小児甲状腺癌の2年発生説で「過剰診断」は云えるか [被曝影響、がん]
神経芽腫と小児甲状腺癌2年発生説 http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-06-12 の続きです。
福島県の子供らの小児甲状腺は、どのような経過を辿っているのだろうか。
発表されている検査データから、甲状腺の腫瘍全体、良性の腫瘍を含んだ縮小や増大の動きがわかります。ガンは悪性の腫瘍ですから、厳密には違います。ただ悪性腫瘍とわかるのは手術後ですから、事前に判るのは良性の腫瘍を含んだ動向です。
「B判定で5mm以上の結節といったものが・・のう胞の中にしこりがあると結節に判定せざるを得ないのですが、それが二次検査でみたとき、または時間経って見直したら、すべてが液体だったとなれば、のう胞に変わる。のう胞に変わるとのう胞は20㎜までの(B判定)基準なのでA2に変わってしまう。」
清水修二座長代行 のう胞の液体が結構、こう増減するので、判定そのものも増減するということですか。
鈴木眞一教授 はい。」(第18回福島県「県民健康調査」検討委員会議事録、14頁)
つまり、「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」にそった振る舞いをしている。玄妙氏の云う短期間に成長する悪性腫瘍は何処にあるのか。
それはA1⇒Bの235人中8人で約30例に1例の割で、A2⇒Bの480人中6人で80例に1人である。
二巡目の3月31日時点での結果から、消失例が見られます。A2⇒A1がそうです。ただこれには嚢胞でA2だった例が液体がなくなった、たまたまその時に検査した例がありそうです。B⇒A1も消失です。これは結節ですから、「結節だと思われたものが異所性の甲状腺に埋没している胸腺であったりとか、また甲状腺内だと思っていたのが血管を見ていたり、周りのリンパ節組織を見ていたりということで判定が違う」という例が含まれるでしょう。しかし、それらが全部ではないでしょうから、消失は1割弱は起きてる。
ただし、4Sの神経芽腫と同様なプログラム細胞死の仕組みで全例で起こることではない。1割弱しか起きない、例外的な現象です。大概は低増殖性で「ゆっくりと、穏やかに成長する」。
甲状腺微小がん(平均径7ミリ)を患う平均年齢52才の成人群でのデータでは、減少は1割強である。
「玄妙氏仮説 甲状腺がん短期発生、自然消滅」を検証する cyborg0012さんのツイートまとめ(2015.6.12作成)」 http://togetter.com/li/833913
玄妙氏の新説の「短期間に成長する悪性腫瘍発生している」という部分は当たっている。それは「甲状腺がんの潜伏期は最短でも 4年から5年と考えられる。」という考えが間違っているということです。CDC(疾病管理予防センター)が2013年に公表している「CDCレポート」によれば、20歳以上の大人の甲状腺癌の最小潜伏期間は2.5年、小児の甲状腺ガンの1年です。最小潜伏期間が 「4年から5年」ではなく1年とか2年とすると、2011年10月からの1巡目検査、2014年4月からの2巡目検査は既に潜伏期を過ぎようとしている及び過ぎた小児の甲状腺ガンが検出されることになります。スクリーニング用語でで前臨床発見可能期間・滞在時間・Sojourn Time にあるガンと何らかの臨床症状を顕している癌です。
新説の「前臨床発見可能期間に縮小の過程に入る、自然消滅に向かう変化を起こす」という点は、間違っています。そうした変化は例外的です。むしろ同時期に潜伏期・前臨床発見可能期間が4~5年の癌や10~20年の癌が発生したり、成長中と解する方が事態を理解できます。rタイプの発生頻度は頻度は低く「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」からsタイプが多いと考えられます。
この多発は短期間に成長するrタイプだけでなく、潜伏期が4~5年のsタイプや10~20年のtタイプも異様に多く発生したでしょう。まずrタイプが検出される。
また20歳以上の大人の甲状腺癌の最小潜伏期間は2.5年ならば、2014年春以降に大人のrタイプ甲状腺癌が顕在化しているとみられます。子供だけでなく、大人の甲状腺検査と早期治療も必要だと考えます。
http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-06-03
玄妙説の前段「短期間に成長する甲状腺ガン発生」は、あり得ることです。むしろ短期間に成長するrタイプ、4~5年のsタイプや10~20年のtタイプと様々なタイプの甲状腺癌が同時多発していると解する方が事態を理解できました。
