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私が原発を止めた理由 (樋口英明 (著) – 2021/3/1 [核のガバナンス・裁判]

私が原発を止めた理由 -2CIUL.jpg私が原発を止めた理由 
樋口英明 (著)
出版社 : (株)旬報社 
ISBN-13 : 978-4845116805
発売日 : 2021/3/1


大飯原発の差止め判決を出した元裁判長が、「裁判官は事件を論評せず」の伝統を破って初めて語った!
原発の耐震性は一般住宅より低いという衝撃の事実!
「原発敷地に限っては強い地震は来ない」という地震予知に依拠した原発推進あなたの理性と良識はこれを許せますか?
◆「はじめに」より
2011年3月11日福島第一原子力発電所で過酷事故が起きました。その時、福島第一原子力発電所で実際に何が起きていたのかをほとんどの人は知りません。時の経過とともに福島原発事故の深刻さが人々の意識の中から薄れていっているように思えます。福島原発事故から10年が経過しようとしていますが、あの事故から私たちは何を学ばなければならないのでしょうか。そのことを問い直したいのです。
原発の問題は福島原発事故の前も現在も我が国の最重要課題であり続けています。しかし、多くの人は、「あれだけの事故があったのだからきちんとした地震対策がとられているはずだ」、「多くの裁判所が再稼働を認めているのは裁判所も安全だと判断したからだ」とか、あるいは、「あんな嫌なことはもう起こらないはずだ」と漠然と思っています。
我が国の国策は安全な原発は積極的に動かすということであり、言い換えると危険な原発は動かさないということです。この国策に賛成の人にも反対の人にも、もしくは、現在の原発はそれなりに安全だと思っている人にも、原発の問題はイデオロギーの問題だと思っている人にも、保守の人にも革新の人にも、脱炭素社会の実現が重要課題だと思っている人にもそうでない人にも、等しく、原発の本当の危険性を知ってもらうのがこの本の目的です。
この本には原発の運転が許されない理由が書いてあります。
その理由は、以下のとおり、極めてシンプルなものです。
第1 原発事故のもたらす被害は極めて甚大。
第2 それゆえに原発には高度の安全性が求められる。
第3 地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということに他ならない。
第4 我が国の原発の耐震性は極めて低い。
第5 よって、原発の運転は許されない。
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この理屈は誰にでも理解できるはずですし、福島原発事故の教訓を踏まえれば、誰もが納得せざるを得ないはずなのです。法律家を含む多くの人が、原発が危険かどうかを判断するためには、原発についての詳しい知識と地震学の知見が必要だと思い込んでいます。だから、原発推進派だけではなく、原発に対して中立的な人々あるいは中立的でありたいと思っている人々からも、「専門知識のない素人の裁判官に何が分かるものか」とか、「脱原発をとなえている人々もしょせん素人だ」という批判がなされるのです。
しかし、私が原発の運転差止め訴訟を通して分かったことは、原発の運転が許されない理由は極めてシンプルで当たり前のものだということです。高度の専門知識を用い、深遠な議論の末に原発の運転が許されないという結論が導かれるのではないのです。もし仮に、原発の問題がそのような議論の末に運転が許されないという結論が得られるような問題なら、あるいは専門家でなければ解けないような問題なら、素人の元裁判官である私がこの本を書こうとは思わなかったと思います。
裁判官が退官後とはいえ、自分が関わった事件について、論評することはほとんどと言ってよいほどありません。論評することが法に触れるわけではありませんが、論評しないことは裁判所の伝統であることは間違いないのです。なぜ、私がその伝統を破ってまで、原発の話をしなければならないと思ったのか。それは、専門家でもない私の目から見ても、原発の危険性があまりにも明らかだったからです。そして、原発の危険性が専門知識のない素人目にも明らかだということくらい恐ろしいことはないのです。
原発や地震学についての詳しい知識は要りません。思い込みを持たずにものごとを素直に捉える目を持った高校生以上の方が、この本を読んでいただければ原発の危険性がどれくらい大きなものかお分かりになると思います。そして、その原発を止めるために何をしたらよいのかについて考えていきたいと思います。
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◆主な目次
はじめに
第1章 なぜ原発を止めなければならないのか
1 危険とは何か
2 福島原発事故とは
(1)福島原発事故の概要
(2)原発の仕組み
(3)安全三原則
3 被害の大きさにおける危険
(1)福島原発事故の被害
(2)2号機の奇跡
(3)4号機の奇跡
(4)免震重要棟の存在
(5)その他の奇跡
(6)原発事故の被害の大きさにおける真の危険性
4 事故発生確率における危険
(1)被害の大きさと事故発生確率は反比例する
(2)過去の地震のデータ
(3)原発の危険はパーフェクトの危険
第2章 原発推進派の弁明
1 住宅とは比較できない―1番目の弁明
2 原発の耐震設計は地表を基準としていない―2番目の弁明
3 強震動予測―3番目の弁明
(1)問題の所在
(2)強震動予測の信頼性
(3)3.11前の私と訴訟担当後の私
(4)なぜ多くの裁判長は差し止めを認めないのか
(5)まとめと新たな問題提起―地震動予測の問題点
4 電力不足とCO₂削減―4番目の弁明
(1)電力供給について
(2)脱炭素について
(3)化石燃料費について
5 原発を止める当たり前すぎる理由
6 放射能安全神話―原発推進派の最後の弁明
(1)新たな神話の登場
(2)1ミリシーベルトの意味
(3)黒い雨判決で明らかになったこと
第3章 責任について
1 3.11後の私たちの責任が重い理由
2 司法の責任
(1)問題はどこにあるのか
(2)これまでの訴訟と新たな訴訟のありかた
(3)裁判官の姿勢
3 私たちの責任
あとがき
福井地裁大飯原発運転差止め訴訟判決要旨
著者について
樋口 英明(ひぐち ひであき)
1952年生まれ。三重県出身。
司法修習第35期。福岡・静岡・名古屋等の地裁・家裁等の判事補・判事を経て2006年4月より大阪高裁判事、09年4月より名古屋地家裁半田支部長、11年4月より福井地裁判事部総括判事を歴任。
17年8月、名古屋家裁部総括判事で定年退官。14年5月21日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差止を命じる判決を下した。
さらに15年4月14日、原発周辺地域の住民ら9人の申立てを認め、関西電力高浜原発3・4号機の再稼働差止の仮処分決定を出した。


