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シーベルトの胡散さ ヨウ素剤検討会『2001.11.13、第4回』メモ [防災‐指針・審議会]

原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会 ヨウ素剤検討会|原子力安全委員会
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/youso.htm
  議事次第/配布資料/速記録 の案内
7回全部 http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-27-8

 『2001.11.13、第4回』の議事録を手掛かりに

シーベルトの使える範囲

シーベルト(Sv)は放射線が「人間」に当たったときにどのような健康影響があるのかを評価するために考案されたが、その使える範囲が小さそうだ。

放射線とは
原子核は中性子と陽子から成る。陽子はプラスの電荷を帯び近接して置くことができないので、中性子を間に入れ、中性子と陽子を核力という力で縛り上げている。この3者が長い期間、安定的な陽子の個数、中性子の個数などを保てる状態、アンバランスで不安定な状態がある。不安定原子核は様々な形態のエネルギー等を出して安定した状態に移行する。

 例えば、蛍光塗料、色素は紫外線などの光エネルギーを照射され吸収すると励起と云う不安定な状態になり、直ぐさま大概10億分の一秒単位の時間内に、可視光線など長い波長の光を放出する。放出されるものには空気など気体を正の電荷イオンと負の電荷の電子に分離・電離する能力をもつものがある。これが放射線。

放射線_.jpg


 放射線は、光子フォトンphotonの電磁波、波長の極短い周波数の高い光のγ線。電子electronのβ線。中性子2個と陽子2個のヘリウム原子核と同じものが出てくるα線等がある。β線を出した原子核は中性子が1個無くなり陽子が1個増えている。つまり中性子+陽子の数の質量数は同じで、原子番号が一つ増えて変わる、別の元素になる。これをベータ崩壊という。α線は質量数が4つ減り原子番号が2個減る。これをα崩壊という。γ線を出しても、中性子数や陽子数は変わらない。原子核の質量数、原子番号は変わらずエネルギー状態が変わるγ遷移(崩壊)。原子核のエネルギーの減った分=γ線のエネルギー。最終的には基底状態という最も安定したエネルギー状態になる。

 α崩壊では、崩壊前の原子核の質量ネネルギー=新しく出来た原子核の質量ネネルギー+アルファ粒子(アルファ線)の質量ネネルギー+アルファ粒子の運動エネルギー(エネルギーを失って止まると電子を奪いヘリウム原子になる)
 β崩壊では、崩壊後の電子の運動エネルギー<中性子の質量の減少。何処へ行ったか?「β崩壊は原子核内の中性子が陽子と電子を放出しさらに中性の粒子も放出する」(エンリコ・フェルミの仮説、1932年)が出され、後に確認された。中性の粒子はニュートリノと名付けられた。式で書くと、(中性子‐陽子)差分の質量エネルギー=β線のエネルギー+ニュートリノのエネルギー+新たな原子核のエネルギー状態。

220px-Cs-137-decay.jpg


 α崩壊、β崩壊では、崩壊をしてできる新たな原子核が、大概の場合最も安定したエネルギー状態の基底状態にはならず、よりエネルギーの多い状態になる。それで、基底状態にγ線でエネルギーを放出して遷移する。β崩壊で直ちに基底状態の原子核になるのは、ストロンチウム90からイットリウム90への崩壊、セシウム137のバリウム137への崩壊の5.4%など。セシウム137は94.6%の確率で0.5120MeVのエネルギーをβ線(電子)+ニュートリノで放出し、エネルギー状態の高いバリウム137に壊変し、更に0.6617MeVのγ線をだして基底状態のバリウム137に遷移する。その放射線を測定し、セシウム137の有無や量などを調べる。

イオン化01.jpgeV_.jpg 

放射線は正の電荷イオンと負の電荷の電子に分離・電離する能力をもつから、正イオンと自由電子対、1対あたりの生成エネルギーから放射線の力を強さを定義できる。表す単位として電子ボルト(eV、electron voltエレクトロンボルト)がよく用いられる。1電子ボルトは電子(e)が1ボルト(V)の電圧で加速されて得られる運動のエネルギーを表している。エネルギーの基本の単位であるジュール(J)との関係は、10の19乗
(壱百万兆)eV÷1.6=1J。

逆方向の見方、放射線に照された物質に与える、物質の吸収するエネルギー量で放射線の量や強さを表すこともできる。吸収線量と云う。物質1kgあたりに1ジュールのエネルギーをGyグレイの大きさと国際単位系・SI単位系はする。センチメートル (centimetre)・グラム (gram)・秒 (second) を基本単位とする物理学の単位系のCGS単位系では、その100分の一をradラドとしている。