神経芽腫と小児甲状腺癌2年発生説 [被曝影響、がん]
甲状腺癌200年説(提唱者 早川由紀夫・火山学者)http://togetter.com/li/587095
を「平均有病期間を200年で計算すると、多発ではなくなる。このあたりから、一生無害に経過する「放っておいてもよい」がどれくらいあるのかを計算できるかもしれない。」といっていた玄妙氏@drsteppenwolf は、新しい自説を唱えています。それは、「子供の甲状腺で、手術が必要と見えて実は手術の必要のないガンが、短いサイクルで発生している」という説です。
200年説は福島の小児甲状腺検査の1巡目の多発の結果を、「過剰診断」として説明する説です。それが、2巡目検査の2015年3月末時点の結果で事実で否定されます。甲状腺癌は「世界の報告例からすると、甲状腺がんの潜伏期は最短でも 4年から5年と考えられる。」「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」※という見解から、1巡目検査では甲状腺に嚢胞や結節が見つからなかった子供(約6万4千人)から約2~2.5年後に8人「悪性ないし悪性の疑い」およそ10㎜の癌の症例が見つかっている2巡目の結果を「過剰診断」として特に説明できないからです。
※ 放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ(東京、2014年2月23日)共同議長サマリー
http://www.fmu.ac.jp/radiationhealth/workshop201402/presentation/Co-Chairs_Summary_J.pdf
この「過剰診断」説批判に対して玄妙氏は、次の図を作成し反論しています。
これは2巡目検査のデータから、①2年で甲状腺癌は細胞1個から大きく10㎜ほどの細胞の塊に成長する、②その比率は8千人に1人、この年代の自動車死亡事故よりも高率に発生しているということを意味します。①は「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」の否定です。②からは、そのような高率に、かつ急速に増殖するガン細胞なら、これまでも多人数、高い比率で知られていると思われます。そこで、臨床症状が顕れる前に非常に遅くなる、非増殖性に変化する、縮小の過程に入るという津金昌一郎氏(国立がん研究センター)の「がんの想定される自然史」を玄妙氏は持ち出しています。
神経芽腫の自然退縮
その津金氏は過剰診断の前例として、「小児においても神経芽細胞腫マススクリーニングの前例がある」。では、神経芽細胞腫はどんな病像でしょうか。
「神経芽腫は副腎や交感神経節に発生する腫瘍です。多くは5歳以下のこどもに発生しますが、稀に5歳をすぎて発症したり、また生まれたばかりのあかちゃんに発見されることもあります。」
「神経芽腫は発症した年齢により特徴的な症状や悪性度、治療に対する反応などが異なります。」
「一般に乳児早期(生後3カ月ころまで)の神経芽腫、特に病期(ステージ)4Sに分類される神経芽腫は自然に消失(自然退縮)する傾向があり、腫瘍の増大・圧迫による呼吸障害や腎障害をおこしやすい時期をのりきると治癒させることが可能です。
腫瘍の大きな時期をのりきるため必要最小限の治療(手術、化学療法、放射線療法など)が行われます。」
「1901年、米国のDr Pepperは肝臓に転移した副腎腫瘍で苦しむ生後1カ月の女児例を学会誌に報告した。この女児は残念ながら救命されなかったが、それから70年後の1971年、同じ米国のDr Evansは肝、皮膚、骨髄などに転移があってもわずかな治療で救命しうる神経芽腫を”特別な(special)”という意味の”S”をつけて病期(ステージ)4Sの神経芽腫とよぶことを提唱した。
一般にがんの領域では転移していることは結果が不良であることを意味する。しかし、病期4Sの神経芽腫ではある時期をすぎると腫瘍も転移も自然に消えていく 自然退縮のおこることがしばしば経験されていた。
この自然退縮の理由は長いこと不明とされ、神経芽腫は”enigmatic(不可思議)な腫瘍”と言われてきた。」
(獨協医科大学越谷病院 小児外科の神経芽腫より
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/T_nb.html)
