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温暖化を加速する「磯やけ」、その原因は 2007年 [地球温暖化]

2007年9月、虹屋小針店で配布した「畑の便り」の加筆・再録

  先週は、異常に暑かったですね。9月じゃなくて8月でした。台風の影響が大きいのですが、その台風が強力なのも地球温暖化で海水温が高く、立ち昇る水蒸気でエネルギーを補給されるからです。

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  地球温暖化、その原因は一つではありません。先日、地球の地軸の傾きも原因との研究が公表されました。日本の南極観測隊が採取した過去34万年分の氷の成分を分析した結果です。地球儀を見れば分かるように、地球は太陽を廻る公転面にたいして傾いた軸で自転・公転しています。それで中緯度の日本は四季があります。雪や氷に覆われた高緯度地帯では、入ってくる太陽光を反射して熱を外に出していますが、自転軸の傾きが変化し、日射量が強まり、太陽光を反射する氷床や氷河がいったん解け始めると、温暖化が急激に進む。逆に日射量が弱まると、急速に寒冷化し、氷床などが拡大することになります。

  この効果は、気温や二酸化炭素濃度の変動が数千年遅れで連動する数千年以上の長期の気候変動のメカニズムです。今回の研究をまとめた国立極地研究所の藤井理行所長によれば「現在進行している温暖化は地球が経験したことがない状況」、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量、濃度や太陽活動の短期的変動の影響などの要因が大きいとみられます。

今のバイオエネルギーの問題

その二酸化炭素排出量の削減で、今、バイオマスエネルギー、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油が注目を集めています。しかし、その削減効果に、国連食糧農業機関(FAO)など幾つかの国連機関やOECDが強い疑問、適切に利用されなければ逆効果という警告を発しています。
  国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2030年においても、バイオ燃料は輸送用全燃料の4%から7%を供給し、その大部分は米国、EU、ブラジルで生産され、消費されます。これに対し薪、炭、家畜排泄物、作物残滓などの”伝統的バイオエネルギー”は、大部分の途上国で約20億人の家庭の暖房や調理のためつかわれ、世界エネルギーの10%を供給しています。だが乾燥牛糞でコンピュータ・ネットワークを動かすことはできない。しかし、近代技術はこれをバイオガスに加工することができ、電力供給が可能にできます。1日2ドル以下で暮らす20億の人々が手頃な費用の、自分が生産した、環境的に持続可能なエネルギー源としてバイオパワーを利用できる様になれば、貧困削減への巨大な貢献になります。貧困削減と家族計画の普及とで途上国での人口爆発を押さえ込み、エネルギー需要=二酸化炭素排出量の抑制、削減が可能になります。「輸送またはその他の燃料としてよりも、熱電併給のために生物資源を利用するのが、今後10年における温室効果ガス排出削減のための最善にして、最も安上がりの方法だ」(FAOの事務長報告)
  一方、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油は米国、EU、ブラジルなど約8億人の車の燃料の一部を代替するだけです。そしてこれらの原料はトウモロコシ、大豆など食料そのものであり食料を人間と家畜から取り上げることになります。現在でも、穀物価格を上昇を招いて貧困層に飢えをもたらしています。その増産のための大規模なモノカルチャー(単一栽培)のための土地開拓で環境損傷と生物多様性喪失を引き起こすと批判しています。
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  東南アジアやブラジルなどの雨林を、開拓してバイオエネルギーの原料となるサトウキビなどの耕地を造成すると、雨林で眠っていた湿地の泥炭などが二酸化炭素を放出します。私たちは緑化、植林で二酸化炭素の吸収=削減が図れると考えます。確かに木々が育つ数十年間は、木々に炭素が固定化され、その分は大気中の二酸化炭素が減ります。その後、倒れ倒木になれば朽ちていく過程で二酸化炭素となり大気に戻っていきます。森林は二酸化炭素・炭素の一時貯留庫にはなりますが、長い目で見ればやがて元に戻ります。それが自然の炭素循環です。しかし湿地などでは泥炭となって分解バクテリアが不活発なためより長期に、大量に炭素が地表に留め置かれます。開拓は、その眠りを覚まし、却って大量の二酸化炭素が放出される結果になります。
また泥炭は、やがて岩石化・化石化して石炭になります。そして地下深く石炭となってしまえば、その分は大気中の炭素・二酸化炭素が純減損します。つまり、数億年過去に固定化された炭素・石炭を燃やして大気中の二酸化炭素濃度を上げているのですから、その分を、新たなに石炭化するように森林を管理することが基本なのに、バイオエネルギー原料栽培のための開拓は、全く逆のこと行う結果になります。 
それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。 
  
 海洋の二酸化炭素吸収
 
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 それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。最も有力な説は、海洋で生産されたプランクトンなど有機物が化石化したものが原油であるという説です。現在でも、海の生物たちが吸収・固定化する二酸化炭素は、陸上の森林などとほぼ同じです。海の植物は、生態から昆布などが海藻が群生する海中林と浮遊する植物プランクトンに大別されます。日々生産される有機物の一部が、深海にまで落下していきます。その一部から石油ができたという説です。
 
  1950年代、北海道大学の研究者達は潜水球「くろしお号」に乗り込んで海中の調査をおこなっていましたが、その時に海中の懸濁物がライトに照らされて白っぽく雪のように見えたことから、彼らはこれをマリンスノー(海雪)と名付けました。ツナミと同じく現在では世界中でこの言葉が使われています。マリンスノーは様々な形、球状、彗星状、糸状、平板状などをしたものがあって、大きいものは10cmを越します。
 
  マリンスノーのでき方は大きく2つに分けることができます。ひとつはプランクトンの死骸、またはそれが分解したものです。もう一つは物理的な働きによって作られた小さな粒子の集合体です。マリンスノーは必ずしも高い密度で存在するわけではないのですが、海洋にまんべんなくあるので、全体としてその量は膨大です。植物プランクトンは、海中の窒素・リンといった栄養塩を取り込み、二酸化炭素及び太陽の光エネルギーを使って光合成を行い、有機物をつくり身体を作ります。植物プランクトンは、あるものは動物プランクトンや魚などのエサとなり、その糞として、またあるものはやがて死骸となって深海へ沈んでいく。こうして二酸化炭素(炭素)もいっしょに深海へと運ばれていきます。
 
