスをフィルターの水を含むスクラバシステムをバイパスし湿分分離器だけを通す大容量圧力逃し弁がついている。(仕様では毎秒13kgが処理上限)
 自動(圧力で破れるラプチャーデスク)でも手動でも稼働可能。
 24時間は給水などメンテナンス不要。
参照・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2013-01-17

ドイツ
ドイツはチェルノブイリ事故後の86年12月に設置決定(当時は西ドイツ)。原子炉安全委員会(RSK)が緊急時対応計画を完成させるための措置として基本要件を勧告。設計基準を超えるような事故、例えばシビアアクシデントでも事故影響を制限するためとしている。(ドイツはボンの中央政府と州政府が行政主体。)
 具体的にはエアロゾル(微粒子状の放射能)の濃度を1000分の1以下に(DF1000以上)、元素状ヨウ素I₂の濃度を10分の1以下にする(DF10以上)にすることを求めている。つまり格納容器の外への放射能放出の抑制を狙うフェーズⅡの対策の一つとして位置付けている。
 ベントは格納容器の設計圧力Pd(約4.3気圧)と試験圧力Pd(約7気圧)の間。仕様では毎秒13kgが処理上限である。また、フィルターを通さないベントも可能になっている。

ドイツBWR用フィルターベント.jpg

欧州ではフェーズⅡのAM 
このようにドイツ、スウェーデンでは、放射能放出の抑制を狙うフェーズⅡの対策の一つとして位置付けられている。格納容器の設計圧力Pd、或はその1.6倍で稼働するようになっている。日本の2Pdは高い。

 フィルターを使わないベント、米国の耐圧強化ベントに相当するベントも可能になっている。スウェーデンは処理能力をこえる大量のベントをする場合となっていて、その点、合理的である。BWRのシビアアクシデントの事故シーケンスには、制御棒の挿入に失敗、スクラムに失敗する場合がある。原子炉圧力容器の底から制御棒を押し込むBWRでは起こり得る事故シーケンス。炉心の一部で核分裂反応が継続している状態。大量の水蒸気が発生して、格納容器が速く高圧化。この事故シーケンスでは燃料損傷・メルトダウン前に格納容器が過圧破損する。スクラムに失敗した時に、フィルターを使わない大容量ベントが有効だろう。
続く

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2015/5/27 新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会②-c 諸外国では? [東電核災害の検証・新潟県技術委]

2015年5月27日、新潟県の技術委員会があった。今日の資料は14もあり多かった。
県のWEB・・平成27年度第1回新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会(平成27年5月27日開催)
http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1356813191206.html

大別すると
①課題別ディスカッションの「課題1地震動による重要機器の影響」
②課題別ディスカッションの課題2から6までのこれまでの要約
ここまでは・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-29

③東電シビアアクシデントシナリオに関する鈴木委員と東京電力のディスカッション
福島第一で起きたこと、柏崎刈羽原発6号機、7号機で東電の想定箇所は
これは先々回・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-30
東電の回答、その根拠としたこれまでの試験、鈴木委員のコメント
これは先回・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-30-1

④フィルタベント設備について東京電力の説明資料
⑤フィルタベント検証の位置付け

③の続き

漏洩論議の行方
⑤フィルタベント検証の位置付けにも関連するのだが、ベントの際のフィルター・濾過器で何のどんな放射性物質・放射能の取り除きが原理的に可能なのか、何を目的・目標にするのかを見定めないと議論の行方が分からなくなると思う。BWRは世界10か国1地域で約90基が使われている。米国が30強、日本が30弱、スウェーデンが9基、ドイツが6基などなど。各国を見てみる。

米国のベントはメルトダウンの防止目的
米国はベントフィルター設置を東電核災害後にNRC米国原子力規制委員会が検討したが、費用対効果が悪いということで沙汰やみ。従来通り、耐圧強化ベントを採用している。

