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北陸電力の挑戦 [AM-ベント、排熱]

新規制基準は、シビアアクシデント発生に対する対策を入れている。それまでの対策では不十分であると認めて、抜本的な対策を求めている。ベントフィルターなど後付の設備等である。

北陸電力はこれに対し、従来の旧基準下の設備の強化で十分だとして申請をしている。

水素ガス対策
シビアアクシデントでは、大量のガス状、エアゾル状の放射能と水素ガスが発生する。東電核災害ではこれが原子炉建屋内に漏洩した。放射能は高線量環境をつくり建屋内での収束作業を阻害した。建屋の天井部に溜まる水素ガスは度重なる爆発を起こした。新規制基準は、炉心溶融により発生する水素によって、格納容器内の水素濃度が水素爆轟(ばくごう)の恐れのある13%を超えないことを要求している。

 その柏崎刈羽原発6、7号機での対策は、①天井に水素ガスを抜く穴をあける②水素を酸素と再結合する装置の後付が主要な策である。北陸電力は2011年8月の段階では①のみである。規制当局の保安院にはそう報告している。

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 2012平成24年の夏には、北陸電力は「水素排出設備は、天井部排出を止め、水素排出効果が大きいブローアウトパネル開放による排出方式のみとした。開放機材の設置に伴い、穴空け資機材(平成 23 年6月設置完了)を対策から削除。」としている。日経は3月に「原子炉建屋での水素爆発を回避するため、建屋内の圧力が一定以上に高まると開放状態になる『ブローアウトパネル』では、圧力にかかわらず手動で強制的に開放して水素を抜くシステムも2012年度中に導入する。」と報じている。だから、規制当局や社会には天井に穴をあけると言いながら、かなり早くそれを止める決定をしている。
 パネルが高く設置してあり、開口部が天井付近の高さならば有効である。ただ、水素ガスが建屋内に充満している時は放射能も充満している。パネルを手動で開ける作業ができるであろうか。その点をきちんと評価しただろうか。

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 2014平成26年8月の再稼働のための新基準適合の申請では、このブローアウトパネルの手動開放も対策から消えた。②の再結合装置のみになっている。これは平成25年9月末時点の安全対策一覧には無い。これも、急に決まったのであろう。こう次から次に対策が変わるのであろうか。また水素再結合装置の能力の評価、水素爆轟(ばくごう)の恐れのある13%を超えない能力を持つか北陸電力はきちんと評価しているのであろうか。PWRでの評価は疑義を持たれるいるものがある。

水素ガス1410ジ.jpg


ベント対策
シビアアクシデントで発生する、大量のガス状、エアゾル状の放射能と水素ガスを格納容器からが一気に外に出すベント。東電核災害では、思うようでできなかった。新規制基準では、排気する際に外部に出る放射性物質の量を減らすフィルター設置をあげていた。北陸電力は、審査の請求内容で「フィルター付きベント」の設置を不要とした。従来の格納容器の耐圧強化ベントの信頼性強化で新基準に対応可能として、申請に盛り込まなかった。

 北陸電力は2012年3月にフィルター設置を打ち出している。
「北陸電力は28日、志賀原子力発電所(石川県志賀町)で、仮に核燃料が損傷する重大事故が発生した場合でも放射性物質の大気中への放出を抑える「フィルター付きベント装置」を設置すると発表した。原子炉格納容器からの放射性セシウムの放出量を現行のベント装置の約1千分の1に抑制できる。設置時期は「できるだけ早い時期」(原子力部)としている。
 フィルター付きベントは放射性物質を薬品を溶かした水に吸着させてから、大気中に排出するシステム。国内の原発には設置されていないが、仏独など欧州には導入実績がある。北陸電は日本向けに耐震性を高めた設計などを検討したうえで、志賀原発1、2号機にそれぞれ設置する。」