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 深海で、微生物に食べられ分解し炭素や栄養塩を多く含んだ海洋深層水をつくります。これが再び、海面付近に上昇するのは、深層の海流にもよりますが2000年から600年後。その間炭素は閉じ込められています。森林よりも貯蔵する量も期間もはるかに長いのです。分解されず海底に堆積したマリンスノーが、地殻変動で閉じ込められ、地熱や圧力の作用によって何億年という時間がたつうちに原油になったと考えられています。
  その海洋の植物の衰えが近年目立ってきています。例えば、「磯やけ」です。陸上の森林などとほぼ同じ量の二酸化炭素を吸収・固定化しているのですから、森林伐採と同じ効果をもたらします。人間の活動に伴ってでる二酸化炭素の半分から三分の一は海洋の植物が吸収・固定化していると試算されています。海洋の植物が衰えは、吸収量の低下であり、吸収されない分が大気中に残り大気中の二酸化炭素濃度の上昇になります。
 
  沿岸岩礁域には、波打ち際から最も深くとも水深30mほどまでの海底に藻の群落、海中林と呼ば
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れる褐藻群落が形成されます。新潟県の沿岸では、ホンダワラ類で主に形成されるガラモ場がみられます。佐渡真野湾や加茂湖などでは、アマモ類が主のアマモ場がみられます。
 
  沿岸岩礁域の面積は海全体の0.1%にすぎませんが、海中林は生産性が高く、生産量では海全体の10%です。海洋全体が同化している二酸化炭素の約3~5%が人間が出すものですから、海中林が半分なくなれば、人間の出す二酸化炭素は海洋に吸収されないのと同じ結果になります。
 
また海中林は、エビ・カニなど甲殻類やメバル・カサゴ・アイナメ等魚類の採食、逃避、産卵、稚仔あ
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るいは一生を通しての生息場となっています。また、アワビ、サザエ、ウニなどは海中林の藻が食物。さらにそれらを求めて海鳥、ラッコやアシカが大量に集まる。海中林は、地球上で最も生産力が高い豊かな場所なのです。海中林は今、世界中で急速に消えつつある。オーストラリア・タスマニア島のジャイアント・ケルプ海中林は1950年代の面積の5%にも満たないそうです。
 
  新潟県では昭和30年代前半に、三面川河口周辺域でテングサ場が激減したことがあります。これは、三面ダムから放出された微細な泥を含む濁水の影響であろうと推定されています。その後、海藻類の減少や"磯焼け"は報告はありませんでしたが、平成年代に入って県下各地から海藻類が減少しているとの報告が新潟県水産海洋研究所に入るようになりました。このため、現況把握調査が県下各地で行なわれ地区によってその様態に差はありましたが、全般的に海藻類は少な目で、特に粟島西海岸、佐渡真野湾、能生鬼伏では"磯焼け"状態になっているのが観察されています。
 
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 海水温の上昇が磯やけを起こす・・温排水の影響

 また、古来、海水温の上昇が磯やけを起こすことが知られています。天保年間(1830年代)に、下北半島の漁民は例年より高水温であるとマコンブが凶作になることをすでに知っていました。「1980年代後半から高水温・貧栄養の海況が長期に持続しているため、温帯から寒帯に分布する海中林は急激に北退し、極地方に追い上げられている。」(谷口和也、東北大学教授)また局地的には原子力発電などの温排水の影響も考えられます。
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 原発は、熱効率が悪い発電法です。火力発電では1100~1300℃の高温燃焼で生じた熱エネルギーの40~50%を電気に変えられます。高温の燃焼ガスでまずガスタービンで発電し、まだ十分に熱を残す排ガスを再利用して蒸気を作り、蒸気タービンで2度目の発電を行えるからです。これに対し、原発は核燃料を封入する燃料管の金属が高温では脆弱性をもつため、320℃以上にできません。そのため、熱効率は約33%、核分裂で生じたエネルギーの約7割を捨てる、温排水として環境に排出しています。
  2005年、2006年と猛烈な熱波と干ばつに見舞われたフランス。フランスのエネルギーの80%は58基の原発によります。それらは内陸部に多くあり、河川の水をつかって電気に変えられなかった核エネルギーを捨ています。フランスでは、川の生物、生態系を守るため排水温度は25℃以下に、また水が原子炉に入ってから出るまでに2℃以上上昇してはならないと規制されています。猛烈な熱波と干ばつで水量が少なり、また水温が上がってしまい、2005年、2006年と規制を守るには原発を停止する以外に道がなくなりました。
2005年にはシヴォー原発は停止し、他の原発は政府が水温の上限などの規制を解除して発電を継続しました。2006年も同様でした。つまりフランスの河川に熱帯地方の水温、30~28℃の水が流れました。魚などは上流に逃げて難を避けられますが、植物は逃げられません。
  日本の原発は海岸に立地していますから、量的に不足することは考えられません。しかし、先ほど見たように海水が高水温になることは十分に起こります。その水温でその地域の藻類、新潟県で言えばホンダワラ類が気息奄々の状態になるとしたら、そこに原発、新潟県では柏崎刈羽原発の排熱で海水が温められる海域では「磯やけ」が起こることになります。
  原発周辺の漁業権は補償されていますから、人間で法的に文句の言える人はいません。しかし、磯やけをおこした海域では、二酸化炭素の吸収・固定は激減しています。その分、大気中に残る二酸化炭素が増えます。「核エネルギーは地球温暖化を抑えないばかりか、温暖化が核エネルギーの利用能力を減らす。我々の気候問題の皮肉だ」(フランス反核団体・核からの脱出)
 
農薬の除草剤は植物プランクトンも殺す

  農薬の除草剤が、植物プランクトンに対しても働く、殺してしまうことが知られています。植物と同様の代謝系を藻類、植物プランクトンが持っているからです。水田やゴルフ場で使われた除草剤は,
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やがて川や湖に流入します。除草剤にさらされたとき川や湖の植物プランクトンは、減少します。やがて、抵抗性を持つ系統、同じ種類でも除草剤に感受性が低い系統に変わり、回復しますが、抵抗性を持つ系統は増殖が遅いことが分かっています。これは「抵抗性のための生理的メカニズムや細胞構造を作り上げるためにエネルギーを消費している結果,増殖や再生産に振り向けるエネルギーが少なくなり,増殖及び再生産速度が遅くなる」ためで、つまり除草剤で植物プランクトン群集の生産力が低下します。二酸化炭素の吸収・同化が衰えるのです。
  インドや東南アジアなど低緯度の地帯で使われる農薬が、大気中に拡散し大気の大循環で、日本など中緯度地帯に降下していることが分かっています。また除草剤は、船の選定に藻などが付着しないように防汚剤として塗られています。農業で使われた除草剤が河川で流入する沿岸だけの問題ではありません。ケミカルな毒性として藻類・植物プランクトンを害することは分かっていますが、実際にどれ位の量的被害が出ているかは不明です。 
 
