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最高裁研究会での規制委の新基準などのH24資料 [核のガバナンス・裁判]

平成25年2月12日の最高裁事務局主催の特別研究会(複雑困難訴訟)の議論の取り纏めの抜書き
court_004-001.jpg 講師 大学大学院教授 2名
     弁護士
     法務省大臣官房審議官 中山 孝雄
     新聞社論副委員長

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NPO法人(特定非営利活動法人)
情報公開クリアリングハウス
http://clearinghouse.main.jp/wp/

◎ 審理運営の在り方
(3)現在進行形で進められている調査、研究や安全基準の策定等を視野に入れて、審理運営をどのように考えるべきか。【提出問題2、3】
(講師) 繰り返しになるが、原告側にとっての当面の焦点は、新しい安全基準、指針に対してどう働きかけて意見を反映できるかということであり、その指針に基づいてされるであろう見直し作業において、審査の過程に多様な意見がきちんと反映されるかどうかということも含め、適切な経過をたどるかどうかに注目していくということではないか。その折々に力点を置かなければならないことがあり、何でもかんでも裁判所に判断を求めるというやり方は採るべきではない。原発訴訟に関しては、今は司法が動く、あるいは、原告側が司法を動かすという時期とは思わない。そういう意味で、新しい安全基準がきちんと策定されてその判断が出るまで、原発訴訟はしばらくお休みしましょうというのも一つの見識であると思う。原子力規制委員会の判断においてふるい分けられた結果として残ったものについては裁判所に持ち込まれることになると思うが、今はそのふるい分け過程であり、適切なふるい分けがされるかどうかということに力を注ぐべきである。

(講師) 原子力規制委員会が策定中の安全審査基準は、福島第一原発事故の知見も取り入れ、おそらく確立された国際的な基準を踏まえたものになるのではないか。そうすると、現在の科学技術水準を把握する上でも、同委員会が策定する審査基準は影響を与えると思うので、審査基準ができる7月を持つ必要があろう。
  また、遅くとも7月19日までに施行される改正原子炉等規制法では、めぼしいものとして二つの制度が導入されるようである。あくまで条文のレベルでの話だが、一つは、いわゆるシビアアクシデント対策が設置許可基準の中に人ってくることである(同法43条の3の5第2項10号、43条の3の6第1項3号)。旧法に基づいてされた原子炉設置許可は,改正原子炉等規制法に基づいてされた処分とみなすという規定が置かれているが(原子力規制委員会設置法附則22条1項)、改めて事業者にシビアアクシデント対策について届出をさせて、原子力規制委員会の審査を経て、基準(改正原子炉規制法43条の3の6第1項2号から4号まで)に適合しないときは、届出に係る事項について変更を命ずることができるという制度が設けられている(原子力規制委員会設置法附則23条1項)。その届出を怠り、又は変更命令に違反したときは、設置許可の取消し等もできる(同条5項)仕組みが作られている。もう一つは、シビアアクシデント対策をクリアした場合も、原子炉施設が改正原子炉規制法43条の3の6第1項4号の基準に適合しないと原子力規制委員会が認めたときは、これに適合させるため、いわゆるバックフィット命令という形で、原子炉の運転停止、改造又は移転等を命ずることができ(同法43条の3の23第1項)、その命令に違反したときも原子炉設置許可の取消し等ができるようになっている(同法43条の3の20第2項4号)。

  いわゆる3条委員会として独立性,中立性を保って権限を行使する原子力規制委員会が、これらの制度について、どのような判断、運用をしていくのかを見守る必要があるのではないか。

  行政訴訟の要件論で却下できるような訴訟や,民事訴訟として不適法な訴訟については、粛々と判断すればよいであろうが、原子炉設置許可取消(無効確認)訴訟については、相当慎重な姿勢で審理し、原子力規制委員会の規制の実情をフォローしていきながら、訴訟を進めていくべきである。

(講師) 伊方原発最判のいう「現在の科学技術水準に照らし」て妥当な線は何かということをまさに今議論している最中なので、裁判所は、基準が策定され、再稼働に関する判断がされるまで基本的には待つべきである。伊方原発最判の枠組みによると、基準の合理性と当てはめの合理性を現在の科学技術水準に照らしてまず被告が証明しなくてはならないということだが、現在はそれができず、被告にとって極めてシビアな状況にある。他方で、伊方原発最判においては、現在の科学技術水準に照らして合理性がないときにどうするかまではっきりとは言っていない。新しい原子炉等規制法が設けたバックフィット命令等の制度の趣旨にかんがみると、現在の科学技術水準に照らして基準等に合理性が認められないという判断をしたからといって、裁判所が今いきなり設置許可の取消しという判決まで本当にできるのかという問題がある。仮に、現時点で裁判所が判断を下しても、当事者、裁判所のいずれにとっても納得のいく解決が得られない状況にあるので、裁判所はもう少し待つべきではないかと思う。

