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「犠牲区域」のアメリカ 核開発と先住民族ー①-2020/09/24刊行 [核のガバナンス]

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著者 石山 徳子 著

岩波書店

刊行日 2020/09/24
ISBN-13 : 978-4000614221
内容紹介

核開発で汚染された土地に生きる、アメリカ先住民。その存在を不可視化する支配の構造と、抵抗の歩み。


二〇一六年五月二七日、バラク・オバマはアメリカ合衆国(以下アメリカ)大統領としてはじめて広島の地を訪ね、原爆投下の歴史を直視し、悲劇を繰り返さないように呼びかける演説を行った。
演説のはじめの部分である。
 七一年前、明るく、雲一つない晴れ渡った朝、死が空から降り、世界が変わってしまいました。閃(こう) (せん) 光と炎の壁が都市を破壊し、人類が自らを破滅させる手段を手にしたことを示したのです(『朝日新聞デジタル』2016)。
オバマはこの演説で、誰が空から死をもたらしたのか、何が世界を変えたのか、すなわち原爆を開発し、人類の破滅への道を急進させた主体を示さない言い回しを選んだ。
これでは、晴れ渡った夏空の下の広島で、三日後には長崎の街で、あらゆる生きものの大切な命と日常を奪い、慣れ親しまれた場所と景観を一変させた正体が何かはわからない。
原爆投下が一〇〇万人の命を救ったという神話が根強く残るアメリカの最高司令官としては、自国の政府の責任を認め、謝罪の言葉を述べることはほとんど不可能であり、市井の被爆者の悲しみや苦しみに言及するのが、政治的にぎりぎりの限界だったのであろう。

演説でうやむやにされた破壊の主体が、アメリカという世界随一の軍事大国であること、「偉大な国」を標榜しながら、国家形成の基盤に、植民地主義と人種差別の問題を抱えている国であることは、決して偶然ではない。核開発は軍事面、経済面で国家や企業に当面利益をもたらしつつ、科学技術面では未知の部分を多々残しており、核兵器と原子力による電力の生産は世代を超えて生態学的、社会的な環境リスクを増殖させる。
負の遺産としての放射性廃棄物に関しては、環境への影響のスパンは一〇万年を超える。
この長いプロセスにおいては、個々の現場、破壊の対象となる土地、生きとし生けるものの身体や共同体が危険にさらされる。国家や企業が、国の安全保障や経済発展という大義名分を掲げながら、核開発による環境リスクをどのような場所に負わせてきたのかを考えるとき、社会的な不平等と差別の構造や、切り捨てられてきた弱者の存在が浮かび上がってくる。

複雑に交差する数々の物語に触れるなかで、私は地理学者として、政治経済、法体系、文化、歴史との相互関係において、核開発の基盤を形成し、これを前進させてきた「場所」や「空間」を読み解く作業を通じて、分析を試みることにした。
いくつかの事例からは、それぞれ違った歴史や個性を持つ現場を結びつける、共通項が見えてきた。それは、先住民族をはじめとする有色人種や貧困層を周縁化し、彼らが生活基盤とする土地を、「国の犠牲区域」の空間構築に組み込んでいく社会構造である。アメリカ地理と核開発は、あきらかな共謀関係にある。
続く

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