サンゴに対する除草剤、船底塗料の影響調査 http://www.coremoc.go.jp/nenpou/Lagoon8.pdf
 
 
 温暖化対策と言うと原発増設とか二酸化炭素の排出削減だけに意識が行きますが、海洋や森林といった吸収量を増やしたり、少なくとも損なわないにすることも大切です。海洋に吸収された二酸化炭素は、深層水の深さまで移動すれば、数百年から1000年は大気中に放出されません。また海洋での吸収・固定を増やすことは、生態系の基礎を成す植物を増やすことであり、その上位にある魚などを増やすことでもあります。それは、海からの食料を増やすことでもあります。

トウモロコシを黄色いダイヤモンドに変える錬金術師のひく飢餓の影 2007年 [地球温暖化]

2007年3月12日虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録

  豪州の旱魃が深刻になっています。ハワード豪州首相は19日、来月半ばまでに多量の降水がないかぎり国の大部分の農地の灌漑が禁止されると発表しました。マレー・ダーリング河の流域は灌漑される耕作地と草地の75%があり、農業生産の34%、酪農・綿花・コメ・ブドウ栽培が行われています。その面積は日本の国土面積の約2.8倍。ここに5月半ばまでに大量の降水がなければ、流域都市の人々が必要とする最小限の水を供給するために、7月1日からの新水年度から灌漑農業に水はまったく回せないというのです。「不可欠な都市用水以外の灌漑、環境、その他いかなる用途への配分のために利用できる十分な水はなくなるだろう」

 現状では、今後3ヵ月以内に平年以上の降水が必要なのですが、豪州気象局の予報では、その確率は五分五分。今年は降るかもしれませんがIPCC(気候変動政府間パネル)の地球温暖化影響評価報告では、オーストラリアの大部分の地域では、干ばつと森林火災の増加で2030年までに”農業・森林生産が減少”するです。

地球温暖化での食糧不足の前に飢餓が来る

  米国では、バイオ・エタノールはトウモロコシをアルコール発酵させて作られています。ブッシュ大統領のエネルギー政策で人為的に惹起されたバイオ・エタノールブームで、トウモロコシの価格は以前の2倍、1ブッシェル(約25・4キロ)あたり4ドル台です。トウモロコシは重要な食糧で、この価格、一日1ドル未満で暮らす「極度の貧困」にある人々、世界総人口の約五分の一には十分に脅威です。
  ミネソタ大学の二人の研究者によれば、トウモロコシ価格は2010年までに20%、2020年までに41%上昇。それで農民がエタノール生産性が高いために高価格で収益性の高いトウモロコシやその他の植物への作付転換を進め、コメや小麦などの価格も上昇させることになる。「世銀その他のエコノミストのいくつかの研究は、どんな基礎食料でもその平均価格が1%上昇すると、世界の貧しい人々のカロリー消費が0.5%減少することを示している」、「その実質価格が1%上昇するごとに食料を満足に確保できない人口が1600万人増える」、「これは慢性飢餓人口が2025年までに、以前に予想された6億人の倍にも相当する12億人に達するであろうことを意味する」と警告しています。
トウモロコシなど世界の穀物流通は、少数の穀物メジャーが支配しています。彼らは今や、エタノールメジャー、トウモロコシを黄色いダイヤモンドに変える錬金術師と呼ばれています。彼らのひく飢餓をもたらす大きな影が世界総人口の約五分の一の人々の上にかかっています。 
 
C. Ford Runge and Benjamin Senauer ,How Biofuels Could Starve the PoorForeign Affairs, May/June 2007
  
 今年は日本の「バイオエタノール元年」
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日本でも、バイオエタノールの利用が進められています。エタノールを直接ガソリンに混合する方法は環境省が主導。例えば、環境省が税金を投入し大阪の堺市の建築廃材からエタノールをつくる施設をつくっています。このエタノールは、大阪府が民間企業と協力し、作られたバイオエタノールを3%混ぜる「E3」という混合ガソリンを製造、8月から関西と関東の約15か所のガソリンスタンドで自治体や企業を対象に販売するそうです。石油連盟(石油元売19社)はエタノールを加工したETBEという物質を添加する方法を推進。添加したガソリンを、27日から首都圏50ヶ所のガソリンスタンドで給油するそうです。
 
 政府は、2030年までにガソリン需要の1割に相当する年間600万キロリットルの製造、利用する計画を2月に発表しています。それで今年が日本の「バイオエタノール元年」と言われ、様々な報道がされています。これらの報道をみると、バイオエタノール利用が京都議定書対策なのか、地球温暖化対策なのかわからなくなります。
 
  植物は大気中から二酸化炭素CO₂を吸収して育つため、燃やしてもCO₂の総量は増えません。京都議定書では、バイオエタノールを利用してもCO₂の排出量に数えない、つまりそれで減ったガソリンの分だけ排出削減されたと看做すルールになっています。ですから、議定書対策としては有効です。
 
しかし、バイオエタノールは製造方法や使用法によっては、逆に、排出CO₂量がガソリン使用に較べて増えてしまいます。製造されたエタノールのエネルギー量は、原料のトウモロコシなどの生産やエタノール製造に要するエネルギーの1.2~1.7倍程度です。つまり、「新」エネルギーとみなせる部分は差し引き20~70%です。
 
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消費地までの輸送など製造後に費やすエネルギーがこれを上回れば、実質的にエネルギー損失、CO₂排出量は増加することになります。またアマゾンなど熱帯雨林を新たに開拓して植えたサトウキビから作られたエタノールはガソリンに比べて温暖化ガス排出量はむしろ5割増しになってしまうと試算されています。(雨林で覆われて水に浸かった湿潤な土壌では、過去数千年をかけて、植物遺骸から泥炭の厚い層が形成され、それには現在の世界の化石燃料の利用量100年分に相当する炭素が蓄積。森林が刈り払われると、泥炭が乾燥、分解が始まりCO₂を放出するようになる。)つまり、バイオエタノールは、使い方を間違えるとCO₂の排出削減や化石燃料の消費低減どころか、逆に増やしてしまうのです。

 
議定書対策か温暖化対策か?

  石油連盟の方法は、アマゾンを新たに開拓して造成された畑などで栽培されるサトウキビから作られたエタノールを、ブラジルからタンカーで移送して輸入し、そのエタノールとイソブチレンから蒸気及び電力を消費してETBEを合成、それをガソリンに添加する方法です。このやり方で京都議定書のルール上は削減になっても、本当にCO₂削減になるのか甚だ疑問です。実質的にも温暖化対策になるのか検証した報道には寡聞にしてお目にかかりませんでした。連盟を構成する石油元売19社は大量の広告をマスコミ各社に出稿しています。スポンサーの意向にケチはつけられない??  
 