神経系の発生では一時、数多くの神経細胞がつくられ、この中から 複数の神経細胞が「プログラム細胞死」によりぬけ落ちることにより最終的な神経系のネットワークが形成されると考えられています。自然退縮する神経芽腫では、このプログラム細胞死の仕組みが温存されており、プログラム細胞死により腫瘍細胞が消え、腫瘍自体も消失すると考えられるようになっています。いわば、自然退縮は遅れてやって来たプログラム細胞死です。
しかも、良く知られるプログラム細胞死のアポトーシス(apoptosis)とは直接に関係のない、プログラム細胞死のメカニズムにより自然退縮がおこるとの研究*もあり、神経芽腫の自然退縮の全ての仕組みは未だ不明のままです。
*神経芽腫の自然退縮に関わるプログラム細胞死の解析 北中千史
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/51215
http://www2.lib.yamagata-u.ac.jp/kiyou/kiyoum/kiyoum-23-1/image/kiyoum-23-1-083to096.pdf
ネクロトーシス
http://www.dojindo.co.jp/letterj/145/review/01.html
神経芽腫の集団検査(マススクリーニング)の過剰診断、過剰治療
小児がんの神経芽腫の早期発見をめざす尿による集団検査(マススクリーニング)が、85年から生後6カ月の乳児を対象に全国規模で実施されました。当時は、神経芽腫は小児の悪性腫瘍の約10%を占め、単独では小児の悪性悪性腫瘍の第一位の発生頻度であった。(1987年の日本における小児悪性新生物全国登録一覧表)かつ、30%程度の2年生存率で、発見年齢が1歳を超える例では予後が不良でした。
「1歳未満で発見される神経芽細胞腫は予後が比較的良好であったのに対し、1歳以降で発見される神経芽細胞腫は、治療が困難であり、死亡に至る例が多いことも、マススクリーニングが(早期発見に)必要であると考えられた」※
対象者の約9割が受診し、毎年約200名の患者が発見されて患者累計は2001平成13年度までで2913人でした。(約8千人に1人)
(1)死亡率減少効果・・検査事業によって死亡率減少効果があるとする確定的な証拠が開始から15年余り経ってもなかった。「検査事業の死亡率減少効果の有無を示す十分な証拠が得られることは難しい状況にある。」※ 他方、生後12ヶ月時に検査を実施するドイツやで生後3週間と6ヶ月時に検査を実施するカナダでは、死亡率減少効果について否定的な研究結果が2002年に発表。
(2)過剰診断と不利益
「一般的に、がんのスクリーニングに伴う過剰診断がなければ、スクリーニングの開始によって一時的に罹患率が上昇するが、その後継続すると、以前の水準に戻り罹患率は一定する。」「事業が(1985年に)開始された後、神経芽細胞腫の累積罹患率が2倍程度に増加することを示している。増加分の患者は、神経芽細胞腫検査事業が行われなければ、特段の対応が必要とならなかったと考えられる方々であり、この点から見ると『過剰診断を受けた』ということ」※
「発見された例では、積極的な治療を行わなくても、自然に腫瘍が退縮する場合がある」「2002年に日本小児がん学会が発表したデータによると、1998年に無治療で経過が観察されている82 例・・このうち、2001年まで無治療のままの例は59例・・残りの23例は・・手術を受けており、その理由は、家族の希望や、腫瘍の増大や縮小しないことなどであった。手術を受けた例の病理組織を検討すると、予後不良の兆候を示すものはなかった。」※
治療による合併症が「死亡は手術について8例、化学療法について10例」※
「検査事業によって発見される例の中には、相当程度、積極的治療を必要としない例が含まれていると考えられている。また、治療そのものによる負担の他、治療によって合併症を生じる場合があるなど、現在行われている生後6ヶ月時に実施する神経芽細胞腫検査事業によって不利益を受ける場合があることは否定できない。」※
「スクリーニングの有効性を確認する十分な研究が実施されないまま、事業として導入されたことが、わが国で実施されている神経芽細胞腫検査事業の死亡率減少効果の有無が明確となっていない大きな要因となっており、この点は大変残念なことである。
今後、この教訓を生かし、新たなマススクリーニングを公的施策として導入する際には、有効性の評価を事前に十分に尽くす必要があることに、留意するべきである。」※
※神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会報告書 平成15年7月30日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0814-2.html
神経芽腫で臨床的の周知だったが、小児甲状腺では??
