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ベント開始の時刻 水素ガスとベント 試論⑪訂正 [AM-ベント、排熱]

東京電力は、東電核災害で地震から1日以上経ってからごく一部の電力を回復した。この実績にもかかわらず、2時間で電力を回復しSBOを終了としている。これが5時間ならRPV原子炉圧力容器がメルトスルーで壊れている。メルトスルーの場合の対応をJNESで研究している。

 JNES研究のAEシナリオは、3つの対策、AMを仮定している。圧力容器RPV破損後のペデスタル注水・格納容器PCVスプレイ・事故後24 時間でのRHR復旧である。
 溶融炉心が圧力容器RPVの下部プレナム落下し、RPVの底面の下部ヘッドで溶融貫通・メルトスルー破損が生じる。高温の溶融物デブリが下部ドライウェル・ペデスタル床に落下する。
 デブリ落下直後に代替注水系によりペデスタル注水され、デブリ冷却が始まる。デブリの熱とどんどん出てくる崩壊熱により、大量の水蒸気が発生しPCV格納容器は加圧される。ただし、代替注水系によりPCVのドライウェルD/Wにスプレイ散水が開始されると、スプレイ流量180立方㍍/時で液滴径2mmの散水による蒸気凝縮により加圧は抑制される。スプレイはPCV圧力が低下すると一旦停止され、再び設定圧力0.57MPa(絶対圧、1.5Pd)に達すると再開され間欠的に行われる。これにより、PCV圧力は設定付近に留まる。0.57MPa(絶対圧)の沸点は156.8℃、PCV格納容器温度も177℃を超えない。
 そして仮定通り事故後24時間でRHR復旧し、RHRによってPCVから排熱が開始されるため事故収束に向かいうのが、JNES研究のAEシナリオである。ベントの必要はない。

ベント開始時刻の推定
仮に24時間でRHRが復旧しなかった場合、何時まで設定圧力0.57MPa(絶対圧)以下で抑えられるであろうか。それは、水蒸気を冷やし水に戻して減圧するスプレイ水の量、それも格納容器内に貯水できる量による。福島第一の2、3号機は、S/Cベントの吸気口の水没を避けるため2300立方㍍が目安であった。その量を東電は明らかにしていない。
(東電の2014年10月7日付の「選定したベントシナリオ解析条件の妥当性について」からは、格納容器ベントラインの水没水位をベントのクリティカル条件として約5300立方㍍と推定できる。 http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/60/47/141007_shiryou2,0.pdf )

何時頃にベントになるであろうか。

落下した溶融物デブリが水中にあれば、水素などのガスは新たに発生しないので、加圧要因は水蒸気だけになる。つまり、熱である。停止後のPCV格納容器内で熱を蓄えるのは、中の水、水蒸気と構造物。水、水蒸気の蓄熱は、顕熱(水温、水蒸気温度)と潜熱(水蒸気になるための気化熱)は高圧になると大きくなる。ベント実行の設定圧力Pvで蓄熱出来る量は、水量と圧力で決まる上限がある。上限蓄熱量にPCV内で発生する熱量が達する時がベント実行時刻になる。

熱のバランスc.jpg


 発生する熱のうち、崩壊熱は核燃料が融けていなくてもメルトダウンしていても、どの場所にあっても変わらない。メルトダウンした場合は被覆管金属ジルコニウムと水蒸気の反応で発生する熱がある。これらの合計、積算が発生する熱量になる。

ベント時刻は、メーカーの日立、東芝のシュミュレーションがある。ベントの設定圧力Pvは、設計圧力Pdの2倍で試算している。それによれば吸気口の水没を避けるため水量が決まっているS/CベントではRPV破損から約23時間、発災から29時間後。吸気口がより高いD/Wベントでは、約47時間、発災から53時間後である。

このシュミュレーションが妥当なら、東電事故シナリオは4時間もベント時刻を早めている。電動の消火ポンプをつかった注水など手を尽くしていないからである。
(東電の2014年10月7日付の「選定したベントシナリオ解析条件の妥当性について」では、約40時間後である。15時間も早めている。)

