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30kgの水素爆発に威力は?? 水素ガスとベント 試論⑧ [AM-ベント、排熱]

SOARCA報告書でのTIPの案内菅漏洩、30kg・約330立方㍍の水素の爆轟が起きた場合の被害を私は推測できない。東電核災害の3号機の爆発の水素量は約400㎏、4号機は約100㎏と政府事故調は評価している。30kgの水素の爆轟はどんな破壊力だろうか。

2011112c.jpg

 爆轟の発生個所は3号機は建屋最上階の5階(オペフロ)で4号機は4階(西側、上の右側画像の2枚外壁が残っている階の下の部分)と政府事故調は評価している。5階で30kgの水素が爆轟したら5階のブローアウトパネルは吹っ飛ばすだろうし天井も壁面より薄いから壊れるだろう。格納容器は破損しないだろうか。1階のTIP室で起きたら、爆轟のエネルギーは部屋や建屋内の機器を壊し、出入り口のハッチを歪めたりブローアウトパネルを吹き飛ばして出ていくだろう。NRCのSOARCA報告書で想定している地階のトーラス室で爆発が起きたら、トーラスつまりS/Cプールは損傷しないだろうか。
 爆轟の後はPCV格納容器から洩れる水素ガスと放射能はブローアウトパネルの外れたところなどから大気中に出ていくだろう。

 NRCのSOARCA報告書では、格納容器PCV頂部のヘッド・フッランジから水素ガスの大量漏洩と次いでのPCVのメルトスルーによる破損、水素爆発が5分くらいの間に相次いで起きるとしている。LTSBOシナリオでは水素爆発が発災から20.1時間時点におきる。そして、放射能の放出が始まる。

 この放出量は、TIPの案内菅やペネトレーションによる水素漏洩とそれによる水素爆発で放出が始まった場合と総量は変わらないのだろうか?また、米国のベントはそれ用の配管の耐圧性を強化した耐圧強化ベントで格納容器PCVの中のガスをそのまま出す。日本ではこの他にフィルターで濾しとるフィルタベント設備を使うことも出来る。これらの損得を検討する必要がある。

SOARCA報告書の概観

その検討に取り掛かる前に、NRCのSOARCA報告書の概観を済ましておきたい。

 SOARCA報告書では水素爆発後に炉心のセシウムの約2%、ヨウ素の4%が最終的に環境中に放出されると予測している。放出量は、例えばセシウム137の量は従来の数十分の一となっている。それは「現在の軽減対策が実現に成功し、放射性物質の遠隔地への拡散を遅らせたり減量できるからである。」これは、フィルタベント設備の性能をきちんと評価する必要を示している。

放出量.jpg



 SOARCAでは解析対象にしたPeach Bottomピーチ・ボトム原発から、10マイル約16㎞の緊急計画区域内EPZの人口の99.5%が事故の避難指示を受け取ってから5時間15分後には避難を完了する、50%は安定ヨウ素剤を服用する、10〜20マイル内の人々の20%は避難指示なしで自主避難するということで50マイル以内での被曝影響の解析を進めている。この避難などの解析結果は米国内でも「非現実」とコメントされている。日本では全く当てはまらない。また、放射能が放出される前に避難する、もしくは避難後に放射能の放出をすることが重要であることを示している。

Peach Bottom Area.jpg

 この解析結果では原発から約16㎞圏の人口の99.5%がPCV破損、水素爆発の前には避難完了などしているから集団被曝線量は小さくなる。被曝影響が小さくなる。SOARCAでは事故の発生頻度を乗じて、約16㎞圏、米国のEPZの人が原子炉事故で癌になって死亡するのは100億年に一回としている。
 事故の発生頻度も日本に当てはまるだろうか。SOARCAでLTSBOは発生頻度は100万年に3回で仮定した地震加速度は294~490ガル、STSBOは1000万年に3回で地震加速度490~980ガル。米国の原発の耐震設計は、245ガル程度を想定し設計基準にしている。それでみるとLTSBOは基準越え~2倍、STSBOは2~4倍で想定している。
 柏崎刈羽原発を2007年に襲った中越沖地震では地震計9台が1000ガルで振り切れていた。水平方向で最大2058ガルに達し原子炉建屋基礎での揺れは322~680ガルに達したと評価されている。耐震設計上想定された地震動より1.5~2.5倍。
 東電核災害の東北地方太平洋沖地震、最大加速度は550ガルを記録して、設計基準を超えている。この地震は869 年(貞観11年)7月13日に起きた貞観地震以来の1100年ぶりの大地震である。
 地震の少ない米国の事故発生頻度は受け入れられない。
 またSOARCAは発生頻度が低いのは「現在の軽減対策で、炉心溶融を防止できる。」日本の炉心溶融の防止策=炉注水策はどうなっているだろうか?

