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20mSv/年の低線量被曝の危険性(1) [被曝影響、がん]

「しきい値無し直線・LNT」仮説の妥当性

100ミリSv(シーベルト)未満の被曝、特に20ミリSv以下の被曝に関して、その危険性や安全性はどのような議論がされているでしょうか。
ある被曝線量で、危険性の有無がわかれる「しきい値・閾値」がない、極少量の被曝でも危険性が、被ばく線量に比例してあるとする「しきい値無し直線・LNT」仮説と、閾値あり線形仮説の対立、論争が行われています。

 気をつけなければならないことは、閾値あり線形仮説論者は、様々な支援が得やすいことです。LNT理論では、ゼロを起点に社会的に許容しうるリスクにみあう線量が放射線防護基準になります。閾値あり線形仮説では、その閾値を起点にリスクに見合う線量が基準になります。つまり底上げ、下駄を履いた値が基準値になります。

たとえば、ネバダ核実験場の除染レベルとコスト(1995年の価値)の関係は、1mSv/年で除染すると3500万ドル、0.5mSv/年で10億ドルだそうです。(出典)ですから、汚染費用を負担する政府や原発事業者などから、閾値あり線形仮説論者は研究資金や発表機会、研究職の地位獲得などで直接、間接に支援が得やすいのです。この論争には、そうしたバイアス・偏りがかかっていることを頭においてみなければなりません。


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さて、代表的な閾値あり線形仮説として、フランス医学アカデミーとフランス科学アカデミーは共同で2005年に発表したものをみてみます。フランスは、総電力の約80%が原発で、福島第一でも超高濃度汚染水の除染処理にフランスの会社の技術を使います。


☆LNT(しきい値無し直線)仮説は、現在の生物学的概念知識に立脚しているとは言えない。リスクの過大評価になり、放射線防護に関して、誤った結論に導く可能性もある。

☆LNT仮説を、100mSv以下の低線量域でのリスク評価に用いること、数十mSvより低い線量の範囲でLNT仮説を適用することの妥当性には疑問がある。

☆約10mSvを超える線量の放射線防護規則を定めるためには、LNT仮説は実用的で便利なツールになりうる。
出典

これを纏めたフランス科学アカデミーのM. Tubianaは、「おそらく極小線量(10mSv未満)は無害もしくは恩恵さえ期待できると言えよう。」としています。


このフランスの見解から、約10mSvを超える線量、日本政府が退避基準、子供の学校や幼稚園で強制しようとしている20ミリSvでは、LNT仮説が放射線防護するための規制を定めるためには実用的で便利な仮説です。つまり20から15、10に減らせば、危険性が減る、四分の3、半分に減ると考えて行動することが妥当です。


今度は、代表的な「しきい値無し直線・LNT」仮説に、米国科学アカデミーが、2005年に発表した「電離放射線の生物学的影響に関する第7報告・BEIR-VII」でみてみます。米国科学アカデミーの検討委員会には、原子力推進派も含む幅広い立場の委員がいます。この第7報告は2001年に公表予定でしたが、4年遅れた、その間、激しい議論が交わされてまとめられたものです。


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エックス線やガンマ線、β線など低LET放射線(放射線の飛程に沿う電離密度の小さい放射線)による低線量被曝でもしきい値のなしの直線型でがんのリスクが生じ、極小線量が人体に対するリスクを多少なりとも増加させるポテンシャルがあるという「しきい値なし直線仮説」(LNT)リスクモデルを支持している。委員会は、それ以下では発がんリスクをゼロにするしきい値を示す証拠はないと結論しています。


低LET放射線は、線量計などで測られる、政府などの線量モニターでこの地点の線量として発表する放射線です。放射性物質が体外にある外部被曝で被曝する線量です。


生涯リスクモデルでは0.1Svの線量により100人中約1人にがん(固形がんか白血病)が発生すると予想でき、一方、他の原因では100人中約42人に固形がんや白血病が発生すると予想される。線量が低ければそれに比例してリスクは低くなる。例えば、0.01 Svの被曝では1000人に約1人ががんになると予想される。別の例示としては、低LETの自然「バックグラウンド」放射線(ラドン等の高LET放射線を除く)の生涯(70年)被曝で100人中約1人にがんが発生することになる。データが限られているので、リスク評価は不確定で2、3倍大きいか、2、3分の1小さい評価も排除できない。


