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安全目標は羊頭狗肉(下)、田中・原子力規制委・委員長7/17③ [原子力規制委員会、指針・基準]

原子力規制委員会が原子力施設の規制を進めていく上で達成を目指す目標として、「原子炉の事故は炉心損傷頻度(CDF)は1万炉年に1回程度、格納容器機能喪失頻度(CFF)は10万炉年に1回程度に、Cs137 の放出量が100T(テラ・兆)Bq を超えるような事故の発生頻度は、100万炉年に1回程度を超えないように抑制されるべきである(テロ等によるものを除く)」をかがげています。100T(テラ・兆)Bq以下なら、原発敷地内に深刻な汚染は限られ、「帰還困難区域」を作らずに済むと試算されています。新安全基準はこの安全目標を達成するための手段です。

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この安全目標を、原子炉プラントの1基ごとで適用するのか、核発電所・サイト全体で適用するのかという問題は「今後とも引き続き検討を進めていく」としています。日本の核発電所・サイトは2~4基、柏崎刈羽は7基ありますから、サイト全体で適用するなら、100T(テラ・兆)Bqは1基当りではその分小さくするなどが必要になります。その問題検討は先送りしました。

しかし、新規制基準での安全審査とではこの問題に直面することになります。それで、7/17の原子力規制委・田中委員長の記者会見で質疑がありました。  参照 安全目標は羊頭狗肉(上)

複数立地

原子力規制委・田中委員長7/17
「アメリカもこれまでは3基だったのだけれども、4基目を作っているところがありますので、必ずしも世界の標準から見ると、多いわけではない。福島第一は6基ですから多いですけれどもね。柏崎刈羽もそうです。」

田中委員長が米国を上げているので、米国の原発をみると全部で64サイト・発電所のうち1基が28サイト、2基は33サイト、3基は3サイトで平均で1.6基です。(下のATOMIC資料)


また3・4基目の建設許可を得ているジョージア州のアルビン・W・ボーグルのサイトでは、3基目の建設が進められていますが、4基目は着工されていません。この建設には資金が集まらず、2010年に米連邦政府による83.3億ドルの融資保証がついて建設が始まっています。
この2基の建設総コストは140億ドルと想定されていますから、2010年の連邦政府の融資保証枠外の60億ドルが集まらなければ、4基目の建設はできません。これまでの原発建設では、最初の想定より建設費が高くなります。安全規制が強化・追加され、それで建設費が膨れるのです。140億ドルは最小の建設コストです。民間から調達しなければならない投資金額は、60億プラスαになります。そして3.11東電核災害後は原発への民間投資資金の流入が事実上途絶えています。

2009年末現在で26基の建設・運転許可申請が出され、3基目、3・4基目の建設許可を申請しているところがありますが、許可が出ていません。しかも許可が出ても原発への投資資金流入が3.11東電核災害後は事実上途絶えているので建設資金が集まらない=建設しない可能性が高いのです。

3基目を申請していたメリーランド州のカルバートクリフス原発は、米コンステ社が原発の採算見通しの悪さを懸念して合弁から撤退し、仏電力公社単独の子会社となりました。米国は原子力エネルギー法で、外国人が単独で原発を保有することを禁じています。それで、仏電力公社は米国内の新たな合弁相手・51%以上の株に出資する投資家を探しましたが、原発のコスト高から出資に応じる投資会社が現れませんでした。その結果、2003年3月11日、3.11東電核災害から2年後に建設許可を出さないと米政府が決定しています。

米連邦政府による原発への融資保証枠は185億ドルとエネルギー政策法で決まっています。既に、83億ドルは使っています。公的資金では26基の建設費を賄えません。民間からも建設資金が集まらないので、米国の核発電所・サイトの複数基化は進展しないと見込まれます。


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日本は17サイトで1基が2サイト、2基は4サイト、3基は5サイト、4基が4サイト、6基が1サイト、7基が1サイトで平均3.2基です。(2009年末現在)
米国が平均1.6基ですから、日本は約2倍です。韓国、中国、インドなどには4~6基のサイト・発電所がありますから、日本だけが多数の複数立地しているのでは有りませんが、「世界の標準から見ると多い」複数立地です。

