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残存リスクと被曝防護③避難のリスク ヨウ素剤検討会『2001.11.13、第4回』メモ [防災‐指針・審議会]

原子力施設等防災専門部会 被ばく医療分科会 ヨウ素剤検討会|原子力安全委員会
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/youso.htm
  議事次第/配布資料/速記録 の案内
7回全部 http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2015-05-27-8

 『2001.11.13、第4回』の議事録を手掛かりに

福島県南相馬市の高齢者施設を例に防護措置を検討した論文が発表された。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0137906

新潟県では、柏崎刈羽原発を対象にした原子力防災計画、避難計画が立案中である。その立案に役立つ情報が得られるか検討してみたい。
論文は、[To our knowledge, this is the first quantitative assessment of the risk trade-off between radiation exposure and evacuation after a nuclear power plant accident.]「我々の知る限り、これは原子力発電所の事故後の放射線被ばくと避難間のリスクトレードオフの最初の定量的な評価があります。得られた情報は、原子力発電所の事故で避難のためのガイドラインと計画を開発するために有用であろう。」と自負しています。果して有用でしょうか。

この論文は、福島県南相馬市の8つの高齢者施設、1Fから20〜30キロに位置している nursing homeを検討対象にしている。これらは、12日に10キロ圏内に避難指示、2日後の15日には避難指示が20キロ圏内に拡大しているが、これから外れている。4月22日に年に20mSv以上の地域に避難を政府は命じたが、それからも外れている。政府は「屋内避難」を指示している。

予測線量、回避線量は??
論文には避難など防護措置発動の前提となる予測線量が一切示されていない。つまり避難の効果で見込まれた回避線量、予想残存線量が示されていない、計算されないままに避難がなされたのだ。3.11の事故から2週間以内に自主的に避難することを決断している。

物資不足で避難決断
 経営する南相馬福祉会の舟山正和理事長は「あの時は職員も食料もなく、原発もどうなるか分からなかった。」と云っている。政府が3月15日に避難を命じているが、「避難させるにも、深刻なガソリン不足などもあり、政府に対して『バスを用意して避難させてほしい』と市長がお願いしましたが、政府からは十分な支援が得られませんでした」「15日に、NHKの番組の中で市長が取り上げられるというので、こうした市内の実状を訴えてもらいました」翌16日の午前中、泉田知事から桜井市長に電話があり、「新潟県からは、とても厚いご支援をいただきました。『南相馬市が丸ごと避難してきても受け入れる』と言っていただき、避難用のバスも仕立てていただき、実際に多くの市民を受け入れていただきました。」長野県飯田市、東京都杉並区、群馬県片品村などに7〜20日の4日間で避難させた。自主避難する人でガソリンが不足している人には市からガソリンを支給するなどの支援も行なった。そうして、20日までに約5万人から6万人の南相馬市民が市外に避難していった。3.11の事故から2週間14日後には枝野幸男官房長官(当時)は「枝野氏は(福島第一原発から)半径20〜30キロ圏内で屋内退避を指示された住民に関し『商業、物流等に停滞が生じ、社会生活の維持が困難になりつつある』と指摘」し「自主的に避難することが望ましい」と語っている。

 論文にも[Although the areas were outside the compulsory evacuation zone, all nursing home residents and staff chose to be evacuated voluntarily within 2 weeks after the accident because of anxiety about radiation exposure and instability of the nuclear power plants, as well as a lack of resources such as medical drugs.]「放射線被曝と原子力発電所の不安定性についての不安だけでなく、医薬品など物資の不足を理由に事故の後2週間以内に自主的に避難することを選びました。」とある。

つまり避難は入居者の被爆を減少させる事ではなく、物資の不足への対処策として選択された。物資不足下のnursing home老人ホーム暮らしのリスクと避難のリスクの間でリスクトレードオフしたのである。その避難も事前の準備、検討がなされていない、例えば車などの避難の足の準備と選定、道中でのケアの準備、避難先の選定や準備など全く白紙状態でのぶっつけ本番の避難である。当然に想定されるリスクが高いが、その高いリスクとの間でリスクトレードオフしたのだ。

物資不足が放射能汚染による物流の停滞によるものだから、放射能汚染のなく滞りなく物資が流通し物資不足が生じていない地域が避難先になる。その結果、被曝線量が減っているが、これは反射的利益である。予測線量や避難で見込まれた回避線量、予想残存線量が計算されないままに示されないままに避難が、準備不足の避難がされたのだ。それは、被曝線量を問題にした低減のために行われていない。

 被曝線量の低減を目的とした避難は、3月12日に10キロ圏内に、2日後の15日には20キロ圏内に出された避難指示によるものだ。後で福島県富岡町の例を見てみる。

論文はIntroduction 「初めに」で「避難に関連するリスクは、概念的および定性的に1986年のチェルノブイリ事故から知られている」「避難に関連するリスクの定量的評価がない」「放射線と避難の間は、避難に関連するリスクの定量的評価がないため評価されていません。」とある。最後のDiscussionディスカッションには「ここに私たちの意図は、緊急事態への準備の一環として、避難関連のリスクを軽減する方法は完全に事故の前に考慮されるべきである、ということを証明することでした。」とあります。原発業界では「避難に関連するリスクの定量的評価がないために、避難関連のリスクを軽減する方法は完全に事故の前に考慮されなかった。」というのです。本当??

避難とエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)
日本列島に住む者は、1995年の阪神淡路大震災以降、避難生活に特有の精神的、肉体的ストレスがあり、ケアが必要と気付いています。その経験は各自治体の防災担当者らに共有されています。新潟県に住み中越地震や中越沖地震を経験した者として、助けられました。年寄り、地域の仲間と一緒の避難生活がベターなことや避難生活でのエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)は良く知られています。それらの避難に関連するリスクの定量的評価は研究中です。しかし、各自治体の防災担当者らは定量的評価が未完成でも、得られた避難関連のリスクを軽減する方法を経験化し生かしています。○○水害や××地震と避難はその姿は違うでしょう。しかしその容貌には似通っているところがあり、避難関連のリスクには共通するものがあり、関連のリスク軽減する方法を考案されたり実行されたりして、その体験を共通の経験に高め共有化されています。
 例えばエコノミークラス症候群と車中泊との避難の関連が2004年の新潟県中越地震で報道された。「確かに震災後2ヵ月以内の車中泊避難はエコノミークラス症候群との関連が認められ、震災直後の検査で見つかった血栓とも関係が明らかだった。しかし、2005年の検査で見つかった慢性化した血栓は、車中泊避難とあまり関係が認められなかった。
2005年に見つかった血栓は、データ比較のために調査した震災の影響のない山間部の多雪地帯の住民よりも多く、慢性化した血栓は震災の影響と思われる。避難の形態に関係なく、本震や約1000回の余震によるストレス、ライフラインの被害によって不便になり、脱水による血液の濃縮などで血栓の危険性が高まっていたためと考えられる。血栓は普段に近い生活であれば大半は自然に消えるが、一部の消えにくい人が車中泊避難したことで、血栓が増大してエコノミークラス症候群になったと思われる。」
榛沢和彦「震災時のエコノミークラス症候群を考える」
https://www.itscom.net/safety/column/021.html

避難の起因は、地震、洪水、原発災害と違うでしょうが、避難の持つエコノミークラス症候群などリスクは同じでしょう。こうした経験や知見は、原発事故対策に取り入れられていなかったのでしょうか。

続く

高齢者-福島民報001.jpg


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