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原子力災害対策指針(改定2015年4月)(番外⑤)屋内退避-日本は治安対策に重点 [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]

 放射能の放出の早い事故は想定外、日本の原子力災害対策指針(防災指針)
被曝による甲状腺癌に最も敏感な者は子供、乳幼児である。妊婦と授乳婦は胎児と母乳哺育の乳児を守るために重要である。安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害し結果的に甲状腺の被爆を低減する。投与すると即座に効くとされているが、有効性は服用時刻と非常に関係している。放射性ヨウ素による被ばくの24 時間前に服用すると90%以上阻害し直前ではほぼ完璧に阻害することが出来る。しかし被ばく後の摂取では、急速に下がる。被ばく2 時間後では、取り込みを80%抑えることが出来るが、8 時間後では40%、24時間後ではほとんど防ぐことは出来ない。

 これは、放射性ヨウ素に到達≒摂取時刻の予測とその被曝時刻前または後の2 時間以内に安定ヨウ素剤の服用ができる投与体制とその指示の仕組みが必要だということである。放射能の放出の速い場合の原子力災害体制の真価が安定ヨウ素剤の使い方を見るとわかるということだ。
安定ヨウ素剤の使い方を米仏で見る。
 米国はNUREG-0654補足文書3 Supplement 3の1996年7月暫定版発行から、ETE(避難に要する時間の推定)や2001年の9.11同時多発テロを受けて防護体制見直しなどの検討を経て2011年11月、東電核災害後に改定し最終版を発行している。“全面緊急事態”では屋内退避(籠城)を一部地域で行い、その時に安定ヨウ素剤を放射線被ばく線量の予測値などから服用する。
参照・・(番外③)屋内退避での安定ヨウ素剤 http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-09

 フランスは1997年から2000年かけて対応が検討され即時対応フェーズという対応策のパッケージができた。「福島の教訓を取り入れた」 の国家対応計画(2014年3月2日付)では二つの基準事態 Situation1とSituation2に分化展開した。専門家による助言を受けるまで約3時間かかるから即時対応フェーズでは予測線量の助言・勧告なしで服用指示が出せる。どちらのSituationも、安定ヨウ素剤を服用するとの内容だ。
参照・・(番外④)屋内退避-フランスの即時対応フェーズ http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-11 
 日本はこの間の見解の深化、対応策の発展を取り入れていない。
日本の原発でも放射能放出まで6時間以内との研究結果 
シビアアクシデント過酷事故の日本の研究では、事故発生から格納容器の過圧破損で放射能放出まで1時間以内や6時間以内の事故シーケンス・シナリオ(パターン)が数多くある。下図は格納容器の圧力で過圧破損する時点で環境放出としているが、東電・柏崎刈羽原発の東京電力の事故シナリオを見れば加温による過温破損が過圧破損よりも早くおこり得る。原子力災害対策指針(防災指針)では、全面緊急事態において「国及び地方公共団体は、PAZ内において、基本的にすべての住民等を対象に避難や安定ヨウ素剤の服用等の予防的防護措置を講じなければならない。また、事態の規模、時間的な推移に応じて、UPZ内においても、PAZ内と同様、避難等の予防的防護措置を講じる必要がある。」第2-(2)-②-(イ) としている。
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避難及び一時移転は防災指針には「原子力規制委員会が、・・必要性を判断し、国の原子力災害対策本部が、・・避難等の指示を、地方公共団体を通じて住民等に・・伝えなければならない。」とある。放射能の放出の早い場合は、米国では発生から15分以内にある発電所からの通報によって、州知事が出す。米国原子力規制委員会NRCは口を挟まない。事前の判断基準EALの策定、原発毎の策定過程ででNRCは審査して十分に点検検討をして基準を作り込んでおいく、本番では判断を遅らせるから口を挟まない。フランスは発電所からの第一報がEALで放射能放出が6時間未満と判断されたら官選の県知事が屋内退避の指示を出す。