県事故シナリオの18時間後ベントのからくり

消火ポンプD/DFPを使えば
県設定の県事故シナリオはSBOから回復しないという条件と常設代替注水設備つまり電動のMUWC復水補給系のポンプとFP消火系の電動消火ポンプとデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPの不稼働という条件である。東電核災害ではSBOだから電動のMUWC復水補給系のポンプとFP消火系の電動消火ポンプはつかえなかった。3号機と1号機のD/DFPは稼働可能であった。東電はとことん常設のデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPを使いたくないらしい。シナリオでは給水管が大破断して炉は減圧しているので、D/DFPを使えばRPV原子炉に注水可能である。県のRPV原子炉圧力容器に注水できないとの制約のもとでも、PCV格納容器に117~177立方㍍/時の注水が可能である。この水量は、JNES研究の180立方㍍/時や東電シナリオの130立方㍍/時よりも小さいから、水量=蓄熱上限量が少なくベント時刻が早くなる。

 この不足分をどう補えるか。東電は2014年10月7日付のさきの資料で、ポンプ1台から2台・復水補給ポンプMUWCに増やし、これで注水量を160立方㍍/時まで増やすバージョンを示した。これと同様に消防車のD/DFPを併用して注水を補うことができる。東電の消防車の消防ポンプはA-2という規格である。これは吐水圧力1.4Mpaでは84立方㍍/時、0.85MPaでは120立方㍍/時以上をクリアした性能のポンプである。これを併用し注水量を増やす。180立方㍍/時を期待できる。

十数台も置いといて1台しか使えない?使わないのか東電。
 東電は、県事故シナリオはPCVへの注水量が少ないからベント開始時刻が7時間早まるとした。これは消防車を1台のみで考えているからである。東電は送水口を2ヶ持つ送水箇所を2か所設けたから、最大で4台接続可能である。2台で注水を行えば、160から200立方㍍/時の注水量を期待できる。東電は消防車十数台も配備したのに、1台しか使わぬつもりらしい。


消火系FPの水源はろ過水タンクである。2台のタンクの合計容量は1万5千立方㍍。十分に約5300立方㍍注水してベント開始時刻を約40時間後に出来る。

 根本的には常設のデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPの信頼性と性能を上げる事である。消火系FPは耐震性能がCクラスと低い。東電核災害でも吉田所長が懸念している。一つ目は耐震性能などを向上する。ポンプも台数と性能を上げる。現在は6、7 号機共用で1台のD/DFPしかない。これを号機ごとにする。つまり2台にする。それもA-1規格の消防ポンプにする。A-1は、吐水圧力1.7MPaでは84立方㍍/時以上、1.4MPaでは120立方㍍/時以上、0.85MPaでは168立方㍍/時以上。1MPa以上の吐水能力はRPV原子炉への注水を考えた場合使い手が良い。D/DFPでの高圧注水も一部可能な炉圧帯を設けることで、東電核災害のように減圧ができなくて炉注水が途絶える事態を避けることができる。

このPCV注水が全くない場合が極限ケース(福島第一と同様の状態でベントするケース)であるが、それを検討する前にこれまでの事故シナリオ、東電シナリオと県事故シナリオでのベントを整理しておく。 続く


新潟県設定の事故シナリオ 水素ガスとベント 試論⑰訂正 [AM-ベント、排熱]

新潟県が設定した発災時の条件は、従来のシビアアクシデント研究でTQUVと略号がある設定、過渡事象(T )と給水喪失(Q)と高圧注水系喪失(U)と低圧注水系喪失(V)が組み合わさった設定を基本に、SBO全交流電源喪失で、対応策にECCS非常用炉心冷却装置といった設計段階から設けられている対策設備とガスタービン発電機(DEC対策設備)及びMUWC復水補給系の復水移送ポンプ、FP消火系の電動ポンプ、ディーゼルポンプが使えないという東電核災害時に類似した条件を設定している。

