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致死割合と致死がんの発生確率④DDREFヨウ素剤検討会『2001.11.13、第4回』メモ [防災‐指針・審議会]

原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会 ヨウ素剤検討会|原子力安全委員会
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/youso.htm
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7回全部 http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-27-8

 『2001.11.13、第4回』の議事録を手掛かりに

DDREF
ICRPは1990年のPub.60で、DDREF(dose and dose-rate effectiveness factor)という観念を持ち込んだ。
全身被ばくで0.2Gyグレイ以下の吸収線量、または、線量率が0.1Gyグレイ毎時未満の「低線量・低線量率における影響の確率の推定値を得るために高線量・高線量率における低LET放射線(γ線、β線の事)についてのデータを解釈するにあたって非直線性を考慮に入れることは、放射線防護の見地からは正しいとする十分な根拠があると結論した。」つまり高線量・高線量率の線量反応が、そのまま続く直線性はないとした。2007年勧告では「高線量・高線量率で決定されるがんリスクから低線量・低線量率に適用されるリスクを予測するため、」に用いるとされている。

「委員会は、高線量・高線量率における観察から直接に得られる確率係数を1/2に減らし、必要ならば細胞死の効果を考慮して修正することに決定した。」「委員会は、この低減係数をDDREFと呼ぶ。」DDREF(dose and dose-rate effectiveness factor)は、線量・線量率効果係数と訳されている。1/DDREF=1/2だから、DDREF=2。

 「データには大きな散らばりがあり、委員会は、この数値を選んだことはやや恣意的であり、多分保守的かもしれないと認識している。」とある。2007年勧告では「一般的に、これらの低線量・低線量率におけるがんリスクは、疫学、動物及び細胞に関するデータの組合せから、DDREFに依るとされる係数の値だけ低減されると判断される。委員会は1990年勧告で、放射線防護の一般的な目的にはDDREF=2を適用すべきであるという大まかな判断を下した。(70項)」と評価している。

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2007年までの研究蓄積から、BEIRⅦではDDREF=1.5
 1990年から2007年と約17年経っているから、疫学、動物及び細胞に関する新たな研究、データが蓄積されている。米国科学アカデミー(NAS)/米国研究評議会(NRC)の放射線影響研究評議会(BRER)内の1つの下部委員会で「電離放射線の生物学的影響」に関する委員会「BEIR VII委員会(NAS/NRC、2006)は最近、ベイズ統計解析によってDDREFに関する放射線生物学的証拠と疫学的証拠を組み合わせた。用いられたデータセットは、a)LSS(広島・長崎原爆被爆者の寿命調査 Life Span Study)の固形がん、b)動物のがんと寿命短縮、である。これらの解析によるDDREFの最頻値は1.5、その範囲は1.1から2.3までであり、このことからBEIR VII委員会は1.5という値を選択した。(2007年勧告の72項)」

 ICRPは「委員会は、実験データの線量反応の特徴、LSS、及びその他(NCRP、1997;EPA、1999;NCI/CDC、2003;付属書A)が実施した確率的不確実性解析の結果に基づいて、大まかな判断の使用を続けることに決定した。(71項)」その理由は「2というDDREFは、依然として、(BEIR VII委員会で)使用されたデータ及び実施された解析と矛盾しない。」BEIRの解析ではDDREFは1.1から2.3までであり、大きい方の2でも矛盾はない。大きい方を選択したのは「当委員会は、付属書Aから、遺伝子及び染色体の突然変異の誘発に対して、DDREFの値は一般に2~4の範囲に入り、また動物のがん誘発と寿命短縮に対しては、DDREFの値は一般に2~3の範囲に入ることに注目している。(72項)」

