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既設原発に後付けできるメルトスルー対策、IVR-AM 東電vs泉田知事(22) [原発 冷却注水の確保]

東京電力はフィルタベント設備設置の目的を「福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、原子炉の注水と格納容器除熱機能を強化しているが、万一それらの機能が発揮できない場合でも、放射性物質放出の影響を可能な限り低減させ、セシウム等による大規模な土壌汚染と避難の長期化を防止する。」としています。

原子炉の注水機能強化は大まかには注水用ポンプを多様にし数多く使えるよう手順書を整えたり、代替高圧注水設備や消防車8台(AⅠ級2台,AⅡ級6台)を配備する対策をとっています。格納容器の除熱機能は下図のように、格納容器のドライウエルという上部の部分や下部の圧力抑制室や原子炉圧力容器直下のペデステル(台座)という部分へので、消防車による送水でスプレイ(散水)・注水を対策としています。

先回まで、SBO・全交流電源喪失で原子炉の注水機能だけが使える状況を検討してきました。今回はSBOで格納容器の除熱機能は使える、建屋内に設置してある消火系・PFのデーゼルポンプや消防車でスプレイ(散水)・注水できる状況を検討してみます。

原子力安全基盤機構JNESの平成18年度の研究を参照すると、柏崎刈羽6、7号機のABWRでは
発災・スクラム(全制御棒挿入で核分裂の緊急停止)し原子炉の注水機能が停止すると、

1381163840.jpg1、約0.7時間後に水面から核燃料・炉心が顔を出します。(フローダウン放出は0.7時間・約40分)
2、約2分後に核燃料のジルコニウム合金の被覆が破れるものも出てきます。
その裂け目から希ガスは炉心内蔵量の5%程度、ヨウ素も5%程度、セシウムも5%程度が放出される、ギャップ放出量と見込まれています。
3、約25分間(0.4時間)後、発災から1.1時間に炉心溶融が始まります。
4、約90分間(1.5時間)後に、炉心溶融の放射性溶融物(コリウム)の大半が圧力容器底部に落下します。発災から2.6時間後。
5、約130分後(2.1時間)後、発災から5.7時間に、放射性溶融物(コリウム)によって圧力容器が損傷して格納容器など様々の物が溶融した放射性の炉心溶融物(デブリ)が出てしまう、つまりメルトスルーします。
6、メルトスルーして下部の床、ペデステル(台座)床に落下して放射能や崩壊熱を出します。床の鋼製ライナーや鉄筋コンクリート、横に広がって数分後にペデステル(台座)の縦壁のRPV支持ペデスタルに到達し、崩壊熱で直接加熱します。コアコンクリート反応で水素ガスが大量発生します。溶融・侵食が進行します。

建屋内に設置してある消火系・PFのデーゼルポンプや消防車での格納容器への注水で、1~5までの進展を食い止めることは出来ませんが、やり方によっては遅くして原子炉の注水機能の回復作業にあてる時間を稼いだり、それが間に合えば、メルトスルーを回避できます。6のペデステルの溶融・侵食を食い止めれます。

溶融燃料を原子炉内に保持する・・IVR-AM

TMI・スリーマイル島事故では、圧力容器の下部ヘッドに高温の炉心溶融物(デブリ)が、約19 トン(全炉心の約16%)も落下したにもかかわらず、圧力容器の破損は回避されました。それで「シビアアクシデント時の溶融燃料を原子炉内に保持すること」(IVR:In-Vessel Retention)を人為的におこし、圧力容器の破損を回避しする対策の研究が、1998平成10年度から2003平成15年度まで経産省の予算で行われています。 研究結果の概要

スプレイ(散水)による圧力容器外面冷却方式を、a)炉型に依存しない、PWR/BWR 共通に適用可能、b)プラントレイアウトに依存しないc)冷却開始が早いという理由で選択しています。また「将来炉のみならず既設プラントへの適用も可能である」としています。

この研究されたIVR-AM 策は、圧力容器内部への注水を行うとともに、圧力容器と放射断熱板の間隙に外面スプレイラインから、溶融炉心が圧力容器下部ヘッド落下後に、スプレイ(散水)により圧力容器外面を冷却し圧力容器内の溶融炉心を冷却するものです。 いわば、原子炉のウォシュレットです。

