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温暖化を加速する「磯やけ」、その原因は 2007年 [地球温暖化]

2007年9月、虹屋小針店で配布した「畑の便り」の加筆・再録

  先週は、異常に暑かったですね。9月じゃなくて8月でした。台風の影響が大きいのですが、その台風が強力なのも地球温暖化で海水温が高く、立ち昇る水蒸気でエネルギーを補給されるからです。

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  地球温暖化、その原因は一つではありません。先日、地球の地軸の傾きも原因との研究が公表されました。日本の南極観測隊が採取した過去34万年分の氷の成分を分析した結果です。地球儀を見れば分かるように、地球は太陽を廻る公転面にたいして傾いた軸で自転・公転しています。それで中緯度の日本は四季があります。雪や氷に覆われた高緯度地帯では、入ってくる太陽光を反射して熱を外に出していますが、自転軸の傾きが変化し、日射量が強まり、太陽光を反射する氷床や氷河がいったん解け始めると、温暖化が急激に進む。逆に日射量が弱まると、急速に寒冷化し、氷床などが拡大することになります。

  この効果は、気温や二酸化炭素濃度の変動が数千年遅れで連動する数千年以上の長期の気候変動のメカニズムです。今回の研究をまとめた国立極地研究所の藤井理行所長によれば「現在進行している温暖化は地球が経験したことがない状況」、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量、濃度や太陽活動の短期的変動の影響などの要因が大きいとみられます。

今のバイオエネルギーの問題

その二酸化炭素排出量の削減で、今、バイオマスエネルギー、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油が注目を集めています。しかし、その削減効果に、国連食糧農業機関(FAO)など幾つかの国連機関やOECDが強い疑問、適切に利用されなければ逆効果という警告を発しています。
  国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2030年においても、バイオ燃料は輸送用全燃料の4%から7%を供給し、その大部分は米国、EU、ブラジルで生産され、消費されます。これに対し薪、炭、家畜排泄物、作物残滓などの”伝統的バイオエネルギー”は、大部分の途上国で約20億人の家庭の暖房や調理のためつかわれ、世界エネルギーの10%を供給しています。だが乾燥牛糞でコンピュータ・ネットワークを動かすことはできない。しかし、近代技術はこれをバイオガスに加工することができ、電力供給が可能にできます。1日2ドル以下で暮らす20億の人々が手頃な費用の、自分が生産した、環境的に持続可能なエネルギー源としてバイオパワーを利用できる様になれば、貧困削減への巨大な貢献になります。貧困削減と家族計画の普及とで途上国での人口爆発を押さえ込み、エネルギー需要=二酸化炭素排出量の抑制、削減が可能になります。「輸送またはその他の燃料としてよりも、熱電併給のために生物資源を利用するのが、今後10年における温室効果ガス排出削減のための最善にして、最も安上がりの方法だ」(FAOの事務長報告)
  一方、バイオ・エタノールやバイオ・ディーゼル油は米国、EU、ブラジルなど約8億人の車の燃料の一部を代替するだけです。そしてこれらの原料はトウモロコシ、大豆など食料そのものであり食料を人間と家畜から取り上げることになります。現在でも、穀物価格を上昇を招いて貧困層に飢えをもたらしています。その増産のための大規模なモノカルチャー(単一栽培)のための土地開拓で環境損傷と生物多様性喪失を引き起こすと批判しています。
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  東南アジアやブラジルなどの雨林を、開拓してバイオエネルギーの原料となるサトウキビなどの耕地を造成すると、雨林で眠っていた湿地の泥炭などが二酸化炭素を放出します。私たちは緑化、植林で二酸化炭素の吸収=削減が図れると考えます。確かに木々が育つ数十年間は、木々に炭素が固定化され、その分は大気中の二酸化炭素が減ります。その後、倒れ倒木になれば朽ちていく過程で二酸化炭素となり大気に戻っていきます。森林は二酸化炭素・炭素の一時貯留庫にはなりますが、長い目で見ればやがて元に戻ります。それが自然の炭素循環です。しかし湿地などでは泥炭となって分解バクテリアが不活発なためより長期に、大量に炭素が地表に留め置かれます。開拓は、その眠りを覚まし、却って大量の二酸化炭素が放出される結果になります。
また泥炭は、やがて岩石化・化石化して石炭になります。そして地下深く石炭となってしまえば、その分は大気中の炭素・二酸化炭素が純減損します。つまり、数億年過去に固定化された炭素・石炭を燃やして大気中の二酸化炭素濃度を上げているのですから、その分を、新たなに石炭化するように森林を管理することが基本なのに、バイオエネルギー原料栽培のための開拓は、全く逆のこと行う結果になります。 
それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。 
  
