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原子力災害対策指針(改定2015年4月)(番外①)屋内退避の外部被曝量は屋外と同じ?加筆 [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]

原子力災害対策指針には、屋内退避が目につく。フランス、米国と日本では屋内退避 Sheltering の内容がずいぶん違う。米国やフランスでは「第一選択が避難、第二が屋内退避」だが、日本の屋内退避の内容だと避難の代替にならないので、「一に避難、二、三がなくて気休めに屋内退避」というところだ。
三つの効果
防護対策の内で最も簡便かつ確実な手段であると屋内退避は考えられている。
defense_image_01.jpgこれは、住民が家屋や建築物に入ることから、
(1)家屋による遮蔽によって外部被曝が低減され、また、
(2)窓などの開口部を閉じ、換気を止めて建物の気密性を高め、戸外からの浮遊放射性物質の侵入を減少させることによって、内部被曝を低減させることができ
(3)社会的混乱の発生を防止できるるからであるという。
(1)の外部からの放射線を遮る遮蔽効果の大きさは「被曝低減係数」との名目でATOMICAにある。 http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-03-03-02

被曝低減係数=室内の線量/環境中の線量

その値はここと示されている原子力安全委員会の「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)の付属資料8には、IAEAの技術資料 (IAEA-TECDOC-225、1979年)からの表が記載されている。
 安全委員会・・ http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/sonota/houkoku/bousai220823.pd
 IAEA・・ http://www.iaea.org/inis/collection/NCLCollectionStore/_Public/11/531/11531386.pdf
行政が使う低減防護係数
家屋の遮蔽低減係数は、表-1の放射能が空中に浮遊している場合、つまりブルームによる被曝では木造家屋は0.9、石造り建物は0.6。表-2は、放射能が地面に沈着した場合つまり現状に近い場合で木造家屋は0.4、石造り建物は0.2.この二つの表はIAEA-TECDOC-225(53頁)の Health Physics Pergamon Press 1977 Vol.33/September/pp.287-298 のZolin らの論文の引用の孫引き。
低減係数20.jpg

表-3は27頁のAmerican Industrial Hygiene Assn-1963 の引用の孫引き。
低減係数21.jpg

 
現代日本の低減係数
 元の表の Reduction factor (減音度 減衰因子)の訳語が被曝低減係数。この値は文科省の学校で受ける被曝線量の計算式にも使われている現役の数字。約37年前の木造家屋の低減係数0.4で計算して、20ミリシーベルト/年を超えないという学校で受ける被曝線量の基準値を出している。この Health Physics Pergamon Press 1977 は海外の木造家屋のデータであり、建材も変わっている。日本では、塗り壁、土壁からグラスウールの断熱材や軽量コンクリートに変わっている。低減係数は家屋の大きさ、構造、構造材、立地等の多種多様な条件によって、大きな幅を持った値である。現在の日本の家屋の遮蔽低減係数はどれ位だろうか。
ガンマ線の遮蔽 
 放射線はα線、β線、γ線とあるが、α線、β線は透過力からみて内部被曝がガンマ線は外部被曝で問題。だから家屋の遮蔽はγ線の遮蔽。γ線は電磁波・光の一種で、周波数が高い波長の短い。その遮蔽効果(光の吸収)は、遮蔽物の密度に単純に比例すると考えて大きな誤りはない。
軽量コンクリート02.jpg 密度 2.3g/立方cmのコンクリートに対し、密度 11.3g/立方cm の鉛は、約 5 倍弱の遮蔽性能を持つ。標準的なコンクリートであれば、厚さ 15cm でおおよそ90%のCs-137からのガンマ線を遮蔽できる。厚さを2倍の30cmにすれば、99%の遮蔽効果を持つ。
 現在の木造家屋の外壁+ガラスウールの断熱材+プラスターボードの壁の作りだと、断熱材の処は遮蔽効果は無いだろう。街でよく見かける軽量コンクリートのALCパネルを使った家屋。ミキサー車で運んで流し込むコンクリートは密度が約2.3g/立方cmで、ALCパネルは約0.5/立方cmだから、約2割しか遮蔽性能がないとうことか。?
[ALCパネル・・Autoclaved Lightweight aerated Concrete (ALC、高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート)の板状に成型した建材。厚さ50mmは鉄骨造、木造の建築物に、厚さ35・37mmは主に木造に使用。 http://www.alc.gr.jp/aboutalc/ ]
軽量コンクリート04.jpg
線量透過率
見つけたのは「Cs-137 から生ずるガンマ線に対する各種建築材料の遮蔽データベース」(別府克俊)http://www.degas.nuac.nagoya-u.ac.jp/research/20131029_ShieldingPerformance.pdf
γ線もエネルギーが違い透過する割合も違うから、セシウム137に焦点を当てている。実効線量透過率Faを、コンクリートなどの遮蔽体が無い場合の実効線量Eoに対する遮蔽体がある場合の実効線量Eの比:Fa=Eo/E:として、各種の建材の実効線量透過率を求めている。