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二種の「既往最大」・・大飯原発運転差止判決を読んで [核のガバナンス・裁判]

既往最大

2014年5月21日の大飯原発運転差止請求事件判決の判決要旨では、1260ガルを超える地震についての項で2回出てくる。判決原本文では、住民原告らの主張として19頁に『「既往最大」、すなわち、人類が認識できる過去において生じた最大の地震、最大の津波』とある。被告の関西電力は「既往最大の主張は、かかる地域性の違いを無視し、立地地点に応じた地震・津波対策の考え方を否定して、他の場所における過去に生じた最大の地震、津波の記録を前提とすべきというものであって、科学的合理性を欠き、妥当ではない」26頁と主張している。そして、700ガルが地震学の理論上導かれるガル数の最大であり、700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないとしました。

 判決謄本は原子力資料情報室のここから ダウンロード
http://www.cnic.jp/5851

裁判所は「我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。」44頁。「全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり(地震学の理論上導かれる)想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来しているという事実を重視すべきは当然である。」「地震の想定に関しこのような誤りが重ねられてしまった理由については、そもそも(1)で摘示した地震学の限界に照らすと仮説であるアスペリティの存在を前提としてその大きさと存在位置を想定するなどして地震動を推定すること自体に無理があるのではないか、あるいはアスペリティの存在を前提とすること自体は問題が無い者の、地震動の推定する複数の方式について原告らが主張するように選択の誤りがあったのではないか等の種々の論議がありえようが、これらの問題については今後学術的に解決すべきものであって、当裁判所が立ち入って判断する必要のない事柄である。」51頁
「これらの事例はいずれも地震という自然の前における人間の能力の限界を示すものというしかない。」52頁

既往最大の地震が示す地震学の学術的限界 
つまり、地震学が立脚する事実から現在の地震学の学術的限界を明示しています。そして「被告(関西電力)の本件原発の地震想定(700ガル)だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。」とします。日本での既往最大「岩手宮城内陸地震における4022ガル」であるが、「既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎない」起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないと被告・関西電力が自認している1260ガルを超える規模の地震は「大飯原発に到来する危険がある。」45頁とした。

抽象的哲学的に言えば「無知の知」(無知であるということを知っている)を判断の根底においている。しかし裁判所は「新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなるから、新しい技術の有する危険性の性質やもたらす被害の大きさが明確でない場合には、その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは困難を極める。」40頁と無知の知だけでは差止めは判断できないとしています。