このように、6か月時点でのマススクリーニング検査が始まる前から、臨床的に「1歳未満で発見される神経芽細胞腫は予後が比較的良好」。病期(ステージ)4Sに分類される神経芽腫は肝、皮膚、骨髄などに転移があってもある時期をすぎると腫瘍も転移も自然に消失(自然退縮)することをしばしば経験されていた。積極的な治療を行わなくても、わずかな治療で救命しうる”特別な(special)”神経芽腫が周知のことでした。こうした医学的知見をもとに「有効性の評価を事前に十分に尽くす必要があること」が、マススクリーニングの教訓でした。
玄妙氏が提唱するように小児甲状腺癌は神経芽腫と同様に、その多くは臨床症状が顕れる前に非常に遅くなる、非増殖性に変化する、縮小の過程に入るのだとすれば、その8千人に1人の発生の多さ、神経芽腫とほぼ同じ発生率から神経芽腫と同様に、臨床症状が顕れてからプログラム細胞死の仕組みが働いて消失(自然退縮)する例が《しばしば経験》されてなければ不自然です。それが無いのです。玄妙氏の唱える新説は、臨床的知見などに拠らない後付の後出しジャンケンな説です。
さて福島県の子供らの小児甲状腺は、どのように「がんの想定される自然史」を辿っているのだろうか。続く
NPO法人「あいんしゅたいん」の被曝影響モデルとアポトーシス誘導 [被曝影響、がん]
NPO法人「あいんしゅたいん」の提唱する放射線の生物影響の数理モデルが話題になっている。
日本経済新聞で2015年2月7日に「低線量被曝の健康影響に新説 物理学者から挑戦状 関西の物理学者グループに聞く」の題で編集委員 滝順一さんが記事にしている。その記事では提唱者の言として「修復機能を超える被曝であれば、遺伝子の変異が蓄積し細胞ががん化する恐れがある。しかし修復機能の範囲内なら変異は蓄積しないと考えられる。変異の発生と修復が釣り合い、それ以上は変異が増えない。リスクには『天井』があるはずだ」と書かれている。提唱者は坂東昌子NPO法人「あいんしゅたいん」理事長(元日本物理学会会長)と和田隆宏・関西大学教授(物理・応用物理学科)、真鍋勇一郎・大阪大学大学院助教(原子核物理)の関西の物理学者グループとある。
日本経済新聞・・http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82580080Q5A130C1000000/
その数理モデルはググると以下がヒットした。
①放射線の生物影響の数理モデルの構築
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~soken.editorial/sokendenshi/vol13/nbp2012/8-9-P3-YM-S.pdf
②放射線のリスクの定量評価を可能にする数理モデル
http://seisan.server-shared.com/654/654-38.pdf
③放射線の生物影響の数理モデルの構築
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/2012NBP/index.php?plugin=attach&refer=2012NBP&openfile=8-9-P3-YM.pdf
かなり現実を無視した数理モデルである。「あいんしゅたいん」数理モデルは、発癌を放射線の生物影響として扱っている。発癌の過程は、多段階説が定説だ。イニシエーションとプロモーションという二段階説から三段階説、五段階説と種々あるが、イニシエーションを経て遺伝子が変異した変異細胞が更に変異して自ら死ぬことない不死性を獲得した細胞、、自ら細胞自死アポトーシスすることないガン細胞になるという点は多くが認める説となっている。(下図は三段階説)