 海洋の二酸化炭素吸収
 
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 それではもう一つの化石燃料、石油は何処に由来するのでしょうか。最も有力な説は、海洋で生産されたプランクトンなど有機物が化石化したものが原油であるという説です。現在でも、海の生物たちが吸収・固定化する二酸化炭素は、陸上の森林などとほぼ同じです。海の植物は、生態から昆布などが海藻が群生する海中林と浮遊する植物プランクトンに大別されます。日々生産される有機物の一部が、深海にまで落下していきます。その一部から石油ができたという説です。
 
  1950年代、北海道大学の研究者達は潜水球「くろしお号」に乗り込んで海中の調査をおこなっていましたが、その時に海中の懸濁物がライトに照らされて白っぽく雪のように見えたことから、彼らはこれをマリンスノー(海雪)と名付けました。ツナミと同じく現在では世界中でこの言葉が使われています。マリンスノーは様々な形、球状、彗星状、糸状、平板状などをしたものがあって、大きいものは10cmを越します。
 
  マリンスノーのでき方は大きく2つに分けることができます。ひとつはプランクトンの死骸、またはそれが分解したものです。もう一つは物理的な働きによって作られた小さな粒子の集合体です。マリンスノーは必ずしも高い密度で存在するわけではないのですが、海洋にまんべんなくあるので、全体としてその量は膨大です。植物プランクトンは、海中の窒素・リンといった栄養塩を取り込み、二酸化炭素及び太陽の光エネルギーを使って光合成を行い、有機物をつくり身体を作ります。植物プランクトンは、あるものは動物プランクトンや魚などのエサとなり、その糞として、またあるものはやがて死骸となって深海へ沈んでいく。こうして二酸化炭素(炭素)もいっしょに深海へと運ばれていきます。
 
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 深海で、微生物に食べられ分解し炭素や栄養塩を多く含んだ海洋深層水をつくります。これが再び、海面付近に上昇するのは、深層の海流にもよりますが2000年から600年後。その間炭素は閉じ込められています。森林よりも貯蔵する量も期間もはるかに長いのです。分解されず海底に堆積したマリンスノーが、地殻変動で閉じ込められ、地熱や圧力の作用によって何億年という時間がたつうちに原油になったと考えられています。
  その海洋の植物の衰えが近年目立ってきています。例えば、「磯やけ」です。陸上の森林などとほぼ同じ量の二酸化炭素を吸収・固定化しているのですから、森林伐採と同じ効果をもたらします。人間の活動に伴ってでる二酸化炭素の半分から三分の一は海洋の植物が吸収・固定化していると試算されています。海洋の植物が衰えは、吸収量の低下であり、吸収されない分が大気中に残り大気中の二酸化炭素濃度の上昇になります。
 
  沿岸岩礁域には、波打ち際から最も深くとも水深30mほどまでの海底に藻の群落、海中林と呼ば
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れる褐藻群落が形成されます。新潟県の沿岸では、ホンダワラ類で主に形成されるガラモ場がみられます。佐渡真野湾や加茂湖などでは、アマモ類が主のアマモ場がみられます。
 
  沿岸岩礁域の面積は海全体の0.1%にすぎませんが、海中林は生産性が高く、生産量では海全体の10%です。海洋全体が同化している二酸化炭素の約3~5%が人間が出すものですから、海中林が半分なくなれば、人間の出す二酸化炭素は海洋に吸収されないのと同じ結果になります。
 
また海中林は、エビ・カニなど甲殻類やメバル・カサゴ・アイナメ等魚類の採食、逃避、産卵、稚仔あ
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るいは一生を通しての生息場となっています。また、アワビ、サザエ、ウニなどは海中林の藻が食物。さらにそれらを求めて海鳥、ラッコやアシカが大量に集まる。海中林は、地球上で最も生産力が高い豊かな場所なのです。海中林は今、世界中で急速に消えつつある。オーストラリア・タスマニア島のジャイアント・ケルプ海中林は1950年代の面積の5%にも満たないそうです。
 
  新潟県では昭和30年代前半に、三面川河口周辺域でテングサ場が激減したことがあります。これは、三面ダムから放出された微細な泥を含む濁水の影響であろうと推定されています。その後、海藻類の減少や"磯焼け"は報告はありませんでしたが、平成年代に入って県下各地から海藻類が減少しているとの報告が新潟県水産海洋研究所に入るようになりました。このため、現況把握調査が県下各地で行なわれ地区によってその様態に差はありましたが、全般的に海藻類は少な目で、特に粟島西海岸、佐渡真野湾、能生鬼伏では"磯焼け"状態になっているのが観察されています。
 
