原子力災害対策指針(改定2015年4月)(番外③)屋内退避での安定ヨウ素剤 [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]
安定ヨウ素剤はその一つ。放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害する薬。揮発性のセシウムなどガス状で放出された放射性核種が凝縮や付着等でつくる0.7~0.9μm位のサブミクロンのエアロゾル、不揮発性の放射性核種の1μm以上のエアロゾルなどを吸い込んで、飲み込んで摂取したものを摂取を抑えたり、排出を促す働きはない。あくまで放射性ヨウ素限定。
体内に摂取された放射性ヨウ素は、血液の入り全身を循環し、その間は崩壊・放射線放出をする。体はヨウ素を甲状腺に取り込み溜めこんで、成長ホルモンの原料にしている。体に安定ヨウ素を十二分(成人30 mg)でに摂って、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害する。あくまで放射性ヨウ素限定の、甲状腺被爆限定の薬だ。
これは、放射性ヨウ素に到達≒摂取時刻の予測とその被ばく前または後の2 時間以内に安定ヨウ素剤の服用ができる投与体制とその指示の仕組みが必要だということである。
米国(連邦政府)
錠剤・・コーティングなど施し4等分できるように十字線が刻まれている130㎎錠剤、65㎎錠剤。1 ヵ月未満の小児には、65mg錠の1/4を砕いて、ミルクやジュースに混ぜて与える。
液剤・・65 mg/mLの甘く風味を付けた経口液剤
4等分できるように十字線が刻まれている65㎎錠剤
この錠剤はよく解けるので子供には水で溶かし飲ませることができる
安定ヨウ素剤が禁忌である人にはヨウ素の取り込みを競合的に阻害する過塩素酸塩が推奨されている。
水溶性のヨウ化カリウムの4等分できるように十字線が刻まれている65㎎錠剤。
表層コーティングなど施されていないので、水に容易に溶解する。そこで、事前配布されている錠剤を各家庭で飲料水等に溶解して服用する。
乳幼児や児童にはミルクやジュースに溶かして与える。
白色の非コート錠剤で十字の割れ目の入ったヨウ素酸カリウム(KIO3)85 mg 錠剤。
事前か事後に配布される錠剤を各家庭で服用。幼年児には必要量を砕いてミルク、ジャム等と混ぜ服用させる。
13 歳以上40 歳未満の者は錠剤を2錠。
錠剤を砕き水に溶かしシロップを入れる事は調薬に当たるとして薬剤師が行うようになっている。事前配布するPAZでもそうである。手間がかかるから、直ぐには服用できない。
米国、イギリス、フランス、ドイツでは受け取った各家庭が自ら行う。薬剤師が行うべき専門的技能が要求されるのなら日本のやり方は必要だろうが、多くの国ではそうではない。日本は、子供に早く飲ませることを考えていない。
米国は1979年のスリーマイル島TMI事故や1986年のチェルノブイリ事故以後でも安定ヨウ素剤の事前配布に否定的であり、避難や屋内退避を完了した住民に対して、必要に応じて安定ヨウ素剤を配布、服用させるという方針であった。NRCによると、安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素による甲状腺被ばくに対してのみ有効で、それ以外の被ばくには効果がないにも係わらず、多くの人が、安定ヨウ素剤はどのような放射線被ばくにも効き目があると誤解する傾向がある、安定ヨウ素剤を服用しておけば避難や屋内退避をしなくてもよいと考えている人さえいるためだとしていた。
PA州はEPZ からの避難が、放射線事故後の被ばくに対して一番の防護であると考えている。安定ヨウ素剤の服用は、甲状腺癌を含む甲状腺の疾病に対して補足的な防護となる。
情報はテレビかラジオで州の保健局職員と知事が緊急警報システムのメッセージを送り、原子力発電所事故情報や市民が何をする必要があるか、また、安定ヨウ素剤を服用すべきかどうをか指示する。
服用の指示はFDA米国環境保護庁の防護行動ガイド(PAGs)の予測被ばく線量値基準によって判断する。やり方は①NRCが提供するRASCAL(Radiological Assessment System for Consequence AnaLysis)と呼ばれる計算システムで放射性物質が環境中へ放出された場合の放射線被ばく線量を予測する、②敷地境界付近の空中のプルームから採取する大気中サンプル等のオフサイトの実測値による。(ヴァージニア州の場合)
服用しにくい幼齢者に対しては、液剤(ブラックラズベリー風味)での投薬のやり方、錠剤のでのやり方は下図のとおり。どちらも配布を受けた住民が自ら行うことになる。
DTPA(ジエチレントリアミノ五酢酸)は、超ウラン元素(プルトニウム、アメリシウムやキュリウム)の体外排泄促進効果が高く、かつ副作用が低いことが確認されているキレート剤の薬。
キレートは蟹のハサミのことで、キレート剤は重金属を挟み込んで複合体をつくる。DTPAはプルトニウム、アメリシウム、キュリウムのような超ウラン元素と造り易い。(高い親和性をもつ)DTPA-重金属複合体は水溶性で腎臓から24 時間後で尿中にほとんどが排泄される。体外に排泄される前には重金属を放出しない安定性がある。組織に取り込まれたプルトニウム等の超ウラン元素とは複合体を作れないので、効果が時間ともに減少する。それで、最初の内部被ばくの24 時間以内に投与されるのが一番効果的であり、汚染後できるだけ早く投与を始めるべきとされる。鉄、コバルト、亜鉛、マンガン等の遷移金属とも結合して、尿中に排泄させる。亜鉛やマンガン等は体内の必要不可欠な栄養であるので、副作用で悪心、嘔吐、悪寒、下痢、発熱、かゆみ、筋痙攣等を起こす。亜鉛の減少がDNA とRNA の合成に影響するため、Ca-DTPAの化学系の動物への複数回の投与した研究に基づくと重篤な奇形を起こすと考えられている。
日本では診断薬として承認されているが、治療には使えない。ただし放射線医学総合研究所に備蓄されている。
プルシアンブルーは一般には青色の顔料として、ペンキ、インク、クレヨンなどの私たちの身近なところで日常使用されている。セシウムやタリウムにかなり強い結合する能力(親和性)を持っている。セシウムやタリウムには腸管―腸管サイクル(腸管でセシウムの吸収→分泌→再吸収)という代謝経路があり、プルシアンブルー自身は腸管壁からはほとんど吸収を受けないため、経口投与されたプルシアンブルーが腸管内に分泌されたセシウム(主にCs-137)とタリウム(主にTl-201)を捕捉し、腸管壁からの再吸収を阻害することにより便へ排出させる役割を増進させる。セシウムの生物学的半減期を約110 日間から約30 日間まで、タリウムの生物学的半減期を約8 日間から約3 日間まで減少させる。体内の滞留時間を減らし、人体の被ばく時間を減少させる。
経口投与の場合、汚染の程度にもよるが、1日3回少なくとも30日間の服用が必要である。主要な副作用は、便秘と胃の不調がある。大人(妊婦を含む)と子供(2~12 歳)にとって安全であるが、乳幼児(0~2 歳)では、まだ安全が確認されていない。
患者の呼吸や血流動態が安定しているときに薬剤の投与が行われるべきとされ、現在、アメリカにおいてプルシアンブルーは処方箋によってのみ入手が可能であり、医師の監督の下使用されるべきと薬剤とされる。ドイツ、米国等では承認されているが、日本では投与の際には、放射線医学総合研究所に連絡し、医師は全例のデータを放射線医学総合研究所に提供することを条件に平成22年10月27日承認。
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