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地産地消のエタノールを全米に配送する愚策 2007年 [地球温暖化]

2007年3月12日虹屋小針店で配布した「畑の便り」の再録

 今週から北海道の興農牛の価格が値上げになります。その背景には「とうもろこしをはじめとして植物からエタノールを作ってエネルギーに変えようという世界的な流れの中で、家畜の飼料は高騰を続けています。」このバイオエタノールについて考えてみました。

1年間で2倍以上の高騰

  飼料価格の上昇、シカゴの穀物市場のトウモロコシ価格は2月下旬に1ブッシェル(約25・4キロ)あたり4ドル台半ばまで上昇しました。2005年は2ドル台、2006年に入って2.5ドル台で推移し11月にはいって3・5ドル、上昇が続いています。10年8カ月ぶりの高値圏で2006年初の1.8倍の水準。この価格の高騰で米国農家の穀物栽培で得る収入が過去最高を更新し、2007年の農家全体の収益は前年比1割増の670億ドル(約7兆7000億円)で、3年ぶりに増加になる見通しです。また、遺伝子組換えでないトウモロコシなどは、米国など生産農家が遺伝子組換えでも高く売れるため、今季の作付けをやめようとする動きが出ています。
  鶏や豚にも影響を与えています。米国でも地元産トウモロコシを家畜の飼料として大量に消費する米国の中西部を中心とした畜産農家が悲鳴を上げています。虹屋でも、卵の宮尾さんから値上げの要請がきております。宮尾さん、今年から飼料用稲の栽培をはじめ自給飼料の増産に取り組みます。
 
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 また「粗びき状のトウモロコシ『コーングリッツ』を原料に使うスナック菓子業界では、原料調達コスト増に苦慮するメーカーも出始めた。人気スナック菓子『カール』を生産・販売する明治製菓は『商品価格には転嫁できない』と困惑している。サントリーは発泡酒や清涼飲料に糖化スターチや異性化糖などのトウモロコシ原料を使用。トウモロコシ相場の高値が続けば、『年間数億円規模のコスト増になるが、相場動向を見極めながら、なるべく良い条件で原料を調達することで影響を軽減していく』考えだ。ケーキやドーナツなどに使う調整粉にもトウモロコシ原料が含まれている。大手製粉会社は『トウモロコシ原料メーカーからすでに値上げ要請がきている』としている。(3月3日/日本経済新聞)」
  中南米はトウモロコシの原産地、当地ではトウモロコシは伝統的な主食食品です。この価格高騰で、これらも値上がりしています。メキシコのトウモロコシの粉をこねて作る薄焼きパン、伝統的主食のトルティーヤの小売価格はこれまで最高でも1キロ6ペソ(1ペソ=約11円)だったが、今年に入り12―15ペソに上がっています。首都メキシコ市での4万人の市民が参加した1月31日抗議デモなど国内各地で抗議デモが相次いでいるそうです。トウモロコシの粉はアフリカでも主食ですから、「貧しい国々の都市部では食料をめぐって暴動が発生する可能性がある」と指摘されています。
 
 地産地消のエタノールを全米に配送する愚策

  この上昇の原因は、ブッシュ大統領が打ち出した新エネルギー政策です。トウモロコシからエタノール(エチルアルコール)を造り、このバイオ・エタノールとガソリンを混ぜた燃料の普及を進める政策です。現状の原油・ガソリン価格ならエタノール製造はトウモロコシ価格が1ブッシェルあたり2.7ドル前後で収支がトントンです。ところが新エネルギー優遇税制や政府補助金で4.2ドル前後になってもOKなのです。このため、投機資金も流入して異常な高値になっています。

  トウモロコシから作るバイオ・エタノールがエネルギー政策として有効性には強い疑念があります。バイオ・エタノールから得られるエネルギーが、バイオエタノールを作り利用するために投入されるエネルギーよりも小さい、つまり作れば作るほどエネルギー的には損失がでるという疑念です。ちなみに、石油ではサウジアラビアのような大規模な油田では60倍、老朽化したアメリカの油田は3倍くらいです。バイオ・エタノールでは、0.7~1.7倍と見られています。
 
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  化学的性質からエタノールはタンクローリーなどで輸送しなければなりません。この輸送エネルギーを勘定に入れると0.7といった赤字の数字になります。エタノール製造施設近辺で使用するのなら投入エネルギーよりも得られるエネルギーが大きく、使えば節約効果がでます。つまり、バイオエタノールは「地産地消」型のエネルギー源なのです。
 
