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NPO法人「あいんしゅたいん」の被曝影響モデルとアポトーシス誘導 [被曝影響、がん]

NPO法人「あいんしゅたいん」の提唱する放射線の生物影響の数理モデルが話題になっている。
日本経済新聞で2015年2月7日に「低線量被曝の健康影響に新説 物理学者から挑戦状 関西の物理学者グループに聞く」の題で編集委員 滝順一さんが記事にしている。その記事では提唱者の言として「修復機能を超える被曝であれば、遺伝子の変異が蓄積し細胞ががん化する恐れがある。しかし修復機能の範囲内なら変異は蓄積しないと考えられる。変異の発生と修復が釣り合い、それ以上は変異が増えない。リスクには『天井』があるはずだ」と書かれている。提唱者は坂東昌子NPO法人「あいんしゅたいん」理事長(元日本物理学会会長)と和田隆宏・関西大学教授(物理・応用物理学科)、真鍋勇一郎・大阪大学大学院助教(原子核物理)の関西の物理学者グループとある。
日本経済新聞・・http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82580080Q5A130C1000000/

その数理モデルはググると以下がヒットした。
①放射線の生物影響の数理モデルの構築
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~soken.editorial/sokendenshi/vol13/nbp2012/8-9-P3-YM-S.pdf
②放射線のリスクの定量評価を可能にする数理モデル
http://seisan.server-shared.com/654/654-38.pdf
③放射線の生物影響の数理モデルの構築
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/2012NBP/index.php?plugin=attach&refer=2012NBP&openfile=8-9-P3-YM.pdf

かなり現実を無視した数理モデルである。「あいんしゅたいん」数理モデルは、発癌を放射線の生物影響として扱っている。発癌の過程は、多段階説が定説だ。イニシエーションとプロモーションという二段階説から三段階説、五段階説と種々あるが、イニシエーションを経て遺伝子が変異した変異細胞が更に変異して自ら死ぬことない不死性を獲得した細胞、、自ら細胞自死アポトーシスすることないガン細胞になるという点は多くが認める説となっている。(下図は三段階説)

2-1-zu7.jpg

 「あいんしゅたいん」数理モデルは、「生物を構成する細胞を、正常な細胞(正常細胞)と、放射線によって傷ついた細胞(破壊細胞)とに分類する。それらの細胞が自己増殖することや、放射線を照射した際に働く回復効果(修復機能と細胞死))を持つことを考慮し、それぞれの細胞の数の増減を考慮する。」「破壊細胞が修復されると正常細胞にくりこまれる。」「細胞の回復機能である修復効果とアポトーシス」「破壊細胞に対して修復効果と細胞死があり、修復された破壊細胞は正常細胞になり、修復不可能なものは自然に消滅する。」と設定している。そして「細胞の回復機能である、修復効果と細胞死を考慮すると、5.1節の結論である、(LNTの)『どんなに弱い放射線でも危険』という結果は得られないのである。」といった結論を導いている。(①の8-9-P3-YM-Sの論文)

被爆細胞の「自然に消滅」の謎

ネクローシス.gif 細胞が「自然に消滅する」というのはどういう事だろうか。質量不滅の法則は「あいんしゅたいん」数理モデルでも通用するであろう。だから被曝損傷細胞は消滅することはない。細胞死するという意味だろう。
 細胞死は、1972年に Kerrらによって “アポトーシス:プログラムされた細胞死” が報告されてからアポトーシス、オートファジー(autophagic cell death)、ネクローシスの3つあるとされている。強く被曝した細胞は細胞が膨らんで破裂するようなネクローシスの細胞死をする。弱い被曝で遺伝子の傷が修復できない場合の多くは、細胞が蛋白質分解酵素を産出して自らを内側から分解して死に至るアポトーシスをする。「修復不可能なものは自然に消滅する」は「修復不可能なものはアポトーシスで死滅する。」という意味であるから、破壊細胞(放射線によって傷ついた細胞)は修復され正常細胞に戻るかアポトーシスで死滅するかであり、ガン発生ではイニシエーションされた段階で正常細胞に戻るかアポトーシスで消滅するかでありプロモーションを受けることがないのである。遺伝子の変異が蓄積するプロモーションに進まないのだから、自ら細胞自死アポトーシスすることないガン細胞は生まれ得ない。「あいんしゅたいん」数理モデルでは、ガン細胞がないから発癌の問題は扱えない。発癌以外の生物影響のみ扱える。発癌のLNTと全く違う結論が出ても何の不思議もない。
オートファジーは参照・・http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/research/030/
  http://leading.lifesciencedb.jp/3-e006/

 ①の「あいんしゅたいん」数理モデルの5.1. 増殖機能のみの場合で「例としてP53をノックアウトしたマウスなどのように、増殖はするがアポトーシスも修復機能もない細胞のシステム」がガン細胞に最も近いモデルであるが、論は「破壊細胞数の増え方はRに応じて細胞死をもたらすので、この影響が増殖率を上回れば、破壊細胞は減少し、ゼロにできる。」と論じている。Rは時刻の放射線照射強度率r(t)と、ある時間内での積分であるから、放射線照射強度が高く被曝が大きければネクローシスの細胞死ということである。

ガン細胞にあるアポトーシス誘導が組み込まれていない
 アポトーシスには、細胞が自ら開始するスタイルと細胞外からの働き掛で誘導されるスタイルがある。免疫系のナチュラルキラーNK細胞によるアポトーシス誘導がよく知られている。
 ガン細胞が細胞分裂で二つに増えても、次の細胞分裂までの間(細胞周期)に一つがNK細胞で誘導されてアポトーシスすると結果的に増殖しない。増殖率はゼロになる。一つ以上のアポトーシス誘導があると増殖率はマイナスになりガン細胞群は減少する。一つ以下ならば増殖率はプラスの値をとりガン細胞群は増大する。長期大規模コホート研究では、末梢血中のNK細胞数が多く活性が高いヒトではがんの発生率が有意に低く、NK細胞数が少なく活性が低いヒトではがんの発生率が高くなる結果が出ている。

誘導アポトーシス_.jpg
ガン細胞の増殖は、ガン細胞だけではなく生体の異物排除機能、免疫系の作用と大きくかかわる生体レベルの問題である。細胞レベルに着目するだけでは、不十分である。放射線被曝は、免疫系、特にNK細胞に影響するから、放射線の生物影響その中でも発ガンを検討する際には生体全体への目配りが欠かせないと考える。

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