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低線量放射線によるホルミンクス効果とは? 2004年1月6日紙版再録 [被曝影響、がん]

紙版、2004年1月6日、再録

低線量放射線によるホルミンクス効果とは?

昨年2003年末、うれしいニュースがありました。巻原発建設の断念です。その前には石川県の珠洲原発が計画中止になっています。
 この2003年の夏、東京電力の原発は全て停まっていました。原発には、このように一斉に止まってしまうリスクがあります。冷夏で首都圏大停電にはなりませんでしたが、このリスクに備えて大規模な予備の発電所を持たなくてはなりません。電力会社は、電力自由化を乗り切るために経営上の重荷になる原子力発電から手を引きたがっています。
 また原発から出る使用済核燃料などの放射能を帯びた核のゴミの行方、後始末はいまだに不明で、幾ら始末料かかるかは分かりません。電力会社の甘い過小な見積もりでも、発電原価が火力発電と原子力発電でほぼ同じです。メリットがほとんどない。
 それでも国は原発推進を変えていません。そのための様々な世論工作をしています。例えば、少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になるといっています。
 これから老朽化した原発の解体によって建物の廃材など低いレベルの放射線を出す廃棄物が山のように出てきます。国は、この低レベルの廃棄物を普通のゴミ処分場に埋め立てたり、リサイクルする方針です。つまり原子力発電所の鋼材を再利用して、スプーンやマンションなどの鋼材にしたり、コンクリートを再利用したりしたいのです。それで「少しの放射線は浴びた方が体によい」と宣伝して、安心感を持たせたいのです。

放射線によるDNAの切断

 放射線を浴びると、放射線が体を通過するときに持つエネルギーを細胞に与える、つまり細胞のタンパク質や遺伝子を変質させます、壊していきます。私たち一般人が法律上浴びても良いとされる放射線の線量は年間で1mSv(ミリシーベルト)ですが、レントゲンのX線やガンマ線を1mSv浴びるということは、一個一個の細胞に一回放射線が通過することになります。レントゲン技師や原発労働者など業務上の規制値50mSvでは50回の通過です。(私たちは、宇宙からの放射線などで年間に1mSv(ミリシーベルト)の放射線を何もしなくても浴びています。規制はそれに加えてどれ位にするかという値です。つまり規制値ギリギリですと1+1で2mSv被爆することになります)
 放射線被爆で様々な影響が起きますが、特に注目されるのは発ガンや遺伝障害をうむ遺伝子への影響です。遺伝子は物質的には細胞内のDNA(デオキシリボ核酸)です。4種類の塩基、A、G、C、T、がいろんな順序で並ぶ鎖になっています。細胞(核)内のDNAは二重螺旋の形をしています。片方の鎖の螺旋は、もう片方の螺旋と対になっています。片方にAがあると、もう片方にはTっがあり、CならばGがあるという相補的になっています。

修復されない二重切断とホルミンクス効果

 ですから放射線で片方の鎖の螺旋が壊され切断されても、無事なもう片方の螺旋から切れたところ修復できます。Aならば欠けたのはTですから、Tを付け加えて間違いなく修復できます。失敗するのは10000個に1個くらいです。

