私が原発を止めた理由 (樋口英明 (著) – 2021/3/1 [核のガバナンス・裁判]
樋口 英明(ひぐち ひであき)
二種の「既往最大」・・大飯原発運転差止判決を読んで [核のガバナンス・裁判]
既往最大
2014年5月21日の大飯原発運転差止請求事件判決の判決要旨では、1260ガルを超える地震についての項で2回出てくる。判決原本文では、住民原告らの主張として19頁に『「既往最大」、すなわち、人類が認識できる過去において生じた最大の地震、最大の津波』とある。被告の関西電力は「既往最大の主張は、かかる地域性の違いを無視し、立地地点に応じた地震・津波対策の考え方を否定して、他の場所における過去に生じた最大の地震、津波の記録を前提とすべきというものであって、科学的合理性を欠き、妥当ではない」26頁と主張している。そして、700ガルが地震学の理論上導かれるガル数の最大であり、700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないとしました。
判決謄本は原子力資料情報室のここから ダウンロード
http://www.cnic.jp/5851
裁判所は「我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。」44頁。「全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり(地震学の理論上導かれる)想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来しているという事実を重視すべきは当然である。」「地震の想定に関しこのような誤りが重ねられてしまった理由については、そもそも(1)で摘示した地震学の限界に照らすと仮説であるアスペリティの存在を前提としてその大きさと存在位置を想定するなどして地震動を推定すること自体に無理があるのではないか、あるいはアスペリティの存在を前提とすること自体は問題が無い者の、地震動の推定する複数の方式について原告らが主張するように選択の誤りがあったのではないか等の種々の論議がありえようが、これらの問題については今後学術的に解決すべきものであって、当裁判所が立ち入って判断する必要のない事柄である。」51頁
「これらの事例はいずれも地震という自然の前における人間の能力の限界を示すものというしかない。」52頁
既往最大の地震が示す地震学の学術的限界
つまり、地震学が立脚する事実から現在の地震学の学術的限界を明示しています。そして「被告(関西電力)の本件原発の地震想定(700ガル)だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。」とします。日本での既往最大「岩手宮城内陸地震における4022ガル」であるが、「既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎない」起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないと被告・関西電力が自認している1260ガルを超える規模の地震は「大飯原発に到来する危険がある。」45頁とした。
抽象的哲学的に言えば「無知の知」(無知であるということを知っている)を判断の根底においている。しかし裁判所は「新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなるから、新しい技術の有する危険性の性質やもたらす被害の大きさが明確でない場合には、その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは困難を極める。」40頁と無知の知だけでは差止めは判断できないとしています。
被害の大きさが判明している場合の判断の枠組み
しかし、「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになった」このように「技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、技術の実施に当たっては危険の性質と被害の大きさに応じた安全性が求められることになるから、この安全性が保持されているかの判断をすればよいだけであり、危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じることはない。」40頁。つまり、危険性や被害の大きさが既知であれば、学術的問題に立ち入り判断する必要は無く、その「既往最大の危険性、被害」に見合った安全性が保持されているかを見ればよいという判断の枠組みを示しています。
伊方原発訴訟の最高裁判決との関連性
最高裁の研究会の資料を見ると、最高裁は伊方原発訴訟の最高裁判決「伊方原発最判」をお手本にせよと説いています。それは「安全性審査が、将来予測事項を含む多方面の科学的、専門技術的知見を結集した総合判断であること等を考慮して、裁量統制型の司法審査の枠組みを採るというもの」H23年資料、「東日本大震災と福島第一原発事故の発生により得られた様々な教訓や知見の中には、伊方原発最判がいうところの『現在の科学技術水準』の一部を形成するものがあるということである。そこで、今後は、それらを含む現在の科学的水準に照らして、基本設計の安全性について、審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点がないか、あるいは、具体的審査基準適合性の判断過程に著しい過誤欠落があったかどうかが判断されることになる。」H24年資料