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  現在のエタノール製造は、トウモロコシなど食料の澱粉や糖をアルコール発酵させます。現状の作付けを前提とした場合、バイオエタノールの生産を増やせば、食料に回される分が少なくなると共に作物価格が上昇し、冒頭の飢餓が現実化します。これを避け、日本のバイオエタノール使用で世界の貧しい人を飢餓の淵に追いやらないためには、国内の休耕地などの活用しエタノール原料作物の栽培や食品廃棄物の利用、中長期的には技術的には確立されている建築廃材、間伐材、稲わらなどセルロースからエタノールを大量につくる、廃プラスチックや乾燥したバイオマスをガス化し、水素やメタノールを生産するなどの実用化などが考えられます。

  こうした活用が見込める技術の開発には税金が投入されています。ですから、我々納税者、国民にはその成果を知り、より良い未来に向けての選択可能な様々な策を知る権利があります。報道機関には、その知る権利を確りと代行して欲しいものです。
 
多種類の草原植物は最適なバイオ燃料原料(米国)【PDF:75KB】
 
NEDO海外レポート 994号 バイオマス特集
http://www.nedo.go.jp/library/kankobutsu_report_994_index.html

地産地消のエタノールを全米に配送する愚策 2007年 [地球温暖化]

2007年3月12日虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録

 今週から北海道の興農牛の価格が値上げになります。その背景には「とうもろこしをはじめとして植物からエタノールを作ってエネルギーに変えようという世界的な流れの中で、家畜の飼料は高騰を続けています。」このバイオエタノールについて考えてみました。

1年間で2倍以上の高騰

  飼料価格の上昇、シカゴの穀物市場のトウモロコシ価格は2月下旬に1ブッシェル(約25・4キロ)あたり4ドル台半ばまで上昇しました。2005年は2ドル台、2006年に入って2.5ドル台で推移し11月にはいって3・5ドル、上昇が続いています。10年8カ月ぶりの高値圏で2006年初の1.8倍の水準。この価格の高騰で米国農家の穀物栽培で得る収入が過去最高を更新し、2007年の農家全体の収益は前年比1割増の670億ドル(約7兆7000億円)で、3年ぶりに増加になる見通しです。また、遺伝子組換えでないトウモロコシなどは、米国など生産農家が遺伝子組換えでも高く売れるため、今季の作付けをやめようとする動きが出ています。
  鶏や豚にも影響を与えています。米国でも地元産トウモロコシを家畜の飼料として大量に消費する米国の中西部を中心とした畜産農家が悲鳴を上げています。虹屋でも、卵の宮尾さんから値上げの要請がきております。宮尾さん、今年から飼料用稲の栽培をはじめ自給飼料の増産に取り組みます。
 
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 また「粗びき状のトウモロコシ『コーングリッツ』を原料に使うスナック菓子業界では、原料調達コスト増に苦慮するメーカーも出始めた。人気スナック菓子『カール』を生産・販売する明治製菓は『商品価格には転嫁できない』と困惑している。サントリーは発泡酒や清涼飲料に糖化スターチや異性化糖などのトウモロコシ原料を使用。トウモロコシ相場の高値が続けば、『年間数億円規模のコスト増になるが、相場動向を見極めながら、なるべく良い条件で原料を調達することで影響を軽減していく』考えだ。ケーキやドーナツなどに使う調整粉にもトウモロコシ原料が含まれている。大手製粉会社は『トウモロコシ原料メーカーからすでに値上げ要請がきている』としている。(3月3日/日本経済新聞)」
  中南米はトウモロコシの原産地、当地ではトウモロコシは伝統的な主食食品です。この価格高騰で、これらも値上がりしています。メキシコのトウモロコシの粉をこねて作る薄焼きパン、伝統的主食のトルティーヤの小売価格はこれまで最高でも1キロ6ペソ(1ペソ=約11円)だったが、今年に入り12―15ペソに上がっています。首都メキシコ市での4万人の市民が参加した1月31日抗議デモなど国内各地で抗議デモが相次いでいるそうです。トウモロコシの粉はアフリカでも主食ですから、「貧しい国々の都市部では食料をめぐって暴動が発生する可能性がある」と指摘されています。
 
 地産地消のエタノールを全米に配送する愚策

  この上昇の原因は、ブッシュ大統領が打ち出した新エネルギー政策です。トウモロコシからエタノール(エチルアルコール)を造り、このバイオ・エタノールとガソリンを混ぜた燃料の普及を進める政策です。現状の原油・ガソリン価格ならエタノール製造はトウモロコシ価格が1ブッシェルあたり2.7ドル前後で収支がトントンです。ところが新エネルギー優遇税制や政府補助金で4.2ドル前後になってもOKなのです。このため、投機資金も流入して異常な高値になっています。

  トウモロコシから作るバイオ・エタノールがエネルギー政策として有効性には強い疑念があります。バイオ・エタノールから得られるエネルギーが、バイオエタノールを作り利用するために投入されるエネルギーよりも小さい、つまり作れば作るほどエネルギー的には損失がでるという疑念です。ちなみに、石油ではサウジアラビアのような大規模な油田では60倍、老朽化したアメリカの油田は3倍くらいです。バイオ・エタノールでは、0.7~1.7倍と見られています。
 
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  化学的性質からエタノールはタンクローリーなどで輸送しなければなりません。この輸送エネルギーを勘定に入れると0.7といった赤字の数字になります。エタノール製造施設近辺で使用するのなら投入エネルギーよりも得られるエネルギーが大きく、使えば節約効果がでます。つまり、バイオエタノールは「地産地消」型のエネルギー源なのです。
 
  ところが米国でガソリンの消費が多いのはカルフォルニアとか東部海岸地帯と、生産地の中西部から遠く離れていますから、長距離を輸送しなければならず使おうとすればするほどエネルギー的には損失がでるのです。エネルギー政策的には、トウモロコシから作るバイオ・エタノールは全米規模での有効性はなく中西部限定の施策です。ところがブッシュ共和党も民主党もこれには眼を瞑り、優遇税制の期間延長や政府補助金の拡大やガソリンとの混合比のアップ、10%から85%、そのためのガソリンスタンドの整備などを掲げています。

 その理由は様々に解説されています。一つは、この政策で農業全体としては収益が上がるので隠れた農業補助金というものです。もう一つは、フォード、GM、クライスラーの米国自動車メーカー大手3社の要請に応じたというものです。これら3社は省エネ(燃費削減)対応の中心戦略を、エタノール利用に置き3社の車はガソリンとの混合比85%(E85)に対応したエンジンを積んでいます。
 
GMはすでに200万台を販売済みで、全米ではすでに500万台が走っています。ところが、全米のガソリンスタンドではE85、85%混合のガソリンを販売していません。E85を扱うには、特別な設備投資が必要だからです。従来の設備で十分対応できるE10、10%混合を扱っています。そしてトヨタ、ホンダなど日本メーカーはハイブリッド車の普及が中心戦略で、燃料供給がほとんどない混合比85%対応には取り組んでいないのです。従って、エタノール奨励、とくに混合比85%推進は米国自動車メーカーに有利で日本メーカーを狙い撃ちする効果があるのです。

