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再処理で得られる回収ウランは使えるか? 新エネルギー基本計画のパブコメ・めも 第9節、1、(2) [使用済核燃料、再処理、廃棄]

原子力発電の燃料となるウランを準国産エネルギーと位置づける根拠の一つは、(イ)使用済燃料を再処理することで資源燃料として再利用できることである。再処理によって使用済核燃料は、プルトニウム、回収ウラン(減損ウラン)と高レベル放射性廃棄物に大別される。1000kgの使用済核燃料を再処理すると、回収ウラン・940kgと高レベル放射性廃棄物・約50kgとプルトニウム・約10kgに分かれます。このうちプルトニウムと回収ウラン(減損ウラン)が核燃料の原料になる。

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日本では、回収ウランが1980年ごろから2000年まで合計約335tU、燃料集合体160体で国内で発電炉(軽水炉)で用いられている。東北電力、東京電力、中部電力、関西電力、四国電力、九州電力で使われている。

回収ウランに含まれるウラン核種は、天然ウランにもあるウラン238、235、234と原子炉内での燃焼・核分裂によって生じたウラン232、236が含まれる。これらには化学的性質で差異はないから再処理における化学的処理でウラン235やウラン232などのウラン同位体を分離することはできない。さらに中性子の数の差で生じる質量・重さの違いをつかう同位体分離法を用いても、低濃縮段階では望ましいウラン235と望ましくないウラン234とウラン232まで濃縮してしまう。ウラン235とウラン236も分離し難い。これらの分離は困難である。ウラン232、236、234が、天然ウランを原料とする場合に比べ回収ウランを原料とすることに独自の困難をもたらす。

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ウラン236・・濃縮経費の上昇要因

ウラン236は、核分裂で発生する高速中性子を吸収してしまい核分裂反応の連鎖をそこで途絶えてしまう"核毒”nuclear poisonである。そもそも、原発を定期的に停止して核燃料を交換するのは、使用中の核燃料に核毒物質が蓄積するからである。回収ウラン核燃料を「炉心に装荷した場合に炉心の反応度を低下させる」「中性子吸収して反応度損失を発生する」。この天然ウランには無いウラン236が炉内での燃料の出力および燃焼度の履歴によって0.3~0.4%くらい回収ウランには含まれる。反応度損失・低下への対応策は、ウラン235の濃縮度を上げること。

つまり、回収ウランではウラン236に食われる中性子分を見越してウラン濃縮度を上げて補償すること。どれ位濃縮度を上げると補償できるのでしょうか?原燃は明確にしていません。楠野貞夫氏(財)エネルギー総合工学研究所によれば、「反応度補償のために、やや濃縮度を高め」天然ウランの3.7%濃縮を回収ウランでは4.3%に約1.16倍にする事を提案している。季報 エネルギー総合工学 Vol25 No.2(2002. 7)

回収ウランは、ウラン235を天然ウランより0.3%ほど多く含んでいるため濃縮の出発点は回収ウランが0.3%高いが、到達点の濃縮度は天然ウラン濃縮に比べ1.17倍程度、0.6%以上高いから、分離作業量は反って増える、つまり濃縮工程のコストが高くなる。「再濃縮して軽水炉用核燃料の原料とすることは、天然ウランに比較して少ない仕事量で濃縮することができるのでより経済的である。」ATOMICA 04-06-02-07 というのは、核毒であるウラン236を無視しているといわざるを得ない。

ウラン234、ウラン232・・各工程での遮蔽費用の上昇要因

ウラン234は天然ウランには0.0053%だが、放射能割合では天然ウランの約49%をしめる強い放射能である。濃縮工程(遠心分離法・4.5%)で約0.037%になる。それが回収ウランに移行している。原燃によれば天然ウランに比べ濃度が高いウラン234は「娘核種はガンマ線が強く、転換、濃縮、燃料加工などの工程で遮蔽が必要となり、これらの工程費用を増加」させる。

ウラン232は半減期約69年でα線をだし崩壊してトリウムTh228に変る。トリウムTh228は半減期約1.9年で崩壊しタリウムTl208など高いエネルギーのγ線を放出する娘核種に生成する。トリウム228の後の半減期は最長でもラジウム224の約3日15時間だからトリウムTh228の量、割合が重要である。このトリウムTh228の濃度は約10年後~60年後の間に高原状態になっている。回収ウランの濃度では、回収ウランの線量率が1年で約10倍、10年で約30倍に上昇(ビルドアップ)する。その高線量率が数十年継続する。トリウムTh228濃度で見ると、線量率が約10倍になる1年後の濃度に戻るのは約100年後。

このため、使用済核燃料を再処理して取り出した回収ウランを暫く保管して核燃料にするための処理をする際には遮蔽が必要となる。回収ウランには核分裂性のウラン235が0.9%程度しかないから、ウランを六フッ化ウランに転換して濃縮工程ができるようにしなければない。その転換炉では、フランスの例では下部の表面線量当量率が1-2mSv/h程度、残渣容器の表面線量当量率は10-20mSv/hになっている。取扱い従事者は鉛エプロン装着している。他の研究では、天然ウラン転換では高くて2.2マイクロSv/時が回収ウラン転換では19になるなど例が報告されている。この転換工程のあとの濃縮、再転換、成型加工の工程でも装置に遮蔽が必要になる。