「あいんしゅたいん」数理モデルは、「生物を構成する細胞を、正常な細胞(正常細胞)と、放射線によって傷ついた細胞(破壊細胞)とに分類する。それらの細胞が自己増殖することや、放射線を照射した際に働く回復効果(修復機能と細胞死))を持つことを考慮し、それぞれの細胞の数の増減を考慮する。」「破壊細胞が修復されると正常細胞にくりこまれる。」「細胞の回復機能である修復効果とアポトーシス」「破壊細胞に対して修復効果と細胞死があり、修復された破壊細胞は正常細胞になり、修復不可能なものは自然に消滅する。」と設定している。そして「細胞の回復機能である、修復効果と細胞死を考慮すると、5.1節の結論である、(LNTの)『どんなに弱い放射線でも危険』という結果は得られないのである。」といった結論を導いている。(①の8-9-P3-YM-Sの論文)
被爆細胞の「自然に消滅」の謎
細胞が「自然に消滅する」というのはどういう事だろうか。質量不滅の法則は「あいんしゅたいん」数理モデルでも通用するであろう。だから被曝損傷細胞は消滅することはない。細胞死するという意味だろう。
細胞死は、1972年に Kerrらによって “アポトーシス:プログラムされた細胞死” が報告されてからアポトーシス、オートファジー(autophagic cell death)、ネクローシスの3つあるとされている。強く被曝した細胞は細胞が膨らんで破裂するようなネクローシスの細胞死をする。弱い被曝で遺伝子の傷が修復できない場合の多くは、細胞が蛋白質分解酵素を産出して自らを内側から分解して死に至るアポトーシスをする。「修復不可能なものは自然に消滅する」は「修復不可能なものはアポトーシスで死滅する。」という意味であるから、破壊細胞(放射線によって傷ついた細胞)は修復され正常細胞に戻るかアポトーシスで死滅するかであり、ガン発生ではイニシエーションされた段階で正常細胞に戻るかアポトーシスで消滅するかでありプロモーションを受けることがないのである。遺伝子の変異が蓄積するプロモーションに進まないのだから、自ら細胞自死アポトーシスすることないガン細胞は生まれ得ない。「あいんしゅたいん」数理モデルでは、ガン細胞がないから発癌の問題は扱えない。発癌以外の生物影響のみ扱える。発癌のLNTと全く違う結論が出ても何の不思議もない。
オートファジーは参照・・http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/research/030/
http://leading.lifesciencedb.jp/3-e006/
①の「あいんしゅたいん」数理モデルの5.1. 増殖機能のみの場合で「例としてP53をノックアウトしたマウスなどのように、増殖はするがアポトーシスも修復機能もない細胞のシステム」がガン細胞に最も近いモデルであるが、論は「破壊細胞数の増え方はRに応じて細胞死をもたらすので、この影響が増殖率を上回れば、破壊細胞は減少し、ゼロにできる。」と論じている。Rは時刻の放射線照射強度率r(t)と、ある時間内での積分であるから、放射線照射強度が高く被曝が大きければネクローシスの細胞死ということである。
ガン細胞にあるアポトーシス誘導が組み込まれていない
アポトーシスには、細胞が自ら開始するスタイルと細胞外からの働き掛で誘導されるスタイルがある。免疫系のナチュラルキラーNK細胞によるアポトーシス誘導がよく知られている。
ガン細胞が細胞分裂で二つに増えても、次の細胞分裂までの間(細胞周期)に一つがNK細胞で誘導されてアポトーシスすると結果的に増殖しない。増殖率はゼロになる。一つ以上のアポトーシス誘導があると増殖率はマイナスになりガン細胞群は減少する。一つ以下ならば増殖率はプラスの値をとりガン細胞群は増大する。長期大規模コホート研究では、末梢血中のNK細胞数が多く活性が高いヒトではがんの発生率が有意に低く、NK細胞数が少なく活性が低いヒトではがんの発生率が高くなる結果が出ている。
低線量放射線によるホルミンクス効果とは? 2004年1月6日紙版再録 [被曝影響、がん]
紙版、2004年1月6日、再録
低線量放射線によるホルミンクス効果とは?