Mark1プラント
 1986年チェルノブイリ事故で格納容器の性能がクローズアップ。特にBWR Mark 1格納容器について議論・問題が持ち上がった。Mark1格納容器の体積が他の格納容器に比べて小さいということから、NRC米国原子力規制委員会はMark1に対して格納容器性能改善を要求する。格納容器からの除熱に失敗するTW事故シーケンスでは炉心損傷(メルトダウン)前に格納容器サプレッションプールS/Cから蒸気をベントすることは、格納容器の過圧破損を防ぎ、それによって炉心損傷の防止に効果がある。既存のAC系(格納容器に窒素を充填する不活性ガス系)やSGTS(非常用ガス処理系)を用いたダクトベントでは、運転員が配管類の過圧破損を恐れて操作をためらうことがあり得る。これを防止するために高圧力対策を施したS/Cを通する「耐圧強化ベント」の設置を掲げている。
 89年7月にMark1格納容器プラントに耐圧強化ベント系を事業者が自主的判断で付けるよう、付けないならその理由を明らかにしNRCの承認を得るよう求めた。

NUREG-1150
  NRCのシビアアクシデント研究NUREG-1150の最初のドラフトバージョンは1987年に、1989年に2番目のドラフトバージョンが公表されている。ピアレビューでは概ね妥当、「主要な再解析を行うことなく、すぐに公開する」と評価される。1990年の最終版。BWRではPeach Bottom2号機を俎上に上げ検討している。
 それによれば、格納容器ベントのみでは、どの事故シーケンスでも過温による格納容器ドライウェル破損が生じるとされている。
 なお、環境への放射能放出はこのドライウェルからの放出が主となることから、ベントの方式、ダクトベント、耐圧強化ベント、フィルターベントの違いによってリスクに有意な差は生じない。
 また、改良型自動減圧系ADS、バックアップスプレイ、バックアップ圧力容器注水などの対策は個別的にはリスク低減効果は小さいものの、これらすべてを格納容器ベントと組み合わせて採用した場合には大きなリスク低減効果が期待できることが示されている。
 逆にベントと代替注水(それによる崩壊熱除去 Decay Heat Removal:DHR)が行われない場合は、格納容器からの除熱に失敗するTW事故シーケンスの炉心溶融確率が増え全体の炉心溶融確率が約2.6倍に高まる。

米国・耐圧強化ベントの例.jpg

米国の耐圧強化ベントは炉心損傷の防止策、シビアアクシデント対策のフェーズ1としてMarkⅠプラントで採用されています。格納容器の外への放射能放出の抑制を狙うフェーズⅡの対策は主眼ではありません。サプレッションプールS/Cを通すので希ガス以外の放射能にスクラビング効果があると補足事項で指摘しているだけです。フェーズⅡとしての使用法・手順書を策定していません。
  2012年8月に米国原子力発電協会(INPO)は「福島第一事故からの教訓」という特別報告でも、専ら、水素ガス濃度を抑制し爆発を防ぐ目的で「非常時の運転手順では格納容器の設計圧力に到達する前にベントを開始することが要求されている。燃料損傷が起こった場合には、手順書ガイダンスにのっとり、PCV 内での爆発の可能性を減らすため、格納容器内の水素濃度に基づき早期ベントが要求されている。」「1980 年代以降、日本の事業者及びベンダーが米BWR-OG(Owners Group )で作成されたアクシデントマネジメント戦略から外れる意思決定を行った」ことを批判している。
参照・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-3
 米国NRCが2013年6月出した命令EA-13-109を読むと、信頼性の高いシビアアクシデント時に運用可能な強化格納容器ベントシステムを設置を要求して、ウェットウェルベントは遅くとも2018年6月30日、ドライウェルベントは2019年6月30日までの実行を求めている。ここでも、格納容器の外への放射能放出の抑制を狙うフェーズⅡの対策としてベントを考えていない。
EA-13-109の和訳と解説・・ http://www.nsr.go.jp/data/000048381.pdf

設計圧力Pd以下の圧力でベント開始される手順
 ベント開始は、PCPL格納容器圧力制限 (PrimaryContainmentPressureLimit)で開始することになっています。PCPLは格納容器の設計圧力Pd、格納容器ベント圧力、最大SRV操作圧力、原子炉ベント圧力のうちの最小値を意味します。つまり、耐圧強化ベントは格納容器の設計圧力Pd以下の圧力で開始される手順です。日本の様に、Pdの2倍で開始し格納容器の外への放射能放出の抑制を狙うフェーズⅡの対策の一つとしていません。しかし、このベントは格納容器の設計圧力Pdの2倍で開始という日本の基準も表向きのものらしく、3.11の夜には官邸対策本部では炉心損傷後に設計圧力Pdに達したらベントする方針であったことを示唆する文書が22時付、24時付であります。
参照・・ http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-18