グレイGy_.jpg

透過力
また、放射線か物体に当たった点からどれくらいの長さ、深さまで到達するのか。

無機物

hikaku.JPG
人体
透過力・人体_.jpg

このように、1Jジュールのエネルギーのγ線、β線、α線を照射した場合に、10㎠で厚さ20cmの処の人体に照射した場合には、α線は10㎠の皮膚(角質層)の部分、β線は10㎠の厚さ1㎝の部分で1Jのエネルギーを与えて人体を構成する分子や原子を分離・電離して停止し、α線は周りの電子が着いてヘリウム原子に、β線は自由電子られる。γ線は10㎠の厚さ20㎝の部分に1Jの半分程度のエネルギーを与る。放射線のエネルギーのあと半分は透過してしまう。分離・電離される生体の分子や原子の分布範囲がこんなにも違う。1kgあたりに1ジュールのエネルギーのGyグレイ単位で同じ量になるよう照射量を調整して分離・電離される生体の分子や原子の数や量を同じにしても、分布範囲の狭広は変わらない。

シーベルト
物が吸収した放射線からのエネルギーを表すGyグレイは、物が生きていようが死んでいようが問わない値だ、測定だ。放射線が「人間」に当たったときにどのような健康影響があるのかを評価するためにシーベルト(Sv)が考案された。人間の各部位(臓器等の組織)の吸収線量(グレイの値)を求め、受けた放射線の種類による違いを放射線加重係数で重み付けをして(α線=10、β線=1=γ線)、体の部位ごとの違いを組織加重係数という係数で重み付けをして掛け合わせて求める値だ。

シーベルトの式_.jpg


 γ線が全身に均等にあたった場合には、例えば1グレイのガンマ線を全身に受けた場合、1シーベルトとなる。β線が全身に均等に1グレイあたった場合も、1シーベルト。分離・電離される生体の分子や原子の分布は、γ線では全身至る所で、β線は皮膚と直下厚さ1㎝の部分限定。明らかに違い健康影響も違って現れるだろう。発癌のリスクは、体内に進入してエネルギーを付与するγ線の方が大きいだろう。けれどもシーベルトでは同じだ。またβ線被曝でもβ線源が血中にある場合、内部被曝ではまた違うだろう。それはシーベルトで表現されるのか。数値の違いに顕れるのか??
 体重10kgの幼児が全身に均等にγ線で10Gy被曝した例と体重40kgの少年が全身に均等にγ線で10Gy被曝した例では同じシーベルト値になるが健康影響は違って現れるだろう。

β線被曝ー放射性ヨウ素で見る
放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被爆は、被曝時間の違いが出てくる。「I-131のベータ線の平均エネルギーは181.9[keV]であるのに対して、I-132のベータ線の平均エネルギーは485[keV]」と1対2.66。https://ndrecovery.niph.go.jp/?record_id=1001&mode=index

 両者が3か月90日で同じGyグレイ値で甲状腺にβ線被曝するような吸入した場合で思考実験してみよう。Gy値が同じだからシーベルト値も同じ。できる分離・電離される生体の分子や原子の数や量や分布範囲もほぼ同じ。
 違うのは放射線の出る期間だ。I-132の半減期は約2.3時間だから、吸入後24時間で99.9%は崩壊して放射線を出している。甲状腺のβ線被曝もこの期間に集中する。I-131の半減期は約8.02日、3か月90日で99.9%崩壊し放射線を出す。同じGy値だから1回の崩壊でのエネルギーが小さい分、出る回数、本数、ベクレルは約2.66倍だが、吸入後24時間では大した率、量にはならない。できる分離・電離され壊れる生体の分子や原子の数や量は吸入後24時間ではI-132に較べ遥かに小さい。

 放射線の生物学的効果は、同一の吸収線量であっても線量率を下げて時間をかけて照射すると生物効果は減弱する。これを線量率効果というが、放射線が照射中や照射後におこる細胞の修復機能での回復によると考えられている。修復機能が間に合わず回復しない損傷は、損傷発生が期間集中するI-132に較べ長期間に損傷がおこるI-131のβ線被曝の方が少ないだろう。従って健康被害の顕れ方が違うだろう。NCRP米国放射線防護審議会の見解では、甲状腺ガンのリスクが3倍ちがう。グレイ当りの、シーベルト当りの甲状腺ガンのリスクが、I-131の内部被曝の3倍、I-132の内部被曝ではあると評価している。線量効果を3倍にする(その逆数の線量効果低減係数は1/3)と設定している。

このように同じ原子番号で化学的生物学的振る舞いが同じ核種での内部被曝では、特にβ線被曝では同じシーベルト値でも健康被害の現れ方が違うだろう。ドイツのSSK(Strahlenschutzkommission、放射線防護上のドイツ委員会)が、2014年勧告で述べている様に同じ原子番号、同じシーベルト値でも「最近の調査結果に合うよう調整すること」が不可欠だろう。少なくとも「シーベルトの値を求めれば、健康影響の評価や比較が可能、簡単に行える」と構えるのは能天気に過ぎると云える。

2001平成13年11月13日の第4回ヨウ素剤検討会での検討は、先のNCRP米国放射線防護審議会の見解を非現実的なものとして扱っている。再検討が必要だろう。



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