昨年2003年末、うれしいニュースがありました。巻原発建設の断念です。その前には石川県の珠洲原発が計画中止になっています。
この2003年の夏、東京電力の原発は全て停まっていました。原発には、このように一斉に止まってしまうリスクがあります。冷夏で首都圏大停電にはなりませんでしたが、このリスクに備えて大規模な予備の発電所を持たなくてはなりません。電力会社は、電力自由化を乗り切るために経営上の重荷になる原子力発電から手を引きたがっています。
また原発から出る使用済核燃料などの放射能を帯びた核のゴミの行方、後始末はいまだに不明で、幾ら始末料かかるかは分かりません。電力会社の甘い過小な見積もりでも、発電原価が火力発電と原子力発電でほぼ同じです。メリットがほとんどない。
それでも国は原発推進を変えていません。そのための様々な世論工作をしています。例えば、少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になるといっています。
これから老朽化した原発の解体によって建物の廃材など低いレベルの放射線を出す廃棄物が山のように出てきます。国は、この低レベルの廃棄物を普通のゴミ処分場に埋め立てたり、リサイクルする方針です。つまり原子力発電所の鋼材を再利用して、スプーンやマンションなどの鋼材にしたり、コンクリートを再利用したりしたいのです。それで「少しの放射線は浴びた方が体によい」と宣伝して、安心感を持たせたいのです。
放射線によるDNAの切断
放射線を浴びると、放射線が体を通過するときに持つエネルギーを細胞に与える、つまり細胞のタンパク質や遺伝子を変質させます、壊していきます。私たち一般人が法律上浴びても良いとされる放射線の線量は年間で1mSv(ミリシーベルト)ですが、レントゲンのX線やガンマ線を1mSv浴びるということは、一個一個の細胞に一回放射線が通過することになります。レントゲン技師や原発労働者など業務上の規制値50mSvでは50回の通過です。(私たちは、宇宙からの放射線などで年間に1mSv(ミリシーベルト)の放射線を何もしなくても浴びています。規制はそれに加えてどれ位にするかという値です。つまり規制値ギリギリですと1+1で2mSv被爆することになります)
放射線被爆で様々な影響が起きますが、特に注目されるのは発ガンや遺伝障害をうむ遺伝子への影響です。遺伝子は物質的には細胞内のDNA(デオキシリボ核酸)です。4種類の塩基、A、G、C、T、がいろんな順序で並ぶ鎖になっています。細胞(核)内のDNAは二重螺旋の形をしています。片方の鎖の螺旋は、もう片方の螺旋と対になっています。片方にAがあると、もう片方にはTっがあり、CならばGがあるという相補的になっています。
修復されない二重切断とホルミンクス効果
ですから放射線で片方の鎖の螺旋が壊され切断されても、無事なもう片方の螺旋から切れたところ修復できます。Aならば欠けたのはTですから、Tを付け加えて間違いなく修復できます。失敗するのは10000個に1個くらいです。
DNA二重鎖切断で発ガン
問題なのは、2本が同時に切れてしまう切断、二重鎖切断です。生存に重要な部分が切れたままだと細胞は死んでしまいます。正常な細胞は、この切断を修復する仕組みをもっています。しかし間違えて修復する、本来はAなのにTを入れてしまう事もおこります。この間違いが癌や遺伝障害をみちびきます。修復されなかったり、誤るのは10個に1個くらいです。
それでは、どれ位の放射線の被爆量で二重鎖切断の数はどれ位出来るのでしょうか。X線やガンマ線を1mSv浴びると細胞100個に3から4個に二重鎖切断がおきます。DNAの二重鎖切断は、活性酸素など生理的にも、自然の放射線でもおき、細胞20個に1個の割合で見られます。放射線を浴びると二重鎖切断が増加します。それが修復されて減少します。自然に発生する数と同じになれば、放射線照射による切断は全てつなぎなおされたことになります。間違えた修復がされるかもしれませんが、切れたままだと細胞は死んでしまいます。