2012年の被曝者の寿命調査LSS14報
2007年以降も研究は続いている。

放射線影響研究所が2012年発表した「寿命調査LSS 14 報」は、動物のがん誘発と寿命短縮ではなくヒトでの原爆被爆者の1950–2003年の死亡率に関する研究である。(放影研報告書 RERF Report, RR、RR番号 4-11)
原爆被爆者の集団である寿命調査集団(LSS コホート、約94,000人の被爆者と、約27,000人の非被爆者から成る約12万人の対象)で追跡(調査)期間を前報(2003年公表、RR番号 24-02)から 6 年間延長し1950–2003 年の間に58%が死亡した。がん死亡が17%増加、特に被爆時年齢 10 歳未満の群で58%増加した。

 放射線量と関連して全死亡のリスクは有意に増加。固形がんに関する付加的な放射線リスクは、線形の線量反応関係を示し、生涯を通して増加を続ける。全固形がんについて、線形モデルに基づく男女平均の過剰相対危険度は、30 歳で被爆した人が 70 歳になった時点で 42%、被爆時年齢が 10 歳若くなると約29%増加した。0–0.2 Gyの線量範囲で全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる。

 定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。

 非腫瘍性疾患では、循環器、呼吸器、および消化器系疾患でリスクの増加が示された(因果関係は今後研究)、感染症および外因死には放射線の影響を示す根拠は見られなかった。

このように被爆時年齢 10 歳未満の幼児期に原爆被曝をした人が発がん年齢になってきて、線量―影響関係の線量関係の直線性、線形性が前よりも明瞭となっている。DDREF も 1 より少し大きい旨の記述あり。

この「寿命調査LSS」には、比較対照群(コントロール)とした集団、「実質上被ばくしていない」とする集団に原爆の放射線は2キロ以上の遠距離には届かないし「放射性降下物による被曝は無視できるとして遠距離被爆者を用いている」「リスクに大幅な過小評価」と批判されている。確かに1962年第1報で「非被爆者の死亡率は被爆者あるいは日本全国の平均と比較して異常 に低いことが注目された。」「非被爆者群では特に結核お よび癌の死亡者が少ない。」「非被爆者は明白に、あるいは潜在的に医学的選択を受けていることが今回の資 料からうかがえる。」と評されている。(広島医学 15:1397-422, 1962)
ただし、第14報には「除いたもので評価した」と書いてある ( 表 1 の註 ) 。

 DDREFは1.1から2.3までのうち、ICRPは遺伝子及び染色体の突然変異の誘発や動物実験のがん誘発と寿命短縮結果からDDREF=2の方が妥当と2007年勧告では評価しているいるが、5年後に公表された原爆被爆者の寿命調査は1 より少し大きい。ヒトでの知見がより重要だから、2は適切とは言えず、米国のBEIR VIIのDDREF=1.5やドイツのSSK(Strahlenschutzkommission、放射線防護上のドイツ委員会)の2006年勧告のDDREF=1の方が適切といえる。

 2014年2月にSSKは、「現在の科学的知見に基づき、最早、放射線防護で用いられる DDREF についての正当化が十分であるとは見なさない。」「DDREFを廃止、またはより最近の調査結果に合うよう調整することを勧告する。」(http://www.ssk.de/SharedDocs/Beratungsergebnisse_E/2014/DDREF_e.html?nn=2876278)とドイツ連邦環境省に勧告している。

高線量(全身被ばくでの吸収線量>0.2Gyグレイ)、高線量率(線量率が0.1グレイ毎時以上)の被曝領域では、癌の死亡率(自然がん死亡率)の増幅は全年齢で一般人の場合10% /Sv、作業者集団の場合 8% /SvとICRPは評価している。より低線量・低線量率領域では、DDREF= 2 を適用して、増幅(名目致死確率係数)は作業者で4% /Sv、一般人で5% /Svとしている。
DDREF= 1ならば、増幅(名目致死確率係数)は作業者で8% /Sv、一般人で10% /Sv。
DDREF= 1.5を適用するなら、増幅(名目致死確率係数)は作業者で5.33% /Sv、一般人で6.66% /Svと計算される。


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