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トウモロコシを黄色いダイヤモンドに変える錬金術師のひく飢餓の影 2007年 [地球温暖化]

2007年3月12日虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録

  豪州の旱魃が深刻になっています。ハワード豪州首相は19日、来月半ばまでに多量の降水がないかぎり国の大部分の農地の灌漑が禁止されると発表しました。マレー・ダーリング河の流域は灌漑される耕作地と草地の75%があり、農業生産の34%、酪農・綿花・コメ・ブドウ栽培が行われています。その面積は日本の国土面積の約2.8倍。ここに5月半ばまでに大量の降水がなければ、流域都市の人々が必要とする最小限の水を供給するために、7月1日からの新水年度から灌漑農業に水はまったく回せないというのです。「不可欠な都市用水以外の灌漑、環境、その他いかなる用途への配分のために利用できる十分な水はなくなるだろう」

 現状では、今後3ヵ月以内に平年以上の降水が必要なのですが、豪州気象局の予報では、その確率は五分五分。今年は降るかもしれませんがIPCC(気候変動政府間パネル)の地球温暖化影響評価報告では、オーストラリアの大部分の地域では、干ばつと森林火災の増加で2030年までに”農業・森林生産が減少”するです。

地球温暖化での食糧不足の前に飢餓が来る

  米国では、バイオ・エタノールはトウモロコシをアルコール発酵させて作られています。ブッシュ大統領のエネルギー政策で人為的に惹起されたバイオ・エタノールブームで、トウモロコシの価格は以前の2倍、1ブッシェル(約25・4キロ)あたり4ドル台です。トウモロコシは重要な食糧で、この価格、一日1ドル未満で暮らす「極度の貧困」にある人々、世界総人口の約五分の一には十分に脅威です。
  ミネソタ大学の二人の研究者によれば、トウモロコシ価格は2010年までに20%、2020年までに41%上昇。それで農民がエタノール生産性が高いために高価格で収益性の高いトウモロコシやその他の植物への作付転換を進め、コメや小麦などの価格も上昇させることになる。「世銀その他のエコノミストのいくつかの研究は、どんな基礎食料でもその平均価格が1%上昇すると、世界の貧しい人々のカロリー消費が0.5%減少することを示している」、「その実質価格が1%上昇するごとに食料を満足に確保できない人口が1600万人増える」、「これは慢性飢餓人口が2025年までに、以前に予想された6億人の倍にも相当する12億人に達するであろうことを意味する」と警告しています。
トウモロコシなど世界の穀物流通は、少数の穀物メジャーが支配しています。彼らは今や、エタノールメジャー、トウモロコシを黄色いダイヤモンドに変える錬金術師と呼ばれています。彼らのひく飢餓をもたらす大きな影が世界総人口の約五分の一の人々の上にかかっています。 
 
C. Ford Runge and Benjamin Senauer ,How Biofuels Could Starve the PoorForeign Affairs, May/June 2007
  
 今年は日本の「バイオエタノール元年」
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日本でも、バイオエタノールの利用が進められています。エタノールを直接ガソリンに混合する方法は環境省が主導。例えば、環境省が税金を投入し大阪の堺市の建築廃材からエタノールをつくる施設をつくっています。このエタノールは、大阪府が民間企業と協力し、作られたバイオエタノールを3%混ぜる「E3」という混合ガソリンを製造、8月から関西と関東の約15か所のガソリンスタンドで自治体や企業を対象に販売するそうです。石油連盟(石油元売19社)はエタノールを加工したETBEという物質を添加する方法を推進。添加したガソリンを、27日から首都圏50ヶ所のガソリンスタンドで給油するそうです。
 
 政府は、2030年までにガソリン需要の1割に相当する年間600万キロリットルの製造、利用する計画を2月に発表しています。それで今年が日本の「バイオエタノール元年」と言われ、様々な報道がされています。これらの報道をみると、バイオエタノール利用が京都議定書対策なのか、地球温暖化対策なのかわからなくなります。
 
  植物は大気中から二酸化炭素CO₂を吸収して育つため、燃やしてもCO₂の総量は増えません。京都議定書では、バイオエタノールを利用してもCO₂の排出量に数えない、つまりそれで減ったガソリンの分だけ排出削減されたと看做すルールになっています。ですから、議定書対策としては有効です。
 
しかし、バイオエタノールは製造方法や使用法によっては、逆に、排出CO₂量がガソリン使用に較べて増えてしまいます。製造されたエタノールのエネルギー量は、原料のトウモロコシなどの生産やエタノール製造に要するエネルギーの1.2~1.7倍程度です。つまり、「新」エネルギーとみなせる部分は差し引き20~70%です。
 
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消費地までの輸送など製造後に費やすエネルギーがこれを上回れば、実質的にエネルギー損失、CO₂排出量は増加することになります。またアマゾンなど熱帯雨林を新たに開拓して植えたサトウキビから作られたエタノールはガソリンに比べて温暖化ガス排出量はむしろ5割増しになってしまうと試算されています。(雨林で覆われて水に浸かった湿潤な土壌では、過去数千年をかけて、植物遺骸から泥炭の厚い層が形成され、それには現在の世界の化石燃料の利用量100年分に相当する炭素が蓄積。森林が刈り払われると、泥炭が乾燥、分解が始まりCO₂を放出するようになる。)つまり、バイオエタノールは、使い方を間違えるとCO₂の排出削減や化石燃料の消費低減どころか、逆に増やしてしまうのです。

 
議定書対策か温暖化対策か?

  石油連盟の方法は、アマゾンを新たに開拓して造成された畑などで栽培されるサトウキビから作られたエタノールを、ブラジルからタンカーで移送して輸入し、そのエタノールとイソブチレンから蒸気及び電力を消費してETBEを合成、それをガソリンに添加する方法です。このやり方で京都議定書のルール上は削減になっても、本当にCO₂削減になるのか甚だ疑問です。実質的にも温暖化対策になるのか検証した報道には寡聞にしてお目にかかりませんでした。連盟を構成する石油元売19社は大量の広告をマスコミ各社に出稿しています。スポンサーの意向にケチはつけられない??  
 
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  現在のエタノール製造は、トウモロコシなど食料の澱粉や糖をアルコール発酵させます。現状の作付けを前提とした場合、バイオエタノールの生産を増やせば、食料に回される分が少なくなると共に作物価格が上昇し、冒頭の飢餓が現実化します。これを避け、日本のバイオエタノール使用で世界の貧しい人を飢餓の淵に追いやらないためには、国内の休耕地などの活用しエタノール原料作物の栽培や食品廃棄物の利用、中長期的には技術的には確立されている建築廃材、間伐材、稲わらなどセルロースからエタノールを大量につくる、廃プラスチックや乾燥したバイオマスをガス化し、水素やメタノールを生産するなどの実用化などが考えられます。

  こうした活用が見込める技術の開発には税金が投入されています。ですから、我々納税者、国民にはその成果を知り、より良い未来に向けての選択可能な様々な策を知る権利があります。報道機関には、その知る権利を確りと代行して欲しいものです。
 
多種類の草原植物は最適なバイオ燃料原料(米国)【PDF:75KB】
 
NEDO海外レポート 994号 バイオマス特集
http://www.nedo.go.jp/library/kankobutsu_report_994_index.html

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