 コンクリート造、及び木造住宅の外壁を3例あげ、線量透過率を示している。
家屋低減係数01.jpg
(1)コンクリート造住宅の線量透過率・・0.375
(2)木造住宅の線量透過率
(a)断熱材を通る断面・・0.996
(b)木材を通る断面・・0.984
試みにコンクリートを厚さ50mmのALCパネルに置き換えた場合を試算したら、0.970。
軽量コンクリート01.jpg 素通し状態
 線量透過率は、遮蔽低減係数と意味は同じだから、IAEA、原子力規制員会の数字と較べてみる。木造家屋はγ線は素通し状態、コンクリート造住宅は石造りより良い。ALCパネルを使った家屋も素通し状態。ALCパネルは「75mmから 180mm の厚さの厚形パネルは,中低層から超高層の建物(鉄骨造・S 造,鉄筋コンクリート造・RC 造)の外壁,間仕切り,床,屋根等の広い用途で使用される」そうだ。厚さ180mmの厚形ALCパネルは、線量透過率が0.96位(推定)だから、これもγ線素通し。屋内退避(籠城)にこのALCパネルの中低層から超高層の建物は適さないナァ~。日本の避難ガイドには一言もない。原子力災害対策指針(防災指針)には「早期の避難が困難である住民等が一時的に退避できる施設となるよう、病院、介護施設、学校、公民館等の避難所として活用可能な施設等に、気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくことも必要である。」とあるが、被曝低減係数は触れていない。せめて0.6以下の建物を避難先に選ぶようにすべきではないか。

福島での実測
放射能が地面に沈着した場合つまり現状に近い場合の低減係数は、その日本のデータは無いだろうか?それで実例の測定を原子力機構の松田規宏、斎藤公明氏の研究を見つけた。

一つは、斎藤公明氏明によるもの。http://fukushima.jaea.go.jp/initiatives/cat03/pdf05/02-4.pdf
家屋内の空間線量率の調査は105軒で平成 24年10月から及び平成 25年1月からの 1ヶ月間程度。
家屋外の環境空間は5軒で窓際の直ぐ屋外、窓際から 1 m 離れた場所などを調べた。
また「調査を実施した家屋の地域分布は福島市内に偏っている」ものである。

一つは、翌年行われた松田規宏、斎藤氏両名によるもの。
http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/10000/9735/30/1-4_housesurvey.pdf
家屋内は平成 25 年11月2 日~平成 26 年2月25日のうち約1月間。また、家屋周辺の空間線量率の測定は、家屋中心から100m内を歩行サーベイで測定し、期間は、平成25年12月24日~平成26年1月9日。なおバックグラウンドの測定を行い、屋内空間の空間線量率の算出に用いた。
調査対象は、福島県のいわき市(64軒)、郡山市(19軒)、白河市(18軒)、田村郡(5軒)、田村市(19軒)、二本松市(1軒)、東白川郡(10軒)、西白河郡(3軒)、双葉郡川内村(27軒)、双葉郡広野町(32軒)の計 198軒

平成24年の研究は対象が地域的に偏っており、周囲の環境の測定は5軒と数が少なく家屋外の線量の信頼性が低い。それで平成25年の研究結果を用いる。
 
福島家屋02.jpg
沈着した放射能による被曝の低減係数は、Zolin らの論文に基づいたTAEAと原子力規制委員会の木造家屋での低減係数0.4の値より明らかに大きい。私は、0.55~0.70に見える。

米国・・堅固な建物
米国のEPA米国環境保護庁の「原子力災害時の防護対策指針マニュアル」(pag-manual-interim-public-comment-4-2-2013、新PAGマニュアル)では次のようだ。
「避難実施に伴うリスクが、被曝によるリスクよりも高い状況であれば、屋内退避とする。
屋内退避は防護対策の指示を受けたら、直ちに最寄りの堅牢な建屋内(防護係数が40以上のビル)に退避する。」防護係数PFは、低減係数とは別の内部被曝抑制に関係する。後述する。
 堅牢な建物とあるから、石造り建物で低減係数0.6や大規模なコンクリート建物0.2以下をいっている。
フランス・・即時対応フェーズ
フランスの即時対応フェーズ(phase réflexe)で屋内退避を採る。事故発生から6 時間未満のうちに放射性物質放出の危険性があるなら、“反射的(réflexe)”に住民の防護対策として屋内退避を実施する。警報を受けたら、周辺の住民は、「最寄りの建物」あるいは「自宅」に逃げ込み、戸や窓を閉め、空気取り入れ口をふさがずに換気扇のスイッチを切るとされている。そして、ラジオ等によって当局からの広報情報を傍受していなければならないとされている。
 フランスの住宅や居住区がレンガや石で作られていることが多いという地域的な事情で「最寄りの建物」あるいは「自宅」が退避先になっている。
次は(2)窓などの開口部を閉じ、換気を止めて建物の気密性を高め、戸外からの浮遊放射性物質の侵入を減少させることによって、内部被曝を低減させることについて
屋内退避images.jpg

タグ:屋内退避
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