 放射能の放出の早い場合は、遅滞なく避難等の指示を地方公共団体が出す。そのために両国はEAL Emergency Action Level 緊急時活動発動レベルを設けた。日本の原子力災害対策指針(防災指針)は、EALを定めたが、お役所の緊急会議のベルを押す基準 Emergency Action Level になっている。放射能の放出の早い場合にも、防護措置を緊急時に被曝防護活動を住民に遅滞なく発動するためのものになっていない。

 また、風下を避難目的地から除く、風向きに直角方向に避難経路をとることが被曝低減には重要だが、その点は触れられていない。目的地や経路の選定には風向きによる放射能の拡散予測が要だが、規制委は気象予測をもとにした拡散予測を全面否定しているから採り上げられない。この結果、3.11のような避難の道中に大量の被爆があり得るが、原子力災害対策指針(防災指針)は無頓着である。
 このように避難で護るのは、住民ではなく「お役所のメンツ」と云う内容に原子力災害対策指針(防災指針)はなっている。
屋内退避は「避難の指示等が国等から行われるまで・・待機する場合や、避難又は一時移転を実施すべきであるが、その実施が困難な場合、国及び地方公共団体の指示により行うもの」「PAZにおいては、全面緊急事態に至った時点で、・・避難よりも屋内退避が優先される場合に実施する」
 どのような場合は実施が困難なのか、屋内退避が優先する場合はどんな場合か何も書かれていない。米国はETE約3時間が目安になっている。フランスでは、放射能放出時刻までの時間が6時間未満。これらに較べ極めてあいまいで、言葉遊びと見える。
 日本では地震などとの複合災害が懸念されている。その場合、道路の破損状態は実際に行って点検しなければ確たることは判らない。降雪積雪での道路封鎖は、どうであろうか。こうした点は、地震や大雪に対処している地方自治体にリアルな話を聴取すれば良い。しかし、規制委・規制庁は、検討メンバーにも入れずヒアリングも行っていない。だから、具体的に書き込めない。避難又は一時移転が困難な時は屋内退避をするという理の当然のことを、難しく書いているだけである。
 米国ではETE(避難に要する時間の推定)を軸に判断している。日本のPAZのETEはBWRの東電・柏崎刈羽原発で約5時間半、PWRの九電・川内原発で6時間以上かかっている。研究では、その半分の時間でPWRでは蒸気発生器の細い伝熱管損傷でのシビアアクシデント過酷事故で過圧破損し環境放出に至っている。BWRは制御棒の下からの挿入失敗などによる原子炉停止(スクラム)ができない場合、シビアアクシデントに至っている。過温破損を考えると他の事故シ-ケンス(シナリオ)でも放射能の環境放出に至るだろう。
 「PAZにおいては、全面緊急事態に至った時点で、・・避難よりも屋内退避が優先される場合に実施する」である。フランスではこのように放射能放出時刻が事故発生後6時間未満では官選の県知事が屋内退避の指示を出す。米国では避難に要する時間の推定ETEが約3時間以上かかるから、基本的に屋内退避である。米仏の具体性、リアルさに較べ日本は言葉遊びである。
 むしろ「UPZにおいては、段階的な避難やOILに基づく防護措置を実施するまでは屋内退避を原則実施」とある。規制委は拡散予測を避難実施には全く使わないとしているから、段階的な避難は放出後になる。これは、明確に風下に当たらないブルームが来ない地域でも自主的な予防的避難も行わせないとの明言、宣告である。
 そして、屋内退避(籠城)では退避する建物や目張りなど籠城準備が全く考慮されていない。米国では退避先は「屋内退避は防護対策の指示を受けたら、直ちに最寄りの堅牢な建屋内(防護係数が40以上のビル)に退避する。」とEPA-PAGマニュアルで定めている。堅牢とあるからブルームからのγ線による被曝の低減係数が0.6以下である。γ線が40%以上透過しない、遮蔽する建物だ。その上に放射性微粒子濃度が外気の40分の1以下になる防護係数40以上の換気設備の建物としている。
