SSブログ

原子力災害対策指針(改定2015年4月)新潟県vs原子力規制委員会(5)ガラパゴス的防災対策 [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]


原子力規制委員会は「予測手法やその精度如何にかかわらず、施設の状態に基づいて予測される放出源情報や気象予測をもとに拡散予測を行い、その結果を踏まえて防護措置の実施を判断する場合と比べて、施設の状態等に基づく判断の方が、より迅速かつ的確に防護措置を実施することができます。」としています。この防護措置とは原子力災害対策指針(防災指針)の図1防護措置実施のフローの例を見ると、1週間以内に採られる事と避難、一時移転、屋内退避、安定ヨウ素剤投与、飲食物摂取制限、除染を指しています。「施設の状態等に基づく判断」の「等」は、緊急時モニタリングと飲食物スクリーニングと体表面汚染スクリーニングのことです。これで文を再構成すると、
(A)「予測手法やその精度如何にかかわらず、施設の状態に基づいて予測される放出源情報や気象予測をもとに拡散予測を行い、その結果を踏まえて一週間以内の避難、一時移転、屋内退避、安定ヨウ素剤投与、飲食物摂取制限、除染の実施を判断する場合」と(B)「施設の状態、緊急時モニタリング、飲食物スクリーニングと体表面汚染スクリーニングに基づく判断により一週間以内の避難、一時移転、屋内退避、安定ヨウ素剤投与、飲食物摂取制限、除染の実施を判断する場合」を較べてる。その結果、後者の(B)方が「より迅速かつ的確に実施」と評価した。
迅速というのは何分

過酷事故に至る事故研究では、事故を幾つかのグループにわけている。事故のたどる経過、おきる出来事の一連続・順序(シーケンスsequence)で分けている。その研究結果では事故発生から格納容器が過圧破損して環境中に放出されるまでの時間に長短、時刻の遅い早いがある。したがって、判断を下すタイミング、締切時刻も遅い早いがある。だから「より迅速」と程度の問題ではなく、何時まで、事故発生からの時刻が問題である。同じ”全面緊急事態”であるが、事故シーケンスによってさらに違いはある。
 規制委の更田委員のように「事故において、どういった放射性物質がどれだけ、いつ、放出されることを事前に知ることができるなどというのは、これは完全に安全神話に過ぎない。」と云う考えの方には、こうした研究は無価値だろうし、以下の議論は無意味だろう。
1346878151b.jpg
1346878273-504a8.jpg

BWR沸騰水型は制御棒が下から炉心にはいらない事故シーケンスのグループ5(図でCスクラム失敗の記号が付いている)が概ね1時間から2時間、LOCAと高圧注水喪失と低圧注水喪失が重なるグループ3は概ね6から40時間。これだけ差があると「より迅速」と程度問題ではなく、凡その時間=事故発生からの時刻が問題である。