「実機スケールでの解析は、既存の代表的なPWR およびBWR 体系を対象として行った。これらの解析によれば、IVR-AM 設備による圧力容器内部注水及び圧力容器外面冷却を行うことで、圧力容器下部ヘッド内面温度は1,600K 程度(鉄の融点は約1800K)に維持することが可能であり、その健全性を維持できる結果が得られた。すなわち、本AM 策の効果により圧力容器破損が回避される見通しを得た。」
「IVR-AM 成立時の安全性向上評価では、米国の標準設計承認を得ているABWR(Advanced Boiling Water Reactor)を対象として、・・IVR 効果を組み込んだ確率論的安全評価(PSA)の解析を実施した。IVR-AM 設備の圧力容器内部注水及び圧力容器外面冷却(IVR-AM)を考慮した場合、IVR-AM を考慮しないケースと比較して圧力容器破損頻度がおよそ1/100 に低減し、格納容器破損頻度はさらにその1/5 低減する結果が得られた。」

柏崎刈羽で試算してみる

柏崎刈羽原発6、7号機でスクラムから5時間後までの最低必要注水量は約62トン/時、5~10時間後は約57トン/時、10~20時間後は約46トン、20時間以降は約41トンと福島第一の事故時の対応手順書から概算できます。発災・スクラムから2.6時間後に炉心溶融した放射性溶融物(コリウム)の大半が圧力容器底部に落下します。その落下時点から、圧力容器下底部外面をスプレイ(散水)冷却を始めた場合、スプレイ水が容器下部外面で水蒸気や熱水になって冷却効果を顕します。その冷却・除熱効果で放射性溶融物(コリウム)による圧力容器の溶融が遅れます。注水する機器の修復や手配、配置の時間が稼げます。

1時間に20トンの外面スプレイ(散水)による容器下部外面での水蒸気や熱水になっての冷却効果が、内部注水量換算で7トン/時とします。スプレイ無しでは、発災・スクラムから5.7時間後です。スプレイありで約6時間後になります。このようにメルトスルーに至った場合でも、充満する水蒸気や格納容器の床面・ペデスタル床面に溜まった水(約40cm水深)にデブリが除熱されます。格納容器下部のデブリとコンクリートとの反応を抑制されます。IVR-AM 策研究では水蒸気のデブリ除熱効果だけを見ていますが、それでも「格納容器破損頻度は1/500に低減」しています。約40cmのペデステル床上の水溜りに落下するのですから、除熱=冷却効果はもっと大きくなり、ほぼ確実に格納容器破損は防げます。格納容器外にでたデブリ、汚染水によって東電福島第一で起きている地下水汚染を予防できます。

仮に、5.9時間後に東電が配備している消防車「消防車8台(AⅠ級2台,AⅡ級6台)をT.P.約35mの高台に分散配置。消防車により建屋に設けた注水口等から注水可能。」で原子炉への注水が可能になったとします。AⅠ級のポンプ仕様:高圧放水圧力1.4MPa・高圧放水量120m3/時以上、規格放水圧力0.85MPa・放水量168m3/時以上。AⅡ級のポンプ仕様:高圧放水圧力1.4MPa・高圧放水量84m3/時以上、規格放水圧力0.85MPa・放水量120m3/時以上。

IVR-AM のスプレイ無しではメルトスルーしていますが、スプレイ有りでは首の皮1枚でメルトスルー前に84~168m3/時の注水が始まります。この時間の最低必要注水量は約57トン/時ですから、メルトスルーは先ず避けれると思います。「圧力容器内部注水及び圧力容器外面冷却(IVR-AM)を考慮した場合、IVR-AM を考慮しないケースと比較して圧力容器破損頻度がおよそ1/100 に低減」です。

炉への注水なしでメルトスルーを防げるか。

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格納容器への冷却水の注水を継続すると、水が溜まり続けてやがて図のような状態になります。圧力容器の下底部が水に漬かり、核燃料の放射性溶融物(コリウム)で発生する崩壊熱で沸騰する。それで除熱される。
ならば、最初からこの圧力容器の下底部が水に漬かった状態にしてしまえば、炉への注水なしでもメルトスルーは避けれる?溶融燃料を原子炉内に保持(IVR:In-Vessel Retention)を達成できるのではないか?下図は、中国で建設中の米国WHの技術による加圧型のAP1000という原子炉の炉外殻注水というシビアアクシデント対策です。スウェーデンは、シビアアクシデント対策として格納容器に、炉心の高さまで注水することを求めています。

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柏崎刈羽原発の6、7号機、ABWRで、格納容器に炉心の高さまで注水する、メルトスルーが起こる発災・スクラムから5.7時間後までに注水できる可能性があるかは、検討する価値があるのではないでしょうか?

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