日経 2012/3/29 http://www.nikkei.com/article/DGXNASJB28025_Y2A320C1LB0000/

2013年6月には着工している。
「北陸電力は17日、志賀原子力発電所(石川県志賀町)で、災害などに備えた新たな安全対策を公表した。原発再稼働に絡む新規制基準で求められるフィルター付きベント(排気)設備など一部工事は同日に着工したことを明らかにした。ベント設備の設置を含む9項目を明示した。
 (中略)
 ベント設備では1号機、2号機にそれぞれ新設するための配管工事を始めたが、完成時期は従来の説明どおり、「15年度」との説明にとどめた。」 日経 http://www.nikkei.com/article/DGXNZO56310300X10C13A6LB0000/

「装置の仕様や着工時期は未定で、設置時期が早まる可能性もある。・・規制基準では、フィルター付きベント装置の設置が福島第1原発と同じ沸騰水型原発で 再稼働の条件となる見通し。志賀1、2号機とも沸騰水型で、装置が設置されなければ再稼働できず、停止の長期化は避けられない情勢だ。」北国新聞 http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130517104.htm

それを
★ 新規制基準で要求されている「放射性物質の放出量の低減」および「原子炉格納容器内の圧力・温度の低下」の機能は、「格納容器スプレイ装置+格納容器ベント」で対応

★ 格納容器フィルタ付ベント装置は、上記設備のバックアップとして、自主的に設置するもの

フィルター1410.jpg


◎ 常設代替低圧ポンプ・消防車により給水手段を多重化した「格納容器スプレイ装置」で格納容器内を冷却
サプレッションプールおよび格納容器スプレイで放射性物質を大幅に低減した後、「格納容器ベント」により格納容器内の圧力を低減
◎ ベント専用電源の設置して確実に使えるようにした。

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 サプレッションプールS/Cおよび格納容器スプレイに放射性物質を低減する効果があることは、以前から知られていた。サプレッションプールS/Cを通気すると、放射性セシウムなどをとるけれど、水温によってかわるから十分の一低減だ、百分の一だと論じられていた。ベントはサプレッションプールS/Cベントを優先することになっていた。両方とも水を使うだけだから、希ガス類や有機ヨウ素は低減しない。

 北陸電力の言い分が認められれば、東電核災害は格納容器スプレイをほとんど行わなかったことと2号機の様にS/CベントをぜずD/Wベントを行ったことが放射能放出量を激増させた主因ということになる。

 また北陸電力だけでなく、PWR加圧水型軽水炉も自主設置でいつまでも付かないだろう。

それではフィルターがなかったら、どうなるか。
 フィルターの除去原理はサプレッションプールS/Cの除去と同じである。格納容器スプレイで格納容器に水が溜まる。それでS/C内の水面が上昇する。ベントの吸気口が水没するとS/Cベントができなくなる。図でいえば下のラインまでの水量である。それで格納容器スプレイできる水量の上限がある。
 ベントのラインには、ドライウェルD/Wに吸気口を設けたドライウェルD/Wベントがある。当然水量がちがう。格納容器スプレイできる水量、つまり時間が違う。スプレイで冷却できる時間、冷却で減圧できる時間が違う。

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 日立や東芝の試算では、S/Cベントラインで約1日後、D/Wベントラインで約2日後にベントとなる。それまでにベント以外の「原子炉格納容器内の圧力・温度の低下」する機能が使える様になれば、放射性物質の放出なしで収束できる。例えば福島第二原発は海水系ポンプ(残留熱除去機器冷却海水系RHRS)とそれによる排熱・冷却ポンプの修理がギリギリ間に合ってベントを回避している。放出量の低減ではなくゼロ。
 それが達成できなかったらD/Wベントになる。その時にフィルターがあればサプレッションプールS/Cの除去と同様の、多分に同等の除去があり「放射性物質の放出量の低減」が図られるだろう。
 約1日、ベント開始が延びれば、その間に避難できる人や屋内退避に備えた目張りや汚染されていない飲用水、食料の準備、安定ヨウ素剤の入手、配布作業ができる。スイスの様に有機ヨウ素を捕獲するシステムであれば、S/Cの除去よりも優れた除去性能になる。
 フィルターを設置しないということは、そうした選択肢を最初から用意しないということである。


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