米国自動車メーカーのエタノール戦略の本当の狙い(三菱東京UFJ銀行 ワシントン駐在員事務所所長)
 
ETBE添加 石油元売り本位の利用法

 こうした一見、だれも文句を付けようもない地球温暖化対策にみえながら、実際には既得権益の保護のためにエネルギー政策としては筋が通らぬグシャグシャな内容になって、結果的には補助金など税金が無駄遣いされている点は、日本のバイオエタノール政策も同じです。
 
昨年末、大阪の堺市に建築廃材などからエタノールをつくる施設が総工費37億円、うち半額が政府補助金のバイオエタノール・ジャパン・関西が完成しました。産業廃棄物となっていた廃材・年間48000トンを受けいれます。それをまず、木材に含まれるセルロースを酵素で糖分に分解する前処理をして、アルコール発酵を行います。
 
それを蒸留して、100%のエタノール(エチルアルコール)を取り出します。環境省によれば「この施設では、年間1400kLのエタノールを製造可能であり、全量をエタノール3%混合ガソリン(E3)にした場合、約4.7万kL(約4万台のガソリン車の燃料に相当)になります。」3%混合は燃料の品質管理の法律での上限だからです。平成19年度の環境省が大都市圏でのE3大規模供給実証のための供給元に予定されていましたが、石油連盟(石油元売19社で構成)の反対でたな晒しになっています。19億円の税金が無駄になっています。  
 
建築廃木材を原料とする燃料用エタノール製造施設の竣工について(環境省) 
 
(2007年4月に大阪府が実証試験を行うことになった。平成19年度エコ燃料実用化地域システム実証事業の採択案件について) 

 石油連盟はエタノールに石油ガスを加えた「ETBE添加(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」で、2007年5月から関東の50か所ほどのガソリンスタンドで試験販売するとして共同会社を設立しました。連盟を監督する通産省は、バイオエタノールを輸入する会社の幹部に3人天下りをしています。石油連盟の言い分は、エタノール混合ではガソリンの品質が保てない、エタノール直接混合ガソリンに水分が混入するとガソリンとエタノールで相分離が発生する。「自動車のエンジンに影響アリ」というものです。もう一つは、ガソリン税の問題です。  

バイオマス燃料導入に際しての課題(石油連盟) http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/20070221.pdf

自動車燃料におけるバイオマス利用(新日本石油(株) 研究開発本部 開発部燃料技術室 室長) 
 
 米国では、エタノール混合が排気ガス対策で既に行われています。大気浄化法で主に一酸化炭素CO対策(主に冬場)として、ガソリンに定率含酸素を義務化していて、含酸素剤としてエタノールが使用されています。必要とされている地区は全米の35%、全ガソリン流通量の30%を占めます。ミネソタ州は年間を通じて10%混合のE10を義務化しています。米国では世界中の車が売られていますが、特に問題は発生していません。全米において、過去に1事例だけ、相分離した燃料の水の方を誤って自動車に給油した事故があったが(コネチカット州)、これは、水が入ったスタンドの問題であり、逆に相分離したガソリンの方を給油しても、オクタン価が多少低くなるが、自動車側ではトラブルは発生していません。こうした米国などでの経験から現在の車では、特別な改造ナシでも3%以上の10%混合でも特に問題は生じないとされています。  

海外のエタノール混合ガソリン事情(環境省)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biofuel/materials/rep_h1805/05.pdf 

 ガソリンは、製油所→油槽所→ガソリンスタンドと流れます。製油所は全て石油連盟の元売各社のものですが、油槽所やスタンドは約20%が元売系列外の独立系といわれる全農や商社系です。独立系には価格などの元売の統制が利きません。エタノールは相分離の問題から油槽所やスタンドで混合されます。エタノール混合では、この業界の構造は変わりません。ETBEはエタノールと製油所のFCC(接触分解装置)の副産物などで得られるイソブテン(LPG相当)の化合物です。製油所で合成され、製油所でガソリンに添加されます。ETBE添加では、元売の、石油連盟の独立系スタンド、油槽所に対する影響力、価格などへの統制が及ぶことになります。  
 
 もう一つ、税の脱税を石油連盟のエタノール混合の反対理由に上げています。スタンドなりが多めにエタノールを混合する。例えば、97kLのガソリンに3kL混合すべきところを5kL入れて102kL販売する。税は100kL分しか納税せず、2kL分脱税する可能性があるというのです。
 
このような事が行われれば当然ガソリンの品質に影響します。ガソリンの品質は「揮発油等の品質の確保等に関する法律」で規制されており、エタノールも検査項目です。油槽所やスタンドは10日ごとに1回は品質検査を受けなければなりません。ただし元売りから「標準品質保証書」を交付されている系列スタンド・油槽所は検査が年に1回の軽減措置があります。つまり10日ごとの検査、年に36回検査をする独立系のスタンド、油槽所と年に1回の元売の系列では、どちらが石油連盟がいう混合を行い易いか。発覚し難いのはどちらかでしょうか。
 
昨年2006年10月、コスモ石油の系列特約店から灯油添加ガソリンが26のコスモのスタンドで販売されていたことが発覚しました。灯油が入ったガソリンは、エンジン内での異常燃焼で「カリカリ」「キンキン」と音が発生したりエンストを起こしやすくなり、利用者が困ります。エタノールでは、3%以上の10%混合でも特に問題は生じないのです。品質に関しては、系列スタンドなどに対する軽減措置の廃止、定期検査のほかに年に数回の抜き打ち検査を実施すればよいのではないでしょうか。
 
油槽所やスタンドでのエタノール混合で、困るのは元売り会社、石油連盟です。3%混合が行われれば、スタンドで100kLの混合ガソリンが販売されても、元売りが出荷するガソリンは97kLに減少することになります。ETBE添加では、元売りの販売量は減りません。  


コスモ石油|「サービスステーションにおけるレギュラーガソリン品質不適合」に関する調査報告について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_061017_2/index.html 
 
エネルギー収支的に賢い利用法は?