新潟県の技術委員会でフィルタベント設備が論議されている。そこでのシビアアクシデントのシナリオで、TIPの案内菅やペネトレーションによる水素漏洩とそれによる水素爆発とヘッドフランジから漏洩で水素爆発で放出が始まった場合の放出総量の違い、格納容器PCVの中のガスをそのまま出す耐圧強化ベントとフィルターで濾しとるフィルタベントの損得をこうした視点を織り込んで検討してみる。


貫通部ペネトレーションと東電の水素対策 水素ガスとベント 試論⑥ [AM-ベント、排熱]

PCVの貫通部をペネトレーションpenetration というが、これはエポキシ樹脂などで目張りしてある。下図では導管が通る鋼板と貫通孔の間の隙間を灰色の樹脂の詰め物で塞いである。格納容器PCVは通常でも漏洩している。それはこのペネトレーションからの漏洩が主と言われる。設計基準では最高使用気圧の9割の圧力で1日あたりでPCV空間部の0.5%以下の漏洩である。

ペネimage2395-2.jpg

 米国のサンディア国立研究所での模擬実験で約200℃では10気圧までPCVの機器ハッチ・出入り口での窒素などの漏洩は起きないとのデータがある。これは水素でのデータではないので、水素ガスの漏洩の考察では使えない。水素ガスは透過しやすいので200℃以下や10気圧以下でも漏洩する、例えば1時間でPCV空間部の0.5%程度漏洩する可能性を捨てきれない。ところが、NRCのSOARCA報告書では、きちんと考察して評価していない。

東電核災害1号機の事実
水素ガスではないが、放射能が津波来襲から2時間後に建屋内に漏洩しては入れなくなっている。11日17時半頃、1号機の現場の状況確認にむかったが原子炉建屋入口付近で放射線量レベルが通常より高い値を計測したため、17時50分 一旦引き返した。地震14時46分から津波来襲15時36分までの約50分間の崩壊熱が多い時間帯の、炉の水位は通常レベルに保たれ、排熱も行われた。津波来襲時にSTSBO状況になったとしても、2時間後のこの時刻では後のシュミュレーションでは炉内ではブローダウン放出やギャップ放出の時間帯である。PCVは約200℃以上にも10気圧以上にもなっていない。
放射能が漏れてきているなら、同じ経路で水素ガスが漏洩してくるであろう。

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 NRCのSOARCA報告書では落ちている、200℃以下や10気圧以下での水素ガスのペネトレーションから漏洩を検討する必要がある。東電核災害では1炉で約400か所のペネトレーションが疑われている。

mizuhari-top.jpg東京電力は、ヘッド・フッランジには水を入れる対策を採るとしている。
ペネトレーションには詰め物の改良を挙げているが未定。
TIPには触れていない。むしろ、次のように言っている。

「過去の実験から、先ほどの200℃、あるいは圧力として2倍のところ、逆に言うとこれを超えた場合にどこから漏れ出すかというと、実はそういう場所から漏れ出す。特にトップフランジにつきましては少し面が開いてきてそれでシール材が直接やられていく、そういうメカニズムが分かってございますので、先ず200℃、2Pd は守るということで、なるべくそこに至るまでの漏えいを押さえていく、水素も含めた漏えいを押さえていく。
 逆にそれを超えると建屋内で水素、あるいは放射性物質の両方が漏れ出す可能性がありますので、漏えいのリスクと水素爆発のリスク、両方が高まります。従いましてこの条件でベントすることによって逆に格納容器の中の水素を排出するということになりますので、建屋の爆発についてはリスクを大幅に下げられるということになります。以上です。」(東京電力:川村原子力設備管理部長、平成26 年2月11 日新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会)

