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LSS寿命調査14報と沢田昭二「過小評価」説の両立 めも原爆被曝者手帳㊼ [原爆被爆者援護法]

下図はLSS寿命調査14報の日本語概要改訂版 http://www.rerf.jp/library/rr/rr1104.pdf の第4図に加筆した。過剰相対リスクに関する線量反応関係は全線量域では直線であるから、図の直線モデル(L)が全線量域では最も妥当である。被爆ゼロならばERR(Excess Relative Risk)過剰相対リスクはゼロである。被曝線量が0.02Gy(20mSv)でERR・過剰相対リスクはがゼロならば、0.02Gy以下ならば全固形がんのERRはゼロ、つまり0.02Gyがしきい値・閾値であることになるが、0-0.20 Gyの線量域ではリスクが有意となっているから、そのようなことは無い。つまりしきい値は無い。だから被爆ゼロ・ERRゼロの図の原点から伸びる直線が、全線量域では最も妥当なモデルとなる。

沢田「過小評価」説、傾きが急になる
沢田昭二氏の「放影研の過剰相対リスクの過小評価は 2 分の1ないし 3 分の1程度」の見解は、1Gy被曝の場合のERRが2倍から3倍になるということだ。この図でいえば赤★のようにERRがプロット描画されて、線量反応関係は赤の直線モデル(L)が全線量域で最も妥当なモデルと示される。視覚的には、直線の傾きが急になる。直線の傾き自体が倍や3倍が適正ということだ。被曝線量が同じならリスクのERR過剰相対リスクは2倍から3倍が適正。逆にリスクのERR過剰相対リスクが同じなら、被曝線量は従来の半分から3分の一程度が適正。

lss14第14報-04下b_.jpg

この直線の傾きは、被曝線量が0.2~0.1Gy(200~100mSv)以下の線量域でのDDREF(Dose and dose-rate effectiveness factor)線量・線量率効果係数の話に繋がる。培養細胞と動物実験での知見、高線量域と低線量域を比較すると生物学的効果が低線量域は低いことを考慮すべきだとして、線量反応関係を表す直線の傾きを、それ以上の線量域での傾きよりも小さくする補正係数を持ちるべきとの考えから出される補正係数がDDREF。ICRPは「2」としている。これについては議論があるが、それは脇に置いておく。

追加被曝限度は0.5~0.33mSv/年

沢田昭二氏の「放影研の過剰相対リスクの過小評価は 2 分の1ないし 3 分の1程度」の見解からは、直線の傾き自体が倍や3倍が適正になる。DDREF=2としても被曝線量が0.2~0.1Gy(200~100mSv)以下の線量域での傾きは、従来の0.2~0.1Gy(200~100mSv)以上の線量域での傾きと同じか急になる。リスクのERR過剰相対リスクが同じなら、被曝線量は従来の半分から3分の一程度になる。

現在の公衆の追加被曝限度は1mSv/年(70年の生涯で70mSv)で、そのERR過剰相対リスクを受け入れさせられている。そのERR過剰相対リスクが同じであるためには、追加被曝限度は1mSv/年⇒0.5~0.33mSv/年(70年の生涯で35~23.3mSv)になる。

LSS14報は閾値なしで全線量域で直線の線量反応関係 めも原爆被曝者手帳㊻ [原爆被爆者援護法]

「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14報、1950-2003:がんおよびがん以外の疾患の概要」
この正文は英語論文で、 http://www.rerf.jp/library/rr_e/rr1104.pdf
この14報のポイントは、3点あると考える。
⒜総固形がん死亡の、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示した。有意となる最低線量域は0-0.20 Gyであった。
⒝閾値は認められない。
⒞被爆時年齢が若いほど、健康リスク(がんだけでなく、がん以外の循環系、呼吸器系、消化器系の疾患)は増大する
これと、沢田昭二氏の「放影研の過剰相対リスクの過小評価は 2 分の1ないし 3 分の1程度」との見解は両立するのだろうか。別稿で改めて検討する。