崩壊熱除去:DHR
 NUREG-1150から、代替注水設備を取り上げずにフィルターベント設備の性能のみを評価する事は片手落ちな議論です。それによる崩壊熱除去:DHRがなければ過温による格納容器ドライウェル破損が生じるからです。柏崎刈羽原発の事故シーケンスでも、注水がない場合(極限、参考ケース)は過温破損しています。

 米国では代替注水系や崩壊熱除去:DHRの問題は個別プラント評価(IPE Individual Plant Examination(個別プラントの体系的安全解析)計画で扱うことにしました。優先順位の高い問題として継続的に扱われています。
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/anzen_sekkei/anzen_sekkei12/ssiryo2.pdf

 柏崎刈羽原発では、注水対策には電動ポンプ用の電源にガスタービン発電車を新規配備、注水用のデーゼル駆動ポンプとして消防車を追加配備しています。DHR対策は代替海水ポンプや代替熱交換器車を用意するとしている。これらは、移動式、モバイルな機器で地震や積雪などで道路状況の悪化した場合には信頼性が低いものです。その点、既に設置してある設備は信頼性が高い。しかし本設のデーゼル駆動ポンプ、つまり消火用ポンプを使う手順は一切説明されていません。福島第一を教訓とした設備改善案の中から消えています。

さて、欧州勢のドイツとスウェーデンはベントフィルターを設置済み。 続く

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アーリーベント [AM-ベント、排熱]

 米国のアーリーベント

発災から約1年半後、2012年8月に米国原子力発電協会(INPO)は「福島第一事故からの教訓」という特別報告を公表している。
和訳・・ http://www.gengikyo.jp/report/tohoku_F1jiko_INPO_report.html
原文・・ http://www.wano.info/Documents/Lessons%20Learned.pdf

その和訳の15、16頁で
「日本の BWR では、米サンディア国立研究所で実施された格納容器の健全性試験の結果の検討により、ベント実施前に格納容器圧力が設計圧の2倍に達することを許すような手順ガイダンスが決められた(NUREG/CR-6906/SAND2006-2274 [2006 年7 月発行]を参照)。」
「燃料損傷が発生した場合、アクシデントマネジメントガイドでは、原子炉格納容器(PCV)の最高運転圧力の2 倍に達すると予測され、格納容器スプレイの復旧が見込めず、注水量がトーラスベントラインに及んでいない場合には、ベントが許されるということが記載されている。格納容器のベントには発電所長の許可が必要である。」
「ベントを遅らせる戦略を採用することが決定された際、格納容器圧力が高い状況下での水素漏洩量の増加の可能性については十分に対処されなかった。」

「概して、日本の電力会社が 1980 年代以来用いている原子炉格納容器(PCV)のベント計画は、放射性物質の放出を避けるため、できるだけベントを遅らせるよう考えられている。この戦略に沿って、ベントラインには、格納容器圧力が最高運転圧力に達するまで破裂しないように設計されているラプチャーディスクが備えられている。」

「比較として、米国の BWR は、一般的に早期ベントを妨げるラプチャーディスクは備えておらず、非常時の運転手順では格納容器の設計圧力に到達する前にベントを開始することが要求されている。燃料損傷が起こった場合には、手順書ガイダンスにのっとり、PCV 内での爆発の可能性を減らすため、格納容器内の水素濃度に基づき早期ベントが要求されている。サイトERC(発電所対策本部) と相談し助言をもらった上で、当直長によってベント開始が決定される。」

Enformable-BWROG-Recommendation-5-input-rev-12-14-2011_Page_01-150x112.jpg28頁には
「1980 年代以降、日本の事業者及びベンダーが米BWR-OG(Owners Group )で作成されたアクシデントマネジメント戦略から外れる意思決定を行った。この決定は、技術的解析結果や異なる戦略の関連リスクに対する異なる見方に基づいている。たとえば、燃料損傷が起こった場合、原子炉格納容器圧力が最高運転値の2倍になると予想されない限りベントを実施しないというように日本の格納容器ベントに対するアプローチは、米BWR-OG ガイダンスとは異なっている。
この早期ベントに関する米BWR-OG の戦略からの逸脱は、希ガスを含む放射性物質を早期に放出することを防止するためになされた。」