福井地裁の差止判決で裁判所は、「規制基準への適合性の判断を厳密に行うためには高度の専門技術的な知識、知見を要することから、司法判断が規制基準への適合性の有無それ自体を対象とするのではなく、適合していると判断することに相当の根拠、資料があるか否かという判断にとどまることが多かったのには相応の理由がある」42頁
技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、伊方原発最判のいう具体的審査基準や判断過程を現在の科学的水準に照らして検討するよりも、その判明している危険性、被害に見合った安全性が保持されているかを検討判断するという判断の枠組みを示しています。
この判決を「ゼロリスクを求める考え方」(日本原子力学会、2014年5月27日付プレスリリース)と解する方々がいますが、裁判所は「新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなる」「危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じる」とも摘示しています。そして、技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさが判明した場合に、それに応じた安全性を求めています。最初からゼロリスクは求めていません。日本原子力学会は、言い掛かりを付けている様にみえます。
参照・・確率論的手法による安全評価 メモ
参照・・原子力防災からの変革
参照・・深層防護で寝た子を起こすな
SBO対策にみる確率論的安全評価の使われ方
その失敗の結果なのか原因なのかは判りませんが、「原子力の広範囲にわたる学術・技術専門家集団」の日本原子力学会には「無知の知」が欠けています。無知の無知です。
最高裁が参考推奨の原発裁判判例 H24研究会資料 [核のガバナンス・裁判]
講師 大学大学院教授 2名
弁護士
法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
新聞社論副委員長
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論点項目
第1問 原発訴訟等関係
1福島第一原発事故発生後の諸情勢の動きが、原発関連訴訟に係る裁判所の審理運営や判断の在り方に及ぼす影響について【提出問題1~3】
(論点)
(1)原子炉設置許可取削訴訟等の行政訴訟における従前の判断枠組みについてどのように考えるか。裁判所の審理の内容はどのようになるか。【提出問題1】
(2)民事上の差止請求における違法性の判断の在り方についてどのように考えるか。
行政訴訟との間で違いはあるか。【提出問題1】
(3)現在進行形で進められている調査、研究や安全基準の策定等を視野に入れて、審理運営をどのように考えるぺきか。【提出問題2,3】
(参考裁判例)
最三小判平4.9. 22・民衆46巻6号571頁(もんじゅ訴訟)
最一小判平4.10. 29・民衆46巻7号1174頁(伊方原発訴訟〕
政一小判平17.5.30・民集59巻4号671頁(もんじゅ第2次訴訟)
名古屋高金沢支判平21.3.1 8 ・判時2045号3頁(志賀原発訴訟・控訴審)
金沢地判平18.3.24・判時1930号25頁(志賀原発訴訟・第一審)
仙台高判平11、3.31・判時1680号46頁(女川原発訴訟・控訴審)
仙台地判平6. 1.31・判時1482号3頁(女川原発訴訟・第一審)
最高裁推奨の3.11後の原発裁判の在り方② H23研究会資料抜書き [核のガバナンス・裁判]
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【提出問題3】
(提出問題)
電力会社に対し発電用原子炉施設(原発)の運転の差止めを求める民事訴訟事件及び仮処分命令中立事件において考慮すべき事項について
(提出理由)
東日本大震災による福島第1原発事故を契機として、原発の安全性が国民の重大な関心事となり、この種の訴訟等も提起されているようであるが、この種の事件は、社会的影響が極めて大きい上、高度の技術的、専門的事項が争われ、判断も困難であることから、裁判所の審理及び判断のあり方が大きな問題となる。
(意見)
1 原発の安全性に開わる資料を保持しているのがもっぱら被告(債務者)であることから、立証責任をどのように考えるかが問題となるが(仙台地判平成6年1月31日判時1482号3頁、最判平成4年10月29日民業46巻7号1 7 4頁参照)、「証拠の偏在」のみから私企業を行政庁と同様に位置づけることができるかは問題といえなくもない。ただ、いずれにしても被告(債務者)において、東日本大震災及び福島第1原発事故により現実化した原発の問題点に関し、相当の資料をもって安全性の立証をする必要があると解することになろうか。
2 専門的/技術的な問題に開しては当事者双方が同意できる専門委員(鑑定人)を選任することは容易ではないと思われることから、基本的に、当事者の提出した主張及び証拠等に基づいて検討することにならざるを得ないことも予想される。釈明処分(民訴1511②、民保9)として被告(債務者)の技術者による説明を受けることが考えられるほか、民事訴訟においては、文書提出命令の申立てや、専門家の証人尋問の申出がされる場合もあろう。