3号機の事実

 東電核災害の事実は、ベントが水素爆発を招いたと示唆している。3号機は13日の8時41分にベントラインを構成し、格納容器の圧力低下を9時20分に確認した。ベント成功。発電所正門から「3,4 号機主排気筒から煙が風で流されている状況を確認」その直後、9時半頃に「原子炉建屋1階は,霧が充満したようにモヤモヤと白くなり,線量計の数値が上昇して来たため,現場から退避。」と、建屋への大量の漏洩・リークが見られた。11時頃にはPCV圧力0.2MPa約2気圧まで低下している。その後3号機は、概ね0.45MPa以下であった。
 13 日11時17分、セルフエアセットを着用(作業時間15 分)し,2 班体制でボンベ交換作業。14時31分、原子炉建屋二重扉北側で300mSv/h 以上(中は白いモヤモヤ状態)、南側100mSv/h。15時28分、中央制御室の3 号機側の放射線量が12mSv/h。18時頃、仮設コンプレッサーを原子炉建屋1階に設置の作業に向かうが、放射線量が高かったため仮設コンプレッサーをタービン建屋1階の計測用圧縮空気系に19時頃接続。このように、ベントを行ってもPCV格納容器からの漏洩は止まず続いた。そして、14 日11時01分に3号機建屋で水素爆発発生。

 また3号機のベントまでの東電の作業は「先ず200℃、2Pd は守るということで、なるべくそこに至るまでの漏えいを押さえていく」とは真逆である。吉田調書によると次のようなやり取りが13日早朝にあった。

「発電からすると、(PCV)圧力が上がっているんだから、落とすために(PCV)スプレーして冷やしてやれば、落ちるだろうと、こう単純に思っているんですけれども、どうも本店の方では、落ちてしまうと、圧力が落ちてしまって、ベントが阻害されてしまうから、不要だという判断をした」「圧力を下げると、ベントに逆に、要するに、実際にベントするときに、圧力が落ちているとベントしづらくなってしまうから、逆に本店の方からスプレーをやめろという話だったと思うんです。それで、結局、それに折れてというか、ではやめろという話をしたと思います。」(2011年7月29日聴取書、26-27頁)
 ベントのためにPCV圧力を下げるスプレーを止め、炉圧を上げるために早すぎるSRV・逃し安全弁開放を行い炉から圧力を送っている。

漏れる水素の量と爆発へつづく


17~21時間後に水素爆発、BWR 水素ガスとベント 試論⑤ [AM-ベント、排熱]

ここからは、BWRに焦点を当てて進める。SOARCAではPeach Bottomピーチ・ボトム原発で解析を進めている。LTSBO long-term station blackout では、4時間時点に直流電池が枯渇して、8.4時間時点に核燃料が顔を出し始める。露呈する。放射能のギャップ放出がはじまり約30分後にジルコニウムと水蒸気の反応で水素ガスの生成が始まる。それで、水素爆発が20.1時間時点におきる。最上階のブローアウト・パネルと天井が爆圧で壊され、大物搬入口の扉がこじ開けられる。

 電池が初めから使えない全電源喪失のSTSBO short-term station blackout は、30分時点で核燃料が露呈して、55分時点で水素ガスの生成が始まる。
 SOARCAのシナリオでは、それから5分後の1時間時点で炉心隔離冷却システム・RCICを運転員が手動で稼働させる。炉への注水が行われるシナリオ、ご都合のよい設定になっている。注水で再冠水して水素ガスの生成が止んで、5.7時間置いて6.6時間時点に水素ガスの生成が再開する。16.9時間時点で水素爆発。ご都合タイム5.7時間を差し引くと11.2時間時点だ。

Figure 5-65 Total Hydrogen Mass in the Reactor Buildingl-3.jpg

SOARCA公式版はhttp://www.nrc.gov/about-nrc/regulatory/research/soar.html から入手可能

水素ガスの漏洩経路

 SOARCA報告書での漏洩経路は、ベーシックケースでは格納容器PCVの頂部のヘッド・フッランジからである。その他に炉内に設置してある計測機器TIP(移動式炉心内計測装置)の案内菅を通じた漏洩を考えて評価している。
 ヘッド・フッランジがPCV内圧で押し上げられたり、ガスケットが高温で劣化して漏洩リークするベースケース。