被害の大きさが判明している場合の判断の枠組み 
しかし、「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになった」このように「技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、技術の実施に当たっては危険の性質と被害の大きさに応じた安全性が求められることになるから、この安全性が保持されているかの判断をすればよいだけであり、危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じることはない。」40頁。つまり、危険性や被害の大きさが既知であれば、学術的問題に立ち入り判断する必要は無く、その「既往最大の危険性、被害」に見合った安全性が保持されているかを見ればよいという判断の枠組みを示しています。

伊方原発訴訟の最高裁判決との関連性
 最高裁の研究会の資料を見ると、最高裁は伊方原発訴訟の最高裁判決「伊方原発最判」をお手本にせよと説いています。それは「安全性審査が、将来予測事項を含む多方面の科学的、専門技術的知見を結集した総合判断であること等を考慮して、裁量統制型の司法審査の枠組みを採るというもの」H23年資料、「東日本大震災と福島第一原発事故の発生により得られた様々な教訓や知見の中には、伊方原発最判がいうところの『現在の科学技術水準』の一部を形成するものがあるということである。そこで、今後は、それらを含む現在の科学的水準に照らして、基本設計の安全性について、審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点がないか、あるいは、具体的審査基準適合性の判断過程に著しい過誤欠落があったかどうかが判断されることになる。」H24年資料

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 福井地裁の差止判決で裁判所は、「規制基準への適合性の判断を厳密に行うためには高度の専門技術的な知識、知見を要することから、司法判断が規制基準への適合性の有無それ自体を対象とするのではなく、適合していると判断することに相当の根拠、資料があるか否かという判断にとどまることが多かったのには相応の理由がある」42頁

 技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、伊方原発最判のいう具体的審査基準や判断過程を現在の科学的水準に照らして検討するよりも、その判明している危険性、被害に見合った安全性が保持されているかを検討判断するという判断の枠組みを示しています。
 この判決を「ゼロリスクを求める考え方」(日本原子力学会、2014年5月27日付プレスリリース)と解する方々がいますが、裁判所は「新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなる」「危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じる」とも摘示しています。そして、技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさが判明した場合に、それに応じた安全性を求めています。最初からゼロリスクは求めていません。日本原子力学会は、言い掛かりを付けている様にみえます。

TMI事故、チェルノブイリ事故という既往最大 
 
世界的には「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさ」は1979年のTMI事故、1986年のチェルノブイリ事故で既知です。米国や欧州の規制、安全性保持の対策はそれで方向転換しています。この「既往最大」を想定し、対策の有効性に「残余のリスク」と名付けた危険性が常在していることを前提とした安全規制体系に転換しています。これまで知られていない想像、想定もしていない事故の発生経路があるという「無知の知」を根底に置いた規制体系に方向転換しています。
 
 この「無知の知」を根底に置く姿勢に比べ、東電の福島原発事故の「直接原因のみならず、根本原因まで明らか」(日本原子力学会)は、学術的には苦笑せざるを得ない幼稚な態度に見えます。裁判所は「一般的には事故が起きれば事故原因の解明、確定を行いその結果を踏まえて技術の安全性を高めていくという側面があるが、原子力発電技術においてはいったん大事故が起これば、その事故現場に立ち入ることができないため事故原因を確定できないままになってしまう可能性が極めて高く、福島原発事故においてもその原因を将来確定できるという保証はない。」48頁
TMI事故のように事故炉を詳細に直接に観察もできていないのに「直接原因のみならず、根本原因まで明らか」にできる日本原子力学会は、実証的な科学ではなく、コンピューターシュミュレーションなど仮想的、空想的科学に基礎を置くのでしょうか。

1979年のTMI事故は、確率論的リスク解析法・PRAを用いたWASH-1400・ラスムッセン報告が1975年に予想したように多重故障で発生しました。TMI事故前後から各国は確率論的リスク解析法・PRAによる確率論的安全評価・PSAを活用して、新たな規制体系を構築しています。確率論的安全評価は、その評価結果の事故リスク値は絶対値としては不確定要素が多く信頼性が低いが、相対値としては有用として採用する対策の評価などに活用しています。絶対値としては、信頼性が低いのですから、幾ら小さな値、極小のリスク値、事故確率値でも、それ「前段否定」し、発生確率を1とおいて次段の対策を建てるようにしました。それは国際的にはIAEAの5層の深層防護という枠組みに定式化されています。

