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2号機、海水注水を嫌った事故対応・追加 東京電力の第三者検証委員会の報告書解読 (105) [東電核災害検証、吉田調書]

東京電力の「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」の検証報告書の解読(105)

 検証委員会は「地元の県、市町村等に対する説明としては、炉心損傷割合がいかなる意味を有しているか理解できなかったものと考えられ、不十分な通報であったと言わざるを得ない。」検証報告書15頁と評価している。しかし、相手に伝わらない難しい言葉、専門用語や符牒で語ることは、訳のわからないことを喋る戯け・タワケ者と変わらない。愚か者のすることだ。「不十分な通報」のではなく「愚かな通報」だ。

その様な愚かさが、事故対応に影響を与えたろうか?

2号機の事故対応
11日14時50分にRCIC・原子炉隔離時冷却系をCST復水貯蔵タンクを水源に手動起動した。RCIC・原子炉隔離時冷却系は、全交流電源喪失時においても復水貯蔵タンク・CSTないし圧力抑制プールS/C・S/Pを水源に、崩壊熱で発生する原子炉蒸気を用いるタービン駆動のポンプで炉注水を行う系統。注水で水位が高くなったので自動停止したが、15時39分に再手動起動させた。その直後15時40分頃の津波来襲でRCICの稼働状態が不明になった。
12日02時55分にRCIC・原子炉隔離時冷却系が稼働していて炉に注水している事を、炉圧5.6MPaよりもRCICの吐水圧力6.0MPaが高いことから確認している。12日21時頃、13日10時40分頃、13時50分頃と再三確認している。その炉注水で2号機の原子炉水位は、14日12時頃までTAF+3000mm以上で安定的に推移している。

RCICの停止条件
RCICの運転維持を制限する条件は①制御用直流電源の枯渇②水源の枯渇②ポンプ駆動の蒸気圧の低下④ポンプの軸の冷却用の水の水温の上昇による軸の回転不安定化、停止。①~③は判り易い。④はAOP事象ベースの事故時運転操作手順書の第12章の12-4-23頁には「SRVからの蒸気放出により、S/P水温度が上昇し、60℃を超えるとS/Pを水源とした場合RCIC、HPCIの油冷却が出来なくなる。」とある。

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津波被水で直流電源は枯渇したが、何故だか、どのようなメカニズムか不明だが、とにかく稼働していた。②の水源枯渇化は、復水貯蔵タンク・CSTを水源にした場合に問題になる。水源を圧力抑制プールS/C・S/Pにすれば解決する。しかしそうすると、④の軸の冷却用の水の水温上昇の問題が顕れる。

水源をCST復水貯蔵タンクにしていれば冷水なので問題はないが、S/C圧力抑制プールは原子炉からベント・排気される水蒸気を冷却凝縮しているので水温が上昇してくる。それで問題となる。RCICは炉水位低下でS/Cプールを水源として自動起動するが、炉水位回復・水位高で自動停止し、その後にCSTに水源を切り替える手動する手順になっている。現に2号機は切り換えている。だがら、CST水源だから無問題だ。

ところが、12日04時20分から05時にかけて、水源をCSTからS/Cに切り替えている。この切り替えで、②の水源枯渇の問題は解決されるが、水温が問題になる。EOP兆候ベースの事故時運転操作手順書のS/P温度制御SP/Tの項で水温を扱っている。制御目標の水温は、水蒸気凝縮実験から77℃以下なら凝縮は起こり、減圧というS/Cプールの本来の働きを果たせる事。S/C水温が高いとSRV排気管・ベント管の異常高温凝縮振動が起こりS/Cプール水がその振動で激しく動き水流でS/C破損する可能性がある。こうした事を踏まえて、制限図 図C-2 S/P熱容量制限値で、制御目標の水温が示されている。SBO下で採れる制御手段は、D/D-FPか消防車送水でS/Cスプレイでの直接散水やD/Wスプレイでの越流で冷水を入れる事。

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水蒸気圧=炉圧はRCICが定格流量を確保するためには、1.03MPa以上は必要。崩壊熱低下による蒸気圧低下、それによるRCIC機能低下・停止は、何れ起こるだろう。時刻は見当もつかない。