柏崎刈羽原発6、7号機はABWRという型の軽水炉である。ABWRのシビアアクシデント研究に、JNESの「平成18年度シビアアクシデント晩期の格納容器閉じ込め機能の維持に関する研究報告書」がある。この研究をもとに新潟県が設定した条件での推移を検討してみる。
https://www.nsr.go.jp/archive/jnes/atom-library/seika/000007877.pdf

JNES研究は、3つの対策、AMアクシデントマネジメントを仮定している。約6時間後の圧力容器RPV破損直後のペデスタル(下部ドライウェル)注水・格納容器PCVスプレイ・事故後24 時間でのRHR復旧である。溶融炉心は、炉が低圧なので「RPV原子炉破損、ペデスタル床に溶融炉心が落下」するLPMR low pressure melt releaseのパターンでメルトスルーする。破損・落下直後からのペデスタル(下部ドライウェル)注水・PCVスプレイで過圧、過温を防げる。研究では24時間後にRHR復旧する仮定になっている。RHRで崩壊熱が排熱さるので格納容器は壊れないし、ベントも不要となる。

ABWR、AM02.jpg

  県の設定では、4時間後からペデスタル(下部ドライウェル)注水となっている。ペデスタル(下部ドライウェル)注水は溜まった水とデブリによる水蒸気爆発の危険性があるが、それは別に検討する。溶融炉心・デブリは、2時間の間にペデスタルに溜まった水の中に落下していく。格納容器圧力は0.2~0.6MPa(a)だから沸点は約120~158℃。落下して発生する水蒸気は、この温度帯の中にある。JNES研究のようにデブリにスプレイ散水では水に触れていないデブリで、その温度以上の過熱水蒸気が発生する。それで、落下=注水直後はペデスタルの温度の急上昇が見られる。水中に落ち入る県の設定では、水に触れていないデブリが極小だから過熱水蒸気の量も極少ないからJNES研究のような温度急上昇はない。
 また、JNES研究では直後はスプレイされた水はデブリの冷却、蒸発による除熱に先ず回り、その水蒸気を凝縮する量は少ない。水中に落ち入る県の設定では、デブリの冷却、蒸発による除熱は2時間前から溜められた水が行い、落下後のスプレイ水は水蒸気の凝縮=減圧を行う。従って、JNES研究のような圧力上昇もないと考えられる。

注水量が不足なら増やせばよい

 東京電力は、県の設定ではPCV格納容器への総注水量が少ない分、PCV内で受け止められる熱量がその分小さく、初回のベント時刻が7時間早まり18時間後としている。東電シナリオでは、RPV原子炉圧力容器への注水があり、PCVへのスプレイ注水も2時間早く始まる。総注水量が少ないのなら、増やせばよい。

 県の設定では42台の消防車のうち2台を使うことになっている。(東京電力、平成26年3月24日、「防災において想定する事故シナリオについて」、6頁)東電の消防車の消防ポンプはA-2という規格である。これは吐水圧力1.4MPaでは84立方㍍/時以上、0.85MPaでは120立方㍍/時以上をクリアしたポンプである。それを2台使うことになっている。これで不足ならA-1という規格に替える。これは吐水圧力1.4MPaでは120立方㍍/時、0.85MPaでは168立方㍍/時以上をクリアしたポンプである。それを2台使うようにする。

この台数が少なくて注水量を増水できないのなら、使う台数を増やせばよい。東電は送水口を送水箇所を増やせばよい。

 消火系FPはタンク容量5千立方㍍のろ過水タンク№1、1万立方㍍のタンク№2などの淡水を水源にしている。電動の消火ポンプやD/DFPはむろん消防車も、これらろ過水タンクを水源にしている。水源の正味の使用可能量を東電は201年3月に割り出して国に報告している。それでは全号機で共有するろ過水タンクは13,630m³。注水量を増水しても不足することはない。