 
1979年のTMI事故は、確率論的リスク解析法・PRAを用いたWASH-1400・ラスムッセン報告が1975年に予想したように多重故障で発生しました。TMI事故前後から各国は確率論的リスク解析法・PRAによる確率論的安全評価・PSAを活用して、新たな規制体系を構築しています。確率論的安全評価は、その評価結果の事故リスク値は絶対値としては不確定要素が多く信頼性が低いが、相対値としては有用として採用する対策の評価などに活用しています。絶対値としては、信頼性が低いのですから、幾ら小さな値、極小のリスク値、事故確率値でも、それ「前段否定」し、発生確率を1とおいて次段の対策を建てるようにしました。それは国際的にはIAEAの5層の深層防護という枠組みに定式化されています。
 
前段否定・・無知の知 
 この確率論的リスク解析の主柱はイベントツリーによる事故経路の解析と明示です。イベントツリーに関して裁判所は「イベントツリー記載の対策が真に有効な対策であるためには、第1に地震や津波のもたらす事故原因につながる事象を余すことなくとりあげること、第2にこれらの事象に対して技術的に有効な対策を講じること、第3にこれらの技術的に有効な対策を地震や津波の際に実施できるという3つがそろわなければならない。」46頁としています。
参照・・確率論的手法による安全評価 メモ

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米国や欧州の規制にある「前段否定」は、こうしたことから事故が起きることを予め想定しておくとです。確率論的安全評価・PSAを活用して事前に安全対策を講じておく。炉心・核燃料損傷を防止するように安全対策を、設備を講じて置く。それでも「無知の知」、第1、第2、第3の点でこれまで知られていない想像、想定もしていない事故の発生経路があるから、それによるメルトダウン事故発生は想定する。「前段否定」をおこなう。メルトダウン、メルトスルーまでに至らない防護策、フェーズ1のシビアアクシデントマ・ネジメントAMを建てて置く。それも「前段否定」して、メルトダウンしたら原子炉建屋からの放射能放出を抑制するフェーズ2のシビアアクシデントマ・ネジメントAMを用意しておく。それも「前段否定」で、放射能が発電所敷地外に大量に漏れだす事態を想定し、公衆の被爆量を規制値(多くの国で1mSv/年)以下に抑える防災・避難計画を建ててとく。AMをまとめて第4層の防護、公衆の被爆低減策を第5層の防護と言います。 
 
3層までの防護策、第4層の防護策では、様々な工学的安全策がとられます。欧米ではその有効性を確率論的安全評価PASで確認しながら採用されます。そのPSAでは原因につながる事象のすべてを取り上げることは極めて困難ですから、これまで知られていない想像、想定もしていない事故の発生原因、経路あり「残余のリスク」がある。その「無知の知」は、工学的安全策は想定した条件では有効性を確認できるますし、確認してますが、想定していない条件下では有効性は不確実であるという認識も含みます。
 
セイフティ21計画の失敗 
 このように、前段否定で多段に防護措置を構築し、公衆の被曝量や放射能汚染による財産や地域の喪失を抑制しようとしています。米国では第5層の防災・避難計画は電力会社と州など地元自治体が共同で作成し、フィーマFEMA連邦緊急事態管理庁がチェックします。その防災計画がないと、原発は建設・運転許可が出ません。TMI事故の翌年1980年に法をそのように改定しています。それで社会的受忍を取り付ける仕組みにしています。州など地元自治体・社会は、原発が受忍できないのなら、防災計画を拒否すればよいのです。実際、それで運転しないまま廃炉になったニューヨーク州ショーラム原発があります。
参照・・原子力防災からの変革
 
 自動車は事故がありますが、そのリスクを受忍して使っています。日本原子力学会に「恩恵とのバランスで社会はそのリスクを受容」するよう教示されなくとも既に日本社会はそうなっています。この判決もそうです。日本原子力学会は、そのような社会的には空疎な文言を弄せずに、「原子力の広範囲にわたる学術・技術専門家集団」として、特に遅れている第5層の防護対策に取り組んで、原発のリスクは恩恵とバランスがとれることを具体的に社会に示されては如何でしょうか。
 
 欧米やIAEAの5層の深層防護の枠組みを、日本もチェルノブイリ事故の後に取り入れようとして、「セイフティ21計画」を立案実行に移しています。 参照・・チェルノブイリ事故とセイフティ21計画
 