 原子力災害対策指針(防災指針)では「病院や介護施設においては避難より屋内退避を優先することが必要な場合があり、この場合は、一般的に遮へい効果や建屋の気密性が比較的高いコンクリート建屋への屋内退避が有効である。」とある。コンクリート建屋とあるが、日本では中低層から超高層の建物ではS 造柱、梁等の骨組み・主体構造を鉄骨でつくる構造)RC造(鉄筋コンクリート造)で外壁、床、屋根などにコンクリートパネルを用いている建築が多い。近所の綺麗なコンクリート住宅もそうだ。
 このコンクリートパネルは、専用工場で製造されている耐火、耐震、断熱、遮音、施工性などに優れたALCパネルである。この軽量気泡コンクリートのパネルは水に浮く比重0.5でγ線を遮蔽する性能は極めて低い。最も厚い厚み180㎜パネルでも透過率96.4%で遮蔽は3.6%程しかない。これを用いた外壁では、外装材と内装材の遮蔽効果を勘定に入れても透過率95.2%で遮蔽は4.8%程しかない素通し状態である。このような建物に退避しても外部被曝は、屋外と同じだ。何故、遮蔽性能、被曝低減係数を基準に挙げないのか。γ線素通し状態の建築でも構わない、ノープロブレムなのか。
 防災指針では「屋内退避場所への屋外大気の流入により被ばく低減効果が失われ」とある。建築基準法で必要換気量(必要有効換気量)が1時間に 1人当り 20立法m、設計基準では 30立法m求められ、自然換気や機械換気の設備がついている。これは、呼吸の二酸化炭素などから、中毒予防も目的に濃度を環境基準以下にすることから定められている。暖房などで当然に必要な換気量は増える。外気がこの必要な換気で流入するのは当然である。それによる被曝が増えない様にする対策が必要である。先ほど述べたように米国は防護係数40以上を求めている。放射性微粒子濃度を外気の40分の1以下した空気で換気することを求めている。防災指針は無策である。他人事である。
 こうした建築関係のことは、建築の専門家、防災対策を現場で行っている自治体関係者などに尋ねるのが常道である。それはしない。もっとも聴取しても、科学的なことも川内原発での火山の審査で火山学者の言うことは右の耳から左の耳にぬける原子力規制委員会の面々だからな~。耳と耳の間に有るのは藁の頭ではなく博士の頭でもなく、都合の悪いことは捻じ曲げるクレイジーな頭だからな。
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 原子力災害対策指針(防災指針)の屋内退避は、外部被曝を低減することにも放射性微粒子による内部被曝低減も無関心、無頓着な内容である。気体性のガス状放射性ヨウ素による被曝の低減≒安定ヨウ素剤投与はどうか。
安定ヨウ素剤投与は「原則として、原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安定ヨウ素剤を服用させる」とある。米国では州知事が判断し服用を指示する。NRCが提供するRASCALと呼ばれる計算システムで放射性物質が環境中へ放出された場合の放射線被曝線量の予測値の使い方など判断のやり方が州毎に違う。
 フランスでは、県知事=対策本部長が国のASN を中心とした原子力安全当局、放射線防護原子力安全研究所IRSNによる放射性物質の環境拡散予測解析などを基にした被曝線量の予測の助言、勧告のもと、オフサイトで甲状腺被曝の予測線量が50mSv以上と予測された場合、予測される時刻の2時間前に事前配布した錠剤の服用を住民に指示する手順になっている。即時対応フェーズでは、専門家による予測線量の助言が間に合わないので助言を待たずに服用指示が出せる。これに較べ、日本は被曝線量の予測値を用いない。避難と同じく行政手続きに手数が多い。特に放射能の放出が早いパターンの事故に対応できるのか。