このように、東電の言う18時間後ベントの根拠は弱い。では何時になるだろうか。これは、水素ガスと放射能の放出を如何にするかと深くかかわる。


東電シナリオでの放射能の出方 水素ガスとベント 試論⑯ [AM-ベント、排熱]

大LOCAの破断口からRPV原子炉から、PCVのD/Wドライウェルに直接出てくる。希ガスは炉心からほぼ全量。発災・原子炉停止からの経過時間が2~3時間なので、希ガスの減衰が少ない。希ガスはブルーム放射能雲をつくる主要な放射能。この量が減らないままで放出されるから、ブルーム通過地の被曝線量は多くなる。
セシウムについて東電はセシウム137は約2時間後には「炉心からほぼ全量放出される」としている。核燃料損傷は0.4時刻開始だから1.6時間である。化学形態はヨウ化セシウム(CsI)やモリブデン酸セシウム(Cs2MoO4)といった微粒子状エアロゾル。水に捕捉される。S/Cプールの水(スクラビング効果)、PCVスプレイの散水、フィルタ装置の水だ。PCVのD/Wドライウェルに直接出てきて、PCVスプレイ無しだから、確実なのはベントの際のS/Cプールの水とフィルタ装置の2度である。D/Wが高圧化しS/Cの空間部との圧力差が大きくなると、S/Cプールを潜って流入する。そして気圧差を解消するがD/Wの空気の全てが流入しないから、確実なのは2回である。捕捉される機会が少ないから、環境に放出される割合は多いと考えられる。。
ヨウ素は炉から出る形はヨウ化セシウム(CsI)と無機ヨウ素といわれるI₂。S/Cプールの水の中のヨウ化セシウムがγ放射線被曝でおこす化学変化で無機ヨウ素I₂と有機ヨウ素が生成する。有機ヨウ素例えばヨウ化メチルはガス状で、無機ヨウ素はガス状である。無機ヨウ素はpH7以上、アルカリ性ではヨウ素イオンI⁻になり水に溶けるとされている。BWR原発の水質管理はpH5.6~8.6であるから、常に発災時にpH7以上とは言えない。東京電力は水酸化ナトリウムを注入しpH制御するとしている。運転員2人で屋外の薬品注入設備におもむき30分で起動させるとしている。SBO全交流電源喪失で動力を無いのに注入できるか疑問である。(問合せ中)ベントまでの時間が短いため、化学変化の量は少ないと考えられる。

140827 No.2-2 (放出量)08東電シv1.jpg

PCVスプレイが行われてからのベントでは、ベントまでの時間が前者に比べ長いからその分希ガスの減衰が進んでいる。
 セシウムは粒子状、PCVスプレイの散水で捕獲される機会が増える。エアロゾル粒子が吸湿し重くなって重力沈降が起こり易く、PCV内の時間が長くなるから沈降と沈着でPCV格納容器内に滞留する量が増える。確実な水による捕獲機会がPCVスプレイの散水、ベントの際のS/Cプールの水とフィルタ装置の3度に増える。また生じたPCV内の汚染水からの再放出が起こるようになる。特にベントの際の減圧沸騰に伴う微細汚染水滴の発生である。これは水温が100℃を超えると発生量が増える。格納容器温度・ガスの推移からは10時間後は可能性がある。
 ヨウ素はγ放射線でおこる化学変化で無機ヨウ素I₂と有機ヨウ素が生成量が滞留時間が長くなるので増える。

東京電力は「格納容器内に蓄積されていたものについてベント後1時間で全量放出を仮定」している。初回のベントでPCV空間部に蓄積されたものが全部出てもそれで終わりではない。補機冷却系や代替原子炉補機冷却系が稼働して、海水に崩壊熱を出せるようになりまで間欠的にベントが行われる。その2度3度目のベントは、希ガスを除いて同じようになる。

