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全交流電源喪失(Stasion Blackouto 、SBO)でSPEEDIは使えなくなる? [AM-放射能拡散予測・SPEEDI]

東電フクイチ核災害で、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」が稼動しませんでした。それは、原子炉の温度や圧力、放射線測定値などの各種のプラントデータをリアルタイムで受けとり、国( 原子力安全基盤機構・JNES)が監視・モニターする「緊急時対策支援システム(ERSS)」が電源喪失のため使えなかった、稼動しなかったからだと保安院は5月4日に発表しています。 ERSSとは

原発プラントでは運転のために様々なプラントデータが採られています。そこから選ばれた
・外部電源、非常用電源、安全注入系の作動状況
・原子炉および格納容器の冷却状態
・原子炉圧力/水位(BWR)
・1次冷却材圧力/温度、加圧器水位(PWR)
・安全注入系流量、格納容器スプレイ流量、格納容器圧力
・各種放射線モニタ測定値
・風向、風速、大気安定度
などのデータが、24時間常時オンラインで、プラントから国(原子力安全基盤機構)の送信されています。

 このプラントデータをもとに、原子力発電所・原子炉の状態を判断する「事故状態判断支援システム(DPS)」、炉心出口温度、原子炉および格納容器の温度・圧力等のプラント主要 パラメータ値のトレンドグラフや放射性物質の放出量を予測する「解析予測システム(APS)」が稼動します。この放射性物質の放出量は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)に受け渡され、気象観測点データ、アメダスデータなどと共に、SPEEDIが周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量などを予測します。

保安院は3.11の地震では津波による冠水で予備のバッテリーも使えなかったほか、外部の電送システムがダウンしたので、緊急時対策支援システム(ERSS)が稼動しなかったと説明しています。この説明の妥当性は脇において、7月13日に原子力安全委員会が公表した全交流電源喪失の検討結果をみると、津波ではなくても、1時間以上の全交流電源喪失では、ERSSがダウンしSPEEDIも無論ダウンするようです。
安全委員会の検討報告書PDF

 全交流電源喪失(Stasion Black Outo 、SBO)するとスクラムし原子炉は隔離される。崩壊熱により発生する水蒸気で原子炉圧力が上昇し、SR弁(主蒸気逃がし安全弁、作動設定値約7.5MPa)が開いて、原子炉蒸気がサプレッションブール・圧力抑制室ヘ排出される。原子炉水位は一旦低下するので。炉心冷却を確保するため原子炉水位の維持するために注水が必要となる。

交流電源に依存しない炉心冷却・注水機能として、
BWR-3(福島第一・1号、島根-1)ではIC(隔離時復水器系)及びHPCI(高圧注水系)、
BWR-4(福島第一・2号~5号、浜岡-1、2、女川-1)ではRCIC(原子炉隔離時冷却系)及びHPCI(以下「RCIC等」)、
またBWR-5(福島第一・6号、第二-1~4、東海-2、柏崎-1~5、浜岡-3、4、島根-2、志賀-1、女川-2、3、東通-1)ではRCIC(原子炉隔離時冷却系)。
ICまたはRCIC等の運転継続の制約条件の一つが、制御するための直流電源の「蓄電池容量」です。

BWR-3/4/5の蓄電池の給電可能時間は概略的2~4時間。

ただしBWR-3では、1時間後迄に交流無停電電源装置(CVCF)等の不要な負荷を停止または切離すことによりICの運転及び原子炉状態監視(原子炉水位、圧力)を約10時間継続可能

BWR-4では、1時間後迄に交流無停電電源装置(CVCF)等の不要な負荷を停止または切り離すことにより、原子炉状態監視(原子炉水位、圧力)及びRCIC等の運転(RCICとHPCIを4時間ずつ、合計8時間運転可能)約8時間継続可能。

BWR-5では、1時間後迄にCVCF等の不要な負荷を停止または切り離すことにより原子炉状態監視(原子炉水位、圧力)及びRCICの運転を
約8時間継続可能。

PWRでは蒸気発生器への蒸気タービン動補助給水ポンプの運転や原子炉の冷却状態の監視に蓄電池の給電可能時間は約2時間。不要な負荷を停止または切離しをSBO後30分で行えば、約5時間に延長。

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つまり、SBOから約30分から1時間以内に復旧の目処が立たなければ、CVCF等の直流電源負荷の一部切り離しが行われます。CVCF(交流無停電電源装置)は原発の計測制御装置に使われています。交流電源→受電装置→整流器(交流を直流に変換)→蓄電池→インバーター(直流を交流に変換)→各種センサーなど計測系、安全機器の動作信号・制御、中央制御室のコンピューターなど監視系の流れで電力を供給しています。

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 7月13日に原子力安全委員会が公表した全交流電源喪失の検討をみると、どのセンサー、制御系などを切離し無効にするのかは、手順書として整備されているそうですが、生き残りが明記されているのは原子炉状態監視(原子炉水位、圧力)で後は不明です。「緊急時対策支援システム(ERSS)」が要求している安全注入系の作動状況、原子炉および格納容器の冷却状態、安全注入系流量、格納容器スプレイ流量、格納容器圧力、各種放射線モニタ測定値、風向、風速、大気安定度などのプラントデータの大半は、作動電力を失い採れなくなると見られます。

 つまり、炉心冷却を確保する注水を継続するためにSBOに陥ってから約30分から1時間後まで行われるCVCF等の直流電源負荷の一部切り離しで、緊急時対策支援システム(ERSS)はプラントデータ不足で稼動できなくなります。したがって緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)も、事故状態判断支援システム(DPS)もダウンします。肝心要の時に役に立たない。

 3月30日に出された緊急安全対策では、電源車を配備してBWRでは8時間以内、PWRでは5時間以内に電源を確保することになっています。それは、中央制御室の監視、計測機器の作動、弁装置の作動等など、蓄電池の給電可能時間を引き延ばす為に切離した系などを回復させる電力です。非常用発電機は約6000kWの発電能力ですが、電源車はせいぜい600kWです。冷却水を循環させ注水する大電動ポンプを駆動できる電力ではありません。RCICなどの蒸気タービンを駆動するためには、原子炉から少なくとも約10気圧の高温の水蒸気の供給が必要です。それでの注水を維持をしなくてはなりません。約10気圧での水の沸点は約180℃。これ以下の炉圧力、温度にはできません。

 つまり電源車配備では、原子炉を安定した停止状態にすることはできません。また、電源車からの給電されるまでの時間の様々なプラントデータは失われており、事故状態判断支援システム(DPS)や解析予測システム(APS)は、十全に機能を発揮できないと思います。SPEEDIでの累積の積算値、内部被ばくや外部被ばくの線量を積算したもの(積算線量)は、まったく当てにならなくなります。

 それならば、蓄電池の容量を増やして、交流無停電電源装置(CVCF)等を生かしたままでの、監視、計測機器の作動、弁装置の作動が可能な給電可能時間を延長する方が良いとおもいます。緊急時対策支援システム(ERSS)が稼動し、様々な支援をできるようにしたほうが良いと思います。この設備増設は、電源車配備よりも時間がかかるでしょうから、再稼動の時期は遅れるでしょうが。


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