DNA二重鎖切断で発ガン
 問題なのは、2本が同時に切れてしまう切断、二重鎖切断です。生存に重要な部分が切れたままだと細胞は死んでしまいます。正常な細胞は、この切断を修復する仕組みをもっています。しかし間違えて修復する、本来はAなのにTを入れてしまう事もおこります。この間違いが癌や遺伝障害をみちびきます。修復されなかったり、誤るのは10個に1個くらいです。
 それでは、どれ位の放射線の被爆量で二重鎖切断の数はどれ位出来るのでしょうか。X線やガンマ線を1mSv浴びると細胞100個に3から4個に二重鎖切断がおきます。DNAの二重鎖切断は、活性酸素など生理的にも、自然の放射線でもおき、細胞20個に1個の割合で見られます。放射線を浴びると二重鎖切断が増加します。それが修復されて減少します。自然に発生する数と同じになれば、放射線照射による切断は全てつなぎなおされたことになります。間違えた修復がされるかもしれませんが、切れたままだと細胞は死んでしまいます。
 不思議なことに、被爆した放射線の量が少ないと、修復されないのです。被ばく線量が少なくなるにつれて修復される割合が減少し、X線やガンマ線を1.2mSv浴びる量では、全く修復されず切れたまま残ってしまうのです。この量の被爆では二重鎖切断は細胞10個に1個の割合になっていますが、24時間たってもそのままです。なぜ修復されないのかはわかっていませんが、切れたままののです。そしてやがてこの細胞は死にます。この知見は、2003年発行のアメリカ学術会議雑誌vol.100に発表されました。
 細胞が死んでしまえば、癌も遺伝障害もおきません。死んだ細胞を補うために細胞分裂がおきます。新陳代謝が活発になります。これが少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になる、低線量放射線によるホルミンクス効果の正体の一つです。

 ホルミンクス効果の証拠とは?

細胞が死んでしまえば、癌も遺伝障害もおきません。死んだ細胞を補うために細胞分裂がおきます。新陳代謝が活発になります。これが少ない量の放射線(低線量放射線)を浴びた方が健康になる、低線量放射線によるホルミンクス効果の正体の一つです。
 また「ホルミシス効果を示す例として、ゾウリムシを鉛の箱で自然放射線を遮断して飼育すると、正常の増殖能が抑制され(増殖率59%)、放射線源を入れると回復したという知見」がよくあげられます。果樹栽培では、何時までも大きくなろうとし実の付きが悪いと、根を切断するなどのストレスを与えます。家庭園芸でも、植え替えが花をよく着けさせる方法で奨められます。植え替えの際に根が切断され、ストレスが加わり、大きくなる栄養成長から、花・実をつけて子孫を残そうとする繁殖にスイッチが切り替わるからです。つまり、ストレスがない少ない状態では、繁殖は少なくなります。ゾウリムシは、自然放射線による損傷というストレスがなくなったのですから、増殖が少なくなって当然です。これが、低線量放射線による健康増進効果の証拠になるのか理解に苦しみます。
 また「インドのケララでは5,000人が年平均20mSvの自然放射線を被ばくし、45,000人が5mSv以上を被ばくしているが、ケララでの平均寿命はインドの平均より10-15年も長い」という事も健康増進効果の証拠によく持ち出されます。
 私たち日本人は、一人当たり年間約3.8mSvの放射線を浴びています。その大半は、2.25は医療、病気の診断や治療で浴びるものです。ですから、こうした利用が少なかった50年前に比べれば、被ばく線量は倍ぐらいに増えています。その間に平均寿命も大幅に伸びました。インドのケララを引き合いに出さなくとも、「日本人の被ばく線量は倍以上に増え、その放射線による健康増進効果で、平均寿命が延びた」と上の文は書き換えられます。しかし、貴方はこの見解が正しいと思いますか?
 日本人の平均寿命の延びは、食生活の改善や公衆衛生の向上、医療の発達などによるものなのは誰もがわかります。被ばく線量の増加は病気の診断や治療による物ですから、寿命の延長をもたらした医療の発達を示す目印ですが、被ばく線量の増加が原因で寿命が延長したわけではありません。
 インドのケララについて、ノーベル賞受賞の経済学者アマルティア・センは次のように述べています。「ケララでは、女性の財産権がインドの他の地域よりも大きく認めらているなど、女性の社会地位が高い。それで女性の教育水準、識字能力が高い。識字の能力の高さは、家族計画や衛生知識の普及に役立つ。ケララでは、出生率が1.7、(インド全体では3以上)乳幼児死亡が千人当たり33人(インド全体では53人)」乳幼児の死亡率の低下は、ストレートに平均寿命の延びにつながります。「ケララでの平均寿命はインドの平均より10-15年も長い」原因は被ばく線量の多さではなく、こちらの方ではないでしょうか。

原爆被爆で健康増進??