140827 No.2-2 (放出量)08東電シv4.jpg

PCVスプレイが行われてからのベントの可能性、水源制限を加筆 水素ガスとベント 試論⑮ [AM-ベント、排熱]

2時間後からPCVスプレイ、炉注水、3時間後にトップフランジ水張したら
東電シナリオでは、2時間後からPCVスプレイ、炉注水、3時間後にトップフランジ水張する手はずである。それで水素爆発は25時間防げるか?東電核災害を顧みると、そうは言えない。福島第一のPCV格納容器には約400ヶの小さな貫通部があるそうだ。その多くは1階の部分、PCVのシェル部分(フラスコ状の下部の丸い区画)にあるそうだ。TIP(移動式炉心内計測装置)の案内菅、RPV原子炉内部とPCV格納容器外部を直接結ぶ4本の案内菅もその一つ。柏崎刈羽6、7号ではどれくらいあるだろうか?

漏洩01c.jpg 東電核災害では1号機で後日の調査で、原子炉建屋1 階南東のTIP(移動式炉心内計測装置)室周辺で高線量汚染が確認されている。TIPの案内管がメルトダウンの際に炉内側が損傷して開口しておこるTIPリークは、東電シナリオでも起こり得る。TIP案内管リークを織り込んで評価しなければならない。

 11日21時頃、運転員がIC 胴側の水位と原子炉水位の確認のため原子炉建屋に向かい、入域したところ、警報付きポケット線量計がごく短時間で0.8mSv を示したため21時51分原子炉建屋への入域を禁止。
 11日23時、タービン建屋内での放射線量の上昇が計測。PCV圧力は0.6MPa(23時50分、実測)で設計圧力0.4111MPa(a)の約1.45倍。この圧力で12日02時30分頃に0.84MPaを計測した後、12日14時30分頃のベント操作による圧力減少まで、0.7MPa~0.8MPa程度の圧力で推移した。PCV温度の実測データは入手していない。
 1号機のRPV原子炉には圧力を落とす2種類の弁が主蒸気管に付いていた。一つはSRV逃し安全弁 Safety Relief Valve 、原子炉圧力が設定圧力を超えると強制的に弁を押さえつけているスプリングを押し上げるガスを電気制御で送り込み弁を開け炉から蒸気をS/Cプールに逃がす逃がし弁機能と原子炉からの蒸気圧力がスプリングの押さえつける圧力に打ち勝って弁体を押し上げる開き蒸気をS/Cプールに逃がす安全弁機能をもつ。もう一つはこのSRVのお隣に着いているSV安全弁safety valve で、これはスプリングとの力比べで開く安全機能だけで、蒸気はPCV格納容器のD/Wに出される。
 SRV逃し安全弁は「事故時、必要なときにそれが実際に作動したことを裏づける弁開閉記録が存在しない(2、3 号機には存在する)。」「弁の作動音を耳にした者は一人もいない」(国会事故調)SRV逃し安全弁が故障で閉固着していてると、安全弁が開く。D/Wドライウェルに直接蒸気が放出される。

 仮にSRVが作動可能であったとしても「スクラム後約4.4 時間(19時30分頃)で原子炉圧力容器の気相部(蒸気分)が 450℃に到達し、逃がし安全弁フランジガスケット部から原子炉圧力容器・・ドライウェル区画に直接蒸気が放出される」(東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会、平成25年11月、https://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/jiko_bunseki/data/0005_07.pdf

漏洩01f.jpg つまり、1号機は津波来襲から間もなくからか、遅くても19時30分頃以降は炉からの高温高圧のガスがPCVのD/Wドライウェルのシェル区画(フラスコ状の下部の丸い部分)に直接噴出する状態であった。それは、新潟県技術委での論議のまな板に乗っているLOCA配管破断による噴出に似ている。LOCAは破断口から継続的持続的に噴出するが、安全弁の場合は炉が高圧化すると開き(安全弁は8.5MPa以上)噴出するが、それで炉圧が下がると閉じてしまう。崩壊熱などで炉圧が上がると再び開く。間欠的な噴出だ。津波来襲時点の崩壊熱の時間当たり発生量は、スクラム直後より落ちているから、その高温高圧化の進展は東電シナリオに較べてゆっくりしたものになる。

