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SPEEDIはSBO事故から1時間で使えなくなる設計 加筆 東電の準ストレステスト-④ [AM-放射能拡散予測・SPEEDI]

1月16日に東京電力が柏崎刈羽原発の1号機、7号機のストレステストの報告書を国・原子力保安院に提出しました。その中で、ストレステストの評価方法の妥当性を確かめるとして、東電福島第一(フクイチ)の1号と2号機、第二原発のストレステスト、津波での影響を評価しています。
報告書はこちらから→保安院、フクイチは1号機の報告書に添付されてます。
放射能が何時、何処へ、どれくらいの量・濃度という拡散情報は事故時の避難、防災の要です。
日本はそのために緊急時対策支援システム(ERSS)と緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を国費で開発しました。
緊急時対策支援システム(ERSS)のサブシステムの予測システム(APS)やプラント事故挙動データシステム(PBS)で、原子炉から大気中に放出される放射性物質、その核種ごとに何時から放出されるか、放出量の増減を予測算出します。

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その放出源情報と気象庁のアメダスなどから原発周辺の風向き情報や地形データから放射能の大気中の拡散シミュレーションを行い、大気中の放射性物質の濃度や線量の分布を予測するのが緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)です。

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ERSSの予測システム(APS)は原発から伝送されてくる外部電源・非常用電源・安全注入系の作動状況、原子炉および格納容器の圧力/雰囲気温度(複数ポイント)/放射線量、原子炉圧力/水位/温度、安全注入系流量、格納容器スプレイ流量などのパラメータの数値などの情報をもとに予想計算をします。そして予測システム(APS)は放射性物質の放出量や炉心出口温度、原子炉および格納容器の温度・圧力等を予測計算の結果として出力します。
 使用する伝送パラメータが来ない場合は、電話、FAX 等によってパラメータの数値情報を得て、プラント事故挙動データシステム(PBS)をつかって予測します。PBSでは、予め、種々の事故に対するプラント挙動を解析し、これら解析結果をデータベース化しておきます。電話などで得たパラメータの数値情報から似かよった事故をデータベースから検索・表示することにより、おおよその事故進展を把握することができます。計測できないプラントの状態(燃料破損、水素発生、燃料溶融等)や放射性物質の放出などを将来予測結果を短時間で出力します。電話などで得たパラメータの情報の入力作業を含めて、1 日・24時間の進展を 1 時間程度で計算で得られるそうです。得られた放射性物質の放出量をSPEEDI に受け渡し、放射能の流れ・拡散予想も出せます。

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東電福島第一原発核事故では、3箇所の不備、被害で原子炉の状態を示すパラメータの伝送が途絶えています。
PK2012011902100109_size0.jpg①原子炉の圧力、温度、放射線量などの計測機器は、交流電源のものと直流のものがある。交流電源のものは全交流電源喪失(SBO)でダウン直流電源の計測機器は、1号機、2号機は直流電源(蓄電池)が津波被水などで喪失したのでのダウン。3号機は蓄電池が無事だったのでバッテリー切れまで使えました。
②パラメータを収集しプラントの運転状態を監視・記録しているプロセス計算機が非常用交流電源喪失で停止
③パラメータ情報を伝送する装置を非常用電源に接続していなかったため伝送経路が地震直後に途絶したためです。
 ③の伝送経路を非常用電源に未接続は、フクイチだけでなく他の原発でもありました。その責任を東京電力、規制機関の原子力安全保安院、保安院の下請けのJNES・原子力安全基盤機構で責任の押し付け合いは、みっともないもので、原発の危険性の根源の一つを示しています。しかし、これは非常用電源に接続すれば解決します。

非常用交流電源がなくなると

②のパラメータを収集し運転状態を監視・記録するプロセス計算機の非常用交流電源は、蓄電池の直流を交流に変換して供給する電源です。1号機、2号機は津波で蓄電池が被水しているので直ちに機能喪失。3号機は蓄電池が生き残ったので稼動しています。
しかし3号機も約1時間後には非常用交流電源が停止してプロセス計算機も停止しています。
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 約1時間後にはプロセス計算機は停止しています。非常用交流電源装置から切り離されるのです。パラメータを収集し運転状態を監視・記録するプロセス計算機が停止するのですから、緊急時対策支援システム(ERSS)へのパラメータの伝送がとまります。
 蓄電池からの直流電源は、原子炉に注水するRCIC(原子炉隔離時冷却系) 及びHPCI(高圧注水系)を稼動させメルトダウンを防ぐるために必要です。それで電源を長持ちさせるために、設計段階から全交流電源喪失(SBO)時には、約1時間後迄に非常用交流電源装置は停止または蓄電池から切離すのです。それで、SBO後約8時間はRCICなどを運転継続し注水できるよう設計しています。「切離しを行わない場合の給電可能時間は概略的2~4時間である。」

 3号機の非常時の事故時運転手順書では、「バッテリー用量の確保のためにCVCF(無停電交流電源装置)を事故後1時間でバッテリーから切り離す」(事象ベース、12-4-1)と書かれています。3号機の運転当直は決められた手順どおりに11日に夕方に操作しています。それで原子炉のパラメータを収集しERSSに送り出すプロセス計算機も停止しています。
事故時運転操作手順書は11/16公表分12/20公表分
 つまり、全交流電源喪失(SBO)時には約1時間後迄に原子炉のパラメータが来くなりERSSの予測システム(APS)は“お飾り”と化す設定で設計されています。それは、SPEEDIも放射能の放出源情報が得られなくなり、放射能濃度や線量の分布を時刻的地理的に緻密に予測する本来の機能を交流電源喪失(SBO)から約1時間以降は失うということでもあります。

