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東京電力の提出資料「防災において想定する事故シナリオについて」は、信頼できない。 [柏崎刈羽原発の防災計画]

2014年2月11日、第4回新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会が開催された。

東京電力の提出資料「防災において想定する事故シナリオについて」は、信頼できない。

この資料ではDEC(デック・設計ベースを超える状態)に対応する設備(DEC対策設備)の機能喪失も仮定した事故シナリオを「新潟県からのご要望事項」として追加的に3例検討している。追加シナリオ(1)では、「発生後、4時間後に消防車による原子炉注水を開始」としている。

しかし東京電力は昨年1月25日に原子力規制委員会に提出した「当社の原子力発電プラントの安全確保に関する考え方」によれば、可搬設備である消防車による対応が期待できるのは12時間後として対処するフェーズドアプローチをとるとしている。

(平成25年1月25日、第12回発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム、資料3当社の原子力発電プラントの安全確保に関する考え方【PDF:557KB】

フェーズドアプローチは、「•事故初期:人的リソースが限定・現場アクセス困難の可能性→恒設設備だけでも初期対応ができるように設計することが適切
• 事故後期:状況が輻輳・特定の条件で設計した恒設設備では対応できなくなるおそれ
→可搬設備も選択肢に加え、対応の多様性や代替可能性を高めることが重要」「対策は時間余裕に応じて適切に選定しなければ、安全上有効に機能せず。」「時間余裕に応じた段階毎に対策を設定する」として採用した東京電力は説明している。

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すなわち12時間は当直が設計ベースの恒設設備、・恒設DEC対応設備によって対応する。人的リソースとして当直以外のオンサイト要員や対応設備として消防車や電源車など可搬設備が使えると期待できるのは12時間以降になるとして対応策を練り上げるフェーズドアプローチを採用すると東京電力は原子力規制委員会に説明している。

したがって、DEC対策設備の機能喪失も仮定した事故シナリオでは消防車による原子炉注水の開始は、早くて12時間後、もっと有りうるケースは12+2の14時間後、保守的には16時間後を条件において解析すべきである。

「新潟県からのご要望事項」としてる追加的検討では、追加シナリオ(2)だけが12時間後になっているだけである。つまり、東京電力は自らが打ち出したフェーズドアプローチをほとんど無視しているのである。新潟県が要望したDEC対策設備の機能喪失も仮定した事故シナリオを検討しているかのように見えるが、東電が自ら課している「消防車や電源車など可搬設備が使えると期待できるのは12時間以降になる」という条件を捻じ曲げて、4時間後、6時間後に消防車による注水が始まるという事故進展が遅くなり事故規模が小さくなるように解析条件を操作している。信用できない。


追加シナリオ(2)だけが12時間後になっているが、それでは東電フクシマ核災害では機能を失った原子炉隔離時冷却系が設計ベースの8時間は稼動するとしている。だから、崩壊熱量の多い8時間は原子炉隔離時冷却系による原子炉注水と除熱が行われている。注水が8時間後に途絶える。発災から8時間経っているので追加シナリオ(1)(3)より崩壊熱の発生量は減少しており、3時間後の「発生後約11時間後に炉心損傷開始」。それから1時間後、炉心損傷、メルトダウンが進展しているがメルトスルーしていない段階で、消防車により注水が再開する。その原子炉隔離時冷却系による注水が東電フクシマ核災害と同様になければ、東電資料30ページによれば「無注水により事象発生後約1時間後に炉心損傷開始」である。

原子力安全基盤機構JNESの平成18年度の研究「BWR-RCCV型格納容器内ソースターム分布」 
「を参照すると、発生から約6時間後にメルトスルー、溶融核燃料が圧力容器下部を破って漏れ出す。漏れ出した高温の溶融核燃料が格納容器容器の床のコンクリートと反応して、水素ガスなどが発生し、格納容器内の圧力が急激に上昇する。研究では約12時間後には格納容器の最高使用圧力の約2倍、東電によればベントをする圧力に達する。約17.3時間で約3倍。

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JNESの平成18年度の研究は「シビアアクシデント晩期の格納容器閉じ込め機能の維持に関する研究報告書」にある。