 噴出である程度D/W圧力が上がるとS/Cプールに流れ込み、熱はプール水に吸収される。しかし、噴出ガスが直接でるシェル区画部分に多いペネトレーションや上部のトップフランジは高温化に晒される。特に水面が下がり炉心が露呈すると18時10分(推定)以後は水素ガスが大量発生し始める。透過性が強く、比重が小さく軽い水素ガスが高温高圧で噴出する。放射性の希ガス類もギャップ放出、それに続く溶融で大量に核燃料から出てくる。これもPCVのシェル区画に高温高圧で噴出する。

 このような高温状況で、11日21時頃、PCV圧力が設計圧力付近(先の検討会資料)でも、原子炉建屋への入域を禁止しなければならないほど放射能が出て来た。水素ガスも出てきている。ペネトレーションや上部のトップフランジから出てきている。それは、2時間後の23時には、お隣のタービン建屋内で放射線の上昇が計測される位大量に出て来ていた。しかし、圧力上昇を食い止められないリーク漏洩量である。PCV圧力は0.6MPa(23時50分、実測)で設計圧力の約1.45倍に上がっている。圧力上昇が止まったのは、RPV原子炉圧力容器がメルトスルーして、溶融物デブリが直接PCVを加熱して、高温化が亢進した12日02時30分以降である。気体容積は熱で膨張するから高温化は高圧化になるのが物理的道理だが、それが上がっていないのだから、リーク漏洩量が増えたのだ。

 メルトスルーまでの間、炉圧が設計圧力程度から1.5倍程度でもリーク漏洩が発生した。放射能で原子炉建屋に入って収束作業が行えないほどのリーク漏洩が生じる状況は、東電シナリオでの状況ではないだろうか。東電シナリオでは2時間後にSBOを脱却しPCVのD/Wスプレイが始まる。その後もPCV圧力は設計圧力を超えている。15時間位まで1.35倍を超えて一時1.7倍になっている。15時間後はスプレイの効果で下がるが、1.35倍を上下する。格納容器温度は設計温度171℃を上下する。そうした環境にずっとある。これは福島第一1号機の11日夜の状況ではないだろうか。

 放射能が漏れて、水素ガスも漏れてくる。TIP(移動式炉心内計測装置)案内管からの30kgとペネトレーションからリーク漏洩分の水素。分厚い横壁を吹き飛ばすほどでなくても、ブローアウトパネルを吹き飛ばし天井を落とすに足る量ではないだろうか。幸い1号機では11日夜、12日朝、午前中は爆発は起こらなかった。僥倖と言わざるを得ない。幸運に頼らず爆発を避けるには「格納容器の中の水素を排出する」ベントが、メルトスルー前のベントが一つの回答だ。

このように「大LOCA+全ECCS機能喪失+SBO」の事故では、SBOが2時間で終える(東電シナリオ)、PCV頂部に3時間後水張り(東電シナリオ)としても、リーク漏洩の具合、TIP案内管の損傷の有無、ペネトレーションの損傷程度によっては、ベントが最悪の水素爆発を招かないための選択になる。

また東京電力は、注水の水源は復水貯蔵槽としている。水源の正味の使用可能量を東電は201年3月に割り出して国に報告している。それでは運転中における復水貯蔵槽の正味の使用可能量は、6号機は約1050m³、7号機は約1130m³である。
(「柏崎刈羽原子力発電所7号機における安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について」平成24年3月、http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120312005/20120312005-6.pdf

今回の事故時のシュミュレーションでは約1700 m³としている。

7号機では約570m³も正味の使用可能量よりも多く過大に見積もっている。もう200m³増やして約1900m³と置けば、25時間後にベントは行ずに済む。「スプレイ用の水源枯渇は発生せず、ベント時間は事象発生後約40時間後まで延ばすことが可能」と東電は評価している。