 ですから原子力安全委員会の見解「SPEEDIについては、今回のように、放出率、放出の場所や高さの条件設定が非常に不確かで、放出の初期の放射性物質の拡散はその場所の局所的な建家形状や地形に左右されることを考慮し、元々、気象パラメータも連続的に変化すると、核種濃度を予測することは極めて困難と言わざるを得ない」という原子力安全委員会・防災指針検討WGの見解は非常に無責任です。(防WG第1-5号)
 もともと全交流電源喪失(SBO)事故では約1時間後からERSSの予測システム(APS)は“お飾り”と化し、APSでは放射能の種類、放出率、放出の場所や高さなどが全く分からなくなるのです。原子力安全委員会の「そうしたデータが無ければSPEEDIでの放射能拡散や被曝影響を予測できない」という見解は、ERSSやSPEEDIはSBOから1時間後にはガラクタになるという事です。1987年から税金を約155億円投じたERSS、約125億円投じたSPEEDIは玩具、お飾りという事です。
 防災指針検討WGの委員らは直接・間接にこれらの関りがある人たちです。いわばERSS、SPEEDIの約280億円を飯のタネにしてきた人たちです。先ほどの見解は、彼らが直接・間接に負っている責任、イザという時に役に立たない高級電子玩具を原子力防災の要にしてきた責任を取ろうとしたものでしょうか。
 しかしERSSにはPBS・プラント事故挙動データシステムというリアルタイムの送信デーがなくても炉の状態を推測し進展を予測するサブ・システムがあります。SPEEDIはPBSやAPSの予測値だけでなく、実測値をもとに修正し精度の高い放射能拡散や被曝影響を予測する運用法も開発されています。つまり、放射能の種類、放出率、放出の場所や高さなどのデータが不十分でも、原子力防災、被曝防護に有用な役立つ予測情報は出せたのです。
 東電核災害では、そのような運用をしなかった、情報を活用しなかったという責任が、直積的に間接的に原子力安全委員会・防災指針検討WGのメンバーにはあります。先の見解は、そうした責任を認めているでしょうか。居直っているのではないでしょうか。
ERSSに約155億円、SPEEDIは約125億円の税金を投じて1987年から開発、運用してきました。防災指針検討WGの委員らは直接・間接にこれらの関りがある人たちです。いわばERSS、SPEEDIの約280億円を飯のタネにしてきた人たちです。先ほどの見解は、彼らが直接・間接に負っている責任、イザという時に役に立たない高級電子玩具を原子力防災の要にしてきた責任を隠そうとするものです。
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彼らが立案した新しい原子力防災計画指針ではSPEEDIをお払い箱にしています。新防災計画指針はSweep it under the carpet 「ほうきでごみをカーペットの下に入れる」「問題を隠して知らん顔をする」のカーペットです。しかし、放射性ヨウ素による子供ら、胎児の甲状腺被曝を避けるにはSPEEDIのような拡散予想システムが必要です。ゴミにはできません。彼らの責任逃れで、子供らを被曝から守る手段を奪われてはならないと思います。(詳しくは核災害への備え⑮
事故挙動データシステム(PBS)は使われた?
原子炉パラメータが伝送されないならプラント事故挙動データシステム(PBS)の出番です。パラメータ情報を電話等によって得て、似かよった事故をデータベースから検索し、おおよその事故進展を把握するPBS の出番です。3号機手順書によれば全交流電源喪失(SBO)から約8時は、原子炉の水位と圧力は直流電源の計測機器で監視可能な設計です。パラメータ情報が入手できるのは12日1時頃までです。
SBO時に非常用蓄電池で維持されるパラメータは下図。なお図に計測電源とあるのは120V交流電源でSBOで電源喪失しています。(詳しくは手順書・事象ベースの13-4交流120v/240v計測用主母線盤)

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 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故進展解析結果について(解説)によれば、次のようです。
11日夜午後9時半頃に2号機のPBS結果がでる。12日0時17分頃に官邸の危機管理センターに送付。
12日未明午前2時ごろ1号機のPBS結果、それを使った放射能拡散のSPEEDI結果が午前6時頃に出る。官邸の危機管理センターには、送られていない。
13日午前6時半頃に3号機のPBS結果が出る。6時50分頃、官邸危機管理センターに送付。
http://www.meti.go.jp/press/2011/09/20110902005/20110902005-6.pdf
 しかし、これらの予測結果は活用されませんでした。SPEDIによる放射能拡散予想は福島の人々の避難や被曝低減には役立ちませんでした。その理由、使われなかった理由は不明です。 続く

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brtatsu

ERSSの予測システムが全交流電源喪失から一時間以降は失うとかプラント事故挙動データシステム(PBS)の使用の遅れ、ましてやSPEDIによる放射能拡散予想が行われていなかったということは、設計上の問題もあるでしょうが、データのインプット、予測結果を以て判断する人間側に問題があるのでしょう。SPEDI,WSPEDIを本気で住民の避難のために使用することにならないのであれば、宝の持ち腐れであるでしょう。事実、放射能の放出条件は仮定であるいはモニタリング計測値からの逆算で拡散予測されたが、利用されていませんでした。
by brtatsu (2012-03-20 13:34) 

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