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確率論的手法による安全評価 メモ 加筆①b [核のガバナンス]


原子力保険から始まった 
 
「 1970 年代前半には、原子力損害賠償保険の料率を適正に定める目的で、原子力発電所の総合的なリスクを解析的に評価する最初の試みが、MIT 教授のラスムセン(Norman Rasmussen)と当時の AEC 研究局次長であったレヴィン(Saul Levin)によって行われた。この研究の報告書がいわゆるラスムセン報告(WASH-1400)で、1974 年に報告書の原案が公開されて意見を公募し 1975 年に最終版が公表された。」
AEC・・Atomic Energy Commission、アメリカ原子力委員会、、1946年8月1日に成立。75年に規制部門はNRC、推進部門はERDAに解体。
 参照・・原子力安全研究のあゆみ 佐藤一男(98年4月から2000年3月まで原子力安全委員会委員長)
 
wash-1400.jpg 
 
 
ラスムッセン報告の解析手法が確率論的リスク解析 (PRA,probabilistic risk analysis)であり、それでの評価が確率論的安全評価(PSA,Probabilistic Safety Assessment)である。

参照・・確率論的手法による安全評価研究、原子力安全委員会
 
PRA・PSAの使い勝手の評判 
 
1977年7月1日に米国原子力規制委員会が組織したH.W.Luwis(ハロルド・ウォレン・ルイス)を長とする評価グループのレビュー「 NUREG/CR-0400、1978」ルイス報告は、PSAの数量的評価の絶対値については不確定要素が多く信頼性が低いが、事故の相対的評価に、柏崎刈羽原発ならAという事故シナリオの頻度はBシナリオの10倍なら、A事故事故シナリオは10倍起こりやすい、柏崎刈羽の弱点と言えます。このように、脆弱性を見出したり、その改善にHというシステムを導入したら、どの程度事故確率が減るかといった相対的な評価には有用としている。これが定説となっている。
 つまり、当初の目的であった原子力損害賠償保険の適正料率の算出には役に立たない。しかし、危険性低下のツールには使える。
 
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 理論的に考え得るすべての事故シーケンスの発生頻度と影響を定量的に評価する。
異常・故障などの起因事象の発生頻度、
起因事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率
および事象の進展・影響を定量的に分析・評価する
ことにより、事故の発生確率や影響の大きさ、あるいは両者の積(リスク)をもとに総合的な安全性を評価するものである。
 
この 確率論的リスク解析 (PRA,probabilistic risk analysis)が開発される前は、事態の収束に最も影響する系統で故障が起きたする、影響を緩和する安全機能の喪失確率は1として、バックアップして代替して稼働する系統があり、それで事態が収束することで安全性を評価していました。例えば、原発の機器を動かす外部から送電される交流電力が途絶える(起因事象)、すると非常用デーゼル発電機が起動します。この非常用DGが稼働しない確率を検討。例えば1%なら2台あれば2台とも稼働しない率は0.0001でこれなら合格とか、もっと下げるべきとか検討します。次に、稼働しない、喪失確率は1として、バックアップする系統を検討します。直流の蓄電池・バッテリーがそれです。原子炉への注水はバッテリーで制御管理される蒸気駆動の注水システム、計測器や弁の操作制御もバッテリーです。それで原子炉の安全が保てるか検討評価します。
 
 PSA作業は、まず評価の対象とする原子炉の設備、特性を調査することから始める。
つぎに炉心損傷・シビアアクシデントに至る可能性のある事故シーケンスの引き金となる起因事象を選定し、
そのおのおのに対して事象の拡大防止や影響緩和のための原子炉停止や炉心冷却などを行うシステムが成功または失敗する組合せを図式表現し、
炉心損傷に至るシーケンスを検討する。

表現図式 
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イベントツリー(ET) 起因事象を出発点に、事象がどのように進展して最終状態に至るかを、ほぼ時系列的に解析していく樹木状の論理構造図。
 
 イベントツリーは事故シーケンスを並べて、その後の処理が設計通りに行われるかどうかを、機器故障、人的ミスなどの Yes, No で分岐させて作る。そして、膨大なシーケンスのうち結果が同じものを束ねて数を大幅に減らしていくのである。
 
 
 