 また低線量といっても実際には、桁がちがう線量での現象をごちゃ混ぜにして議論しています。その線量をみると、国は「ホルミシスを誘発する低線量として、一回の照射の場合は、1-20cGy(センチグレイ、X線やガンマ線なら10-200mSv)で特異的に認められ、50cGy以上だと効果が消失することが多い」、しかし電力会社は50cGyで糖尿病や老化が抑制されたといっています。また10cGyを全身に週に3回、5週間に浴びると癌の転移が抑えられたいっています。
 現在の法律上の規制値、一般人が年間で1mSv。レントゲン技師や原発労働者など業務上の規制値50mSvでは低線量放射線によるホルミンクス効果、健康増進効果は得られないわけです。もっと、もっと放射線を浴びた方が健康には良いという点では国も電力会社も同じです。しかし国は50cGy以上だと効果が消失ですが、電力会社はそれくらいで効果があるといっています。
 放射線被爆で直ぐに思い起こすのは、広島・長崎の原爆被爆者です。その被ばく線量は、国の公式見解では広島の原爆で爆心地から1.8kmの地点での、被爆の放射線量は15.3cGyです。つまり、広島原爆での被爆者の大半は、原爆による1回の放射線被爆で、より健康になった、ホルミンクス効果で健康が増進したことになります。被爆者援護法による国庫の支出は、大半が不要になります。原爆病、被爆者の苦痛の原因は何なのでしょうか?
 隣国が持っているといわれる原爆の規模は広島・長崎級、米国が開発しようという小型原爆もそうです。これらの原爆で、爆風や高熱で被害が生じますが、放射線での被害はごく一部、むしろ被爆した大半はホルミンクス効果で健康が増進することになります。使用に際しては、通常爆弾を雨あられと使うか、原爆一発で済ませるかという手間の問題しか残りません。低線量放射線による人のホルミンクス効果が本当なら、原爆は費用対効果の点で優れた、使いやすい兵器です。貧乏な国が持とうとするのは当然ではありませんか。

被爆労働で糖尿病、老化の予防

 原子力発電所は年に1回、点検のため停止します。点検作業で、機器のボルトを一本はずすにも、放射線が充満しているため、作業員の被ばく線量を法律の枠内にとどめるためには一人の作業員の立ち入り時間が短くなります。工具をつけて廻すのに一人、はずすのに一人、ボルトを片付けるのに一人といった具合に細切れにしなければなりません。経費と時間がかかります。電力会社のいうホルミンクス効果、10-50cGyの放射線を浴びた方が健康に良いのなら、立ち入り時間が大幅にのびます。細切れにする必要がなくなります。多くの作業員が不要になります。点検の経費と時間が短縮されます。糖尿病の心配な方、老化を防ぎたい方は原発労働者になって、原子炉で被爆した方が健康には良いわけです。
 「放射線ホルミシス効果」は、1982年、米国のラッキー博士が主張しました。「日本では、1980年代の早くからホルミシス効果についての研究が始められ、多くの大学や研究所で世界に先んじた研究が進んでいる。1987年、日本放射線影響学会において「放射線ホルミシス研究会」が発足した。また、電力中央研究所が中心となり、1988年以来国内外の20余の研究機関が連携した研究プロジェクトも進展している。」平成15年11月5日、新高輪プリンスホテルにて、ラッキー博士本人が、「~放射線ホルミシスそれは神の業か~」と題して、内外多数の学者の参加を得て、盛況のうちに、記念講演をしたそうです。
 人間のホルミシス効果を知るなら、原爆被爆者、チェルノブイリの被爆者、原発労働者を調べるのが確実でしょう。それをきちんとせずに、国や電力会社から研究費を得てゾウリムシやラットに放射線を浴びせて悦に入っている姿は、神の業でしょうか。  

紙版、2004年1月6日、再録


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