日本語概要が、2012年7月末の時点で「改ざん」されていたと言う。放影研RERFは「内容は同じだが前の表現だと内容を誤解する一般の方が多かったので変更した」とのことなので、最初の日本語概要を下に記す。なお、2013年6月に図を添付して、再度改訂版を出している。改訂版はhttp://www.rerf.jp/library/rr/rr1104.pdf
日本語全文のあるページは、http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2012/05/abcc-1950-radiation-research-14-1950.html

 
lss14第14報-04上_.jpg
改訂版の4頁の図版

【今回の調査で明らかになったこと】
1950年に追跡を開始した寿命調査(LSS)集団を2003年まで追跡して、死亡および死因に対する原爆放射線の影響を、DS02線量体系を用いて明らかにした。
総固形がん死亡の被曝していない場合に比べて、過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は0-0.20 Gyであった。

30歳で1 Gy被曝して70歳になった時の総固形がん死亡リスクは、被曝していない場合に比べて42%増加し、また、被爆時年齢が10歳若くなると29%増加した。がんの部位別には胃、肺、肝、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、卵巣で有意なリスクの増加が見られたが、直腸、膵、子宮、前立腺、腎(実質)では有意なリスク増加は見られなかった。がん以外の疾患では、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患でのリスクが増加したが、放射線との因果関係については更なる検討を要する。
【解説】
1) 本報告は、2003年のLSS第13報より追跡期間が6年間延長された。DS02に基づく個人線量を使用して死因別の放射線リスクを総括的に解析した初めての報告である。解析対象としたのは、寿命調査集団約12万人のうち直接被爆者で個人線量の推定されている86,611人である。追跡期間中に50,620人(58%)が死亡し、そのうち総固形がん死亡は10,929人であった。
2) 30歳被曝70歳時の過剰相対リスクは0.42/Gy(95%信頼区間: 0.32, 0.53)、過剰絶対リスクは1万人年当たり26.4人/Gyであった。
*過剰相対リスクとは、相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から 1 を差し引いた数値に等しく、被曝による相対的なリスクの増加分を表す。
*EAR = Excess Absolute Riskとは、ここでは、被曝した場合の死亡率から被曝していない場合の死亡率を差し引いた数値で、被曝による絶対的なリスクの増加分を表す。
3) 放射線被曝に関連して増加したと思われるがんは、2 Gy 以上の被曝では総固形がん死亡の約半数以上、0.5-1 Gy では約 1/4、0.1-0.2 Gy では約 1/20 と推定された。
4) 過剰相対リスクに関する線量反応関係は全線量域では直線であったが、2 Gy 未満に限ると凹型の曲線が最もよく適合した。これは、0.5 Gy 付近のリスク推定値が直線モデルより低いためであった。

「改ざん」部分

英語正文では次の部分である。
"The estimated lowest dose range with a significant ERR for all solid cancer was 0 to 0.20 Gy, and a formal dose-threshold analysis indicated no threshold; i.e.; zero dose was the best estimate of the threshold." 

ERR Excess Relative Risk 過剰相対リスク
これを「総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して直線の線量反応関係を示し、その最も適合するモデル直線の閾値はゼロであるが、リスクが有意となる線量域は0.20 Gy以上であった。」と訳し直している。こちらの方が判り難く「内容を誤解する』人が多いのではないか。


 

5mSv未満の極低線量被曝者でも癌リスク増加、宮尾研究 めも原爆被曝者手帳㊺ [原爆被爆者援護法]

2008平成20年に広島の0.005Sv未満の極低線量被爆者(DO86評価)でも、広島・岡山両県の一般住民に比較して有意に高い各種のがん死亡が存在したことをLSS12に基づき、明らかにした研究が公表された。発表した名古屋大学の宮尾 克 教授は、続いて長崎の被爆者をコントロール・対照群として、長崎県と隣の佐賀県の一般住民を選び検討している。「0.005Sv未満を極低線量、0.005から0.1Svまでを低線量、0.1から4.0Svまでを高線量」と区分して検討している。(低線量原爆被爆者のがん死亡に関する研究 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21590653/ )