Figure 4-7 Potential containment bypass transport pathway through open TIP guide-2.jpg

 TIP traverse in-core probe は核分裂反応を行うのに必要な中性子の量(中性子束)を完全に把握する装置「核計装」の校正用計器。炉内に常設してある計装機器とそれを運転時にも校正する計装装置から「核計装」はなる。常設の中性子検出器近傍から原子炉外部(格納容器外にあるTIP室)までの間に案内管を敷設し、TIP室から校正用計器を常設の中性子検出器に向かって押し込む。それで「移動式」。そして、常設の計器のすぐ横にTIPの校正用計器を近づけた状態で、それらの差を比較し校正する。TIPは校正用の基準となる物なので、校正時以外は炉心から格納容器外に引き抜いておき、さらに遮蔽容器に格納してある。
 詳しくはhttp://www.anaroguma.org/komake/fukushima/2012/03/2012_033.html

 下図は福島第一2号機のTIP室。TIP室の格納容器壁を斜めに貫通している案内管が4本見える。案内管は原子炉格納容器を貫通し更に原子炉圧力容器をも貫通して炉心内部まで伸びている。炉心損傷により案内管も融解し管内部に炉心内のガス、水やデブリが入り込んで出てくる可能性がある。

TIP_image2387-2.jpg

貫通部ペネトレーションpenetration へ続く


NRCのSOARCA報告書の水素爆発 水素ガスとベント 試論④ [AM-ベント、排熱]

東電核災害の水素爆発は、格納容器PCVが壊れてから水素ガスが建屋内に充満して起きてはいない。水素爆発をさける根本的策は、水素ガスを外へ環境中に出す事である。それを東京電力はアーリーベントという名で、2号機、3号機で試みている。つまり、PCVの物理的限界からの最高使用圧力の2倍、200℃というベント開始の条件をかなぐり捨ててベントをする運用がされた。つまり、放射能をだしている。水素爆発阻止には1号機、3号機は失敗した。2号機は水素爆発は起きなかったが、放射能汚染で建屋内に入れなくなっている。
 柏崎刈羽原発では「格納容器の最高使用圧力の2倍、温度としては200℃、これを使用の条件として見ております。」(東京電力:川村原子力設備管理部長、平成26 年2月11 日新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会)としているが、簡単に反故にされるのではないか。どんな水素ガス対策を採ったうえでの方針なのだろうか。

Figure 3 Timeline of key nuclear power events and safety studies-02.jpg

日本の原発技術は米国技術の輸入品の改良だ。事故の研究も基本は米国からの輸入だ。米国の研究の歴史は上図の別表のとおり。NRC米国原子力委員会の1990年のNUREG-1150がシビアアクシデント過酷事故の研究・解析のお手本、教科書だった。(NUREG-1150はSevere Accident Risks: An Assessment for Five U.S. Nuclear Power Plants  の略称、1990年10月付)
 1979 年の米国TMI原発(スリーマイル島PWR)の事故で、格納容器PCV内で水素爆発が起きた。ジルコニウムなどの金属-水反応によって水素が発生すること及び水の放射線分解によって酸素と水素が発生することは、事故以前からも広く知られていた。しかし何の対策も採られかった。そして実際にTMIのPCV内で爆発が起きた。それでもPCVの大きいPWRは容器爆損まで至らないと対策を採らなかったり、念のためにPCVの中に触媒で水素と酸素を結合する再結合器を設置した。PCVの小さいBWRは、PCV内を窒素ガスで満たして爆発が起きる可能性を低くした。
 米国のサンディア国立研究所での模擬実験で約200℃では10気圧までPCVの機器ハッチ・出入り口での窒素などの漏洩は起きないとのデータが採れた。これはとても透過しやすい水素で実験していない。水素ガスのデータ、温度と漏洩のデータではない。
(https://inis.iaea.org/search/search.aspx?orig_q=RN:22063779)
 しかし、約200℃、10気圧までは格納容器PCVからの漏洩は生じない、したがってPCVから水素が漏れての原子炉建屋RBで水素爆発はないという希望を与えた。NUREG-1150ではPCVから水素が漏れての原子炉建屋RBで水素爆発の記載はない。もっぱら、格納容器内での水素爆発を扱っている。