このように、ウラン234、ウラン232により回収ウランは「ガンマ線が強く、転換、濃縮、燃料加工などの工程で遮蔽が必要」となり、これらの工程費用が増加する。

回収ウラン燃料の製造費用は? 使用計画がない現実

東北電力の資料によれば、核燃料集合体の取得価格のうち3割が天然ウラン代で7割が製造費である。これは、回収ウランからの核燃料製造費が、天然ウランの場合の1.42倍を超えると、回収ウランがタダ・0円でも足(損失)でるということである。

天然ウランでは、粉末状の酸化ウランをガス状のフッ化ウランにする転換が約3ヶ月で製造費用の約14.3%(7分の一)、濃縮が約3ヶ月で約42.9%(7分の三)、フッ化ウランを酸化ウランに再転換し焼き固めペレットにして燃料集合体を製造する成型加工に約12ヶ月で約42.9%(7分の三)。これが回収ウランでは、どの程度増額するであろうか。

回収ウランでのこれらの費用増加は、1980年ごろから2000年までの国内発電炉(軽水炉)で使用で概略の見積もりが得られるが、それは公表されていない。ただ2009年2月現在、「わが国では、回収ウランは当面貯蔵され、軽水炉での商業利用の計画はない。」(ATOMICA)
回収ウランを日本は約7000トンUを保有している、2010 年の天然ウランの国内需要6.7千tUであるから約1年分に相当する量である。回収ウランは貯蔵期間が長くなるほど、ウラン232の性質からγ線が増え扱いが難しくなる。それにもかかわらず商業利用は計画はない。この事実が、回収ウラン利用の非経済性を顕している。

回収ウランの取得原価(価格)は天然ウランの約3倍?

(財)日本エネルギー経済研究所の村上 朋子氏によれば、使用済核燃料1トン当りの処理費は750,000米ドル/tHMである。(IEEJ:2007 年5 月掲載、2030 年までの世界の原子燃料需給展望)得られるプルトニウム燃料・MOXと回収ウラン燃料は、国の試算では同量なのでその半分325000米ドル/トンUが回収ウランの取得原価と置ける。天然ウラン価格はここ10年は概ね105米ドル/kgU=105000米ドル/トンUです。回収ウランは天然ウランの約3倍の価格です。

東北電力の資料によれば、核燃料集合体の取得価格のうち3割が天然ウラン代で7割が製造費。つまり回収ウラン燃料の製造費、転換・濃縮・再転換・成型加工の費用は、天然ウラン核燃料の七分の一でなければ、回収ウラン核燃料は天然ウラン燃料と経済的には同等になれない。

回収ウランに含まれるウラン232、236、234によって、製造費は天然ウラン核燃料に較べて増加せざるを得ないから、回収ラン燃料は、常に天然ウラン燃料より割高になる。
回収ウランは、天然ウランの約3倍であるから、天然ウラン核燃料集合体の取得価格のうちの3割のウラン代が約3倍。7割の製造費は、先ほどの検討から1.4倍以上と見られる。だから、回収ウラン核燃料は、天然ウラン燃料の約2倍程度の高価格にならざるを得ない。

逆に見ると、天然ウランの価格が現在の3倍以上、320米ドル/kgU以上にならなければ、経済的には回収ラン利用は検討するに値しない。経産省の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会の第9回の資料によれば再処理が経済的に優位になるには、再処理費用を含まない、ゼロ円とみなした日本原燃の試算では260~390米ドル/kgU、再処理費用を1トン当り300,000米ドル/tHMとした、現状の40%としたカナダの試算で393米ドル/kgUである。


このように原子力発電の燃料となるウランを準国産エネルギーと位置づける根拠の一つ、(イ)使用済燃料を再処理することで資源燃料として再利用できることのうち、再処理で得られる回収ウラン(減損ウラン)の再利用は経済的には大損を出すだけである。

最小の経済負担(Economic Efficiency)原則を無視した「回収ウラン国産エネルギー論」

意見(案)の第2章、第1節 エネルギー政策の原則と改革の視点では、エネルギー政策の基本的視点を3E+Sとしている。
「エネルギー政策の推進に当たっては、生産・調達から流通、消費までのエネルギーのサプライチェーン全体を俯瞰し、基本的な視点を明確にして中長期に取り組んでいくことが重要である。
エネルギー政策の要諦は、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、最小の経済負担(Economic Efficiency)で実現することである。あわせて、エネルギー供給に伴って発生する環境負荷(Environment)を可能な限り抑制するよう、最大限の取組を行うことが重要である。」

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回収ウランの再利用は、最小の経済負担(Economic Efficiency)に反しており、選択すべきでないエネルギー政策である。回収ウランの利用を、ウランを準国産エネルギーと位置づける根拠とするのは技術的可能性と政策的妥当性を混同している詭弁である。

次に、プルトニウムの利用がウランを準国産エネルギーと位置づける根拠となりうるか検討してみる

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