U-232とトリウム炉の回収ウランの経済性(上) [使用済核燃料、再処理、廃棄]
一つはウラン燃料から、もう一つはトリウム燃料からです。
今日の原発、BWRやPWRのウラン燃料では4~5%含まれているウランU-235が、低速の熱中性子で核分裂します。使用済みのウラン燃料にはU-232が出来ています。
そして、図のようにU-232が随伴して生成します。またU-233は高速中性子(中間エネルギーの中性子を含む)に対しての反応性(反応断面積)が小さい、U-235やPu-239の約三分の一です。これは高速中性子による超ウラン核種生成が3分の1であることです。それだけのTRUが生まれます。
U-232は半減期が68.9年で、ひとたび崩壊すると、安定な鉛Pb-208に達するまでに連続して8回の崩壊を練り返します。途中にガンマγ線源の鉛Pb-212、ビスマスBi-212、およびタリウムTl-208になります。表から明らかなように、特に注目すべきはタリウムTl-208の崩壊でほぼ100%の確率で発せられる2,614keVの強ガンマ線です。医療用X線の50keV、セシウム137の510keVに比べて遥かに強力です。γ線はU-232自身からは放出されず、その崩壊列に中の核種(娘核種)から発せられるため、崩壊直後はほぽゼロに等しく、0.1年≒5週間を過ぎると増加し始め、時間とともに増加します。
また、U-232自身のα崩壊により崩壊熱も多く、崩壊直後から0.7W/gもあります。これは人工衛星など宇宙用電源等に用いられる放射性同位体電池のPu-238よりも高い値です。
使用済みのウラン燃料を再処理して出てくる回収ウランRUを原料に再利用し、ウラン燃料を作ります。その際にはU-232のもたらす強力なγ線被曝が問題です。安価で経済的な化学的手法では、U-232をU-235から分離し取り除けません。タリウムTl-208などは除けます。一旦再処理や再転換の際に除染して含有率を低くしても、U-232の崩壊で自ずとできて溜まります。図のように線量率が推移します。
対策として、日本では次のことを挙げています。
① 再処理からウラン濃縮工場で分離・除去し充填された原料濃縮回収ウランシリンダは、1年以内に再転換施設(再度の分離・除去)に搬入
② 再転換施設に搬入後、1年以内に再転換(再度の分離・除去)と成型加工と出荷完了。
③ 2015年現在、既存の再転換工場は工場外部への抜本的な外部放射線対策が不可欠である。排気系管理の強化などが必要。
また設備の遮へい対策、設備の自動化、成型加工期間短縮のための綿密な工程管理。
経産省資料 「 回収ウラン利用技術開発委託費に係る事業の概要」2015年1月
http://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H26/150126_saikuru1/saikuru_siryou5b.pdf
さらに、出荷してから、回収(減損)ウラン燃料棒の原子炉装填までの期間にもU-232の崩壊は続くのです。定期検査と共に行われる核燃料の入れ替え作業時の被曝の低減策が、国の対策にはありません。例えば②の再転換施設への搬入後、原子炉装填までを1年以内にすることなどです。
労働者被曝
作業労働者の被曝低減は、設備の遮へい対策、設備の自動化などでも軽く見られています。天然ウラン燃料のそれよりも多くしない事が基準になっていません。人形峠の施設などでの昭和63年から平成11年度の試験の評価では「法定上限よりも下だから良い」となっています。作業労働者の被曝は、天然ウラン燃料の3倍になっています。単純に人数を3倍にするといった事も考えられていません。
仮に人数を3倍にしたら、労働者一人当たりの被曝量は減りますが、単純化すると人件費が3倍になります。人件費は試験設備での処理コストの約35%ですから、処理コストが約1.7倍になります。他にも設備の遮へい対策にも費用がかさみます。コスト費目では、3番目に多い減価償却費が増えます。このように作業労働者の被曝低減を蔑ろにして、積算した試験設備での処理コストをもとに、処理量を6.6倍の六ヶ所再処理工場サイズでの処理コストを試算しています。
捕らぬ狸の皮算用
それは、大規模化でトン当たりで約半減しています。平成12年度の評価では評価委員から次のようにコメントされています。
「(2)経済性評価については、説明資料でみるかぎり、十分な成果を読み取ることができない。説明資料では、『実用化試験における本試験設備の運転実績、及び回収ウラン処理量を基に、変動費、固定費の推移とその内容をまとめ、…』と記述されているが、この実用化試験における試験設備の運転実績(実験データ)から、商用転換施設で想定される年間処理量(800tU/年)の経済性(処理量単位当り費用)を推定することが可能なのか。
試験設備の年間処理量(120tU/年)の範囲内における処理量(規模)と費用(変動費+固定費)の関係(パラメター)を、そのまま商用転換施設で想定される年間処理量(800tU/年)に適用することには問題がある。従って、試算値として示されている、年間処理量(120tU/年)では単位費用約1,100万円/tU、年間処理量(800tU/年)では単位費用約600万円/tU、から商用転換施設の成立可能性を示したことにはならないと思われる」
これに対する回答は「プラント規模の拡大に伴う各コストの推定は必ずしも全てに裏付けがあるものではなく、商用化プラントの姿がより具体的になるプラントの設計時に、より詳細な検討が可能と考えます。」
このいい加減なコスト試算などを基に、平成21、22年度に国の研究が三菱マテリアルが請け負って行われました。平成27年3月の事後評価では、天然ウランUF6価格の”半額位”のコストというお約束の結論を承認しています。つまり、やれば儲かるのです。
ロシアは、回収ウランで核弾頭用に高濃縮ウランHEUを500トン製造した実績があります。ドイツやフランスの回収(減損)ウランを低濃縮ウランLEUをつくった実績もあります。回収ウランRUの利用では先進国です。そのロシアが「ロスアトムの施設で使用済み核燃料の再処理で回収したウランの濃縮プロジェクトを今後数年以内に開始したい」と2015年4月に云っています。三菱マテリアルの結論が正しいのなら、5年前からロシアは儲かっているはずです。今更、「今後数年以内に開始したい」とは解せません。
平成12年度が捕らぬ狸の皮算用なら、平成22年度は何と呼ぶのが良いでしょうか。
トリウム炉へ続く
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