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ベント開始の時刻 水素ガスとベント 試論⑪訂正 [AM-ベント、排熱]

東京電力は、東電核災害で地震から1日以上経ってからごく一部の電力を回復した。この実績にもかかわらず、2時間で電力を回復しSBOを終了としている。これが5時間ならRPV原子炉圧力容器がメルトスルーで壊れている。メルトスルーの場合の対応をJNESで研究している。

 JNES研究のAEシナリオは、3つの対策、AMを仮定している。圧力容器RPV破損後のペデスタル注水・格納容器PCVスプレイ・事故後24 時間でのRHR復旧である。
 溶融炉心が圧力容器RPVの下部プレナム落下し、RPVの底面の下部ヘッドで溶融貫通・メルトスルー破損が生じる。高温の溶融物デブリが下部ドライウェル・ペデスタル床に落下する。
 デブリ落下直後に代替注水系によりペデスタル注水され、デブリ冷却が始まる。デブリの熱とどんどん出てくる崩壊熱により、大量の水蒸気が発生しPCV格納容器は加圧される。ただし、代替注水系によりPCVのドライウェルD/Wにスプレイ散水が開始されると、スプレイ流量180立方㍍/時で液滴径2mmの散水による蒸気凝縮により加圧は抑制される。スプレイはPCV圧力が低下すると一旦停止され、再び設定圧力0.57MPa(絶対圧、1.5Pd)に達すると再開され間欠的に行われる。これにより、PCV圧力は設定付近に留まる。0.57MPa(絶対圧)の沸点は156.8℃、PCV格納容器温度も177℃を超えない。
 そして仮定通り事故後24時間でRHR復旧し、RHRによってPCVから排熱が開始されるため事故収束に向かいうのが、JNES研究のAEシナリオである。ベントの必要はない。

ベント開始時刻の推定
仮に24時間でRHRが復旧しなかった場合、何時まで設定圧力0.57MPa(絶対圧)以下で抑えられるであろうか。それは、水蒸気を冷やし水に戻して減圧するスプレイ水の量、それも格納容器内に貯水できる量による。福島第一の2、3号機は、S/Cベントの吸気口の水没を避けるため2300立方㍍が目安であった。その量を東電は明らかにしていない。
(東電の2014年10月7日付の「選定したベントシナリオ解析条件の妥当性について」からは、格納容器ベントラインの水没水位をベントのクリティカル条件として約5300立方㍍と推定できる。 http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/60/47/141007_shiryou2,0.pdf )

何時頃にベントになるであろうか。

落下した溶融物デブリが水中にあれば、水素などのガスは新たに発生しないので、加圧要因は水蒸気だけになる。つまり、熱である。停止後のPCV格納容器内で熱を蓄えるのは、中の水、水蒸気と構造物。水、水蒸気の蓄熱は、顕熱(水温、水蒸気温度)と潜熱(水蒸気になるための気化熱)は高圧になると大きくなる。ベント実行の設定圧力Pvで蓄熱出来る量は、水量と圧力で決まる上限がある。上限蓄熱量にPCV内で発生する熱量が達する時がベント実行時刻になる。

熱のバランスc.jpg


 発生する熱のうち、崩壊熱は核燃料が融けていなくてもメルトダウンしていても、どの場所にあっても変わらない。メルトダウンした場合は被覆管金属ジルコニウムと水蒸気の反応で発生する熱がある。これらの合計、積算が発生する熱量になる。

ベント時刻は、メーカーの日立、東芝のシュミュレーションがある。ベントの設定圧力Pvは、設計圧力Pdの2倍で試算している。それによれば吸気口の水没を避けるため水量が決まっているS/CベントではRPV破損から約23時間、発災から29時間後。吸気口がより高いD/Wベントでは、約47時間、発災から53時間後である。

このシュミュレーションが妥当なら、東電事故シナリオは4時間もベント時刻を早めている。電動の消火ポンプをつかった注水など手を尽くしていないからである。
(東電の2014年10月7日付の「選定したベントシナリオ解析条件の妥当性について」では、約40時間後である。15時間も早めている。)

県事故シナリオの18時間後ベントのからくり

消火ポンプD/DFPを使えば
県設定の県事故シナリオはSBOから回復しないという条件と常設代替注水設備つまり電動のMUWC復水補給系のポンプとFP消火系の電動消火ポンプとデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPの不稼働という条件である。東電核災害ではSBOだから電動のMUWC復水補給系のポンプとFP消火系の電動消火ポンプはつかえなかった。3号機と1号機のD/DFPは稼働可能であった。東電はとことん常設のデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPを使いたくないらしい。シナリオでは給水管が大破断して炉は減圧しているので、D/DFPを使えばRPV原子炉に注水可能である。県のRPV原子炉圧力容器に注水できないとの制約のもとでも、PCV格納容器に117~177立方㍍/時の注水が可能である。この水量は、JNES研究の180立方㍍/時や東電シナリオの130立方㍍/時よりも小さいから、水量=蓄熱上限量が少なくベント時刻が早くなる。

 この不足分をどう補えるか。東電は2014年10月7日付のさきの資料で、ポンプ1台から2台・復水補給ポンプMUWCに増やし、これで注水量を160立方㍍/時まで増やすバージョンを示した。これと同様に消防車のD/DFPを併用して注水を補うことができる。東電の消防車の消防ポンプはA-2という規格である。これは吐水圧力1.4Mpaでは84立方㍍/時、0.85MPaでは120立方㍍/時以上をクリアした性能のポンプである。これを併用し注水量を増やす。180立方㍍/時を期待できる。

十数台も置いといて1台しか使えない?使わないのか東電。
 東電は、県事故シナリオはPCVへの注水量が少ないからベント開始時刻が7時間早まるとした。これは消防車を1台のみで考えているからである。東電は送水口を2ヶ持つ送水箇所を2か所設けたから、最大で4台接続可能である。2台で注水を行えば、160から200立方㍍/時の注水量を期待できる。東電は消防車十数台も配備したのに、1台しか使わぬつもりらしい。


消火系FPの水源はろ過水タンクである。2台のタンクの合計容量は1万5千立方㍍。十分に約5300立方㍍注水してベント開始時刻を約40時間後に出来る。

 根本的には常設のデーゼル駆動の消火ポンプD/DFPの信頼性と性能を上げる事である。消火系FPは耐震性能がCクラスと低い。東電核災害でも吉田所長が懸念している。一つ目は耐震性能などを向上する。ポンプも台数と性能を上げる。現在は6、7 号機共用で1台のD/DFPしかない。これを号機ごとにする。つまり2台にする。それもA-1規格の消防ポンプにする。A-1は、吐水圧力1.7MPaでは84立方㍍/時以上、1.4MPaでは120立方㍍/時以上、0.85MPaでは168立方㍍/時以上。1MPa以上の吐水能力はRPV原子炉への注水を考えた場合使い手が良い。D/DFPでの高圧注水も一部可能な炉圧帯を設けることで、東電核災害のように減圧ができなくて炉注水が途絶える事態を避けることができる。

このPCV注水が全くない場合が極限ケース(福島第一と同様の状態でベントするケース)であるが、それを検討する前にこれまでの事故シナリオ、東電シナリオと県事故シナリオでのベントを整理しておく。 続く


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