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原子力災害対策指針(改定2015年4月)新潟県vs原子力規制委員会(4)新指針でブルームから迅速に逃げ切れる? [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]

迅速性 
原子力防災指針ではOIL Operational Intervention Level 介入レベル と事故の事態区分を導入している。

 事故時に採られる防護措置は、避難、家屋退避、安定ヨウ素剤の投与、飲食物の制限などがある。屋内退避は、ただ屋内に引き籠るのではない。外気の侵入を防ぐことが大切である。窓を閉める、換気扇を止めるだけでは不十分で冷暖房などの空調を全て停止し、ドアの隙間などに目張りをするなどする。日本に多い木造家屋はγ線の遮蔽効果が余り期待できないから、この措置は重要である。退避より籠城の方が実感がある。水や食料の買い置き量や居住性から2日間程度が限界とされている。

TMI事故後の防災方針は、「先ず屋内退避(籠城)、その後に必要なら避難」
 避難は効果的だが最も実施が難しく、時間を要する。実施に伴う避難中の事故など2次災害のリスクや社会的混乱の可能性から、①放射能の放出規模が大きく②長時間の放出継続が予測され、③十分な時間的余裕がある場合に選択されるものであり、そのような条件が満たされなければ屋内退避(籠城)が優先すべきと考えられていた。

 米国は1979年3月のTMI事故から1年半後の1980年11月に原子力災害対策指針にあたるNRCのNUREG-0654 Rev.1「原子力発電所の支援における放射線緊急時対応計画と備えの準備と評価に関する判断基準」を発行した。それでは防護対策の範囲は原発から半径10マイル(約16㎞)のEPZ Emergency Planning Zone とした。そして、事故事態区分を導入した。原発敷地外への影響も考慮される「全面緊急事態」には、避難の可否を検討している間はEPZでは屋内退避(籠城)が実施されるとしていた。

 その後の研究(NUREG-1150・最終版1990年12月)で「事故原発の近くに長時間、屋内退避(籠城)することは、効果的な防護措置とはいえない。」「短距離の移動であっても、移動することによって危険は大幅に低減する。」「危険を大幅に低減させるには、放出前もしくは直後に避難を開始しなければならない。」とされた。1986年のチェルノブイリ事故で2~3時間以内に死亡に至る線量が原発近傍のアパートで観測された事実も明らかになった。
 この研究の最終版がでて1年半後の1992年5月にEPA米国環境保護庁が「原子力災害時の防護対策指針マニュアル(EPA400-R-92-001、旧PAGマニュアル)」が出された。(2013年9月に新版が出た。 pag-manual-interim-public-comment-4-2-2013)それでは、予想される被曝量が10rem(10mSv)を超えたら避難が「公衆防護の第一の手段」とした。屋内退避(籠城)の方が好ましいのは、悪天候や洪水等で避難が困難な場合、困難な場合と移動させること自体に健康上のリスクが伴う入院患者、高齢者、身体障害者等の要援護者の場合であるとしている。
NUREG CR-7002_key02.jpg即時全員避難
 こうした動きを受け1996年7月にNUREG-0654補足文書3 Supplement 3 をNRCは出した。それでは全面緊急事態において即時避難という考え方を採っていた。具体的には、全面緊急事態 General Emergemcy では、原子力事業者は周辺自治体に対して原子力発電所を中心に全方位で2マイル(約3km)、風下方向で5マイル(約8km)のキーホール形の範囲の住民を直ちに避難の勧告をすることになっている。これは格納容器の破損が伴うような進展が速い事故パターンでは、事故発生から放出された放射能が地面に降下し、降下量が多くそれによる被曝が顕著になるまでは2~3時間ある。(NUREG-1150) その間に運転員が、その事故が放射能放出に至るのか、その放出量や継続時間、環境への周辺への影響を予測できないとの認識に基づいている。そこで想定される事故のシナリオから、早期致死に至る被曝が起こると考えられる範囲と放射能プルームが風で運ばれるであろうと予想される風下の範囲を屋内退避(籠城)次いで避難を採る地域とした。
 この補足文書は、旧PAGマニュアルの考えと整合性に欠けるとして“暫定版”とされた。事業者は業界が作る米国原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute,NEI)で2005年に全原子力事業者向けのNEIガイダンス“Range of Protective Actions for Nuclear Power Plant Incidents”を出した。それには悪天候や洪水等によって避難の実施が困難な場合と移動させることにリスクが伴う高齢者、身体障害者、入院患者等の要援護者は、ひとまず屋内退避をさせて、その後、避難ができる状況になったところで避難をさせるという旧PAGマニュアルの考え方が採られていた。NRCはこのガイダンスにendorse (エンドース、保証する、支持する、推奨する)を与えた。即時の全員避難に穴が開いた。移動させること自体に健康上のリスクが伴う入院患者等は、どうするか。安定ヨウ素剤を服用させて置き去りである。その後、避難ができる状況になったところで迎えに行く。

