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マンキューソ研究、ミラム研究 めも原爆被曝者手帳⑦ [原爆被爆者援護法]

ハンフォード工場労働者での研究
1960年代前半、アメリカ原子力委員会(AEC)は、いわゆる許容線量以下の低線量被曝では健康障害は発生しないことを科学的に証明する社会的必要があった。ICRPは公衆の被曝線量限度の数値設定を1958年勧告で行ったが、それは年間5mSv。原爆被爆者のように爆発と同時に出た「初期放射線」で高線量を浴びていない、年間5mSv以下の「低線量」の被曝者、個々人の被曝線量が明確で推定に頼らなくても済む「低線量」の被曝者で健康障害は発生しないことを科学的に証明する研究を開始することにした。選ばれた被曝者はハンフォード工場で働いていた厖大な労働者である。
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ワシントン州のハンフォード工場は連邦政府所有地内に1942年戦時中に建設、操業の兵器級プルトニウム製造工場で、連邦政府所有運営になるリッチモンドという町が作られ、工場運営従事者、労働者とその直近の家族約1万7000人が居住した。1963年には、9基の原子炉がコロンビア川沿いに配置され、5基の処理施設が中央部分に、全部で900棟のビルがあるような巨大な施設になった。一時は5万人の人々が働き、労働者はフィルムバッジをつけており個々人の被曝線量が管理され明確で記録されていた。1987年に操業終えて放射性廃棄物の貯蔵施設(核のゴミ捨て場)となったが、深刻な環境汚染問題を起こしている。2017年5月9日にも保管していたトンネルが崩壊し、従業員数百人に避難命令が出され、エネルギー省が非常事態宣言している。
マンキューソ研究
1965年、AECはこうした目的をもった研究をトーマス・マンキューソ(Thomas Mancuso)に依頼した。マンキューソは、全米にかくかくたる名声と実績を築いていた疫学者で公衆衛生の専門家。約50万人を対象とし、就労後に全米に散らばったハンフォードの労働者は、ソーシャル・セキュリティ番号(社会保障保険番号)で追跡して情報を収集するなどといった方法で研究を開始した。
ミラム研究
その研究途上の1974年に、ワシントン州政府の健康・社会サービス局の医師サムエル・ミラム(Samuel Milham Jr.)が公衆衛生を司る科学者の立場から、ワシントン州市民の健康の敵となる要因を見つけ、これを社会から葬り去ろうという目的で行った研究が公表された。1950年から1971年の間にワシントン州で死亡した30万7828人について疫学的研究を行い、ハンフォード工場で働いたことのある労働者の死亡率が、そうでない労働者よりも25%も高かったと言う異常な事実を発見し、その研究が公表された。ミラム医師は1968年から1986年までワシントン州健康・社会サービス局の疫学部の部長をつとめた。まさにワシントン州市民の健康の守護者、護民官としての研究である。
ワシントン州のハンフォード工場のために作られた住宅都市リッチモンドの、アメリカ原子力委員会管轄下のハンフォード工場で働いた人たちでは、がんによる死亡が増加していたことを示した。特に64歳以下で死亡した男性に顕著である。過剰ながんは舌、口腔、咽頭、結腸、膵臓、肺、骨によく見られた。またがん死は同時に再生不良性貧血、筋萎縮性側索硬化症においても見られた。ハンフォード工場では、ほとんどで発癌性が証明されている一連の放射性物質を取り扱い、加工し、製造し、貯蔵しているため、こうした物質が過剰ながんの発生源である。(Statement of Samuel Milham, M.D. Effect of Radiation on Human Health 1978.)
原子力委員会AECは、74年のミラムの調査結果を否定するためにハンフォードの被曝労働者には放射線の有害な影響はなんら認められない、という報告を急いで発表するようにマンキューソに働きかけたが、マンキューソは断っている。マンキューソの研究に較べ、“建設労働者は工場内操業労働者よりも被曝量が大きい。”(マンキューソ)から何度も要求したが、契約外だとしてずっとAECが提供を断ってきた建設労働者のデータを含み、マンキューソがまだ入手していない最新の死亡に関するデータに基づいた研究である。ミラムの研究結果を否定することは出来ないし、マンキューソの研究が未完であったからである。

これで、AECはスポンサーの指示・依頼に従わないマンキューソとの関係を断ち切ることにした。翌75年3月に研究費の打ち切りを決定した。マンキューソは資金源を絶たれたが、研究は継続した。長い研究の結果を1976年に公表した。

「低線量内部被曝」では
それでは、放射線のリスクはICRPやT65Dに基く広島・長崎のリスク評価などの評価値のおよそ10倍であった。広島・長崎の被曝は初期放射線の被曝、γ線と中性子線での「高線量」の「外部被曝」であるとして、残留放射線と放射性降下物による「低線量」「内部被曝」は埒外に置かれた。考察の視界から外された。それに対しハンフォード工場労働者の被曝は、そのほとんどが年間5mSv以下の「低線量」で放射能を体内に取り込む「内部被曝」である。埒外に置かれた領域では、放射線のリスクはこれまでの評価値のおよそ10倍であった。

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コメント 1

ss

貴重な情報をありがとうございます。
by ss (2019-03-19 01:57) 

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