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 海水温の上昇が磯やけを起こす・・温排水の影響

 また、古来、海水温の上昇が磯やけを起こすことが知られています。天保年間(1830年代)に、下北半島の漁民は例年より高水温であるとマコンブが凶作になることをすでに知っていました。「1980年代後半から高水温・貧栄養の海況が長期に持続しているため、温帯から寒帯に分布する海中林は急激に北退し、極地方に追い上げられている。」(谷口和也、東北大学教授)また局地的には原子力発電などの温排水の影響も考えられます。
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 原発は、熱効率が悪い発電法です。火力発電では1100~1300℃の高温燃焼で生じた熱エネルギーの40~50%を電気に変えられます。高温の燃焼ガスでまずガスタービンで発電し、まだ十分に熱を残す排ガスを再利用して蒸気を作り、蒸気タービンで2度目の発電を行えるからです。これに対し、原発は核燃料を封入する燃料管の金属が高温では脆弱性をもつため、320℃以上にできません。そのため、熱効率は約33%、核分裂で生じたエネルギーの約7割を捨てる、温排水として環境に排出しています。
  2005年、2006年と猛烈な熱波と干ばつに見舞われたフランス。フランスのエネルギーの80%は58基の原発によります。それらは内陸部に多くあり、河川の水をつかって電気に変えられなかった核エネルギーを捨ています。フランスでは、川の生物、生態系を守るため排水温度は25℃以下に、また水が原子炉に入ってから出るまでに2℃以上上昇してはならないと規制されています。猛烈な熱波と干ばつで水量が少なり、また水温が上がってしまい、2005年、2006年と規制を守るには原発を停止する以外に道がなくなりました。
2005年にはシヴォー原発は停止し、他の原発は政府が水温の上限などの規制を解除して発電を継続しました。2006年も同様でした。つまりフランスの河川に熱帯地方の水温、30~28℃の水が流れました。魚などは上流に逃げて難を避けられますが、植物は逃げられません。
  日本の原発は海岸に立地していますから、量的に不足することは考えられません。しかし、先ほど見たように海水が高水温になることは十分に起こります。その水温でその地域の藻類、新潟県で言えばホンダワラ類が気息奄々の状態になるとしたら、そこに原発、新潟県では柏崎刈羽原発の排熱で海水が温められる海域では「磯やけ」が起こることになります。
  原発周辺の漁業権は補償されていますから、人間で法的に文句の言える人はいません。しかし、磯やけをおこした海域では、二酸化炭素の吸収・固定は激減しています。その分、大気中に残る二酸化炭素が増えます。「核エネルギーは地球温暖化を抑えないばかりか、温暖化が核エネルギーの利用能力を減らす。我々の気候問題の皮肉だ」(フランス反核団体・核からの脱出)
 
農薬の除草剤は植物プランクトンも殺す

  農薬の除草剤が、植物プランクトンに対しても働く、殺してしまうことが知られています。植物と同様の代謝系を藻類、植物プランクトンが持っているからです。水田やゴルフ場で使われた除草剤は,
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やがて川や湖に流入します。除草剤にさらされたとき川や湖の植物プランクトンは、減少します。やがて、抵抗性を持つ系統、同じ種類でも除草剤に感受性が低い系統に変わり、回復しますが、抵抗性を持つ系統は増殖が遅いことが分かっています。これは「抵抗性のための生理的メカニズムや細胞構造を作り上げるためにエネルギーを消費している結果,増殖や再生産に振り向けるエネルギーが少なくなり,増殖及び再生産速度が遅くなる」ためで、つまり除草剤で植物プランクトン群集の生産力が低下します。二酸化炭素の吸収・同化が衰えるのです。
  インドや東南アジアなど低緯度の地帯で使われる農薬が、大気中に拡散し大気の大循環で、日本など中緯度地帯に降下していることが分かっています。また除草剤は、船の選定に藻などが付着しないように防汚剤として塗られています。農業で使われた除草剤が河川で流入する沿岸だけの問題ではありません。ケミカルな毒性として藻類・植物プランクトンを害することは分かっていますが、実際にどれ位の量的被害が出ているかは不明です。 
 
サンゴに対する除草剤、船底塗料の影響調査 http://www.coremoc.go.jp/nenpou/Lagoon8.pdf
 
 
 温暖化対策と言うと原発増設とか二酸化炭素の排出削減だけに意識が行きますが、海洋や森林といった吸収量を増やしたり、少なくとも損なわないにすることも大切です。海洋に吸収された二酸化炭素は、深層水の深さまで移動すれば、数百年から1000年は大気中に放出されません。また海洋での吸収・固定を増やすことは、生態系の基礎を成す植物を増やすことであり、その上位にある魚などを増やすことでもあります。それは、海からの食料を増やすことでもあります。

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