1979年の米国のTMIの核災害では、2号機はメルトダウンしましたが1号機の機器は破損していません。旧ソ連の1986年のチェルノブイリ4号機の核災害では、同じサイトにある1、2、3号機は運転を継続しています。3.11東電核災害では、同じ地震、津波によって同じサイトにあった6基で機器が破損しています。

天災の多い日本では地震など共通の外部要因で同じサイトの複数の機器が破損するので、複数立地は他国より重要な問題です。そして、サイトの原子炉数が米国に比べ約2倍ですから、リスクが顕在化しやすい。それを、誤った印象付けで誤魔化しています。

集中立地

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図の出元


そして、日本には地震・津波という危険が諸外国に比べて高い。上の図は1568年以降に記録された米国の震源と原発の地図です。これを見ると、米国の原発の地震対策は、地震が起きない所に建設する立地と離して建てる立地が基本だとわかります。日本ではそうは行かない。

原発サイトが複数、半数以上が3基の原発がありますから、地震で全て基原子炉が影響を受ける。さらに近接する複数の原発サイトがある。集中立地している。3.11の東北大震災で青森の東通原発、宮城の女川原発、福島の東電福島第一と第二、茨城の東海第二が影響を受けました。東海第二は地震直前に防潮堤の嵩上げ工事がおわっていた、福島第二は外部からの電力が1系統残ったなどで、幸い2サイトで発災にまで至りませんでした。この近接する複数の原発サイトの集中立地は、福井県で特に問題です。防災計画のUPZ(30km圏)が重なり合っています。

7/17の規制委・田中委員長の会見では、前半で田中委員長は集中立地が問題である事を認めています。しかし、後半になると次のように答えています。

○記者 (朝日新聞のオオムタ)
直ぐにということを必ずしも言っているわけではないのですが、例えば、福井県で言えば、10基以上の原発があるわけですね。そうすると、同じように1炉について、シビアアクシデントの確率を100万年に1回以下というふうに抑えたとしても、10基あれば10倍になるわけですね。10基もし動けば、あるいはそこに存在することによって、アクシデントの確率が上がるかもしれないと考えると、他の1基しか動かさない原発が仮にあったとしますね。そこに比べると、10倍のリスクを福井県の県民は、10基動けばですよ、それでもやむを得ないということになるのかということをお尋ねしたいのです。

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○田中委員長
若干お話にトリックがあるような気がして答えにくいのですが、福井県というふうになぜ地域を限ったかというところがあるのですね。世界全体で、地球全体で幾らとか、そういうこともあるわけで、アメリカは100基もありますしね。日本でも今、50基あるわけですね。ですから、そういうことを含めて考えていかなければいけないのだと思いますけれども、算術の問題ではないと私は思います。

このように、福井県⇒日本全体⇒米国⇒世界全体で、地球全体と、膨らませて「幾らとか」と考えさせる、「お話にトリック」を仕掛けて誤魔化しています。今の確率論的リスク評価(PRA)という理論的道具は集中立地のリスク評価に使えない段階だとしても、「お話にトリック」を仕掛けて記者さんを煙に巻いても、集中立地のリスクは消えません。

サイト・発電所に複数立地する問題と近接して多数ある集中立地の問題は、安全を達成していく上で重要な問題です。しかしこのように正面から立ち向かわず、誤魔化しています。

責任放棄・・規制委は羊頭狗肉

「新規であれば、距離が近いとか、何基ならいいのかという問題は、今後いろいろと検討すべきところがあるかもしれませんけれども、(既設炉を審査する)今の状態で、それについて明確に答えを出すというか、複数立地のよしあしを、我々の立場で言える状況ではない。」

新設よりも既設に安全目標を適用しないと優遇しています。既設炉にも新たな規制を遡って適用するバックフィット規制の導入の趣旨は、一見厳しい措置に見え住民などの不安を抑えるが、「既存の原発は止めない、廃炉にしない」ということが明らかになりました。

「我々の立場で言える状況ではない。」・・・原子力規制委員会のほかに、安全目標を論議検討して答えを出す立場の人々、機関はあるでしょうか?責任放棄です。

田中委員長は日本に多い地震などの天災を考慮し世界で一番厳しい規制基準になったと自負していますが、規制基準を統括する安全目標でそれらを考慮していないのでは、羊頭狗肉の安全行政です。

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