小児がんの研究からは、胎児期や幼児期の被曝では低線量においても発がんがもたらされる可能性
10から20mSvの低線量被曝において「オックスフォード小児がん調査」からは「15歳までの子どもでは発がん率が40%増加する」ことが示されている。


この米国科学アカデミーの見解によれば、子供らに20ミリSv基準を適用とすると小児癌が激発すると見られます。大人なら20ミリSvでは、1000人に2人弱が新たに癌にかかると予想されます。

出典



以下引用
低LETによる低線量被曝の健康影響をどう理解するかについては難題をかかえてはいるものの、最近の研究のおかげで結論を述べても大丈夫な点も出てきた。BEIR Ⅶ委員会の結論は次のとおりである。電離放射線の被曝とそれによって誘発された人間の固形がんの発生の間には線形の線量-応答関係が成り立つ、という仮説は最近の研究が示す科学的証拠と矛盾しない。当委員会は、それ以下だとがんは誘発されないというしきい値が存在するとは考えないが、ただ、低線量域でのがんの誘発はあっても少ないだろうとみなしている。当委員会は、他の疾患(例えば心臓病や脳卒中等)は高レベルの被曝によって引き起こされるとみなしてはいるが、低線量被曝とがん以外の疾患の間にもしかして成り立っているかもしれない線量-応答を評価するにはもっと多くのデータが収集されねばならないと考えている。


LNTモデルは低線量放射線の健康影響を過大に考えているという見解も委員会は入手している。リスクはLNTから推計できるものより小さいか存在しないかであり、あるいはむしろ低線量被曝は人体によい影響をもたらすこともある、という考えである。我々はこうした仮説も受け入れることはできない。たとえ低線量であっても何らかのリスクがあるらしいことを示す情報の方が優勢なのである。この「要約」で行った単純なリスク計算で示したように、低線量のリスクは確かに小さい。そうは言うものの、我々の採用したがんのリスクの基本モデルでは、たとえ被曝線量が少なくても少ないなりに発がんはもたらされるのである。

結論を導くにあたってBEIR Ⅶ委員会は、低線量においてしきい値が存在することや人体影響が低減することを論じた論文をレビューした。そうした論文の結論は、非常に低い線量での被曝は無害であるかあるいは有益でさえもある、というものだった。これらの研究は、生態学的な研究(特定地域に着目した疫学的研究)であるか、人体の全体をそれで代表させることはできない部分について得られた発見を引用している研究であった。


生態学的研究は広範な地域特性の関連を調べるものであり、場合によっては、より精密な疫学研究が示す結果と比較するとがんの発症率がうんと大きくなったり小さくなったりすることがある。皆が合意できる見解は、研究の全体を見渡してみて初めて見出すことができる。そのようにして我々が得た見解は、電離放射線の健康リスクは、そのリスクは低線量では小さいわけだが、やはり被曝線量の関数になっている、ということである。

疫学研究でも実験研究でも、なんらかの相関が見出せる線量域なら線形モデルと矛盾するものは見出されていない。電離放射線の健康影響の主だった研究は1945年の広島・長崎の原爆被爆生存者を調べることで確立された。それらの生存者のうち65%が低線量被曝、すなわち、この報告書で定義した「100mSvに相当するかそれ以下」の低線量に相当する。放射線にしきい値があることや放射線の健康へのよい影響があることを支持する被爆者データはない。他の疫学研究も電離放射線の危険度は線量の関数であることを示している。さらに、小児がんの研究からは、胎児期や幼児期の被曝では低線量においても発がんがもたらされる可能性があることもわかっている。例えば、「オックスフォード小児がん調査」からは「15歳までの子どもでは発がん率が40%増加する」21ことが示されている。これがもたらされるのは、10から20mSvの低線量被曝においてである。

どのようにがんができるかについて線形性の見解を強く支持する根拠もある。放射線生物学の研究によれば、「可能な限り低い被曝でできる1本の放射線の飛跡は、標的となる細胞の核を通過して細胞のDNAを損傷する可能性が低くても一定程度はある」22。この損傷の一部には、DNAの短い部分に複数の損傷を起こす電離の「突出」があり、修復しにくく、まちがった修復が起こりやすい。委員会は、それ以下では発がんリスクをゼロにするしきい値を示す証拠はないと結論した。

引用 終わり


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