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お米のセシウム汚染のデータの読み解き方 検出限界、定量下限 [放射能検査と摘発、食品、水]

お米の放射性セシウムの汚染調査結果が次々と公表されています。
その報道を読み解くには、検査の検出限界と定量下限の知識が必要だと思い、取りまとめました。

どの程度の汚染があるか見つけるのは、測定法や測定器によって違います。
原発以外にも宇宙から降ってくる放射線、放射性カリウム40など太陽系が誕生して以来ある天然放射能が崩壊した時にでる放射線などがあります。この天然放射線量と汚染による放射線量の合計を測定することになります。
汚染量=測定値マイナス自然放射線で、自然放射線と区別できる最小の線量の増加分を検出限界といいます。
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この自然放射線量は、その場所による常数ではなく変動します。
高エネルギーの宇宙線の降り注ぎ方、建材に含まれる天然放射能や、測定器に含まれる自然放射能、測定者の体内のカリウム40の崩壊が時間的に変動するからです。
その変動は、グラフにするとお馴染みの山型で左右対称の正規分布になります。
正規分布では山の頂点が顕れる確率が最大の値で、この値の平方根・√が分布、揺らぎをあらわす標準偏差(SD、σ・シグマ)になります。
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例えば、ある測定器の自然放射線が、山の頂点で顕れる確率が最大の値が100で標準偏差σが√100=10であるから、右側の高いほうに10(1σ・標準偏差)離れた110までに34%が、そこから1σ離れた2σ点120までに14%が、さらに1σ離れた3σ点130に1.85%、3σ点130以上に0.15%、左側の低い方でも同様で、低いほうに-10(1σ・標準偏差)離れた90までに34%が、-2σ点80までに14%、-3σ点70まで1.85%、70以下に0.15%、という自然放射線量の変動がある場所の測定器があったとします。

 この測定器で汚染度ゼロの物の放射線量を測ると、100以下の数値と100以上の数値がでますが、100以下の数値では汚染度はなしと正しい判断が下せますが、100以上は汚染がないにも拘らず汚染有りという間違った判断を下すことになります。

 汚染度10(1σの値)のものでは、測定時の自然放射線が90以下なら測定器は汚染を検出して合計値で100以下の数値を示しますから、100は汚染無しとすると、汚染があるにも拘わらず汚染無しと間違った判断をすることになります。自然放射線が90以下は16%ですから、6回に1回は間違った判断をすることになります。汚染度が30(3σの値)以上なら100を基準に汚染無しとの間違えることは、自然放射線が70以下の0.15%の時ですからまずないのです。
 この自然放射線の変動・揺らぎの範囲から導き出される汚染有りを汚染無しと間違える確率が0.15%以下の汚染度、3σ(標準偏差)を検出限界といいます。

 この検出限界は、測定された汚染値の確からしさを保証しません。測定値が140は、自然放射線110で汚染が30、自然放射線120で汚染が20、自然放射線90で汚染が50、自然放射線80で汚染が60など様々な場合があります。

 一般に誤差・精度の大きさは、±σ(標準偏差)であらわします。それで実務的に、標準偏差σ=汚染度×0.1、ある測定法で規定された方法によって汚染度が既に判っている物・試験物を測定したとき、測定値のばらつき・標準偏差が、その汚染度の1割である汚染度の値を「定量下限」といいます。理屈的には10σ(検出限界の3.3倍)です。

各地で、お米の検査がおこなわれポチポチと結果が出ています。
先日、千葉県の早場米の検査が出ていました。
定量下限値をセシウム134で20Bq/kg、セシウム137で20Bq/kgで「検出せず」でした。
春、4月の田畑の放射性セシウムの土壌濃度の調査では、セシウム134で11.7~135、セシウム137で12.4~166Bq/kgでした。水田の土壌から玄米への放射性セシウムの移行係数は、これまでの研究から 0.1から0.01。ですから予想されるお米の汚染値は0.1~17です。

土壌の汚染量から見て「放射性物質が存在しない」とは考えにくい。土壌汚染値からみれば17とかの汚染をしているのですから、お米を測定するなら、定量下限値が10Bq/kg・検出限界3Bq/kg程度の測定法で検査しなければ、汚染の実態はわかりません。

汚染の実態がわかり、お米を採った水田の土壌濃度を調べておけば、千葉県の早場米地帯での移行係数が得られます。今後の、来年以降の作付けや除染の際に役立ちますが、そのデータは出していません。