しかし失敗しています。
参照・・深層防護で寝た子を起こすな
  SBO対策にみる確率論的安全評価の使われ方

その失敗の結果なのか原因なのかは判りませんが、「原子力の広範囲にわたる学術・技術専門家集団」の日本原子力学会には「無知の知」が欠けています。無知の無知です。

 新規制基準の実効性

 それでは、東電の福島原発事故で2011年、平成23年以降の規制行政では、実効的になったでしょうか。裁判所は「5 冷却機能の維持について」、「6 閉じ込めるという構造について(使用済み核燃料の危険性)」と論じた後に「7 本件原発の現在の安全性と差止めの必要性について」で次のように摘示しています。
「現在、新規制基準が策定され各地の原発で様々な施策が採られようとしているが、新規制基準には外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えらるまで強度を上げる、基準地震動を大幅に引き上げこれに合わせて設備の強度を高める工事を施工する、使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むなどの措置は盛り込まれていない。(別紙4参照)従って、被告の再稼働申請に基づき、5、6に摘示した問題点が解消されることがないまま新規制基準の審査を通過し本件原発が稼働に至る可能性がある。こうした場合、本件原発の安全技術及び設備の脆弱性は継続することとなる。」 65頁。別紙4は、平成25年6月19日付の原子力規制委員会の「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」です。
 新規制基準で原子力規制委員会の審査を合格しても、問題点が解消しない可能性を裁判所は指摘しています。設備の強度を高める工事など工学的安全対策が実施されない可能性を指摘して、脆弱性が継続する可能性を指摘しています。つまり、東電の福島原発事故以降でも規制行政は、国際水準、5層の深層防護に質的に実効性をもって追いついていない。
 日本原子力学会は判決には「原子力発電所のみ、工学的安全対策を認めないと言う考え方」があると批判していますが、このように全く的外れです。引用した部分は、判決要旨にはありません。判決の原本文にあります。おそらく、「原子力の広範囲にわたる学術・
技術専門家集団」の方々は原本を読んでいないのです。

最高裁が裁判官にお手本にせよと説いている伊方原発訴訟の最高裁判決「伊方原発最判」では、「安全性審査が、将来予測事項を含む多方面の科学的、専門技術的知見を結集した総合判断であること等を考慮して、裁量統制型の司法審査の枠組み」を採り、「現在の科学的水準に照らして、基本設計の安全性について、審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点がないか、あるいは、具体的審査基準適合性の判断過程に著しい過誤欠落があったかどうか」を審理する。

 その現在の科学的水準を証言するお歴々の代表格は、日本原子力学会の会員。その学術の水準は、東電福島第一原発の事故炉を詳細に直接観察もしていないのに自信をもって「直接原因のみならず、根本原因まで明らかにしています。」というレベルです。世界では通用しない空想的科学です。また他者の主張や考えは、裁判批判でわかるように、読みもせずに、批判する。全く信用がならない。こういう方々が、最高裁推奨の伊方原発最判の枠組みでは、重要な役割を果たします。この科学的水準に照らして、不合理な点や著しい過誤欠落を見つけるのです。見るかるでしょうか?

 原子力規制委員会と規制庁の狭義の原発規制は、世界に比べ40年は遅れている。それを正す司法も含めた広義の原発規制は、「伊方原発最判」の判断の枠組みにとどまる限り無力です。


最高裁が参考推奨の原発裁判判例 H24研究会資料 [核のガバナンス・裁判]

平成25年2月12日の最高裁事務局主催の特別研究会(複雑困難訴訟)の資料の抜書き
court_004b-001.jpg 講師 大学大学院教授 2名
     弁護士
     法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
     新聞社論副委員長

 ここから入手
NPO法人(特定非営利活動法人)
情報公開クリアリングハウス
http://clearinghouse.main.jp/wp/

論点項目
第1問 原発訴訟等関係
1福島第一原発事故発生後の諸情勢の動きが、原発関連訴訟に係る裁判所の審理運営や判断の在り方に及ぼす影響について【提出問題1~3】
(論点)
(1)原子炉設置許可取削訴訟等の行政訴訟における従前の判断枠組みについてどのように考えるか。裁判所の審理の内容はどのようになるか。【提出問題1】
(2)民事上の差止請求における違法性の判断の在り方についてどのように考えるか。
 行政訴訟との間で違いはあるか。【提出問題1】
(3)現在進行形で進められている調査、研究や安全基準の策定等を視野に入れて、審理運営をどのように考えるぺきか。【提出問題2,3】
(参考裁判例)
 最三小判平4.9. 22・民衆46巻6号571頁(もんじゅ訴訟)
 最一小判平4.10. 29・民衆46巻7号1174頁(伊方原発訴訟〕
 政一小判平17.5.30・民集59巻4号671頁(もんじゅ第2次訴訟)
 名古屋高金沢支判平21.3.1 8 ・判時2045号3頁(志賀原発訴訟・控訴審)
 金沢地判平18.3.24・判時1930号25頁(志賀原発訴訟・第一審)
 仙台高判平11、3.31・判時1680号46頁(女川原発訴訟・控訴審)
 仙台地判平6. 1.31・判時1482号3頁(女川原発訴訟・第一審)

