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ノート 放射線環境への適応 [被曝影響、非発がん、全般]

耐性進化による放射線環境への適応

大瀧丈二 「原発事故の生物への影響をチョウで調査する」より抜粋
科学  2013 Vol.83 No.9

ここで重要な未発表データについて触れておきたい。現地におけるサンプリング個体の異常率、その子世代の異常率を眺めてみると、2011年 9月をピークにして減少し、現在では 2011年5月以下のレベルとなっている。ヤマトシジミは世代時間が 1カ月と早いため、年間 6世代ほど、2013年 7月現在では15 世代ほどが経過している。この程度の世代を経れば、自然選択(ややこしいが、もともとの環境汚染が人為的な行為であることを考えると「人為選択」の一種)が働き、十分に放射線環境にも適応できるようになることを示している。

このことは野外調査の結果を評価するうえで重要である。「何も影響が検出できなかった」あるいはそれを拡大解釈して「安全である」という生物学的調査結果が発表された場合、調査開始時がいつなのか、また、その対象となっている生物の世代時間はどのくらいなのかに注目してみるとよい。世代交代の早い生物種に関する調査を2012年から始めた場合、原発由来の影響は何も検出されないであろう。その生物はすでにその環境に適応しているのであるから。

今回の原発事故のように、放射性物質が環境中にふりまかれると、おそらく以下のようなことが起こるのであろう。放射性物質が突然変異を誘導し、生物にとって大きな脅威となる。多くの個体は突然変異の悪影響で死亡する。しかしながら、多くの突然変異が短時間で誘発されるため、放射線耐性を強化する突然変異も出現する。たとえば、DNA修復酵素の活性が高いものや HSP蛋白質(熱ショック蛋白質)の発現量が多いものなどが出現し、徐々に集団内に広まっていくのである。また、新しい突然変異体でなくても、もともと高い放射線耐性を示すゲノムをもって生まれた個体は生き残り、次世代に遺伝子を残していくことになる。

しかし、人類はこのような道を歩んではいけない。自然選択とは、死ぬものは死んで、生き残るものだけが生き残る過程のことである。人間社会は、人為的な環境(放射能汚染環境)における「選択」に人類の未来をゆだねるわけにはいかない。それに抗する社会をつくっていくべきである。ヤマトシジミの研究が人間にどの程度当てはまるかはまったくわからないが、多少でも当てはまった場合、現状のままでは、将来的にはヤマトシジミのように自然選択(つまり「人為選択」)が起こってしまう可能性があることは現時点で認識しておくべきである。

その意味でも、人の被曝量の「安全基準」を一律に政治家や科学者もどきの人々が決めてしまい、結果としてそれを人々に強要してしまうようなことは、現代の福祉社会で行われるべきことではない。安全基準は各個人の放射線耐性度や健康度によって異なってくるものであり、また、個人の意思によって被曝の許容量は決定されるべきであろう。放射線耐性や放射線許容量についても、各個人の多様な耐性度や価値観を尊重する社会体制を目指すべきである。

一つ一つの生きものを見つめる眼差し:鷲谷いづみ×中村桂子
抜粋
生命誌ジャーナル 2009年 春号

(鷲谷)
 植物が個体として唯一移動できるのがタネの段階で、風に乗って移動する方法もありますが、有効なのは動物に運んでもらう方法です。泥と一緒に足の裏にくっつくなんてとても成功している例で、動物はみな水に依存しますから、湿地の泥に混ざってくっついたタネは、動物が次の湿地に行くまでくっついたまま移動できるのです。子供の頃、泥んこで遊ぶと足の裏にべったりついた泥がつき、乾くと中々剥がれなくて、水で濡らさないと取れませんでしたでしょ。直立しているヒトは足裏の面積が広く、しかもよく動く動物なのでタネの運び手としての役割は非常に大きい。マンモスもかなり有効だったと思いますよ
(中村)
 動物は居住域が決まっているけれど、ヒトはわずか10万年ほどでアフリカ大陸から世界中に広がりました。こんな動物は他にいませんね。それと一緒にタネも動いたでしょうか。
(鷲谷)
 他にも被食分散と言って、果実とともに動物に食べられて、吐き出されたり消化管に入って運ばれることもあります。私たちは果実が好きですよね。イチジクやイチゴのような小さなタネは皆ヒトの消化管に入ります。それから貯食と言って、冬に向けて食料を貯める行動もとります。
(中村)
 リスのようにですね。
(鷲谷)
 そうです。今の人類の在り方はさておき、5万年遡っての生物としてのヒトは植物にさまざまな淘汰圧を加えてその多様性を作ったと思います。今は違う意味で大きく生物多様性を変えていますが。



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