  ところが米国でガソリンの消費が多いのはカルフォルニアとか東部海岸地帯と、生産地の中西部から遠く離れていますから、長距離を輸送しなければならず使おうとすればするほどエネルギー的には損失がでるのです。エネルギー政策的には、トウモロコシから作るバイオ・エタノールは全米規模での有効性はなく中西部限定の施策です。ところがブッシュ共和党も民主党もこれには眼を瞑り、優遇税制の期間延長や政府補助金の拡大やガソリンとの混合比のアップ、10%から85%、そのためのガソリンスタンドの整備などを掲げています。

 その理由は様々に解説されています。一つは、この政策で農業全体としては収益が上がるので隠れた農業補助金というものです。もう一つは、フォード、GM、クライスラーの米国自動車メーカー大手3社の要請に応じたというものです。これら3社は省エネ(燃費削減)対応の中心戦略を、エタノール利用に置き3社の車はガソリンとの混合比85%(E85)に対応したエンジンを積んでいます。
 
GMはすでに200万台を販売済みで、全米ではすでに500万台が走っています。ところが、全米のガソリンスタンドではE85、85%混合のガソリンを販売していません。E85を扱うには、特別な設備投資が必要だからです。従来の設備で十分対応できるE10、10%混合を扱っています。そしてトヨタ、ホンダなど日本メーカーはハイブリッド車の普及が中心戦略で、燃料供給がほとんどない混合比85%対応には取り組んでいないのです。従って、エタノール奨励、とくに混合比85%推進は米国自動車メーカーに有利で日本メーカーを狙い撃ちする効果があるのです。

米国自動車メーカーのエタノール戦略の本当の狙い(三菱東京UFJ銀行 ワシントン駐在員事務所所長)
 
ETBE添加 石油元売り本位の利用法

 こうした一見、だれも文句を付けようもない地球温暖化対策にみえながら、実際には既得権益の保護のためにエネルギー政策としては筋が通らぬグシャグシャな内容になって、結果的には補助金など税金が無駄遣いされている点は、日本のバイオエタノール政策も同じです。
 
昨年末、大阪の堺市に建築廃材などからエタノールをつくる施設が総工費37億円、うち半額が政府補助金のバイオエタノール・ジャパン・関西が完成しました。産業廃棄物となっていた廃材・年間48000トンを受けいれます。それをまず、木材に含まれるセルロースを酵素で糖分に分解する前処理をして、アルコール発酵を行います。
 
それを蒸留して、100%のエタノール(エチルアルコール)を取り出します。環境省によれば「この施設では、年間1400kLのエタノールを製造可能であり、全量をエタノール3%混合ガソリン(E3)にした場合、約4.7万kL(約4万台のガソリン車の燃料に相当)になります。」3%混合は燃料の品質管理の法律での上限だからです。平成19年度の環境省が大都市圏でのE3大規模供給実証のための供給元に予定されていましたが、石油連盟(石油元売19社で構成)の反対でたな晒しになっています。19億円の税金が無駄になっています。  
 
建築廃木材を原料とする燃料用エタノール製造施設の竣工について(環境省) 
 
(2007年4月に大阪府が実証試験を行うことになった。平成19年度エコ燃料実用化地域システム実証事業の採択案件について) 

 石油連盟はエタノールに石油ガスを加えた「ETBE添加(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」で、2007年5月から関東の50か所ほどのガソリンスタンドで試験販売するとして共同会社を設立しました。連盟を監督する通産省は、バイオエタノールを輸入する会社の幹部に3人天下りをしています。石油連盟の言い分は、エタノール混合ではガソリンの品質が保てない、エタノール直接混合ガソリンに水分が混入するとガソリンとエタノールで相分離が発生する。「自動車のエンジンに影響アリ」というものです。もう一つは、ガソリン税の問題です。  

バイオマス燃料導入に際しての課題(石油連盟) http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/20070221.pdf

自動車燃料におけるバイオマス利用(新日本石油(株) 研究開発本部 開発部燃料技術室 室長) 
 
 米国では、エタノール混合が排気ガス対策で既に行われています。大気浄化法で主に一酸化炭素CO対策(主に冬場)として、ガソリンに定率含酸素を義務化していて、含酸素剤としてエタノールが使用されています。必要とされている地区は全米の35%、全ガソリン流通量の30%を占めます。ミネソタ州は年間を通じて10%混合のE10を義務化しています。米国では世界中の車が売られていますが、特に問題は発生していません。全米において、過去に1事例だけ、相分離した燃料の水の方を誤って自動車に給油した事故があったが(コネチカット州)、これは、水が入ったスタンドの問題であり、逆に相分離したガソリンの方を給油しても、オクタン価が多少低くなるが、自動車側ではトラブルは発生していません。こうした米国などでの経験から現在の車では、特別な改造ナシでも3%以上の10%混合でも特に問題は生じないとされています。  