 エネルギー収支的に見ればバイオエタノールは「地産地消」型のエネルギー源ですから、ブラジルなど海外からの輸入は非合理です。効果があるのは国内産です。農林業から出される間伐材やくず米などが主原料ですから、日本各地で製造されることになります。石油連盟のBTBE添加方式では、各地に点在するバイオエタノール製造施設から、日本に30箇所、それも川崎、横浜など臨海部にある30箇所の製油所に運んで、ETBEに加工し、ガソリンに添加して、また日本各地に配送することになります。(石油連盟では原油と同じくエタノールもタンカーでの輸入を考えている。) これに対し、エタノール混合方式では全国に470箇所ある油槽所や48000ヵ所余りのガソリンスタンドに運び込んで、混合して自動車に給油することになります。どちらが、エネルギー収支的に優れているでしょうか。  

 全農の調査によれば、新潟県には作付け放棄や米の生産調整で不作付け水田が7600haあります。現在の栽培法では約60,000tの玄米が見込まれ、それからエタノールが約2万6千kLできます。これは3%混合で約76万台のガソリン車の燃料に使える量です。例えば、上越、中越、下越、佐渡にエタノール製造施設をおくとします。石油連盟のやり方では、佐渡で作られたバイオ・エタノールは、タンクローリー車につめられ、フェリーにのり高速道路を通って川崎などの製油所に運ばれ、BTBEに加工され、ガソリンに添加されることになります。それから、佐渡に戻ってくる。佐渡のスタンドなり油槽所でエタノール混合した方が無駄がないのは自明です。  


コメを原料とするバイオエタノ-ル製造・利用等に関する調査事業実施結果について(環境省 第3回エコ燃料利用推進会議 資料)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biofuel/materials/rep_h1805/09.pdf
 
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エタノール利用の先進地ブラジルでは、2003年からフレックス車(FFV)がはしています。この車は燃料タンクに装備されたセンサーによって燃料のエタノールの量を把握し自動的にエンジンを管理するシステムを搭載し、ガソリンとの混合比率を問わないのです。2006年に、ブラジルで販売された車の約85%がフレックス車だそうです。ブラジルでは、混合比20%のガソリンと100%エタノールが給油所の同じ給油パネルで売られています。ですからフレックス車の利用者はガソリンとエタノールの比率を自由に変えることができます。1リットル当たりのエネルギー量はエタノールがガソリンよりも小さい、つまり力がでないのですが、サンパウロでのドライバーの聞き取りによると、使用感でのエネルギー差は感じられず、フレックス車では価格が安いエタノールを100%入れている人が多いそうです。(価格は生産地からの距離などによって地域で違う)現地に進出しているホンダは2006年暮からトヨタは2007年春からフレックス車の製造販売を始めるそうです。  

ブラジルにおける砂糖およびエタノールの生産・流通事情について(農畜産業振興機)
http://sugar.alic.go.jp/japan/fromalic/fa_0509d.htm 

ブラジルにおける砂糖およびエタノール関連調査結果(農畜産業振興機構)
http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0606a.htm

 このフレックス車、欧州でも導入されています、日本でも使ったらどうでしょうか。フレックス車では、油槽所での混合すらも不要です。例えば、新潟県には多くの食品工場があり、多くの食品廃棄物が出ます。これからバイオエタノールが出来ます。それを工場で使うフレックス車で使うのです。エタノールを輸送するエネルギーが不要ですから、エネルギー収支的には最も優れた使用法です。工場の外で燃料補給が必要になったら、フレックス車ならガソリンスタンドでガソリンを補給すればよいのです。問題がありません。
 
  先ほどの全農の調査から、3%混合で車1台分のエタノールは玄米約80kgで得ることが出来ます。エタノールと言うと何か特別な物質に思えますが、お酒のアルコール分、エチルアルコールと同じ物質です。バイオエタノールの製造法の原理は、お酒の醸造と同じです。廃材、間伐材、稲わらなどでは、含まれるセルロースを酵素で糖分に分解する前処理をしてアルコール発酵(醸造)するのです。100%エタノールは、言わばアルコール度数が100の蒸留酒です。
 
つまり、効率、採算などを問わなければ、誰でも出来ます。減反で休耕地を抱えた農家、食品廃棄物が多く出る商店、コンビニなど原料が手に入り、装置の設置場所さえあれば、誰でもエコ燃料、バイオエタノールは作れます。そして自分の車に使うのが、「地産地消」型のエネルギー源、エタノールの最も優れた使用法です。
 
  バイオ・エタノールは、その原料には食用にされない米などの農産物、間伐材などです。これらは、原油と違い薄く、広く分布しています。エネルギー収支的には、原料を集め、製造施設に搬入するためのエネルギーを少なくすることが肝心です。そのためには、施設を数多くつくり搬入距離を短くすることになります。それは施設の処理能力が小さくなることです、つまり小規模、多数、分散型の製造システムになります。(出来上がったエタノールも同じように小規模、多数、分散型で消費される使われることがエネルギー収支的には必要で、フレックス車(FFV)は一つの技術的回答です。)
 
  問題はエタノールは、車が飲めば燃料にもなりますが、人が飲めばお酒になることです。小規模多数の施設で作られるエタノールが100%お酒で消費されるというのは馬鹿げていますが、100%燃料になるというのも考えられません。それは密造酒と同じく、財務省のお役人からみれば酒税を納めていない脱税です。できれば、バイオエタノールは普及して欲しくないのではないでしょうか。
 
  バイオ・エタノールは、有力な省エネ・エネルギー対策や地球温暖化防止策です。また休耕田の活用などで疲弊した農山村を活性化する効果もあります。社会的には必要なことですが、これまで見てきたように様々な既得権益とぶつかります。技術的な問題は、その道のプロの方ががんばって解決してくれるでしょう。様々な既得権益の抵抗を排除するという社会的政治的な問題は、民主主義の日本では私たちの政治的意志で解決する問題です。温暖化問題に取り組んでいるアル・ゴア元米国副大統領は「温暖化対策に必要な技術的手段はそろっている。欠けているのは政治的意志だ。」その「政治的意志は再生可能な資源である」"Politicalでwill is a renewable resource" といっているそうです。日本に、貴方に、その再生可能な資源はありますよね。  
 

ハリケーン・カトリーナの被害を大きくしたのは沿岸湿地の喪失と乱開発 2005年 [地球温暖化]

2005年9月6日虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録

  連日、ハリケーン・カトリーヌが米国メキシコ湾岸地域ににもたらした惨状が伝えられています。

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100万人がホームレスになり、ニューオーリンズは完全に水に覆われ、再建にはどれほどの時間と費用がかかるかわかりません。ハリケーンの語源はスペイン語のhuracan・暴風の神、西インド諸島付近で発生する台風・熱帯性低気圧。フロリダは緯度的には沖縄とほぼ同じで、沖縄米軍は先日の台風14号はカトリーナに匹敵と評価。)

 昨年12月のスマトラ沖地震・そのの津波からの教訓の一つは、沿岸に育つマングローブ林が波のエネルギーの一部を吸収することで影響の軽減に役立つということ。今回のハリケーンの被害も、米国の環境専門家は沿岸の湿地が保全されていたら被害ははるかに軽かった、湿地の大量の破壊と沿岸地域の乱開発こそが被害を巨大化させたなによりの原因だと指摘しています。