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最高裁推奨の3.11後の原発裁判の在り方② H23研究会資料抜書き [核のガバナンス・裁判]

平成23年2011年12月22日付の最高裁事務局主催の特別研究会(複雑困難訴訟)の資料の抜書き
court_001.jpg 講師 大学大学院教授 2名
     弁護士
     法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
     


ここから入手
NPO法人(特定非営利活動法人)
情報公開クリアリングハウス
http://clearinghouse.main.jp/wp/

 【提出問題3】
 (提出問題)
 電力会社に対し発電用原子炉施設(原発)の運転の差止めを求める民事訴訟事件及び仮処分命令中立事件において考慮すべき事項について
 (提出理由)
 東日本大震災による福島第1原発事故を契機として、原発の安全性が国民の重大な関心事となり、この種の訴訟等も提起されているようであるが、この種の事件は、社会的影響が極めて大きい上、高度の技術的、専門的事項が争われ、判断も困難であることから、裁判所の審理及び判断のあり方が大きな問題となる。

 (意見)
1 原発の安全性に開わる資料を保持しているのがもっぱら被告(債務者)であることから、立証責任をどのように考えるかが問題となるが(仙台地判平成6年1月31日判時1482号3頁、最判平成4年10月29日民業46巻7号1 7 4頁参照)、「証拠の偏在」のみから私企業を行政庁と同様に位置づけることができるかは問題といえなくもない。ただ、いずれにしても被告(債務者)において、東日本大震災及び福島第1原発事故により現実化した原発の問題点に関し、相当の資料をもって安全性の立証をする必要があると解することになろうか。

2 専門的/技術的な問題に開しては当事者双方が同意できる専門委員(鑑定人)を選任することは容易ではないと思われることから、基本的に、当事者の提出した主張及び証拠等に基づいて検討することにならざるを得ないことも予想される。釈明処分(民訴1511②、民保9)として被告(債務者)の技術者による説明を受けることが考えられるほか、民事訴訟においては、文書提出命令の申立てや、専門家の証人尋問の申出がされる場合もあろう。

3 仮処分命令中立事件についていえば、一般に、保全の必要性の判断においては、仮処分によって債務者に生ずる損害を考慮すべきものとされているところ、差止めを認めた湯合の債務者の財産的損害が巨額に上ることが予測されるとき、これをどのように考慮するかが問題となろうか。

 【提出問題4】
 (提出問題)
 東日本大震災による福島原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)を踏まえ、原子力発電所の安全性を巡る行政訴訟等の審理に関し、次の各事項についてどのように考えるべきか。
1 今後どのような類型の訴訟が考えられるか。訴訟類型に応じて審理上留意すべき点はないか。
2 本件事故を踏まえ、原子炉設置許可処分取消訴訟等の原告適格や安全性の判断方法等について、改めて検討すべき点はないか。その際、原子力安全委員会等の規制行政庁に対する一定の信頼の低下はどのように考慮されるべきか。
3 審理に当たり、裁判所による専門的知見(とりわけ、本件事故等により得られた新たな専門的知見)の獲得や同種事件の係属裁判所間での情報共有等のため、考えられる方策等はないか。

参考判例
 最判平成17年5月30日・民衆59巻4号671頁
 最判平成4年10月29日・民衆46巻7号1174頁
最判平成4年9月22日・民衆46巻6号571頁
 (提出理由)
 本件事故を巡っては、これまでの裁判所の安全審査の在り方等についても議論がされており、今後様々な訴訟も予想されるので、この機会に意見をうかがいたい。
 (意見) 
 ①訴訟類型については差止訴訟や仮の救済等も考えられ、早期に判断を迫られる事件も出てくるように思われる。②また、放射能汚染の広がりや安全審査での想定事項等、本件事故を踏まえ従来の判断枠組みを再検討する必要があると思われる。③さらに、専門委員等の活用や係属裁判所間での情報共有めための方策等、裁判所の専門的知見獲得のための方策が考えられるのではないだろうか。