 防護措置を実施だから、①発令時刻 ②受領時刻 ③開始時刻 ④完了時刻のうちの④完了時刻が、放射能が環境中に放出されてPAZやUPZに到達するする前の時刻でなければならない。放出された放射能は風に乗って運ばれるから、様々な時間、時刻になる。ここでは過圧破損して環境中に放出される時刻としよう。
 ①発令時刻から④完了時刻までの時間は、避難、屋内退避、安定ヨウ素剤投与等の防護措置ごとにシュミュレーションや試験等の手法で推定できる。過圧破損して事故炉から放射能が環境中に放出される時刻から、その時間分だけ前の時刻が①発令時刻で判断を下す締切時刻である。
 安定ヨウ素剤投与なら、乳児や3歳児未満の保護者の手に渡った時点が完了時刻㋔。屋内退避なら建築で遮蔽の低減係数が高く放射能微粒子の摂取を阻害する防護係数が高い建物に病院の入院患者や介護施設の入所者、避難出来なかった人々などが参集し、退避が完了する時点㋓や目張りなどが終えて気密性を高めて同等の遮蔽ができる様になった家屋に籠城準備ができた時点が完了時刻㋒。避難は、0~30 ㎞圏内の住民の90%が30 ㎞圏外に離脱するまでに要する完了時間㋐とPAZの人たちが確定的影響を避けれるであろうPAZから出た時を完了時点㋑とする。
避難では 
 その避難完了までに沸騰水型の東電・柏崎刈羽原発で㋐12時間㋑5時間半と評価されている(ETE)。図で見ドラエモン.jpgると、㋐12時間はグループ5除くと過圧破損していない事故シーケンスが多い。この場合は「迅速」が大切だから、どれ位なのかが問題になる。もっとも東電福島第一(1F)1号機2号機3号機も過圧破損よりも過温破損しているし、東電・柏崎刈羽原発の東電事故想定では過温破損が圧破損より先に起きているから、12時間以上たって過圧破損する事故シーケンスでも過温破損で放射能は漏れだしているだろうが。㋑5時間半はグループ5の事故シーケンスで既に過圧破損して溶融した核燃料の放射能を噴き出している。この事故シーケンスでは、ドラえもんのタイムマシンがあると事故前に発令できるので避難できる。生憎、今の日本にはドラえもんは実在しない。それで、屋内退避して籠城することを選択せざるを得ない。(安定ヨウ素剤投与は、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝にだけ低減効果を持つ。外部被曝には無力だし、他の放射能、放射性セシウムなどによる内部被曝にも無力であるので避難の代替防護措置にならない。)
屋内退避 
 それで、屋内退避(籠城)で被曝量を減らせるかというと???である。原子力災害対策指針(防災指針)には、退避する家屋のブルームからのγ放射線を遮り外部被曝を減らす機能・被曝低減率を規定していない。日本のグラスウール断熱材を使った壁の木造家屋はγ線を遮蔽できない。コンクリート建築の多数を占める軽量気泡コンクリートのパネル、ALCパネルを使った家屋、建物も同様な素通し状態だ。そして、放射性微粒子の吸入や付着を「屋内退避場所への屋外大気の流入により被ばく低減効果が失われ」と指摘しているのだが、それを低減する家屋の換気設備の防塵性能、防護係数で表される性能の規定もない。米国は防護係数40以上、放射性微粒子濃度を外気の40分の1以下した空気で換気することを求めている。
 住宅や居住区がレンガや石で作られていることが多いフランスでの屋内退避(籠城)は、その中でも「堅牢な」建物(bâtiment en dur)を退避先にした場合は屋内退避によって外部被曝は8 分の1 から10 分の1 に、内部被曝は2 分の1 に減少すると見込まれている。それほどの減少を日本の原子力災害対策指針(防災指針)の屋内退避には望めない。だから、完了時刻㋒と㋓を前提にする論議は無駄だから行わない。仮に新潟県の泉田知事が求めるような堅固な屋内退避施設の整備が行われたら、その施設への参集を終える時点を完了時刻㋓と置ける。
安定ヨウ素剤投与の乳児や3歳児未満の保護者の手に渡り服用する完了時刻㋔はどれ位か。
乳児や3歳未満児が服用できる薬剤を調剤する時間とその薬剤を配布する時間が①発令時刻から④完了時刻の間の時間の長さを決める主要なものである。

