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原子力災害対策指針(改定2015年4月)(番外③)屋内退避での安定ヨウ素剤 [防災ー発災直後、ヨウ素剤、短期避難・退避]

先々回は屋内退避(籠城)先、日本の家屋はフーの板の家かブーの藁の家でブルーム放射能雲のオオカミさんにはかないません、放射線遮蔽、外部被曝、低減係数のことを検討した。先回は放射能摂取抑制、防護係数の件。原発からのブルームは気体性の放射能の希ガス等とエアロゾル状の微粒子の放射能からなる。これの家屋への流入を遮断きれば摂取はないが、最低限必要な新鮮空気を取り入れ・換気である程度は容れざるを得ない。エアロゾル状の微粒子の放射能への対策の目安が防護係数PF。今回はそれでも呼吸で入るガス状の放射能と微粒子への対策。
屋内退避images.jpg
被曝対策の薬剤は大きく3グループあるそうな。
一つは被曝後に投与・服用して被曝によって生じた細胞の減少からの立ち直りを助ける薬。生き残った幹細胞の増殖を促す薬剤。
 CBLB502など臨床試験に入っているものなどがある。インターロイキン、G-CSFのサイトカインは癌の補助療法、感染防御、自己免疫性疾患等の治療における様々な研究の一環として研究されている。まだ、実用段階にない。
一つは被曝後に投与・服用して細胞死や組織欠損を防ぐ薬剤
DTPA(ジエチレントリアミノ五酢酸)やプルシアンブルー。超ウラン元素(プルトニウム、アメリシウムやキュリウム)の体外排泄促進効果が高いが、日本ではDTPAは治療には使えない。(放射線医学総合研究所に備蓄している。)プルシアンブルーは一般にはペンキ、インク、クレヨンなどの青色の顔料。セシウムやタリウムの便へ排出を促進し体内の滞留時間を減らし、人体の被ばく時間を減少させる。日本では投与の際には、放射線医学総合研究所に連絡し、医師は全例のデータを放射線医学総合研究所に提供することを条件に承認。(詳しくは追記欄)
一つは被爆前に投与して傷害の発生を防ぐ薬剤
安定ヨウ素剤はその一つ。放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害する薬。揮発性のセシウムなどガス状で放出された放射性核種が凝縮や付着等でつくる0.7~0.9μm位のサブミクロンのエアロゾル、不揮発性の放射性核種の1μm以上のエアロゾルなどを吸い込んで、飲み込んで摂取したものを摂取を抑えたり、排出を促す働きはない。あくまで放射性ヨウ素限定。

 体内に摂取された放射性ヨウ素は、血液の入り全身を循環し、その間は崩壊・放射線放出をする。体はヨウ素を甲状腺に取り込み溜めこんで、成長ホルモンの原料にしている。体に安定ヨウ素を十二分(成人30 mg)でに摂って、放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを阻害する。あくまで放射性ヨウ素限定の、甲状腺被爆限定の薬だ。
 その限定性から安定ヨウ素剤が、単独の保護対策として用いられることは少なく、屋内退避や避難の際に放射性ヨウ素による甲状腺被爆を阻止するために併用される手段である。すべての国々は、放射性ヨウ素の吸入が主要な被ばく経路である場合に、安定ヨウ素剤を追加的に使用することにしている。
副作用としては、連用・反復投与で過剰摂取すると知能発達障害の原因となる一過性甲状腺機能低下症が起こり得るし、ヨウ素アレルギーがある。どちらもまれに発生する。服用の阻止効果は24時間ほどなので、避難を24時間以内に完了し連用しなくてすむ体制やヨウ素アレルギーなどをケアする体制が必要である。
 投与すると即座に効くとされているが、有効性は時間と非常に関係している。放射性ヨウ素による被ばくの24 時間前に服用すると90%以上阻害し直前ではほぼ完璧に阻害することが出来る。しかし被ばく後の摂取では、急速に下がる。被ばく2 時間後では、取り込みを80%抑えることが出来るが、8 時間後では40%、24時間後ではほとんど効果的に防ぐことは出来ない。