LSS寿命調査の研究手法を批判
宮尾教授は放影研RERFの研究手法をLSS寿命調査の研究手法を「真の非被曝グループを用いずに『高度な』統計解析ーポアソン回帰分析ーを用いて曝露グループの結果を外挿し、『被曝グループのリスク』を推定している」「極低線量区分の対象者を用いて、バックグラウンドリスクを算出している」「比較対照グループとして2.5km以遠の対象者を用いた曝露グループ内でのポアソン回帰分析によって、ERR(過剰相対リスク)を不当に人為的低くした」と批判している。

宮尾教授が指摘するように、極低線量区分の対象者のSRMをバックグラウンドの被曝なしの対照群に用いると、全ガンでは0.005-0.1Svの男性被爆者は0.96(1.28/1.33)とむしろ死亡比が低くなり0.1Sv以上で1.17(1.56/1.33)、全線量域では1.02(1.36/1.33)。女性被爆者で0.005-0.1Svで1.05(1.15/1.09)、0.1Sv以上で1.57(1.72/1.09)、全線量域では1.15(1.26/1.09)となる。

それでは宮尾教授が真の非被曝グループとしているのは、広島では東隣の岡山県民と当の広島県民。コントロール・対照群には、原爆被爆が無いだけで食生活や住環境などが同じ人々が望ましい。岡山県は、中国山地と瀬戸内海に挟まれ、南部の平野地帯は典型的な瀬戸内海式気候で北部の中国山地沿いは日本海側気候。広島県は、北部の豪雪地帯は日本海側気候、それ以外の地域は瀬戸内海式気候。だから、コントロールには適している。当時の広島市人口は広島県の1/5~1/6位だから、広島県全体としてはコントロールに使える。
5mSv未満の極低線量被曝者でも癌リスク増加
人口構成を補正した標準化死亡比SRMで比較検討すると、「全死因による死亡、全がん、固形がん、男性の肝臓がん、女性の子宮がん、肝臓がんについて、それぞれ優位に高かった。」DS86で0.005Gy未満の「極低線量被爆者にあってさえ、がんのリスクが優位に増加している。」
LSS12を検討02b_.jpg

一般公衆の被曝限度1mSvは高すぎないか めも原爆被曝者手帳㊹-Ⓗ [原爆被爆者援護法]

総被曝線量でみれば、遠距離被爆者≒初期放射線被曝が5mGy以下のLSS寿命調査で紫○評価の人は、放射性微粒子による被曝線量が、5mGyの初期放射線被曝線量をはるかに上回る。ところが、放影研RERFの研究設計、LSS寿命調査の研究デザインでは、このLSS寿命調査で紫○評価の人が大半のコホート・群れを実質比較対照群にしている。それは次のような歪みをもたらす。
 