不思議なことに、被爆した放射線の量が少ないと、修復されないのです。被ばく線量が少なくなるにつれて修復される割合が減少し、X線やガンマ線を1.2mSv浴びる量では、全く修復されず切れたまま残ってしまうのです。この量の被爆では二重鎖切断は細胞10個に1個の割合になっていますが、24時間たってもそのままです。なぜ修復されないのかはわかっていませんが、切れたままののです。そしてやがてこの細胞は死にます。この知見は、2003年発行のアメリカ学術会議雑誌vol.100に発表されました。
細胞が死んでしまえば、癌も遺伝障害もおきません。死んだ細胞を補うために細胞分裂がおきます。新陳代謝が活発になります。これが少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になる、低線量放射線によるホルミンクス効果の正体の一つです。
ホルミンクス効果の証拠とは?
細胞が死んでしまえば、癌も遺伝障害もおきません。死んだ細胞を補うために細胞分裂がおきます。新陳代謝が活発になります。これが少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になる、低線量放射線によるホルミンクス効果の正体の一つです。
また「ホルミシス効果を示す例として、ゾウリムシを鉛の箱で自然放射線を遮断して飼育すると、正常の増殖能が抑制され(増殖率59%)、放射線源を入れると回復したという知見」がよくあげられます。果樹栽培では、何時までも大きくなろうとし実の付きが悪いと、根を切断するなどのストレスを与えます。家庭園芸でも、植え替えが花をよく着けさせる方法で奨められます。植え替えの際に根が切断され、ストレスが加わり、大きくなる栄養成長から、花・実をつけて子孫を残そうとする繁殖にスイッチが切り替わるからです。つまり、ストレスがない少ない状態では、繁殖は少なくなります。ゾウリムシは、自然放射線による損傷というストレスがなくなったのですから、増殖が少なくなって当然です。これが、低線量放射線による健康増進効果の証拠になるのか理解に苦しみます。
また「インドのケララでは5,000人が年平均20mSvの自然放射線を被ばくし、45,000人が5mSv以上を被ばくしているが、ケララでの平均寿命はインドの平均より10-15年も長い」という事も健康増進効果の証拠によく持ち出されます。
私たち日本人は、一人当たり年間約3.8mSvの放射線を浴びています。その大半は、2.25は医療、病気の診断や治療で浴びるものです。ですから、こうした利用が少なかった50年前に比べれば、被ばく線量は倍ぐらいに増えています。その間に平均寿命も大幅に伸びました。インドのケララを引き合いに出さなくとも、「日本人の被ばく線量は倍以上に増え、その放射線による健康増進効果で、平均寿命が延びた」と上の文は書き換えられます。しかし、貴方はこの見解が正しいと思いますか?
日本人の平均寿命の延びは、食生活の改善や公衆衛生の向上、医療の発達などによるものなのは誰もがわかります。被ばく線量の増加は病気の診断や治療による物ですから、寿命の延長をもたらした医療の発達を示す目印ですが、被ばく線量の増加が原因で寿命が延長したわけではありません。
インドのケララについて、ノーベル賞受賞の経済学者アマルティア・センは次のように述べています。「ケララでは、女性の財産権がインドの他の地域よりも大きく認めらているなど、女性の社会地位が高い。それで女性の教育水準、識字能力が高い。識字の能力の高さは、家族計画や衛生知識の普及に役立つ。ケララでは、出生率が1.7、(インド全体では3以上)乳幼児死亡が千人当たり33人(インド全体では53人)」乳幼児の死亡率の低下は、ストレートに平均寿命の延びにつながります。「ケララでの平均寿命はインドの平均より10-15年も長い」原因は被ばく線量の多さではなく、こちらの方ではないでしょうか。
原爆被爆で健康増進??