 通報と同時に”全面緊急事態”になる事故、例えば東電・柏崎刈羽原発の東電の想定事故では「PAZにおいては、全面緊急事態に至った時点で、直ちに、避難と安定ヨウ素剤の服用について原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出す」。「安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児、乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において、優先的に避難する。」とあるが、通報と同時に全面緊急事態になる事故だから”施設敷地緊急事態”は零分で乳幼児、乳幼児の保護者等は避難していない。老いも若いも一斉に避難と安定ヨウ素剤の服用である。事前に安定ヨウ素剤は配布されている。手元にある。乳幼児と若年齢を優先させ服用させることが原則だ。しかし服用の基準を見ると3 歳未満の乳幼児や新生児の欄は空欄だ。保健所の薬剤師等が、調製する液状の安定ヨウ素剤を服用することになっているからだ。事前配布されている錠剤は飲ませられない。
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 調製される液状の安定ヨウ素剤の配布を待つか、1分でも早く避難したいのに。車で一家揃って避難するように指示を出しておいて、何という馬鹿げた様だ。[ちっ(怒った顔)]
 米国やフランスでは、錠剤に十字線が刻まれて4等分できるから割って適量を砕いてジュースなどに混ぜて液剤状にして与える手順だ。米国には甘い液剤の事前配布もある。液剤は、3 歳未満の乳幼児や新生児だけでなく子供も大人も服用できるから一石二鳥、一家に一瓶あれば足りる。ドイツでは安定ヨウ素剤を服用できない人用に過塩素酸ナトリウム液を用意している。過塩素酸イオンは水中で安定に存在し、甲状腺への親和性がヨウ素より強い。人体へ取り込まれると、ヨウ素よりも甲状腺へに取り込まれ易い。ヨウ素と競合して結果的に放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害する。日本の錠剤には割り易くできていない。そして、3 歳未満の乳幼児や新生児に母親や保護者が砕いて投与したら、行政は自分勝手とかいった非難や万が一アレルギー等を起こしたら自己責任と言い立てて責任回避をするのだろう。
 このような放射能の放出が早い事故以外では服用の指示は、米国ヴァージニア州では①NRCが提供するRASCALという計算システムで放射性物質が環境中へ放出された場合の放射線被ばく線量を予測する、②敷地境界付近のオフサイトの実測値でそれを確認するとの2段階のやり方でFDA米国環境保護庁の防護行動ガイド(PAGs)の予測被ばく線量値基準以上になった場合である。フランスはIRSNによる放射性物質の環境拡散予測解析(SYMBIOSE)などを基にした予測被曝線量で判断する。
 日本は、これらの予測手法を採らない。先ほどの二つの方法は、事故炉の状態を予想し放出量や放出時刻を予測して、更に気象予測を入れて拡散予測計算をし、放射能量に応じて被曝量を割り出す骨組みは同じだ。規制委は「事故において、どういった放射性物質がどれだけ、いつ、放出されることを事前に知ることができるなどというのは、これは完全に安全神話に過ぎない。」(更田委員)と気象予測の持つ不確かさを排除するという理由で、日本の予測手法のSPEEDIを使わないことにした。代わりに「プラントの状況悪化に応じて段階的に実施」という。判断基準が原子力規制委員会の胸先三寸になっている。
屋内退避の治安効果
屋内退避は3つの効果を上げる最も簡便かつ確実な手段であると考えられている。その3つの効果とは、
(1)家屋による遮蔽によって外部被曝の低減、
(2)戸外からの浮遊放射性物質の摂取を減少させ内部被曝の低減
(3)住民が家屋や建築物に入るから社会的混乱の発生が防止される治安効果。
参照・・ATOMICA http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-03-03-02
原子力災害対策指針(防災指針)の屋内退避は、(1)(2)には無頓着である。したがって専ら(3)の治安効果を狙った策と言える。

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