それでは、正味の使用可能量の約1130m³では概ね10時間後にPCVスプレイを停止、ベント実施と読み取れる。東電の作成したグラフで、約570m³をゼロ点としてみると10時間後にゼロ点に達する。

水源量01.jpg

この発災からPCVスプレイが行われてからのベント、それはSBOが継続しPCVスプレイがないベント、先回検討したベントや東京電力が柏崎刈羽6、7号機では有り得ないとしている福島第一原発と同様の状態の極限ケースでのベントとどう違うのか。 続く


SOARCA研究での基準、考えでは約3時間後にベント 水素ガスとベント 試論⑭ [AM-ベント、排熱]

NRC米国原子力委員会のSOARCA研究では、トップラウンジ付近の気温が200℃(470K)以上でPCV圧力は設基礎siryo1-5.jpg計圧力の約1.35倍の時点でトップフランジから大量のリーク漏洩が始まると解析している。そして0.1時間、6分ほど後に水素爆発が起きる。
 トップフランジ以外の貫通部のあるPCVのD/Wも200℃以上になり漏洩がおこる。ただ貫通部が小さいので、時間当り漏洩量もすくない。それによる建屋下部での水素爆発はもう0.1時間、6分ほど後になると解析。「格納容器から原子炉建屋に漏れた水素が爆燃を起こし、最上階のブローアウト・パネルと天井が爆圧で壊され、大物搬入口の扉がこじ開けられると予想しています。」(佐藤暁、雑誌「科学」2014年9月号0964頁)こうなると、建屋に漏洩した放射能も環境中へ出ていく。瓦礫が機器を損傷する場合もあるだろう。(⇒表は日本の原発格納容器の設計圧力、設計温度の一覧表)
SOARCA最終版はhttp://www.nrc.gov/about-nrc/regulatory/research/soar.html から
 BWRのPeach Bottom原発はNUREG/CR-7110, Volume 1, PWRのSurry原発の NUREG/CR-7110, Volume 2.  一般向けパンフレットの NUREG/BR-0359.)

格納容器温度aturyoku4.jpg

 SOARCAは、200℃以上なら圧力の約1.35倍の達するとリーク漏洩が始まると解析している。
柏崎刈羽原発6、7号機の設計圧力0.4111MPa(a)の約1.35倍は、0.56MPa(a)=0.46MPa(g)である。東電の解析の図を見ると、PCV温度は約1時間後にD/W全体で約170℃であり、トップフランジ付近は200℃に達していると見られる。
そして上がり続ける。SBO全交流電源喪失が長引きPCVスプレイが遅れれば、約4時間後には設計圧力0.4111MPa(a)の約1.35倍に達すると思われる。
漏洩02c.jpg(また温度が高いので、圧力がSOARCA条件の設計圧力の約1.35倍に達する4時間前にトップフランジやそれ以外の小貫通箇所ペネトレーションからリーク漏洩の状態になる可能性が高い。)

 スイスの様に運転中はトップフランジに水を張っておくなどしていれば、トップフランジからのリーク漏洩は防げるだろう。しかし下部の小貫通箇所ペネトレーションからのリーク漏洩は起こる。それは、SOARCA研究が示すように建屋下部での水素爆発に帰着するだろう。爆発を避けるには「格納容器の中の水素を排出する」ベントが、早期ベントが回答だ。
 PCVの圧力、温度の双方に目を配り、SOARCA研究で用いられた基準、考えを下にすると、「大LOCA+全ECCS機能喪失+SBO」の事故では、SBOが続くと水素爆発を予防する早期ベントが避けられない。それは遅くしても3時間後位の早期ベント。メルトスルー前の早期のベントではないか。

2時間後からPCVスプレイ、炉注水、3時間後にトップフランジ水張したら へ続く


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