 また、「危険を大幅に低減させるには、放出前もしくは直後に避難を開始しなければならい。」(NUREG-1150)したとしても、避難路を移動中、あるいは渋滞で車中にいる間に放射性物質が放出されて道中にプルーム放射能雲に長時間曝されると、結果として大きな被ばくをしてしまうから、避難地へ着くまでの時間が問題である。NUREG-0654は1980年の最初の発行から、”避難に要する時間”を評価することを原子力事業者に義務付けて求めている。EPZの範囲外に脱出を完了するのに要する時間と定めその時間推計をETE:Evacuation Time Estimation として事前評価を求めている。1982年のNUREG/CR-4381、2005年のNUREG/CR-6863、2011年のNUREG CR-7002と手法の開発、結果の使い方などのETEのガイドラインの公表に進んでいる。例えば、詳細区域に分けている。半径10マイルのEPZを2マイル、5マイル、10マイルに帯状に切り分け、更に16方位で分割し48の詳細区画に分けるモデルになっている。
NUREG-0654補足文書3最終版
こうして、2011年11月、東電核災害後にNUREG-0654補足文書3を改定し最終版とした。
基本
原子力発電所を中心に半径10マイル、約16kmの範囲のEPZ全域の要配慮者を除く住民の大方(90%)が①EPZの範囲外に脱出を完了するのに要する時間推計(ETE)がおおよそ3時間未満であれば、②大雪や洪水等によって道路閉鎖や交通規制等の準備が整っていないなど避難の実施に障害がない限り、③全方位で、同心円2マイルの範囲を「即時避難」とし、風下方向の45°~90°の3方位2〜5マイルの範囲は「屋内退避(籠城)」としている。 そして、⑤2マイル範囲の地区の避難退避の終了後に、2〜5マイルの風下方向の範囲の避難を開始する“段階的な避難”を行うとしている。NRCは「避難の間に放射性物質が放出されて、道中にプルームに長時間曝されると結果として大きな被ばくをしてしまうから避難地へ着くまでの時間と出る順番が問題」という理由で即時避難の地域を縮小した。
ETEimages.jpg通行に障害がある場合
 避難の実施に障害がある場合は、2マイルの範囲内についても避難を開始せず一旦屋内退避(籠城)とし、風下方向の45°~90°の3方位2〜5マイルの範囲は「屋内退避(籠城)」、その他の地区は屋内で待機させる。そして、避難が実施できる状況になったことが確認されたならば、2マイル内の地区から順に、避難を開始するという手順である。
急速に進展する事故 
 事故が炉心冷却機能を失うとか格納容器の健全性が急激に失われるなど急速に進展する過酷事故となった場合は、EPZ全域のEPZの範囲外に脱出を完了するのに要する時間推計ETEが3時間以上であっても、2マイル以内の範囲にあってETEが2時間以下の地区、あるいは風下方向2〜5マイル範囲にあってETEが3時間以下の地区であれば、それぞれの地区を段階的に避難させる。
ETEが長いと
 逆にETEの結果が上の条件より長ければ、当該地区は一旦屋内退避をさせ、放射性物質の放出が停止し、空気中の放射性物質が低下したことを確認してから避難させるという措置を選択する。
IAEAの安全要件GS-R-2
 このように米国の原子力災害対策指針は進展してきた。IAEAは2002年に被曝の確定的影響を減らすためというお題目でPAZとUPZという区域分けと緊急時対策レベル(EAL)を判断基準にする緊急事態分類体系 The emergency classification system(全面緊急事態 General emergency、敷地区域緊急事態 Site area emergency、施設緊急事態 Facility emergency、警戒状態 Alerts)、それで各国でつくられる分類体系は十分迅速な対応を開始することを求める安全要件GS-R-2を出している。
避難の指示が迅速に出せるの[exclamation&question]
 施設の状態等に基づいて、緊急時対策レベル(EAL)を判断基準に事態を類型化した区分をおこなうという枠組み・考え方は規制委の言う通り「国際原子力機関(IAEA)が定める最新の安全基準にも整合するものであり、国際的に広く受け入れられ確立された考え方となっています。」
これで、SPEEDI「より迅速かつ的確に防護措置を実施することができます」と規制委は云う。

 しかし、迅速なのはIAEAの安全要件では「十分迅速な対応を開始すること」を求めるからであり、米国では市町村や防護措置を実施する意思決定を行う州政府に事態発生から15分以内に事業者から通知や緊急時対策レベル(EAL)から全面緊急事態だから避難の勧告をすることになっているからだ。緊急事態分類と防護措置の実施が迅速であることは別だ。十分迅速な対応を開始する手続きと結び付けられてなければならない。

kaigiimages.jpg煩雑な手続き
 日本では「避難及び一時移転の実施に当たっては、原子力規制委員会が、・・その必要性を判断し、国の原子力災害対策本部が、輸送手段、経路、避難所の確保等の要素を考慮した避難等の指示を、地方公共団体を通じて住民等に・・伝えなければならない。」米国に比べて、指示が伝わるまでの手数がなんと多い事か。
 輸送手段、経路、避難所の確保等は国レベルの仕事であろうか?それに事前の計画段階で実行可能なレベルまで詰めておくことではないか。泥縄にこの段階で国がやる事か。お役所仕事のペースからは、何時間かかることやら。