自然の防波堤、沿岸湿地が失われている

 昨年12月のスマトラ沖地震・そのの津波からの教訓の一つは、沿岸に育つマングローブ林が波のエネルギーの一部を吸収することで影響の軽減に役立つということ。今回のハリケーンの被害について、ルイジアナ州立大学の湿地生物地球化学研究所長のロバート・ツウィリー氏は、「ルイジアナがその沿岸湿地の3分の1を失っていなかったら被害ははるかに軽かっただろう」湿地は2.7マイル(約4.3km)ごとに嵐の波を30cmほど減らします。沿岸湿地は嵐と海面上昇に対する自然の防波堤なのです。「何か破局が起きるまで、その湿地の価値を評価しない。」。「20年から30年前には何の影響もなかった嵐が、今では洪水を引き起こしている。これは多くの人々に警鐘を鳴らしている」

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  ミシシッピ河は、ニューオーリンズを通ってメキシコ湾に注ぐ米国第二の長さをもつ大河。20世紀の初期から、洪水防止と航行の改善のために工事が行われてきまし。流れの直線化、支流の堰きとめ、浚渫、数百マイルにわたる堤防の建設などの工事が行われてきた。例えば、ニューオーリンズの大部分は海面より低く、5.3㍍から7㍍の高さの堤防に囲まれています。

  この結果、湿地そのものにミシシッピ河の運んでくる土砂などの堆積し、湿地が埋まっていきます。本来なら、河口付近に堆積し湿地を継ぎ足すはずの河が運ぶ膨大な堆積物が湿地を減少させています。また工事によって地域を巨大な港湾地域、石油・ガス・化学加工地域に変わりました。石油・ガス会社は湿地を貫く水路を掘り、底から石油を汲み上げた。そのために、地盤が沈下、海水が浸入して植生を殺した。沿岸湿地の130万エーカー(約53万ヘクタール)が失われました。現在でも年に約1万エーカー減っています。このため、地域では、洪水は定期的にやってくるようになっています。

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 この自然からの警告と多くの科学的証拠から、2002年には140億ドルを注ぎ込む30年計画ができました。これは新たな防壁を建設し、堤防を改善し、また沿岸湿地の再建のために河の3分の1の流路を変更しようとするものです。ところが、ブッシュ政府は、僅か20万ドルしか出していない。この遅れと歳出カットの理由はイラク戦争と国内安全保障(テロ対策)の費用に資金を回したからと説明されています。経済的損害額は1000億ドルを超えるだろうとのこと。30年計画の7倍以上、米軍のイラク駐留経費20ヶ月分です。


諫早湾干拓などはどうなのか

ひるがえって、わが日本を見ると諫早湾干拓が合いも変わらず進められています。国の公害等調整委員会は30日、農水省の主張を認める裁定を出しています。ハリケーン・カトリーヌのもたらした被

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害を台風がますます強大化しているにもかかわらず、沿岸湿地(干潟)潰しの公共事業に利権を持つ沿岸開発推進者は、わが国とは無関係な外国の出来事と決め込むでしょう。しかし、その事業費を現在・将来に負担し、台風の被害をこうむる私たちは、他山の石と見るべきではないでしょうか。

  先のルイジアナ州立大学のロバート・ツウィリー氏は、「我々は湿地をどのようにして保護し、回復させるかを知っている。我々が必要としているのは、資金供給の開始だけだ。さあ進もう」と語っているそうです。果たしてブッシュ政府がテロ対策やイラク戦争の経費を削ってまで、このような根本的対策に資金を廻すか疑問です。日本では、沿岸湿地(干潟)潰しの公共事業に資金(税金と国債=預貯金)が廻らないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。

食への影響 大豆の値上がり?

 ニューオーリンズは、ミシシッピ川の下流にあり、穀物の集積地であり米国産穀物の最大の輸出港。日本の配合飼料に使われる約1200万トンのトウモロコシのうち、ニューオーリンズの港からの船積みされる割合は6割強。大豆は7割。今回のハリケーンで、電力が止まるなどで輸出施設の機能が停止、船が貨物を積めなくなっています。今のところ輸出再開のめどは立っていません。楽観的な見方で1,2週間ストップ、ライフラインが復旧し作業員が戻ってこれるまで約1ヶ月かかるとの見通しもあります。

日本国内には十分な蓄えがあるため、大きな影響はないと言われていますが、復旧が長期化した場合、他の港に陸路を使って穀物の集積する手間や経費で価格が上昇する懸念が指摘されています。 虹屋では、年初からの大豆価格の上昇で、納豆の価格が変わりました。また更に大豆価格が上昇し、国産大豆の価格もつられて上がらないか心配です。


炭酸ガス、陸のバイオマス利用で増加を食い止め、海のバイオマス増加で減らす 2005 [地球温暖化]

2005年7月12日小針店で印刷・配布した「畑の便り」に加筆

  梅雨前線は、本来は日本列島の真ん中に位置し、南北に上下することで各地に雨をもたらします。ところが今年は6月は南海上に停滞し極端な少雨・乾燥。6月末から7月にはいると豪雨で災害とメリハリの付きすぎた動きです。 

温暖化でフィリピン沖の海水温上昇が遠因

 梅雨前線は、本来は日本列島の真ん中に位置し、南北に上下することで各地に雨をもたらします。ところが今年は6月は南海上に停滞し極端な少雨・乾燥。6月末から7月にはいると豪雨で災害とメリハリの付きすぎた動きです。気象庁気候情報課によると「フィリッピン沖の対流活動の異常によるもので、温暖化の影響も否定できない」
 
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  梅雨前線の動きは、フィリッピン沖の上空にある空気の対流活動で左右されます。対流が活発なると、太平洋高気圧の勢力が強まり北へ張り出し、列島上空に梅雨前線がかかります。そしてオホーツク高気圧との押し合い圧し合いで前線が南北に上下します。逆に対流が弱いと、前線は本州の南海上にとどまります。このフィリピン沖の大気の対流を形作るのは直下の海水面の水温です。
 
  地球温暖化の影響でフィリピン沖の海水温度が全体に上がりバランスが崩れ、対流活動が弱くなった。そのため前線が本州の南海上に停滞し、梅雨入りが九州では平年に比べ2~17日遅れました。問題は、その後も本州南の前線は動かず停滞を続け、26日には消滅してしまいました。
 
  次に、梅雨前線が現れたのは北陸・東北地方に27日。新潟も梅雨入りしました。そしてこの前線は4日間も停滞し洪水などの被害をもたらしました。7月にはいってようやく四国、西日本に梅雨前線が移動したものの、南から暖かい空気が入ってここでも集中豪雨。
 
  その大本は、地球温暖化によるフィリピン沖の海水温度の全体的上昇。気象庁は温暖化が進めば、大気の対流活動が弱まり太平洋高気圧が北へ張り出さなくなり、梅雨前線は北上しない傾向が強まると見ています。そして列島にかかってもそこで停滞し集中豪雨となる??
 