3 仮処分命令中立事件についていえば、一般に、保全の必要性の判断においては、仮処分によって債務者に生ずる損害を考慮すべきものとされているところ、差止めを認めた湯合の債務者の財産的損害が巨額に上ることが予測されるとき、これをどのように考慮するかが問題となろうか。
【提出問題4】
(提出問題)
東日本大震災による福島原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)を踏まえ、原子力発電所の安全性を巡る行政訴訟等の審理に関し、次の各事項についてどのように考えるべきか。
1 今後どのような類型の訴訟が考えられるか。訴訟類型に応じて審理上留意すべき点はないか。
2 本件事故を踏まえ、原子炉設置許可処分取消訴訟等の原告適格や安全性の判断方法等について、改めて検討すべき点はないか。その際、原子力安全委員会等の規制行政庁に対する一定の信頼の低下はどのように考慮されるべきか。
3 審理に当たり、裁判所による専門的知見(とりわけ、本件事故等により得られた新たな専門的知見)の獲得や同種事件の係属裁判所間での情報共有等のため、考えられる方策等はないか。
参考判例
最判平成17年5月30日・民衆59巻4号671頁
最判平成4年10月29日・民衆46巻7号1174頁
最判平成4年9月22日・民衆46巻6号571頁
(提出理由)
本件事故を巡っては、これまでの裁判所の安全審査の在り方等についても議論がされており、今後様々な訴訟も予想されるので、この機会に意見をうかがいたい。
(意見)
①訴訟類型については差止訴訟や仮の救済等も考えられ、早期に判断を迫られる事件も出てくるように思われる。②また、放射能汚染の広がりや安全審査での想定事項等、本件事故を踏まえ従来の判断枠組みを再検討する必要があると思われる。③さらに、専門委員等の活用や係属裁判所間での情報共有めための方策等、裁判所の専門的知見獲得のための方策が考えられるのではないだろうか。
【提出問題5】
(提出問題)
原告が国の政策変更を目指して訴訟を提起している場合に、国が自ら政策変更を検討するなどしており、その方針が十分固まっていないために、被告である国や国の許認可を受けている企業において、その主張、立証を控えたり、抽象的にしか行わず、審理が円滑に進まないときに、効果的な訴訟運営の方策はないか。
(提出理由)
基準の見直し等が議論されており、現時点では、原子力発電政策に開する国のスタンスが揺らいでいるようにも見えるところ、被告の応訴方針が定まらず、審理、判断の基礎となる資料が提出されないため、議論も深化せず、訴訟運営が困難になることも想定される。このような場合、裁判所としては、どのような姿勢で、どのような点に留意して審理運営を行うべきか。
(意見)
上記のような事情から被告め応訴方針が定まらない場合でも、まずは基礎資料を被告に整理・提出してもらうようにして、原告との議論を重ねながら、問題点を整理していくしかないのではなかろうか。
【提出問題6】
(提出問題)
原子力発電所の周辺住民等が原子炉の運転等の差止めを求める民事訴訟において、裁判所は、原子炉施設の安全性を審理判断するに当たり、専門的・科学的知見をどのような方法により取り入れていくべきか。また、その際に留意すべき点は何か。
(提出理由)
いわゆる原発訴訟は、高度な専門的・科学的知見を必要とする「科学裁判」であるとともに、その判断が当事者だけではなく国民全体の利害に関わるという点で現代型訴訟の典型といえるものである。原子炉施設の安全性に関する問題は、「トランス・サイエンス」の問題(科学に問うことはできるが、科学だけでは答えの出せない問題)といわれており、科学的知見だけで結論が出せるものではないが、十分な科学的知見が適正な判断のために必須であることはいうまでもない。そのため、裁判所は、専門的・科学的知見をどのような方法により取り入れていくかが問題となる。原子力発電の是非を巡っては、専門家の間でも基本的立場ないし価値観の対立があるとごろであり、どのようにして中立公平な専門家を確保ずることができるのかを検討しなければならない。福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子炉施設の安全性に関する司法審査の在り方が注目されている中で、上記のような問題意識から、本問を提出した。
(意見)
専門的・科学的知見を取り入れる方法としては、当事者双方が提出する専門家の意見書(私的鑑定書)や専門家証人の尋問がまず考えられるが、これらは、当事者が提出するものであるゆえに、当事者の一方に有利な内容めものとなることは避けられない。より中立公平な立場からの専門的・科学的知見の獲得方法としては、鑑定が考えられる。原子炉施設の安全性に関する鑑定については、専門家の間でも、科学的評価や将来予測に関して見解が分かれる問題であることを考慮し、複数の鑑定人による共同鑑定か望ましいであろう。なお、鑑定人の選任に当たってば、当事者の協力が重要であり、その働きかけも必要となるほか、関係学会の協力が得られるよう、司法行政上のサポートも検討されてよいのではないかと考える。
最高裁推奨の3.11後の原発裁判の在り方① H23研究会資料抜書き [核のガバナンス・裁判]
講師 大学大学院教授 2名
弁護士
法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