「手順では、爆発の可能性を減ずるために水素ガス制御に可燃性ガス制御系の運転を実施することになっているが、この系統は電源がなかったので運転できなかった。EOP でもAM ガイドでも水素制御のためのPCV ベントといった他のアプローチは含まれていなかった。他の国々のBWR で使っている手順では、低い格納容器圧力で格納容器の水素を大気へベントすることができる。
ベントを遅らせることは、PCV における水素爆発の可能性を大きくすることに加え、(例えば、高圧で漏洩しやすいドライウェルのガスケットなどを通って)原子炉建屋への水素漏洩量を増加させ、炉心に注入できる低圧注水量を減らすとともに、大気への崩壊熱放出を減少・遅延させ、大きな漏えいを伴う原子炉格納容器の損傷の可能性を増加させる。」

この報告を承けて「ベントによる放射性物質の放出を嫌った日本の社会事情に合わせて運用しようとした。その点に根源的な誤りがあったとも受け取れる。」という方、日本経済新聞編集委員の滝順一氏のような方がいた。http://www.nikkei.com/article/DGXNZO46247170Y2A910C1000000/?df=3

2015年6月追記
米国NRCが2013年6月出した命令EA-13-109を読むと、米国でも「沸騰水型原子炉(BWR)は、信頼性の高いシビアアクシデント時に運用可能な強化格納容器ベントシステム(HCVS)を備えていなければならない。」と命令し、ウェットウェルベントは遅くとも2018年6月30日、ドライウェルベントは2019年6月30日までの実行を求めている。

米国NRCの信頼性の高い強化ベント改訂命令について 
http://www.nsr.go.jp/data/000048381.pdf

BWROG Companion Document
http://www.nei.org/corporatesite/media/filefolder/conferences/bwrv/archives/vent-workshop-ii.ppt

東京電力のアーリーベント (低い圧力でのベント)

しかし、格納容器の設計圧力に到達する前の早期ベント手順を事故前から東京電力は整備していた。東電は新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会に次のように答えている。
「ベントについては,当社としても米国と同様アーリーベント(低い圧力でのベント)を実施する手順を整備しており,格納容器圧力が圧力開放板の設定圧力に到達したタイミングでベントする仕様としておりました。しかし,福島事故で経験したようにベントのタイミングについてはプラントの状況にあわせて柔軟にコントロールできるような設備であるべきであったと考えます。」
(圧力開放板とは、ラプチャーディスク・破裂弁のこと。福島事故検証課題別ディスカッションの6シビアアクシデント対策
http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1356771524701.html

この手順、発災時アーリーベントの東電手順が米国の様に『燃料損傷が起こった場合には、PCV 内での水素爆発の可能性を減らすため、』ベントするものなのだろうか。東電のアーリーベントはメルトダウン、メルトスルーの時でも行うような手順なのだろうか。

スイスのアーリーベント系設備

下図は2011年12月27日の第5回東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会での資料である。奈良林 直 北海道大学 教授は、このスイスの原発を次のように説明している。
「ベント系の周到な準備がされているんです。東電さんのプラント、我が国のプラントは停電すると先ほどのSGTSのバルブをたくさん操作しなければいけないんですが、こちらは系統図にございますように、バルブを1つ操作すればいいんです。更にラプチャーディスクが今回割れなかったわけですけれども、なかなか割れなくてやきもきする状況でしたが、その場合にはラプチャーディスクと並列にバルブが入っていて、もっとラプチャーディスクが割れる前でもベントができる。つまりアーリーベントができるという構造になっています。」
「この系統、配管は放射性物質を含んだ気体が来てしまいますので線量が上がってしまいます。上の写真のとおり、バルブとラプチャーディスクの配管のところなんですけれども、四角い箱みたいなものがずっと伸びていますが、これは実はバタフライ弁の駆動軸につながっていまして」「バルブを本当に手で、このハンドルを開けなさいということで、勿論電気があれば遠隔操作で電気があるんですが、こういうベントしなければいけないというのは大体SBOのときですね。だから、そこまで考えてベントの機能が設けられています。」

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柏崎刈羽原発では、次のように変えたと東電は公表している。
全体のベントのシステムは、耐圧強化ベント系とフィルター系の2系列。耐圧は米国と同じく破裂弁ラプチャーデスクを除いた。フィルター系、スイスはヨウ素ガスを捕集し、放出率を100分に一以下にする薬液があるが、東電にはない。

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バルブも遠隔から手動で開閉できるようにしてある。
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つまり、ベント系は早期ベント、アーリーベントが可能。それも核燃料が損傷、溶融メルトダウン、溶
融貫通メルトスルーしても可能になっている。