 これは、放射性ヨウ素に到達≒摂取時刻の予測とその被ばく前または後の2 時間以内に安定ヨウ素剤の服用ができる投与体制とその指示の仕組みが必要だということである。
 また、放射性ヨウ素による被ばくの影響による甲状腺癌に最も敏感な者は子供である。乳幼児、妊婦・授乳婦(胎児と母乳哺育の乳児を守るため)に安定ヨウ素剤を服用させることが最も重要である。安定ヨウ素剤のヨウ化カリウムは非常に苦いので、そのままでは幼齢者が服用しにくい。その対策も必要である。
安定ヨウ素剤の剤型と幼齢者への投与法
米国(連邦政府)
米国img20.jpg錠剤・・コーティングなど施し4等分できるように十字線が刻まれている130㎎錠剤、65㎎錠剤。1 ヵ月未満の小児には、65mg錠の1/4を砕いて、ミルクやジュースに混ぜて与える。
液剤・・65 mg/mLの甘く風味を付けた経口液剤
ドイツ
4等分できるように十字線が刻まれている65㎎錠剤
この錠剤はよく解けるので子供には水で溶かし飲ませることができる
安定ヨウ素剤が禁忌である人にはヨウ素の取り込みを競合的に阻害する過塩素酸塩が推奨されている。
フランス
水溶性のヨウ化カリウムの4等分できるように十字線が刻まれている65㎎錠剤。
表層コーティングなど施されていないので、水に容易に溶解する。そこで、事前配布されている錠剤を各家庭で飲料水等に溶解して服用する。
乳幼児や児童にはミルクやジュースに溶かして与える。
イギリス、アイルランドなど、
白色の非コート錠剤で十字の割れ目の入ったヨウ素酸カリウム(KIO3)85 mg 錠剤。
事前か事後に配布される錠剤を各家庭で服用。幼年児には必要量を砕いてミルク、ジャム等と混ぜ服用させる。
日本
ヨウ化カリウムの50mgの錠剤
13 歳以上40 歳未満の者は錠剤を2錠。
7 歳以上13 歳未満の者は錠剤を1錠。
新生児、生後1 ヵ月以上3 歳未満、3 歳以上7 歳未満の者には、ヨウ化カリウムの錠剤を砕いた粉末(原薬)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いること。
錠剤を砕き水に溶かしシロップを入れる事は調薬に当たるとして薬剤師が行うようになっている。事前配布するPAZでもそうである。手間がかかるから、直ぐには服用できない。
米国、イギリス、フランス、ドイツでは受け取った各家庭が自ら行う。薬剤師が行うべき専門的技能が要求されるのなら日本のやり方は必要だろうが、多くの国ではそうではない。日本は、子供に早く飲ませることを考えていない。
屋内退避と投与する体制
米国は1979年のスリーマイル島TMI事故や1986年のチェルノブイリ事故以後でも安定ヨウ素剤の事前配布に否定的であり、避難や屋内退避を完了した住民に対して、必要に応じて安定ヨウ素剤を配布、服用させるという方針であった。NRCによると、安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素による甲状腺被ばくに対してのみ有効で、それ以外の被ばくには効果がないにも係わらず、多くの人が、安定ヨウ素剤はどのような放射線被ばくにも効き目があると誤解する傾向がある、安定ヨウ素剤を服用しておけば避難や屋内退避をしなくてもよいと考えている人さえいるためだとしていた。
 2001年の9.11同時多発テロを受けて原発の災害対策強化の中で安定ヨウ素剤配布・服用に関する検討が行われ、NRCは安定ヨウ素剤を、原子力発電所のある33州の希望する州に無償供給する、住民に事前配布するか否かは州の政策によると方針を修正した。10 州は州の判断として安定ヨウ素剤が屋内退避や避難を効果的に補足するものとしてみなしていないということで無償供給を希望してない。5州は事後にのみ配布する。18州は住民への事前配布と事故時での配布としている。(詳しくは追記欄)
 TMI事故の経験があるペンシルヴァニア(PA)州を見る。ペンシルヴァニアPA州にはTNI-1号機が稼働中のスリーマイル島原発など合わせて5つの原発があり、その5つのEPZ(各原発から半径10マイルの円の地域)にはPA州の人口約127万人のうち64万人以上が住んでいる。PA州は安定ヨウ素剤の事前配布を行っている州だ。EPZ 内に居住しているか働いている者、そして、学校が対象である。65㎎錠で1人4錠(成人の2回服用分)。EPZ 内にある事業所は、少なくとも雇用者1 人あたり1 錠を確保することができ、希望する事業所は保健局に連絡して事前配布を受ける。

 PA州はEPZ からの避難が、放射線事故後の被ばくに対して一番の防護であると考えている。安定ヨウ素剤の服用は、甲状腺癌を含む甲状腺の疾病に対して補足的な防護となる。
 米国では原発で事故が起きると、15分以内に発電所から通報が州と連邦政府にくる。緊急時活動レベル(EAL)に基づいて緊急事態区分が“全面緊急事態”に相当すると判定すると、発電所・原子力事業者は州や周辺自治体に住民を直ちに避難する勧告の通報である。基本的には事故炉の半径2マイルの範囲を「即時避難」とし、2〜5マイルの風下方向3方位の範囲を「屋内退避」、それらの周囲の地区は屋内で待機し当局の情報に注意して避難できる準備をしておく。そして、2マイル円形範囲の避難退避の終了後に、風下方向2〜5マイル範囲の避難を開始。大雪や洪水等によって道路閉鎖などが生じて避難の実施に障害がある場合は、2マイル円形範囲も一旦屋内退避とし、避難が可能になったら順に開始する。
 