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第1問 原発関連訴訟にかかわる問題
【提出問題1】
(提出問題)
原子力発電所のように、先進的科学技術を用いているが、その制御ができなくなった場合の危険性が極めて高い施設に関し、その設置等を許可する際の安全審査の適法性が争われる訴訟において、裁判所の採るべき判断枠組みやその審査密度についてどのように考えるべきか。
(提出理由)
上記のような施設の設置許可における安全性審査の適否に関しては、その専門技術的裁量等を考慮し、裁量統制型の司法審査手法が採られてきたところである、しかし、東日本大震災に伴う福島第一原発事故等の経験に鑑み、社会的には、実体的判断代置型の司法審査をすべきであるとか、審査密度を高めるべきであるという声が高まっている。そこで、この機会に、従前の判断枠組みや審査密度について再検討しておく必要があると思われる。
(意見)
伊方原発訴訟等において最高裁判例が示した判断手法は、安全性審査が、将来予測事項を含む多方面の科学的、専門技術的知見を結集した総合判断であること等を考慮して、裁量統制型の司法審査の枠組みを採るというものであり、これは、安全性審査に係る法令が、施設の社会的有用性との関係で我が国の社会がどの程度の危険性であれば許容するのかという観点も踏まえて策定されたことをも考慮したものと思われる。もっとも、一方で、行政庁の判断に不合理な点があるか否かを現在の科学技術水準に照らして検討するものとし、当該判断に不合理な点があることの主張立証責任は原告が負うとしつつも、被告が相当の根拠、資料に基づき不合理な点がないことについての主張立証を尽くさない場合は、不合理な点かおることが事実上推認されるとするなど、安全性審査に関する司法審査の審査密度が低くなりすぎないための工夫もしていた。したがって、その基本的な判断枠組み自体を否定するのではなく、それを活用して十分な司法審査をするために、現在め科学技術水準に照らした検対等を慎重に行うという姿勢で臨むのが適当ではないかと考える。
【提出問題2】
(提出問題)
既存の安全性に関する基準を満たすとして原子炉の運転がされている原子力発電所の近隣に居住する個人が電力会社を被告としてその運転の差止めを求めて提起した民事訴訟において、差止めの可否を判断する場合に考慮すべき事項及び考慮の在り方等について、御意見をうかがいたい。
(提出理由)
上記のような民事訴訟においては、一般にいわゆる人格権に基づき差止めの請求がされ、受忍限度論に従って各要素及びこれに係る事項を総合的に考慮して判断がされるものと想定されるところ、考え方の枠組み等について、概括的なりとも論点の整理をしておくのが有益であろうと考えた。
(意見)
例えば、次のような要素及びこれに係る事項等が問題となると考える。
1 差止めによる保護を求める具体的な利益の内容
①原告の生命又は健康から、②専ら精神的な意味における「平穏に日常生活を送る」利益(参考:最三小判平成22年6月29日判例タイムズ1330号89頁)まで、多様なものが挙げられようが、他にどのようなものが考えられるか。
2 侵害の有無又はそのおそれの大きさ及びそれらの立証(審査密度等)
各利益の侵害の有無等については、主張された利益の内容等のいかんに応じ、原告の居住地の原子力発電所からの距離や周辺の地形等を踏まえつつ、①当該基準の前提とする事情に照らしての当該基準の相当性、②当該基準の前提とするところを超える事態(以下「想定超事態」という。)の発生する蓋然性の程度、③想定超事態が発生した場合等に予想されるいわゆる放射線審放心内容及び程度等(事故対策の内容等も含まれよう。)といった事項が問題となるものと考えるが、他にどのような事項が対象となり得るか。
それらの事項に係る主張立証責任の分配又は事実上の立証の負担の負わせ方については、どのように考え(参考:最一小判平成4年10月29日民衆46巻7号1 1 7 4頁(伊方原発事件))、専門的・技術的な知見に係る証拠を的確に収集するには、どのようにすべきか。
また、例えば放射線被ばくによる健康への影響のように、過去の事故等を対象に疫学的調査等がなお継続してされているものもあるが、訴訟上の因果関係等の証明の有無の判断に当たって(参考:最二小判昭和50年10月24日民衆29巻.9号14 1 7頁(ルンバールショツク事件))、そのようないねば途中経過的な性質を含む資料に係る情報の証拠としての評価等をどのようにすべきか。
3 原子力発電所の公共性ないし公益上の必要性の評価等
差止請求における上記の要素の評価等については、損害賠償請求を認容すべき違法性があるかどうかにつき考慮する場合とは、「各要素の重要性をどの程度のものとして考慮するかにはおのずから相違がある」(最二小判平成7年7月7日民集49巻7号2599頁(国道43号事件の住民側上告事件))とされる。
その上で、上記の要素の評価等に当たっては、①原告及びその周辺の住民が当該原子炉の運転により日常生活等において受けている便益に内容及び程度等のほか、②他の地域の個人又は法人等に当該原子炉の運転により提供される便益の内容及び程度等や、③当該便益の提供に当たる他の施設の有無等、④原告以外の個人又は法人等に同種の被害が及ぶおそれの程度等をも踏まえた上での被害の防止に関する措置の内容及び効果等も考慮されると考えるが、他にどのような事項が考慮の対象となり得るか。