(講師) 同様に、裁判所は判断を待つのが妥当であると考えている。再稼働の差止めだと、おそらく新しい基準が出てからそれに照らしてということになるのだろうし、そうするとそごまで急ぐ必要はないところもあるだろう。また、動いている原発の差止めの場合でも、本当に急がなければならない危険性があるというのでなければ、そこまで審理を急がなくてもいいのではないかと思う。 7月に安全基準が出た後に当事者からそれに対する主張が出るだろうし、外部のいろいろな議論もあるだろうから、また時間がかかるかもしれないが、あまり急がずに慎重にやるということになるのだろうと考えている。

(講師) 同様に、今は司法が動くときではないと思っている。今ストップしている原発の再稼働の是非を判断するときに、まず原子力規制委員会が結論を出すわけだが、それが最終結論になるのか、あるいはその先にまた政治判断が絡むのか、というところが今の時点でははっきりしていない。さらに、原発付近に活断層があるかどうかという新たな要素が加わってきて、これも最終的な再稼働の是非の判断を左右してくるのだろうと思う。要するに、現在,原発を動かすかどうかというルールが確立されていない状況にあり、そうした中で、個々の裁判官、裁判所が独自の判断を示していいのかという素朴な疑問が当然出てくるわけである。この時点で、個々の判断を示して判決を出すというのは、結果的に国の今後の原発政策の中で混乱をもたらすということになるのではないか。

(研究・裁判官) 原告がどういう形で行政訴訟を起こすのかについてはいろいろあり得るが、一つの形態としては、現に動いている原発について。電気事業法40条に基づく運転の停止命令の義務付け訴訟があり得る。これは、新基準が策定されると判断の枠組みが変わり得ることから、新基準を待って判断すべきであると思われる。例えば、現行の基準だと基本設計に関する基準に入れるのかどうかも争われる事項が、新基準ではそれも基本設計の範囲に取り込まれて、新基準の中で基本設計に関する基準の違反の問題として主張されることも生じ得る。そういう観点からも、新基準を待ってからの判断になるべきであると思っている。

(研究・裁判官) 今動いている原発の運転差止めを求める仮処分事件が係属したときのことを想定すると、新基準を踏まえた審理をするかどうかということが一つ重要な判断になってくると思う。仮にこれを待つとすると、例えば7月に新基準が出たとして、そこから審理しても例えば半年や1年はすぐに経ってしまうのではないか。そういったことが見込まれ、債権者(周辺住民)が直ちに止めて欲しいとして民事保全の申立てをしている中で、保全の迅速性との折り合いをどう付ければよいのかというのは、かなり悩ましいところであると思われる。

(研究・裁判官) 保全となると迅速性が求められるが、とはいえ、今、判断の対象となる基準が策定されているわけであって、その中でどのように判断するのか。原子炉は13か月ごとに定期検査に入るので、今動いている原発もおそらくしばらくすると定期検査に入っていくという状況もある。

(講師) 判断を待っていいというのはあくまでも原発が止まっているということが前提であり、自分が原告や債権者の立場であれば、現在稼働しているものについては、これらが福島第一原発事故を踏まえた現在の知見に照らし安全性の面できちんとクリアできているのかどうかということにつき、再稼働させた側の合理的説明がされているのかという観点で、裁判所に判断をするよう求めると思う。

(講師) 民事保全の場合は保全の必要性のみならず被保全権利の問題があり、保全の必要性が強いから被保全権利は疎明が弱くてよいという話にはならない。保全の必要性との関係では、債権者側が主張する差し迫った危険は確かに極めて重大なものであると思うが、それだけでなく、原発を動かさなければならない側の事情も考えなければならず、結局は被保全権利の問題をきちんとやらなければならないと思う。債権者側からあくまで現在の知見でやってくれといわれても、裁判所としては、判断を示すことはなかなか大変ではないかと思う。ただ、私は実際の双方当事者の主張や疎明資料の内容を承知しているわけではないし、現時点で判断を示すべきなのか示すべきでないのかについて確たる意見を申し上げることができない。仮処分命令の申立てを受けている裁判所が、本案訴訟での審理とは異なる手続運営を当事者から求められることは、今のご発言をいただいて理解できたので、民事保全では、裁判官の方々が、訴訟にもまして大変な判断を迫られていると想像している。


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