【提出問題5】
(提出問題)
 原告が国の政策変更を目指して訴訟を提起している場合に、国が自ら政策変更を検討するなどしており、その方針が十分固まっていないために、被告である国や国の許認可を受けている企業において、その主張、立証を控えたり、抽象的にしか行わず、審理が円滑に進まないときに、効果的な訴訟運営の方策はないか。
(提出理由)
基準の見直し等が議論されており、現時点では、原子力発電政策に開する国のスタンスが揺らいでいるようにも見えるところ、被告の応訴方針が定まらず、審理、判断の基礎となる資料が提出されないため、議論も深化せず、訴訟運営が困難になることも想定される。このような場合、裁判所としては、どのような姿勢で、どのような点に留意して審理運営を行うべきか。
 (意見)
 上記のような事情から被告め応訴方針が定まらない場合でも、まずは基礎資料を被告に整理・提出してもらうようにして、原告との議論を重ねながら、問題点を整理していくしかないのではなかろうか。

【提出問題6】
(提出問題)
 原子力発電所の周辺住民等が原子炉の運転等の差止めを求める民事訴訟において、裁判所は、原子炉施設の安全性を審理判断するに当たり、専門的・科学的知見をどのような方法により取り入れていくべきか。また、その際に留意すべき点は何か。

(提出理由)
いわゆる原発訴訟は、高度な専門的・科学的知見を必要とする「科学裁判」であるとともに、その判断が当事者だけではなく国民全体の利害に関わるという点で現代型訴訟の典型といえるものである。原子炉施設の安全性に関する問題は、「トランス・サイエンス」の問題(科学に問うことはできるが、科学だけでは答えの出せない問題)といわれており、科学的知見だけで結論が出せるものではないが、十分な科学的知見が適正な判断のために必須であることはいうまでもない。そのため、裁判所は、専門的・科学的知見をどのような方法により取り入れていくかが問題となる。原子力発電の是非を巡っては、専門家の間でも基本的立場ないし価値観の対立があるとごろであり、どのようにして中立公平な専門家を確保ずることができるのかを検討しなければならない。福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子炉施設の安全性に関する司法審査の在り方が注目されている中で、上記のような問題意識から、本問を提出した。

 (意見)
 専門的・科学的知見を取り入れる方法としては、当事者双方が提出する専門家の意見書(私的鑑定書)や専門家証人の尋問がまず考えられるが、これらは、当事者が提出するものであるゆえに、当事者の一方に有利な内容めものとなることは避けられない。より中立公平な立場からの専門的・科学的知見の獲得方法としては、鑑定が考えられる。原子炉施設の安全性に関する鑑定については、専門家の間でも、科学的評価や将来予測に関して見解が分かれる問題であることを考慮し、複数の鑑定人による共同鑑定か望ましいであろう。なお、鑑定人の選任に当たってば、当事者の協力が重要であり、その働きかけも必要となるほか、関係学会の協力が得られるよう、司法行政上のサポートも検討されてよいのではないかと考える。


最高裁推奨の3.11後の原発裁判の在り方① H23研究会資料抜書き [核のガバナンス・裁判]

平成23年2011年12月22日付の最高裁事務局主催の特別研究会(複雑困難訴訟)の資料の抜書き
court_001.jpg 講師 大学大学院教授 2名
     弁護士
     法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
     


ここから入手
NPO法人(特定非営利活動法人)
情報公開クリアリングハウス
http://clearinghouse.main.jp/wp/

第1問 原発関連訴訟にかかわる問題

【提出問題1】
(提出問題)
 原子力発電所のように、先進的科学技術を用いているが、その制御ができなくなった場合の危険性が極めて高い施設に関し、その設置等を許可する際の安全審査の適法性が争われる訴訟において、裁判所の採るべき判断枠組みやその審査密度についてどのように考えるべきか。

(提出理由)
 上記のような施設の設置許可における安全性審査の適否に関しては、その専門技術的裁量等を考慮し、裁量統制型の司法審査手法が採られてきたところである、しかし、東日本大震災に伴う福島第一原発事故等の経験に鑑み、社会的には、実体的判断代置型の司法審査をすべきであるとか、審査密度を高めるべきであるという声が高まっている。そこで、この機会に、従前の判断枠組みや審査密度について再検討しておく必要があると思われる。