 
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フォールトツリー(FT)・・システムの成功基準を考慮して決定された解析対象の事象(一般に失敗事象)を頂上において、その事象が生じるための要因をつぎつぎと図式展開し、それぞれの間を成功または失敗のゲートで結合していく論理構造図
 
イベントツリーで事故シーケンスのうち結果が同じものを束ねて数を大幅に減らす。その上で結果に至る事故の詳細を
And(その失敗を引き起こすいくつかの原因事象のすべてが起こらなければその失敗が生じない場合、左図では機器AとBの故障が同時に起きること。),と
Or (その失敗を引き起こす原因事象のうち、いずれか一つが起これば生ずる場合、左図では設備点検中、操作失敗、機器AとBの同時故障のいずれかが起きれば安全対策4は失敗する。)で結びつけながら、部品の故障、人的なミス、自然災害といった最終原因まで遡っていく。 
 
部品の故障、人的なミス、自然災害といった最終原因の事象の確率が求められれば、それで、それぞれの事故シーケンスの確率を求めることができる。 Andで結ばれていれば、その失敗を引き起こすいくつかの原因事象のすべてが起こらなければその失敗が生じない、図では機器AとBの故障が同時に起きること。だから、Aの故障確率×Bの故障確率が生起する確率になる。Or ならば、その失敗を引き起こす原因事象のうち、いずれか一つが起これば生ずる、図では設備点検中、操作失敗、機器AとBの同時故障のいずれかが起きれば安全対策4は失敗する。生起する確率は、各々の確率のすべて加えた和になる。
 
問題はこの最終原因の確率への信頼性
 
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 その最終原因の事象の確率は、 基本的には過去の同一事例から得られたデータに基づいて頻度確率を求めていく。そうしたデータが得られない場合は専門家の経験に基づく主観確率が使われている。部品の故障、人的なミス、自然災害といった最終原因で、人的なミス、自然災害などの起こる確率は専門家の経験に基づく主観確率になることが多いだろう。(右図は主観確率の求め方)
 
機器の故障確率も信頼性の高い値が得られるとは限らない。外部からの交流電力が途絶える(起因事象)場合、緊急停止した原子炉への注水は、非常用デーゼル発電機(DG)からの電力に依る電動ポンプが用いられる。それがダメなら、バッテリー(直流電池で制御管理される蒸気駆動の注水システムになる。この注水システムはBWR特有で世界に約80システムしかない。非常用DGは同類が他の産業プラントで用いられている。従って、それが必要とされたケースも多いし、故障数も多いだろう。そのデータ、故障率に比べ世界に100個もない蒸気駆動の注水システムのデータ、故障率の信頼性は低くなる。
 
このように 確率論的安全評価(PSA)の結果、それぞれの事故シーケンスの確率は、主として我々の知識の限界に由来する不確実性があります。事故シーケンスの確率値を、そのまま使うことはできません。個々の事故シーケンスの確率の不確実性は同じなので、相対的に使うことはできます。Aという事故シーケンスの確率がBの事故シーケンスの確率の10倍なら、Aが10倍起こり易いと判断できます。
 
PASの用途  原子力発電技術機構  平野光將さんの原子力発電所の確率論的安全評価(PSA)より
 
 PSAは、原子力発電所の基本設計、詳細設計と建設および運転のプラントライフサイクルの全ての段階において、具
体的には以下のように活用され得る。
 
 まず基本設計の段階では、複数のシステム構成案に対して簡易的なPSA手法を採り入れた相対的評価を実施し、安全
性に加えて通常運転時の運転員負担や経済性も考慮して最適な案を選択する。さらに、選定された設計案について安
全裕度を確認するとともに、相対的に脆弱な部分(機器や系統)を摘出し、これを強化する。
 
ついで、詳細設計と建設の段階では、詳細設計に基づくPSAを実施し、基本設計の具体化の確認、サポート系や系統間依存性などを詳細に考慮した安全裕度の総合的評価、試験と保守の手順や周期の最適化、通常時および異常時の運転手順書の整備、さらにはアクシデントマネジメント(AM)計画の作成サイト内外における緊急時計画の立案に活用する。
 
また運転段階では、機器故障や運転管理などの実績を反映した当該発電所の固有データを用い、周期的あるいは設計や運転手順の変更を検討する際にPSAを実施し、上記の詳細設計と建設段階でPSAを活用した各事項について運転実績に基づいた妥当性の確認を行うとともに、必要な改良整備などを行う。 

 


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