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バイデン次期米大統領と日本・菅政権のエネルギー政策(壱) [エネルギー基本計画]

原子力産業新聞 2020年12月号
国際社会を象徴するバイデン次期米大統領のエネルギー政策  市川眞一 イチカワしんいち
覚書
トランプ大統領とバイデン氏の政策には、いくつかの点で大きな違いがあり、目立つのは経済政策である。
バイデン氏は、米国の社会が分断圧力に晒されている要因を経済格差の拡大とし、選挙では政府による所得の再分配強化を主張してきた。つまりは伝統的な「大きな政府」だ。その財源として大型の増税を公約しており、対象はキャピタルゲイン、企業、そして高額所得者層とされている。
バイデン次期大統領は、地球温暖化対策の強化を打ち出し、それを米国経済の成長に結び付けるよう主張している。
バイデン次期大統領の地球温暖化に関する政策は、次の5つの点に集約できるだろう。
⑴遅くとも2050年までに100%クリーンエネルギー化し、ゼロエミッションを達成する
⑵温暖化抑止技術の開発、インフラ整備に10年間で1兆7千億ドルを支出、5兆ドルの民間投資を誘発する
⑶EVの普及を促進する
⑷パリ協定に再加入し、他国の温暖化対策を後押しする
⑸政権1年目で具体策を立案し法律を制定する
政策が際立っているのは、米国において伝統的に強い政治力を持つとされてきた石油業界、そして自動車業界と激しく対立する可能性がある。
主張しながらバイデン氏が当選を確実にしたのは、2つの背景があったのではないか。まず第1には、自然災害の頻発だ。2005年8月のハリケーン・カトリーナ。2012〜17年の5年間に渡り、カリフォルニア州が「千年に1度」と言われる大旱魃に襲われた。そのカリフォルニアに加え、州境を接するオレゴンでも、今年に入って大規模な山林火災が続いている。1970年代に12.9万キロ平方メートルだった野火による国土の消失面積は、2010年代には27.7万キロ平方メートルになっている。
温暖化対策に舵を切ろうとした第2の理由として考えられるは、人口構成の変化だ。第2次大戦直後から高度経済成長期、即ち1947~64年に生まれた「ベビーブーマー」は、長く米国において最も人口比率の高い世代だった。しかし、2017年には、1981~96年に生まれた「ミレニアル世代(ジェネレーションY)」がベビーブーマーの人口を上回っている(図表2)。このミレニアル世代は、一般に政治に対する関心が高く、リベラル色が強いとされ、環境問題への関心も高いようだ。民主党はミレニアル世代を中心的な支持層として重視しており、政策的にリベラル色を強め、且つ地球温暖化対策などへ従来以上に踏み込んだ姿勢を見せているのではないか。
図表2、、.jpg
共和党が連邦上院で過半数を維持する見込みとなり、バイデン次期大統領は少なくとも同党から2名程度の上院議員の賛成を得なければ、法案を通すことはできないだろう。従って、選挙の公約通りの「大きな政府」が実現する可能性は低下した。一方、共和党に対して譲歩を重ねれば、リベラル系有権者の支持を失うことになりかねない。そうしたなかで、環境・地球温暖化問題は、相対的に見て共和党議員の支持を得やすい政策と言える。パリ協定への復帰を含め、大統領に就任後、バイデン大統領は早い段階でこの分野の施策の具体化を目指すのではないか。
従来、気候変動抑止の対策は、企業にとっても国にとってもコストと考えられていたのではないか。もちろん、それは一面において間違っていない。ただし、年金基金などがESG(環境・社会性・企業統治)を重視、温室効果ガスの排出削減に真摯に取り組まない企業への投資を避けるようになった。結果として、温室効果ガス削減は従来の努力目標から”must”の責任へと地位を向上させ、そこには巨大な市場が生まれようとしている。国家レベルで見た場合、積極的に温室効果ガス削減を進め、その国が技術的な優位性を逸早く獲得できれば、企業も国もその恩恵を享受できる可能性が高まった。つまり、地球温暖化対策は、政策的に見てコスト以上に成長戦略としての認識が深まっている。バイデン次期米大統領やジョンソン英首相の狙いもそこにあるだろう。
このバイデン氏の政策は、12年前に元ネタがあり、その焼き直しとも言える。元ネタとは、2008年11月の大統領選挙においてバラク・オバマ候補が主要政策に据えた『グリーン・ニューディール』だ。オバマ陣営の公約には、「新たなエネルギー開発に10年間で1,500億ドルを投資し、500万人の雇用を創出する」と書かれていた。
しかしながら、このグリーン・ニューディール政策の結果が悲惨なものであった。エネルギー省は太陽光パネルメーカー大手などに巨額の金融支援を実施したものの、中国系企業の安値攻勢に晒され、急激に競争力を失ったので、企業が相次いで破綻、公的資金は回収不能に追い込まれた。
続ける

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