「放射線防護基準には様々な放射線障害の発症率や死亡率を相対リスクあるいは過剰相対リスクで表して用いている。相対リスクは放射線に被曝している集団の発症率や死亡率を分子にし、被曝していない集団の発症率や死亡率を分母にして割って求め、過剰相対リスクは相対リスクから1を差し引いて求める。まったく被曝をしていない集団より遠距離被爆者集団の発症率や死亡率は大きいので、これを分母にすると相対リスクや過剰相対リスクはかなり小さくなる。」
「放影研の過剰相対リスクの過小評価は 2 分の1ないし 3 分の1程度」(原爆被爆者に対する放射性降下物による被曝影響の真実、沢田昭二氏、の12-13頁)
放影研RERFのこうした原爆被爆者の放射線被曝影響の研究が、ICRP国際放射線防護委員会やUNSCEAR原子放射線の影響に関する国連科学委員会の放射線防護の基準の基礎、根拠、エビデンスにそのまま採用され、世界各国政府の放射線防護基準に利用されている。「広島・長崎」の原爆生存者の被曝線量評価と影響は「電離放射線リスクモデモデルの土台中の土台」である。
「放影研の過剰相対リスクの過小評価は2分の1ないし3分の1程度」だから、公衆の追加被曝の年間被曝線量限度 1mSvの真の過剰相対リスクは2~3倍あるということだ。過剰相対リスクを基準にすると、公衆の追加被曝の年間被曝線量限度 0.5~0.33mSvが望ましいことになる。
この0.5mSvという数値は、ハンフォード工場で兵器級プルトニウム製造に携わった労働者を対象にしたミラム医師の調査結果やトーマス・マンキューソ(Thomas Mancuso)の疫学研究の結果と符合している。マンキューソ研究は、放影研RERFのLSS(寿命調査)などのデータに基づく評価よりも約10倍も発癌リスクが高いという結果であった。当時の公衆の追加被曝の年間被曝線量限度は5mSv(当時の表記は5remレム)だから、0.5mSvになる。
チェルノブイリ事故後に定められたいわゆるチェルノブイリ法では、年間0.5~1mSvの地域を放射能管理強化ゾーンとしている。このゾーンでは、医薬品の無料支給や健康診断・保養の5割公費負担があるが、引っ越し費用支給など移住への公的な支援は無い。管見では、子供らの健康状態があまり良くないと聞いている。
 
チェルノブイリ_.jpg

被曝の急性症状から放射性微粒子による被曝線量の推定する めも原爆被曝者手帳㊹-Ⓖ [原爆被爆者援護法]

生物学的医学的な推定方法
原爆によって生成した放射性微粒子の沈着による被曝線量の大きさは、どれ位だろうか。めも原爆被曝者手帳㊹-Ⓓで紹介した今中哲二氏(元京都大学原子炉実験所)は、床下土壌の調査結果等から推定する理学的な方法で行った。これに対して、被曝で起こる身体の変化、症状の中でも急性症状から推定する生物学的医学的な方法で行ったのは沢田昭二氏(名古屋大学名誉教授、素粒子の理論物理学者)である。

それで推定できるのは「動物実験では被曝線量と確定的影響である急性放射線症状の発症率は、『しきい値』があることを除けば正規分布(体重や身長など最もありふれた分布)であることが確かめられている。」からである。

広島、長崎の推定
ABCCの調査したLSSの広島の全脱毛発症率から被曝線量を求めた図が下図。

report2016-7.jpg
長崎の推定
report2016沢田10c_.jpg
(原爆被爆者に対する放射性降下物による被曝影響の真実、沢田昭二氏、の7頁と10頁http://hibakutokenkou.net/uploads/report20160318235423.pdf

この図では、爆心地からの距離で出しているが、放射性微粒子の沈着は風雨で左右されるから爆心地からの方向・東西南北での区分を入れて表現した方が良いとおもう。爆発から放射能の雲が拡散して通過するルートをシミュレーションし沈着を計算する方法で、沈着量を2次元的にマッピング・位置付けをする。それを実測データで、検証し補正する。その2次元的物理学的沈着量データと被爆者からの被曝線量データを結びつける。黒い雨に関する被曝者情報は、1万2千件・1万2千人分以上ある。それらは放影研RERFが持っている。全て公開されて、研究が進むとモットわかるだろう。

このように、総被曝線量でみれば、物理学的方法で求めた線量評価でも生物学的医学的な方法でも、遠距離被爆者≒初期放射線被曝が5mGy以下のLSS寿命調査で紫○評価の人は、放射性微粒子による被曝線量が、5mGyの初期放射線被曝線量をはるかに上回る。ところが、放影研RERFの研究設計、LSS寿命調査の研究デザインでは、このLSS寿命調査で紫○評価の人が大半のコホート・群れを実質比較対照群にしている。それは次稿で検討するような歪みをもたらす。

 

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