米国の原子力発電所のある33 州のうち10 州は、州の判断として安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝にだけ低減効果を持ち外部被曝には無力で、放射性セシウムなど他の放射能による内部被曝にも無力であるので、屋内退避や避難を効果的に補足するものでもないとして、緊急作業員や避難できない者への配布用に備蓄だけを行っている。5 州は事故時の事後配布としている。18州は住民への事前配布と事故時での配布用に備蓄をしている。フランスは、原発から10㎞圏には事前配布している。フランスや米国の事前配布している18州では、配布される錠剤に十字線が刻まれて4 等分できるので保護者が分割して砕いてジュースなどに混ぜ溶かして調剤して、子供らに与える。米国では液剤もある。したがって、服用の指示は受領したら、迅速かつ確実に実行される仕組みである。
原子力災害対策指針(防災指針)では、5㎞圏のPAZでは事前配布、5~30㎞圏のUPZでは事後配布とした。しかし、乳児や3歳未満児の服用に関しては同じである。すなわち保健所の薬剤師等が液状の安定ヨウ素剤を調製し、それを配布して服用することになっている。事前配布されている錠剤は飲ませられない。これは、安定ヨウ素剤は処方箋が必要な薬であり、薬事法の規制によると説明されている。このため、最も優先する乳児や3歳未満児の服用には時間がかかる。フランスでも医薬品で処方箋のいる薬であり、薬事法の規制下にある。しかし、原子力防災の時は特別の処置(special measure)として、保護者がジュースなどに混ぜ溶かして調剤して子供らに与えることとして、迅速かつ確実に子らを保護する仕組みにしている。この点、日本の原子力災害対策指針(防災指針)は、住民の保護よりも薬事法が優先される。
 また、フランスは事故発生後の追加配布ではⓐ住民に屋内に退避するよう指示している状況で住民に安定ヨウ素剤を取りに来させるのは矛盾しているⓑ市職員や救急職員に配布させると彼らが不必要に被ばくする危険性がある事を問題にしている。そして退避時間を避けて行うとしている。日本でもⓐやⓑの問題点は同じであるが、原子力災害対策指針(防災指針)では調剤された液剤の配布に関しては考慮されていない。
  防災指針のやり方では10km圏のEPZの時ですら「青森県十和田保健所の宮川と申します。私の管内は原子力再処理施設のあります六ヶ所村のすぐ近くにございます・・オフサイトセンターの方に安定ヨウ素剤を配備してございます。そして、そこから県職員が、これは保健所の職員、県の原子力担当の職員、(事務職員を含め)この方々が地域の住民に配布するということになっていますが、・・ドクターが住民の健康状態をチェックしたうえで、ドクター監視の下で飲ませて、その後もきちっとフォローするということは現実的には無理だと思います。(平成14・2002年・原子力安全委員会 被ばく医療分科会ヨウ素剤検討会第6回会合)」と見られていた。東電核災害では、下図であった。
配布_2.jpg
これと原子力災害対策指針(防災指針)は基本的に変わらない。東電核災害の轍を再び踏むのである。三春町は約7000人を対象に、前日の夜準備して、15日に5時間かけて配布している。この実例から、一万人規模の薬剤の準備と配布には、約12時間かかると見込まれる。配布を受け取って、避難先の家族の元に戻り服用するにはさらに時間が費やすから、完了は更に遅くなる
この時間ではグループ5の事故シーケンスでは、避難措置と同じでドラえもんのタイムマシンがあり事故前に発令した場合は、格納容器の過圧破損による放射能放出の前か後2時間以内に服用できる。グループ5以外の事故シーケンスでは、過温破損で出る放射能が漂う中で指示が出され配布されることが多くなると考えられる。
 
”全面緊急事態”を更に事故シーケンスで分化
このように、”全面緊急事態”を更に事故シーケンスで分化しサブグループにして考えると、グループ5では、避難と安定ヨウ素剤投与の実施(完了)は過圧破損で放射能放出前には不可能である。指示は可能である。それ以外は、過圧破損で放射能放出前には指示と実施(完了)は可能であるが、大方の事故シーケンスでは指示を実行中に過温破損で放射能が出始めて漂うと見られる。どちらの場合も、原子力規制委員会や国の対策本部と云った行政・お役所レベルでは指示を出すのは可能だからその手続き的責任を果たすには「迅速性」が求められるが、幾ら迅速でも実施(完了)に成らないか、ブルームの既に来ている時ならば住民国民にとっては気休めの意味しかない。
 
 フランスは、IRSN放射線防護原子力安全研究所によるコンピュータコードシステムICARE / CATHAREやASTECによる事故炉の状態、事故進展の予測と放出量の予測とそれで予測される放射性物質が環境拡散予測とそれで予測される環境の放射能汚染による人体への影響をコンピュータコードシステムSYMBIOSEで解析した被曝量予測などの「専門家の助言」は事故発生から約3時間後になると評価している。PWR加圧型のフランスの原子炉では蒸気発生器の細管の損傷などの放射能の放出が早い事故シーケンスでは、それから防護措置を採っても間に合わないから反射的に措置を指示・実行する即時対応フェーズ(phase réflexe 反射的)を2000年に設けた。米国では、ETEが3時間未満と以上では優先される措置を変えるように、2011年11月、東電核災害後に方針を正式に改めた。
 
 日本では「我が国は世界的に極めて例な、ガラパゴス的防災対策を採ってきた事故において、どういった放射性物質がどれだけ、いつ、放出されることを事前に知ることができるなどというのは、これは完全に安全神話に過ぎない。」(規制委の更田委員)としている。この認識こそガラパゴス的ではないか。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0