(意見)
 伊方原発訴訟等において最高裁判例が示した判断手法は、安全性審査が、将来予測事項を含む多方面の科学的、専門技術的知見を結集した総合判断であること等を考慮して、裁量統制型の司法審査の枠組みを採るというものであり、これは、安全性審査に係る法令が、施設の社会的有用性との関係で我が国の社会がどの程度の危険性であれば許容するのかという観点も踏まえて策定されたことをも考慮したものと思われる。もっとも、一方で、行政庁の判断に不合理な点があるか否かを現在の科学技術水準に照らして検討するものとし、当該判断に不合理な点があることの主張立証責任は原告が負うとしつつも、被告が相当の根拠、資料に基づき不合理な点がないことについての主張立証を尽くさない場合は、不合理な点かおることが事実上推認されるとするなど、安全性審査に関する司法審査の審査密度が低くなりすぎないための工夫もしていた。したがって、その基本的な判断枠組み自体を否定するのではなく、それを活用して十分な司法審査をするために、現在め科学技術水準に照らした検対等を慎重に行うという姿勢で臨むのが適当ではないかと考える。

【提出問題2】
(提出問題)
 既存の安全性に関する基準を満たすとして原子炉の運転がされている原子力発電所の近隣に居住する個人が電力会社を被告としてその運転の差止めを求めて提起した民事訴訟において、差止めの可否を判断する場合に考慮すべき事項及び考慮の在り方等について、御意見をうかがいたい。
(提出理由)
上記のような民事訴訟においては、一般にいわゆる人格権に基づき差止めの請求がされ、受忍限度論に従って各要素及びこれに係る事項を総合的に考慮して判断がされるものと想定されるところ、考え方の枠組み等について、概括的なりとも論点の整理をしておくのが有益であろうと考えた。

(意見)
 例えば、次のような要素及びこれに係る事項等が問題となると考える。
 1 差止めによる保護を求める具体的な利益の内容
 ①原告の生命又は健康から、②専ら精神的な意味における「平穏に日常生活を送る」利益(参考:最三小判平成22年6月29日判例タイムズ1330号89頁)まで、多様なものが挙げられようが、他にどのようなものが考えられるか。

 2 侵害の有無又はそのおそれの大きさ及びそれらの立証(審査密度等)
 各利益の侵害の有無等については、主張された利益の内容等のいかんに応じ、原告の居住地の原子力発電所からの距離や周辺の地形等を踏まえつつ、①当該基準の前提とする事情に照らしての当該基準の相当性、②当該基準の前提とするところを超える事態(以下「想定超事態」という。)の発生する蓋然性の程度、③想定超事態が発生した場合等に予想されるいわゆる放射線審放心内容及び程度等(事故対策の内容等も含まれよう。)といった事項が問題となるものと考えるが、他にどのような事項が対象となり得るか。

 それらの事項に係る主張立証責任の分配又は事実上の立証の負担の負わせ方については、どのように考え(参考:最一小判平成4年10月29日民衆46巻7号1 1 7 4頁(伊方原発事件))、専門的・技術的な知見に係る証拠を的確に収集するには、どのようにすべきか。
 また、例えば放射線被ばくによる健康への影響のように、過去の事故等を対象に疫学的調査等がなお継続してされているものもあるが、訴訟上の因果関係等の証明の有無の判断に当たって(参考:最二小判昭和50年10月24日民衆29巻.9号14 1 7頁(ルンバールショツク事件))、そのようないねば途中経過的な性質を含む資料に係る情報の証拠としての評価等をどのようにすべきか。

 3 原子力発電所の公共性ないし公益上の必要性の評価等
 差止請求における上記の要素の評価等については、損害賠償請求を認容すべき違法性があるかどうかにつき考慮する場合とは、「各要素の重要性をどの程度のものとして考慮するかにはおのずから相違がある」(最二小判平成7年7月7日民集49巻7号2599頁(国道43号事件の住民側上告事件))とされる。
 その上で、上記の要素の評価等に当たっては、①原告及びその周辺の住民が当該原子炉の運転により日常生活等において受けている便益に内容及び程度等のほか、②他の地域の個人又は法人等に当該原子炉の運転により提供される便益の内容及び程度等や、③当該便益の提供に当たる他の施設の有無等、④原告以外の個人又は法人等に同種の被害が及ぶおそれの程度等をも踏まえた上での被害の防止に関する措置の内容及び効果等も考慮されると考えるが、他にどのような事項が考慮の対象となり得るか。


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