平成14年3月厚労省作成の緊急時における食品の放射能測定マニュアルでは
「事故後 1 ヶ月以降 1 年間での食物摂取による被ばくを実効線量で1mSv/年とする。これを放射性セシウムについて、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の 4 食品群にそれぞれ 0.1 mSv/年を割り当てると、各食品群の Cs-137 濃度はそれぞれ 20、50、50、50(Bq/kg,L)以上となる」とあり、20Bq/kgは少ない濃度です。さらに「暫定基準値の500Bq/kgが目安なので、その25分の1で十分と判断。」として、汚染実態を不明にする定量下限値・20Bq/kgを正当化しています。

千葉県は定量下限値・20Bq/kgで「検出せずとは、放射性物質が存在しない、又は定量下限値未満であることを示す。」との注釈をつけていますが、新聞などでは「検出せず」は『安全』と報道されてます。

放射性物質・放射能には、安全はありません。安全を求めると贋金を掴まされます。いくら微量でも危険性がありますが、少なければ、数値が低ければ、より小さな危険性を意味します。ですから、放射能から子供を家族を自身を護りたいなら、放射能の量、汚染の実態を知って対処することが基本になります。

19Bq/kgは定量下限値・20Bq/kgでは「検出せず」で『安全』と報道されますが、定量下限値・10Bq/kgでは19と検出され、あたかも危険と報道されます。数値的には定量下限値・20Bq/kgでの19Bqは19±2、定量下限値・10Bq/kgでは19±1です。実態を知るという点では、定量下限値や検出限界が低く、数値が出る検査が有効です。新聞などの定量下限値や検出限界に触れていない報道は、それだけでは役立ちません。鵜呑みにすると「安全」で洗脳され百害あって一利なしです。

19日に新潟の早場米、柏崎市のお米(玄米)の結果が発表されました。それは新潟日報では「セシウム検出されず」と見出しが付き、定量下限について触れらずに報道されました。県のHPで確認すると定量下限値は10Bq/kgです。それで、検出せずでしたから10Bq以下で、4月の土壌汚染値からは0.17~1.7とみられます。

3.11の東電フクイチ核災害、これ以前のお米の放射性セシウム汚染は1963年が最高でした。セシウム137で全国平均で11.5±5.6Bq/kg、最高値は20.4Bq/kgです。これは盛んに行われていた大気圏核実験の放射性降下物によるものです。1963年に大気圏内の核実験を禁止する条約が米ソ英国でむすばれ、大気圏内での放射能放出が減るにつれて降下量が減っていきます。お米の汚染量も減り、2001年には全国平均で0.03±0.038、最高値0.14.。新潟県のデータを見ると、私は、1970年代前半に戻ったという印象です。
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ところで、そのように検出限度や定量下限を下げる方法は次のようなものがあります。

1)周囲の線源を遠ざけるなど、自然放射線量をさげる
2)測定器を鉛で遮へいして低バックグラウンド環境にする。
3)測定時間を長くして偶然変動を相対的に小さくする。
4)測定回数を増やして偶然変動を相対的に小さくする。
5)計数対象の放射線のエネルギー領域を限定する。

5は、ゲルマニウム半導体検出器ガンマ線スペクトロメーターで測定すると、ガンマ線スペクトラムが得られます。
放射性セシウムがだす特有の、チャンネル番号のγ線の数(計数値)からセシウムの量を割り出します。

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スペクトルの測定範囲(ウィンドウと呼びます)を狭めて、その測定範囲だけで標準偏差を設定することで、検出限界を下げれます。

1、2で自然放射線のレベルを下げると、その分布・揺らぎのσ・標準偏差も小さくなります。平均値の平方根・ルートですから、レベルが半分になると標準偏差が0.7位になり、検出限界(3σ)や定量下限(10σ)が下がります。
携帯用で空間線量を測るサーベイメーターは、この自然放射線込みで測定するので、食品の放射線・放射能の測定には使えません。
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3、4は、20Bq/kgから10Bq/kgに下げるには、1/4 しか計れないか4倍時間がかかるかどっちかだそうです。

測定機器も人員も限られています。国が依頼する日本食品分析センターの話では、「限界20Bq/kgで、検査に要する時間は10分。これを1Bq/kgにすると3時間くらいかかる。チェルノブイリの事故後、細かくやって欲しいと言われ3時間かけてやったこともあったが、その時と今では数が違う。これまで年100件くらいだったが、今は一日100件くらいの依頼がくる。
 今は技術者は3交代24時間のフル稼働でやっているが、それでも5日間は待っていただく状態。時間をかけすぎれば流通に乗らず、輸出品は止まってしまう」(江川紹子さんの取材)

3.11以降、放射能を大量に放出したのですから、今日の食品汚染は予想されました。ですから、検査機器や人員の需要急増も予想されましたが、政府は何をしていたのでしょう??

限られた検出機器を有効に使う戦略が必要だとおもいます。

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