海外のエタノール混合ガソリン事情(環境省)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biofuel/materials/rep_h1805/05.pdf 

 ガソリンは、製油所→油槽所→ガソリンスタンドと流れます。製油所は全て石油連盟の元売各社のものですが、油槽所やスタンドは約20%が元売系列外の独立系といわれる全農や商社系です。独立系には価格などの元売の統制が利きません。エタノールは相分離の問題から油槽所やスタンドで混合されます。エタノール混合では、この業界の構造は変わりません。ETBEはエタノールと製油所のFCC(接触分解装置)の副産物などで得られるイソブテン(LPG相当)の化合物です。製油所で合成され、製油所でガソリンに添加されます。ETBE添加では、元売の、石油連盟の独立系スタンド、油槽所に対する影響力、価格などへの統制が及ぶことになります。  
 
 もう一つ、税の脱税を石油連盟のエタノール混合の反対理由に上げています。スタンドなりが多めにエタノールを混合する。例えば、97kLのガソリンに3kL混合すべきところを5kL入れて102kL販売する。税は100kL分しか納税せず、2kL分脱税する可能性があるというのです。
 
このような事が行われれば当然ガソリンの品質に影響します。ガソリンの品質は「揮発油等の品質の確保等に関する法律」で規制されており、エタノールも検査項目です。油槽所やスタンドは10日ごとに1回は品質検査を受けなければなりません。ただし元売りから「標準品質保証書」を交付されている系列スタンド・油槽所は検査が年に1回の軽減措置があります。つまり10日ごとの検査、年に36回検査をする独立系のスタンド、油槽所と年に1回の元売の系列では、どちらが石油連盟がいう混合を行い易いか。発覚し難いのはどちらかでしょうか。
 
昨年2006年10月、コスモ石油の系列特約店から灯油添加ガソリンが26のコスモのスタンドで販売されていたことが発覚しました。灯油が入ったガソリンは、エンジン内での異常燃焼で「カリカリ」「キンキン」と音が発生したりエンストを起こしやすくなり、利用者が困ります。エタノールでは、3%以上の10%混合でも特に問題は生じないのです。品質に関しては、系列スタンドなどに対する軽減措置の廃止、定期検査のほかに年に数回の抜き打ち検査を実施すればよいのではないでしょうか。
 
油槽所やスタンドでのエタノール混合で、困るのは元売り会社、石油連盟です。3%混合が行われれば、スタンドで100kLの混合ガソリンが販売されても、元売りが出荷するガソリンは97kLに減少することになります。ETBE添加では、元売りの販売量は減りません。  


コスモ石油|「サービスステーションにおけるレギュラーガソリン品質不適合」に関する調査報告について http://www.cosmo-oil.co.jp/press/p_061017_2/index.html 
 
エネルギー収支的に賢い利用法は?

 エネルギー収支的に見ればバイオエタノールは「地産地消」型のエネルギー源ですから、ブラジルなど海外からの輸入は非合理です。効果があるのは国内産です。農林業から出される間伐材やくず米などが主原料ですから、日本各地で製造されることになります。石油連盟のBTBE添加方式では、各地に点在するバイオエタノール製造施設から、日本に30箇所、それも川崎、横浜など臨海部にある30箇所の製油所に運んで、ETBEに加工し、ガソリンに添加して、また日本各地に配送することになります。(石油連盟では原油と同じくエタノールもタンカーでの輸入を考えている。) これに対し、エタノール混合方式では全国に470箇所ある油槽所や48000ヵ所余りのガソリンスタンドに運び込んで、混合して自動車に給油することになります。どちらが、エネルギー収支的に優れているでしょうか。  

 全農の調査によれば、新潟県には作付け放棄や米の生産調整で不作付け水田が7600haあります。現在の栽培法では約60,000tの玄米が見込まれ、それからエタノールが約2万6千kLできます。これは3%混合で約76万台のガソリン車の燃料に使える量です。例えば、上越、中越、下越、佐渡にエタノール製造施設をおくとします。石油連盟のやり方では、佐渡で作られたバイオ・エタノールは、タンクローリー車につめられ、フェリーにのり高速道路を通って川崎などの製油所に運ばれ、BTBEに加工され、ガソリンに添加されることになります。それから、佐渡に戻ってくる。佐渡のスタンドなり油槽所でエタノール混合した方が無駄がないのは自明です。  


コメを原料とするバイオエタノ-ル製造・利用等に関する調査事業実施結果について(環境省 第3回エコ燃料利用推進会議 資料)
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/biofuel/materials/rep_h1805/09.pdf
 