  気象庁の「アメダス(地域気象観測システム)」のデータを分析すると、地球温暖化の影響が主な原因とみられる「短時間強雨(1時間に50ミリ以上の雨が降る)」や1日の降水量が200ミリを超える「大雨」の回数が近年、大幅に増えています。
  また近年は年ごとに、湿った空気が流れ込む「水蒸気の通り道」が一定の場所に固定され、同じ地域で大雨を繰り返す傾向が強まっています。昨年7~9月に新潟県や福井県を繰り返し襲った集中豪雨や、今年6月28日と7月2日に新潟県や富山県などの北陸地方で相次いだ大雨も、この傾向の表れで、理由ははっきりしないが今後も同様のケースが多くなると考えられると気象庁は警告しています。 
 
高CO2濃度で、稲ばかり大きくなって米が稔らなくなる

  温暖化の原因は、いわずと知れた二酸化炭素CO2などの温暖化ガス。一方、CO2は植物作物の肥料栄養分でもありますから、大気中の二酸化炭素の増加が作物収量を増加させる、CO2濃度が上がると光合成などが活発になり、穂の成長が促進、収穫量も増えるといった見方、実験もあります。実際のところどうなのでしょうか。
 
 
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「稲ばかり大きくなっても、コメは稔(みの)らない」夏の開花時期の気温が高くなると受粉ができなくなり、穂の中に稔らなくなります。34度以上になると減り始めて、36度で半分になります。研究者は、二酸化炭素の濃度が約1.5倍(550ppm)になると「気温が32度程度でも稔りが悪くなる可能性が高まる」と指摘しています。(農業環境技術研究所の長谷川、吉本さんら)
 
  植物の葉には気孔という窓があり、水や二酸化炭素などを出し入れしています。 その葉の気孔は、CO2濃度が高まると閉じてしまいます。余計なCO2を吸収しないようにするためですが、水分の蒸発量も少なくなります。いわば「汗」をかけない状態になり、葉や穂の温度は上がり、湿度は下がり乾燥します。気温が32度程度でも穂の回りは34度以上と同じような状況になり、稲は大きく育ってもコメが稔らなくなる恐れが出てくると指摘しています。
  欧州や日本は温暖化対策で、21世紀中に大気中の濃度上昇を550ppm程度までに抑えようとしています。しかし、この目標を達成するだけでは植物・作物の生育への影響を避けることができず、様々な被害が出ることが指摘され始めています。
 
陸のバイオマス利用で増加を食い止め、海のバイオマス増加で減らす

  CO2濃度を高めているのは、石油、石炭などの化石燃料を使うことで過去に蓄積・固定されていた二酸化炭素が放出されるからです。この点、廃材や生ごみなどのバイオマス(生物資源)は、新たな二酸化炭素の放出がありません。木材や作物が、光合成で大気中から固定した二酸化炭素が出るだけですからプラス・マイナス・ゼロです。
 
  しかし、生ごみや廃材の収集・分別の手間、発電所への運搬費用、発電効率の低さから高コストになり、実用化が難しいと言われていました。技術開発が進み道が開けつつあります。
 
  それは、生ごみや廃材などを、まず「蒸し焼き」にします。熱分解しガス化を行います。それで出てくる可燃性ガスを集め、それでガスタービン発電を行います。ガスを取ると炭ができますが、それを蒸し焼き=ガス化の際の燃料として使います。ガスータービンからの排気ガスも高温なのでガス化の熱源に使われます。発電効率も高く、全体としてのエネルギー利用率も高い。
 
  廃材・間伐材など木質バイオマス発電は、従来のそれらを燃料にして水蒸気を作り発電機を回すやり方ですと発電効率は10%程度でしたが、中外炉工業が開発したプラントは20%超。化石燃料は使わず、高効率なため従来よりも発電で使う廃材は三分の一です。同様の原理で生ごみやか紙くずプラスチックなど様々な廃棄物でも発電できるプラントが開発されており、発電効率は30%程度です。
 
  現在ある実証プラントは製材所から出る日量5トンの廃材チップを燃料としています。電力需要の多い昼間は180kW、需要の低い夜間は原料を絞ることで48kWの発電を行っています。小規模ですが、廃材の収集・分別の手間、火力発電所への運搬費用が高コストの原因でしたから、小規模な方が製材所など廃材発生場所に建設でき便利なのです。
 
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  日本で林の中に放置される間伐材などは年間300万トン余り。発電に使えば150万世帯分の電気をまかなえます。日本のバイオマス資源全体では、石油換算2100万トン程度が使用可能といわれています。上の技術革新が進めば、日本の年間エネルギー全使用量では4~8%程度がバイオマスでまかなえます。
 
  日本では、バイオマス利用はこれ以上化石燃料使用量を増やさない、二酸化炭素排出量を増やさない効果が期待できます。また、これから化石燃料の使用が増えるであろう開発途上国に目をやると、この小規模であることが逆に利点になります。
 
  既に開発途上国では薪などバイオマスが使われています。総量で日本の石油消費量と同じくらいのエネルギー量です。この部分をバイオマス発電に転換すれば、化石燃料の使用増加を防げますし、導入規模によりますが現在発電用に、途上国で燃やされている化石燃料を減らすことができます。途上国の村々町々で使われている=収集できるバイオマスの量は限られていますから、小規模であることが利点になります。
  また、温暖化対策として効率の良い火力発電所や水力発電所、原子力発電所を建設し従来に比べて減ったCO2量を売買するやり方(排出権取引・クリーン開発メカニズム(先進国-途上国間))が行われていますが、これらの大規模発電所では、発電所だけでなく消費地・家庭まで電気をおくる大規模な送電網と運用システムが不可欠です。小規模バイオマス発電では、設置された近隣に送電網を建設するだけですみます。
 
  陸のバイオマス(生物資源)は、二酸化炭素濃度ではプラス・マイナス・ゼロです。積極的に減らすには、海の活用が不可欠です。海の植物プランクトンなどバイオマスからできるマリンスノーは海底に沈殿蓄積し、深海底に固定された二酸化炭素は大気中に出てきません。純減少になり、そこが陸のバイオマスと違います。近年、以前に比べプランクトン量の減少した海域を研究し、その原因を探り、海のバイオマスを増やす研究が行われていますが、それ別の機会に。
 
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