 2002年にNRCはそれまで蓄えられたシビアアクシデントに関する知見をまとめ、職員研修用テキストという体裁で公表している。それでは格納容器内での水素爆発が挙げられている。(NUREG/CR-6042)

2005年にNRCは"the State-of-the-Art Reactor Consequence Analyses (SOARCA)"(最先端技術に基づく原子力災害解析)の研究をスタートさせた。2010年10月にそのドラフトを発行した。それではSBO・全交流電源喪失でBWRでは、格納容器PCVから原子炉建屋に漏れた水素が爆燃を起こし、最上階のブローアウト・パネルと天井が爆圧で壊され、大物搬入口の扉がこじ開けられるとの解析結果が記されている。
 1990年からの常識的希望「原子炉建屋RBで水素爆発は起きない」をひっくり返したのだ。そしてパブリックコメントを求めた。4か月後の福島第一の1号機、3号機の水素爆発が現実からのコメント。
 寄せられたコメントを織り込んだSOARCA公式版は2013年5月に出されている。

SOARCAドラフト、パート1
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1119/ML11192A300.pdf

SOARCAドラフト、パート2
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1119/ML11192A301.pdf

SOARCAドラフト、パート3
http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1119/ML11192A302.pdf

公式版はhttp://www.nrc.gov/about-nrc/regulatory/research/soar.html から入手
 BWRのPeach Bottom原発はNUREG/CR-7110, Volume 1,
PWRのSurry原発の NUREG/CR-7110, Volume 2. 
一般向けパンフレットの NUREG/BR-0359.

NRCのSOARCA報告書は、2つの異なる全交流電源喪失(SBO)シナリオで評価してる。
一つはLTSBO long-term station blackout 、一つはSTSBO short-term station blackout である。米国の非常用電池、直流(DC)電力を提供する電池は、4時間後に枯渇する設計である。それは主冷却システムに電力を供給できないが、運転員が 炉心隔離冷却システム・RCICなどの非常用冷却システムを動作させコントロールすること、計測システムを維持し、一定のバルブを開閉する直流(DC)電力を提供する電池である。電池が消耗すると運転員はRCICの制御を失い注水が無くなり、炉心内の水は沸騰でなくなり、炉心が過熱し炉心内の燃料は溶融、水素ガスが蓄積し爆発を引き起こし、放射性物質を環境中に放出する破局を迎える。
 最初から非常用電池も失われた場合を、破局へ早く進行するのでショートタイムのSBO、STSBO。この電池が生きていて一定期間、RCICなどの非常用冷却システムが稼働する場合を、破局までの時間が比較して長いのでロングタイムのSBO、LTSBO。STSBOは全電源喪失という日本語があっている。
続く


放射能のギャップ放出、早期圧力容器内放出と水素ガス 水素ガスとベント 試論③ [AM-ベント、排熱]

RPVの水面がTAF(Top of Active Fuel 有効燃料頂部)まで下がり、核燃料が露出すると被覆しているジルコニウム合金が硬化し、被覆が破れる。BWRやABWRの沸騰水型では120秒から数分で破損が起きると想定されている(NUREG-1465)。この破れからの放射能放出がおこる。これをギャップ放出という。またジルコニウム金属と水蒸気が反応して大量の水素と熱が発生する。

m_1378041866.jpg 燃料棒のウランの瀬戸物の燃料ペレットと被覆管の間の隙間、柏崎刈羽原発の核燃料棒では設計約0.2mmあるギャップという部分やプレナム(plenum)と呼ばれるガス溜に溜まっていた希ガスなど気体状の放射能が先ず出てくる。その裂け目から入り込む水蒸気と燃料ペレットとの相互作用が起きる。それで揮発しやすいヨウ化セシウムや水酸化セシウム、セシウム単体などが出てくる。これがギャップ放出。希ガスは炉心内蔵量の5%程度、ヨウ素も5%程度、セシウムも5%程度の放出量と見込まれている。柏崎刈羽6、7号機のギャップ放出は約25分間(0.4時間)と評価されている。