ETE、避難に要する時間
また米国は避難の間に放射性物質が放出されて、道中にプルームに長時間曝されると結果として大きな被ばくをしてしまうから避難地へ着くまでの時間が問題であると、”避難に要する時間・ETE”を事前評価しその値によって避難のやり方を変えている。2000年代になってETEの見直し、再計算が行われた。(JAEA-Review-2007-035の36頁)
 ベルモント・ヤンキー(Vermont Yankee、米国北東部バーモント州)原発とインディアン・ポイント(Indian Point、ニューヨークの南)原発で新しい評価ではETEが2倍以上になった。要因は、一つは周辺人口の増大。一つは人々の意識の電話など使った調査結果。計算では、半径10マイルのEPZの内の避難指示が出ない地帯の人々が50~25%が自主避難、EPZ外の近傍で10%が避難・影の避難をするモデルで行った。東電核災害を見た現在はもっと高いだろう。

日本のETE
 長崎県が行った九電・玄海原発でETEでは、5㎞圏のPAZの避難が終わってから5-30km帯のUPZの避難を始める2段階避難、UPZからの自主避難40%の基本パターンでPAZの人々がPAZから全員脱出は1時間25分。新潟県による東電・柏崎刈羽原発のそのETEは、5時間30分。鹿児島県による九電・川内原発は、90%のPAZの人々のPAZ脱出に5時間以上。

 進展が速い事故パターンでは発生から放出された放射能が地面に降下し、降下量が多くそれによる被曝が顕著になるまでは2~3時間ある(NUREG-1150)。このことを頭において、日本の原発のETEをみると避難の道中にPAZ内にいる内に放出が始まりプルームに長時間曝され結果として大きな被ばく、確定的影響が顕れる被曝をしてしまうだろうと言える。
 米国のNUREG-0654補足文書3のやり方を採ると、この進展が速いパターンに限らず全ての事故で屋内退避(籠城)をして、家屋の中で被曝しながら空気中の放射性物質が低下するのを待つことになる。それから、避難である。日本では2個以上の炉がある原発がほとんどだから、東電核災害のように一つが事故ると連鎖的に他の炉が事故るだろう。最初の事故炉からの放出が下がり始めたら、次の炉が放出ということがあり得る。屋内退避(籠城)は、水や食料の買い置きから2日間程度が限界とされている。

柏崎刈羽原発の事故シナリオ
 新潟県の技術検討委員会に東京電力が提出している柏崎刈羽原発の事故シナリオは、大LOCA大口径破断による冷却水喪失+高圧注水失敗+低圧注水失敗で始まる。これは、東電から国や県に15条通報がでる、EALから全面緊急事態が判断される事故である。緊急事態分類の体系では、警戒事態、敷地内での施設敷地緊急事態、全面緊急事態となっていて全ての事故は順を追って展開するような誤解があるが、直ちに最初から全面緊急事態になるパターンもある。原子力防災の指針・計画の真価が試される試金石である。

 事故は、0.4時間後にメルトダウンを始める。1.9時間後に格納容器のガス温度は200℃以上に達する。この200℃は東電が格納容器の過温破損発生の指標としている温度である。東電はこの直後2.0時間後に低圧注水が回復し格納容器内にスプレイ散水が行われ温度が下がるとしている。しかし、そう都合よくは運ばないだろう。その間、過温破損(トップフランジ部ガスケットの熱損傷など)が拡大する。放射能の放出速度が高まる。原子炉建屋外に出た放射能は、微風(風速1~1.5m)でも83~55分で5km進む。PAZ境界に達する。

 事故発生に間髪を入れずに、通報があり、規制委が判断、国の原子力災害対策本部が避難の指示を出し、県が市町村に伝え、市町村が住民に伝える奇跡があり、さらに住民が避難指示を認識し、子供らを連れ戻し自宅に戻り、自家用車で家を出る事が瞬きの間に行われるミラクルが起きたとしても、ETEは5時間30分だからブルームがPAZ境界に達する3~3.5時間後までに避難は完了しない。大半はPAZの中にいる。

 避難開始時間は、多くの人が福島の実態を知る現在では延びるであろう。帰還が不能あるいは長期間に亘るのでは、着の身着のままでは逃げられない。PAZの中の1万8千人(昼間人口)~1万1千人(夜間人口)は、避難を完了することはなく家の中で車の中でブルームに晒されることになる。PAZの範囲はチェルノブイリ事故で2~3時間以内に死亡に至る線量がこの範囲の距離で観測されたことも設定の理由の一つである。

 ETEは「施設の状態等に基づく判断」であろうとSPEEDIなど「予測手法による判断」であろうと変わらない。規制委や規制庁の役人にとっては、避難の判断を下し国に伝えれば「避難という防護措置を実施」したことになるだろう。後は国の責任だというだろう。しかし住民は安全な場所に家族共々着くことが「避難の実施」だ。日本の原発は、周辺人口が多いからETEは長いだろう。「施設の状態等に基づく判断」であれば「より迅速かつ的確に防護措置を実施することができます。」というのは、住民に早く逃げ終えるという幻想期待を抱かせるペテンである。

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