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「犠牲区域」のアメリカー②-2020/09/24刊行 [核のガバナンス]

「犠牲区域」のアメリカ 核開発と先住民族   著者 石山 徳子 著  岩波書店

刊行日 2020/09/24  ISBN-13 : 978-4000614221
内容紹介 続き ②

私はこれまで約二〇年にわたり、アメリカ大陸のウラン採掘、プルトニウム生産、核実験、高レベル放射性廃棄物処分といった、核開発の諸段階に関わる現場を訪ね歩いてきた。その大半は、政治・経済・社会資本が行き来するグローバル都市でも、快適な郊外でもなく、足を伸ばすには不便な場所に集中しており、いわゆる「辺境」に追いやられてきた先住民族の生活圏と重なっている。環境リスクにさらされる現場を歩き、人びとの声に耳を傾けると、核開発にはジェノサイドから始まる植民地主義の歴史や、人種や階級による制度的な差別が、幾重にも絡みあっていることがあきらかになった。
同時に、先住民族は自然と共生し、環境運動を牽引すべき救世主であるというステレオタイプや、核開発に常に抵抗する立場だという先入観、さらには、「加害者」対「被害者」、「人種差別的な行政、または、企業」対「差別に苦しむ有色人種」といった、単純明快な二項対立の図式は打ち砕かれた。
本書は、一九四〇年代に始まった軍事利用に加え、五〇年代以降は「平和利用」の分野においても先陣を切ってきた、アメリカ核開発の現場に展開する数々の事象、そして物語を、歴史的文脈に位置づけながら検証する。分析に際しては、とくに、アメリカの地理空間に根付き、また、これを創出してきた、「セトラー・コロニアリズム」の概念を一つのキーワードとしてみたい。
セトラー・コロニアリズムとは、入植植民地主義、もしくは定住型植民地主義と訳される。入植者たちが、移住先の土地に留まり、新しい国家を形成し、発展させていくためには、先住民族の排除、および不可視化が戦略的に必要だった。そしてこれは、建国前からアメリカに定着していた、奴隷制度の歴史とも密接に関連していた。セトラー・コロニアリズムは、先住民族の歴史的、空間的な経験の分析のみならず、アメリカという国家のあり方、社会、文化を理解するためにも不可欠の概念である。
目次
はじめに
一章 セトラー・コロニアリズムの国の核開発
二章 ハンフォード・サイト汚染される先住民族の聖地
三章 ハンフォード・サイトの記憶 不可視化される環境汚染
四章 ウラン開発とナバホ・ネーション
五章  ネバダ実験場の地理空間 大地に刻まれるクレーター
六章 骸骨の谷から見える未来七章 核開発とセトラー・コロニアリズム 環境正義への歩み
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そこで、一章では、アメリカ核開発がセトラー・コロニアリズムの文脈において、いかに発展してきたのか、社会的、概念的な背景をあきらかにする。
その上で、以下の章では、現場に根ざした事例について紹介していく。
二章と三章は、テネシー州オークリッジ、ニューメキシコ州ロスアラモスとともに、マンハッタン計画の拠点の一つとなったワシントン州ハンフォード・サイトの歴史地理を振り返る。
四章では、冷戦期に核エネルギーの生産に不可欠な原料であるウランの採掘、精錬現場となったナバホ・ネーション居留地の経験に焦点を当てる。
五章では、第二次世界大戦中から冷戦期にかけて行われた核実験の現場であるネバダ実験場、および一九八七年に連邦政府が高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地に指定した、ユッカ・マウンテンの事例を取り上げる。
六章では、中間貯蔵施設の建設計画の現場となったユタ州のスカルバレー・ゴシュート・インディアン居留地に目を向ける。
最終章では、核開発の各現場から見えてきた、先住民族の生活空間の破壊のプロセスと、彼らによる抵抗の営みについて概観した上で、持続可能な未来に向けた方向性を提示し、まとめとしたい。
続く

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