また低線量といっても実際には、桁がちがう線量での現象をごちゃ混ぜにして議論しています。その線量をみると、国は「ホルミシスを誘発する低線量として、一回の照射の場合は、1-20cGy(センチグレイ、X線やガンマ線なら10-200mSv)で特異的に認められ、50cGy以上だと効果が消失することが多い」、しかし電力会社は50cGyで糖尿病や老化が抑制されたといっています。また10cGyを全身に週に3回、5週間に浴びると癌の転移が抑えられたいっています。
現在の法律上の規制値、一般人が年間で1mSv。レントゲン技師や原発労働者など業務上の規制値50mSvでは低線量放射線によるホルミンクス効果、健康増進効果は得られないわけです。もっと、もっと放射線を浴びた方が健康には良いという点では国も電力会社も同じです。しかし国は50cGy以上だと効果が消失ですが、電力会社はそれくらいで効果があるといっています。
放射線被爆で直ぐに思い起こすのは、広島・長崎の原爆被爆者です。その被ばく線量は、国の公式見解では広島の原爆で爆心地から1.8kmの地点での、被爆の放射線量は15.3cGyです。つまり、広島原爆での被爆者の大半は、原爆による1回の放射線被爆で、より健康になった、ホルミンクス効果で健康が増進したことになります。被爆者援護法による国庫の支出は、大半が不要になります。原爆病、被爆者の苦痛の原因は何なのでしょうか?
隣国が持っているといわれる原爆の規模は広島・長崎級、米国が開発しようという小型原爆もそうです。これらの原爆で、爆風や高熱で被害が生じますが、放射線での被害はごく一部、むしろ被爆した大半はホルミンクス効果で健康が増進することになります。使用に際しては、通常爆弾を雨あられと使うか、原爆一発で済ませるかという手間の問題しか残りません。低線量放射線による人のホルミンクス効果が本当なら、原爆は費用対効果の点で優れた、使いやすい兵器です。貧乏な国が持とうとするのは当然ではありませんか。
被爆労働で糖尿病、老化の予防
原子力発電所は年に1回、点検のため停止します。点検作業で、機器のボルトを一本はずすにも、放射線が充満しているため、作業員の被ばく線量を法律の枠内にとどめるためには一人の作業員の立ち入り時間が短くなります。工具をつけて廻すのに一人、はずすのに一人、ボルトを片付けるのに一人といった具合に細切れにしなければなりません。経費と時間がかかります。電力会社のいうホルミンクス効果、10-50cGyの放射線を浴びた方が健康に良いのなら、立ち入り時間が大幅にのびます。細切れにする必要がなくなります。多くの作業員が不要になります。点検の経費と時間が短縮されます。糖尿病の心配な方、老化を防ぎたい方は原発労働者になって、原子炉で被爆した方が健康には良いわけです。
「放射線ホルミシス効果」は、1982年、米国のラッキー博士が主張しました。「日本では、1980年代の早くからホルミシス効果についての研究が始められ、多くの大学や研究所で世界に先んじた研究が進んでいる。1987年、日本放射線影響学会において「放射線ホルミシス研究会」が発足した。また、電力中央研究所が中心となり、1988年以来国内外の20余の研究機関が連携した研究プロジェクトも進展している。」平成15年11月5日、新高輪プリンスホテルにて、ラッキー博士本人が、「~放射線ホルミシスそれは神の業か~」と題して、内外多数の学者の参加を得て、盛況のうちに、記念講演をしたそうです。
人間のホルミシス効果を知るなら、原爆被爆者、チェルノブイリの被爆者、原発労働者を調べるのが確実でしょう。それをきちんとせずに、国や電力会社から研究費を得てゾウリムシやラットに放射線を浴びせて悦に入っている姿は、神の業でしょうか。
紙版、2004年1月6日、再録