 水面下になっている燃料下部で発生している水蒸気が上部の崩壊熱などを獲って行く、過熱水蒸気になって熱を持ち去っていくが、1200℃を超えるとジルコニウムと水蒸気の反応が急激に進む。そうした個所では発熱量が急増するので更に温度が上がる。

 1800℃で被覆管のジルカロイが溶け出しウランペレットに溶け込みだす。更に、温度が上昇し、2800℃になるとウランペレットが溶融し液状化する。閉じ込められているストロンチウムといった揮発しにくい元素もガス化。しかし直ぐに冷えてエアロゾル・微粒子になり圧力容器の炉心付近を漂うと言われている。

核燃料温度挙動.jpg

 これを早期圧力容器内放出(Early in-vessel放出)という。水面がBAF(Base of Active Fuel有効燃料底部)に到達すると完全に核燃料が露出する。その下の溜まり水に落ちた溶融燃料の出す崩壊熱だけが水蒸気の発生させるだけだから、熱を奪って過熱水蒸気もグンと減る。温度上昇が加速し、早期圧力容器内放出が進む。

 希ガスは炉心内蔵量の90%程度、ヨウ素は25%程度、セシウムも20%程度が新たな放出量と見込まれている。ストロンチウムなど難揮発性の放射能は極少量、炉心内蔵量の2~0.02%程度と評価されている。

水素の生成 

ギャップ放出・早期圧力容器内放出の4-5時間で被覆管がほぼ100%溶融し、水素ガスが大量に生成する。様々な試算があるが、東電核災害で1号機で約800㎏。水素ガス1kgは常温常圧下で11.2立方㍍。1号機の空間部の容積は約4000立方㍍だから、その2倍の容積になる。この水素ガスがPCV・Primary containment vessel・放射能封じ込め容器から漏れて、水素爆発を起こした。

m_1378042868.jpg 東電核災害の福島第一原発の吉田所長は、水素ガスが大量発生した12日昼頃の情況を次のように述べている。水素ガスは「格納容器の中に、要するにとどまっている、ある部分はリークするんでしょうけれども、基本的には格納容器の中でそれがとどまっているので、まずは、本当は格納容器の中の圧力を下げないといけない。ということは、ここの中の水素を外に、水素を含めてですけれども、加圧している原因が水素であり、中で、発生する水蒸気であり、 そういうものが圧力を上げているわけですから、これをベントで逃がしてやらないといけない。要するに格納容器の圧力を下げると、ベント操作というのは、そういうことなので、それをまずやるというか、 この日の朝というか、未明からずっとそれにチャレンジしていたわけです。」
 「我々は思い込みが強いんですけれども、格納容器の爆発をすごく気にしたわけです。今から思えばあほなんですけれども、格納容器が爆発するぐらいの水素、酸素が発生しているのに、それがバイパスフローで、リークフローで建屋にたまるという発想が、もう一つはSGTSというのが生きていれば、普通は非常用で換気空調でそこから外に出している。極端にいうと、SGTSが死んでいるにもかかわらず、何か空調が生きている、もしくは(放射能)漏れているということは、外に漏れているということは、それと一緒に水素も漏れているんだろうみたいな、そういうあれがあるんです。
 原子炉建屋の一番上が覆われていて、プローアウトパネルが横側に付いていますが、そこがクローズ、そこに水素、酸素がたまっているというところまで思いが至っていない、どちらかというと、格納容器を守ろう守ろうというのが。我々の、今回の大反省だと思っているんだけれども、原子力屋さんの見方として、班目先生を始めとして、その思い込みが、なおかつこれはインターナショナルですから、ほかの国からも、あそこが爆発すると思っていないというか、なかった。」(吉田調書、7月22日分、42-43頁)

水素爆発の予見、NRC
 事実は、この思い込みはインターナショナルではなく、ほかの国では建屋で漏れた水素で爆発することを考えていた。NRC米国原子力委員会は東電核災害前の2010年10月にSBO・全交流電源喪失で「BWRでは、格納容器から原子炉建屋に漏れた水素が爆燃を起こす」という解析を公表している。その原子力災害解析SOARCAに対するコメント、パブリックコメントを求めていた。

3gokib2.jpg
NRCのSOARCA報告書に続く

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