ポンプ軸の冷却低下によりRCICポンプ停止
だから、2号機のRCICの稼働維持は、12日05時頃の水源切り替え以降は②の蒸気圧の低下によるタービン不安定化・停止と④ポンプ軸の冷却低下によるポンプ不安定化・停止で制限されるようになった。14日13時18分には原子炉水位が低下傾向し、13時25分にはRCICの注水喪失と判断されている。この13時頃の原子炉圧力≒水蒸気圧は6MPaは有るから、②の蒸気圧の低下とは考えられない。④ポンプ軸の冷却低下によるポンプ停止と考えられる。

EOP兆候ベースのS/P温度制御の操作手順通りに、それを参照してS/Pスプレイ=S/Cスプレイを実施して、水温を制御していれば、その頃の原子力圧力では75℃位が制御の上限水温。だから2号機のRCICの稼働は継続したのではないか。

避け得たRCIC停止
S/C水温は11日15時40分頃の津波来襲直前に30度位、以降測定が停止になり約63時間後に測定が再開した。再開直後の14日07時頃に146℃、12時半頃に149.3℃を示している。63時間で120℃近い上昇幅、時間当り1.5~2℃位水温が原子炉からベント・排気される水蒸気などで上昇している。切り替えた12日05時、津波来襲から約13時間後には約26℃上がって、S/C水温約56℃位だろう。だから10時間内に、15時までに消防車海水送水でのS/CとD/Wスプレイで冷水を補給すれば、75℃以下に水温制御は可能だ。だから、2号機のRCICの稼働は継続しただろう。

海水注水を嫌がった結果
しかしS/CやD/Wスプレイで冷水を入れるための弁の開閉などラインアップをしていないから、実施する気はなかったのだろう。海水を入れてしまえば、2号機は廃炉決定するから、嫌だったのかな。東電は、12日17時半にPCVベントの準備を始めるよう所長指示を出している。ラプチャーディスクを除く,ベントライン構成完了は翌13日11時。PCVベントでPCV圧力が約1.2気圧0.12MPaになれば、水温は高くても105℃ですむ。しかし、RCICが動いている間にPCVベントが出来るとの希望を持つのは結構だが、そうした希望・願望実現を前提にした事故対処は妄想で愚か者の対策だ。

物理的には、ラプチャーデスク・破裂弁が破れてベントラインが開通しPCVベントが始まる炉圧は0.53MPa・絶対圧。その場合の水温は154℃。その手前の144℃や150℃でRCICの④ポンプ軸の冷却低下によるポンプ停止が起きたら、どうするのだろう。その場合のPCV圧力は、0.4~0.47MPaだから、PCVベントは起きない。SRV逃し安全弁を開いて、RPV圧力をPCVに移行してPCV圧力を上げても、ラプチャーデスク・破裂弁が作動し破れる0.53MPaまで上がるとは限らないぞ。どうするのだろう。
現実には、S/C 温度149.3℃,PCV(S/C) 圧力0.486MPa,原子炉圧力6.0MPaの時にRCICが止まってしまった。


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足田考人

私は福島第一事故に関心を持ち続けている一人です。
政府などの事故調査報告書が公表された後になって、原発周辺に設置されていた福島県のモニタリング・ポスト(MP)から回収されていたデータが公表され、1号機建屋爆発の前に上羽鳥という場所の線量率が非常に高くなっていたことが報道されました。
事故調査報告の作成にあたって、MPデータを全く検討していないことに不信感を持ったのがきっかけで、真実を知るべく、以来、データを読み取って検討する作業を続けてきました。
昨年から検討内容をブログにまとめはじめ、1年でやっと3月15日のあたりまできました。
線量率やガンマ線スペクトル・データを読み取り、気象データと合わせて、放出された放射能の種類やその変化、移動について丁寧に考察しているつもりです。その結果、定説化している従来の事故分析は、多くの重要な点において見当違いだと考えるようになりました。
概要版は次の通りです。
「福島第一原子力発電所事故の考察(モニタリング・ポスト編)」
http://ashidakouto.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
また、詳細版がこれに続いております。
ブログネームは足田考人です。
どうかご覧になってください。よろしくお願いいたします。
by 足田考人 (2017-03-02 23:13) 

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