 情報はテレビかラジオで州の保健局職員と知事が緊急警報システムのメッセージを送り、原子力発電所事故情報や市民が何をする必要があるか、また、安定ヨウ素剤を服用すべきかどうをか指示する。

 服用の指示はFDA米国環境保護庁の防護行動ガイド(PAGs)の予測被ばく線量値基準によって判断する。やり方は①NRCが提供するRASCAL(Radiological Assessment System for Consequence AnaLysis)と呼ばれる計算システムで放射性物質が環境中へ放出された場合の放射線被ばく線量を予測する、②敷地境界付近の空中のプルームから採取する大気中サンプル等のオフサイトの実測値による。(ヴァージニア州の場合)

 服用しにくい幼齢者に対しては、液剤(ブラックラズベリー風味)での投薬のやり方、錠剤のでのやり方は下図のとおり。どちらも配布を受けた住民が自ら行うことになる。
米国i子供_錠剤mg20.jpg 米国i子供_液剤mg20.jpg
フランス 続く

DTPA(ジエチレントリアミノ五酢酸)は、超ウラン元素(プルトニウム、アメリシウムやキュリウム)の体外排泄促進効果が高く、かつ副作用が低いことが確認されているキレート剤の薬。
キレートは蟹のハサミのことで、キレート剤は重金属を挟み込んで複合体をつくる。DTPAはプルトニウム、アメリシウム、キュリウムのような超ウラン元素と造り易い。(高い親和性をもつ)DTPA-重金属複合体は水溶性で腎臓から24 時間後で尿中にほとんどが排泄される。体外に排泄される前には重金属を放出しない安定性がある。組織に取り込まれたプルトニウム等の超ウラン元素とは複合体を作れないので、効果が時間ともに減少する。それで、最初の内部被ばくの24 時間以内に投与されるのが一番効果的であり、汚染後できるだけ早く投与を始めるべきとされる。鉄、コバルト、亜鉛、マンガン等の遷移金属とも結合して、尿中に排泄させる。亜鉛やマンガン等は体内の必要不可欠な栄養であるので、副作用で悪心、嘔吐、悪寒、下痢、発熱、かゆみ、筋痙攣等を起こす。亜鉛の減少がDNA とRNA の合成に影響するため、Ca-DTPAの化学系の動物への複数回の投与した研究に基づくと重篤な奇形を起こすと考えられている。

日本では診断薬として承認されているが、治療には使えない。ただし放射線医学総合研究所に備蓄されている。

プルシアンブルーは一般には青色の顔料として、ペンキ、インク、クレヨンなどの私たちの身近なところで日常使用されている。セシウムやタリウムにかなり強い結合する能力(親和性)を持っている。セシウムやタリウムには腸管―腸管サイクル(腸管でセシウムの吸収→分泌→再吸収)という代謝経路があり、プルシアンブルー自身は腸管壁からはほとんど吸収を受けないため、経口投与されたプルシアンブルーが腸管内に分泌されたセシウム(主にCs-137)とタリウム(主にTl-201)を捕捉し、腸管壁からの再吸収を阻害することにより便へ排出させる役割を増進させる。セシウムの生物学的半減期を約110 日間から約30 日間まで、タリウムの生物学的半減期を約8 日間から約3 日間まで減少させる。体内の滞留時間を減らし、人体の被ばく時間を減少させる。
経口投与の場合、汚染の程度にもよるが、1日3回少なくとも30日間の服用が必要である。主要な副作用は、便秘と胃の不調がある。大人(妊婦を含む)と子供(2~12 歳)にとって安全であるが、乳幼児(0~2 歳)では、まだ安全が確認されていない。
患者の呼吸や血流動態が安定しているときに薬剤の投与が行われるべきとされ、現在、アメリカにおいてプルシアンブルーは処方箋によってのみ入手が可能であり、医師の監督の下使用されるべきと薬剤とされる。ドイツ、米国等では承認されているが、日本では投与の際には、放射線医学総合研究所に連絡し、医師は全例のデータを放射線医学総合研究所に提供することを条件に平成22年10月27日承認。

米国i配布mg20.jpg

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