追加シナリオ(3)では炉心損傷開始は約1時間後、追加シナリオ(1)では炉心損傷が0.4時間後と早まる。

東電が採っているフェーズドアプローチでは「消防車や電源車など可搬設備が使えると期待できるのは12時間以降になる」。この条件下では、追加シナリオ(1)(2)(3)では何れの場合も、メルトダウン、メルトスルーの後に、約4~6時間後に消防車の使用が可能になると期待できる。従って、消防車による下部D/W注水はメルトスルー前には行われないから、熔融核燃料と格納容器容器の床のコンクリートと反応は抑制されない。つまり、約11~12時間後には格納容器の最高使用圧力の約2倍、東電によればベントをする圧力に達するとJNESの研究から推測される。東京電力はベント実施を約20時間後としているが、フェーズドアプローチ下では約11~12時間後と早まる。

またベントガスの成分や放射能の環境放出経路も異なる。追加シナリオ(1)(2)ではメルトスルーはしていない。熔融核燃料と格納容器容器の床のコンクリートと反応は起きない想定である。追加シナリオ(3)ではメルトスルー前に消防車による下部D/W注水が行われるシナリオである。下部D/W・ペデスタルに十分な水量があれば、コンクリートとの反応は極めて抑制される。それによる水素ガスの発生が無いか極めて少なくなる。

しかし、フェーズドアプローチ下ではメルトスルーの後に、スルーしてから約4~6時間後に消防車の使用が可能になると期待される。JNESの平成18年度の研究からは、このような場合は、「格納容器破損時の圧力に対する分圧の寄与は、ほとんどが水素によるものである」。ベントガスに含まれる水素ガスの量は東電が想定するよりもはるかに多くなる。

追加シナリオ(3)のようにメルトスルー直後から熔融核燃料の水による冷却=水蒸気の発生がある場合、JNESの平成18年度の研究からは格納容器内の「圧力上昇の原因は水蒸気の寄与がほとんどである」。従って、消防車などによる格納容器の上部D/Wに注水・散水があると水蒸気が凝縮し圧力が下がる。東電が採るフェーズドアプローチ下ではこのような熔融核燃料への注水による水蒸気発生は12時間後まではなく、圧力上昇はほとんどが水素によるものだから、12時間後に消防車で格納容器に注水が行われても、それによる圧力低下はあまり期待できない。

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また、圧力容器からメルトスルーで下部D/W・ペデスタルに落下した熔融核燃料の平均温度は1530℃(1800K)を超え床を構成する鋼製ライニング板を溶かして、その下の厚さ約1.6mの鉄筋コンクリート部と反応する。ペデスタル床にはドレインビットという集水溝があり、底の鉄筋コンクリート部は厚さが1.6mもない。メルトスルーから約4~6時間後に消防車による注水が行われるとして、それまでの約4~6時間にドレインビットの底面が破損し鉄筋コンクリート部を熔かしきり格納容器の最外部を構成する鋼板が熔融するのではないか?

そうなると、格納容器は最低部最深部で破損し気密性を失い溶融核燃料が地下に出ることになる。地下水を経て放射能が原子炉外に環境中に拡散することになる。フィルターベントの目的は格納容器の加圧破損を防ぎ気密性を保持することである。その気密性が既に破たんしている状態でのフィルターベントは、何の意味があるのだろうか。

東京電力が2月11日に提出した資料「防災において想定する事故シナリオについて」は、自らが採用しているフェーズドアプローチを反映していない極めて恣意的な条件設定によるものである。DEC対策設備の機能喪失も仮定した事故シナリオでは消防車による原子炉注水の開始は、早くて12時間後、もっと有りうるケースは12+2の14時間後、保守的には16時間後を条件において解析すべきである。

また新潟県は、追加シナリオ(1)のソースタームでSPEEDIを使った拡散予測を予定していると聞いたが、追加シナリオ(1)は発災から4時間後に消防車格納容器注水を設定している。東京電力が採用しているフェーズドアプローチでは、4時間後の消防車活用は想定できない。12時間後、14時間後、保守的に16時間後を条件に解析をやり直して、そのソースタームで行うべきである。


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