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エタノール利用の先進地ブラジルでは、2003年からフレックス車(FFV)がはしています。この車は燃料タンクに装備されたセンサーによって燃料のエタノールの量を把握し自動的にエンジンを管理するシステムを搭載し、ガソリンとの混合比率を問わないのです。2006年に、ブラジルで販売された車の約85%がフレックス車だそうです。ブラジルでは、混合比20%のガソリンと100%エタノールが給油所の同じ給油パネルで売られています。ですからフレックス車の利用者はガソリンとエタノールの比率を自由に変えることができます。1リットル当たりのエネルギー量はエタノールがガソリンよりも小さい、つまり力がでないのですが、サンパウロでのドライバーの聞き取りによると、使用感でのエネルギー差は感じられず、フレックス車では価格が安いエタノールを100%入れている人が多いそうです。(価格は生産地からの距離などによって地域で違う)現地に進出しているホンダは2006年暮からトヨタは2007年春からフレックス車の製造販売を始めるそうです。  

ブラジルにおける砂糖およびエタノールの生産・流通事情について(農畜産業振興機)
http://sugar.alic.go.jp/japan/fromalic/fa_0509d.htm 

ブラジルにおける砂糖およびエタノール関連調査結果(農畜産業振興機構)
http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0606a.htm

 このフレックス車、欧州でも導入されています、日本でも使ったらどうでしょうか。フレックス車では、油槽所での混合すらも不要です。例えば、新潟県には多くの食品工場があり、多くの食品廃棄物が出ます。これからバイオエタノールが出来ます。それを工場で使うフレックス車で使うのです。エタノールを輸送するエネルギーが不要ですから、エネルギー収支的には最も優れた使用法です。工場の外で燃料補給が必要になったら、フレックス車ならガソリンスタンドでガソリンを補給すればよいのです。問題がありません。
 
  先ほどの全農の調査から、3%混合で車1台分のエタノールは玄米約80kgで得ることが出来ます。エタノールと言うと何か特別な物質に思えますが、お酒のアルコール分、エチルアルコールと同じ物質です。バイオエタノールの製造法の原理は、お酒の醸造と同じです。廃材、間伐材、稲わらなどでは、含まれるセルロースを酵素で糖分に分解する前処理をしてアルコール発酵(醸造)するのです。100%エタノールは、言わばアルコール度数が100の蒸留酒です。
 
つまり、効率、採算などを問わなければ、誰でも出来ます。減反で休耕地を抱えた農家、食品廃棄物が多く出る商店、コンビニなど原料が手に入り、装置の設置場所さえあれば、誰でもエコ燃料、バイオエタノールは作れます。そして自分の車に使うのが、「地産地消」型のエネルギー源、エタノールの最も優れた使用法です。
 
  バイオ・エタノールは、その原料には食用にされない米などの農産物、間伐材などです。これらは、原油と違い薄く、広く分布しています。エネルギー収支的には、原料を集め、製造施設に搬入するためのエネルギーを少なくすることが肝心です。そのためには、施設を数多くつくり搬入距離を短くすることになります。それは施設の処理能力が小さくなることです、つまり小規模、多数、分散型の製造システムになります。(出来上がったエタノールも同じように小規模、多数、分散型で消費される使われることがエネルギー収支的には必要で、フレックス車(FFV)は一つの技術的回答です。)
 
  問題はエタノールは、車が飲めば燃料にもなりますが、人が飲めばお酒になることです。小規模多数の施設で作られるエタノールが100%お酒で消費されるというのは馬鹿げていますが、100%燃料になるというのも考えられません。それは密造酒と同じく、財務省のお役人からみれば酒税を納めていない脱税です。できれば、バイオエタノールは普及して欲しくないのではないでしょうか。
 
  バイオ・エタノールは、有力な省エネ・エネルギー対策や地球温暖化防止策です。また休耕田の活用などで疲弊した農山村を活性化する効果もあります。社会的には必要なことですが、これまで見てきたように様々な既得権益とぶつかります。技術的な問題は、その道のプロの方ががんばって解決してくれるでしょう。様々な既得権益の抵抗を排除するという社会的政治的な問題は、民主主義の日本では私たちの政治的意志で解決する問題です。温暖化問題に取り組んでいるアル・ゴア元米国副大統領は「温暖化対策に必要な技術的手段はそろっている。欠けているのは政治的意志だ。」その「政治的意志は再生可能な資源である」"Politicalでwill is a renewable resource" といっているそうです。日本に、貴方に、その再生可能な資源はありますよね。  
 

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