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神経芽腫と小児甲状腺癌2年発生説 [被曝影響、がん]

甲状腺癌200年説(提唱者 早川由紀夫・火山学者)http://togetter.com/li/587095
を「平均有病期間を200年で計算すると、多発ではなくなる。このあたりから、一生無害に経過する「放っておいてもよい」がどれくらいあるのかを計算できるかもしれない。」といっていた玄妙氏@drsteppenwolf は、新しい自説を唱えています。それは、「子供の甲状腺で、手術が必要と見えて実は手術の必要のないガンが、短いサイクルで発生している」という説です。

200年説は福島の小児甲状腺検査の1巡目の多発の結果を、「過剰診断」として説明する説です。それが、2巡目検査の2015年3月末時点の結果で事実で否定されます。甲状腺癌は「世界の報告例からすると、甲状腺がんの潜伏期は最短でも 4年から5年と考えられる。」「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」※という見解から、1巡目検査では甲状腺に嚢胞や結節が見つからなかった子供(約6万4千人)から約2~2.5年後に8人「悪性ないし悪性の疑い」およそ10㎜の癌の症例が見つかっている2巡目の結果を「過剰診断」として特に説明できないからです。

※ 放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ(東京、2014年2月23日)共同議長サマリー
http://www.fmu.ac.jp/radiationhealth/workshop201402/presentation/Co-Chairs_Summary_J.pdf

スクリーニング効果.jpg

この「過剰診断」説批判に対して玄妙氏は、次の図を作成し反論しています。

CGVcmnYUgAAJKOX.jpg

これは2巡目検査のデータから、①2年で甲状腺癌は細胞1個から大きく10㎜ほどの細胞の塊に成長する、②その比率は8千人に1人、この年代の自動車死亡事故よりも高率に発生しているということを意味します。①は「甲状腺がんはゆっくりと、穏やかに成長するという医学的知見」の否定です。②からは、そのような高率に、かつ急速に増殖するガン細胞なら、これまでも多人数、高い比率で知られていると思われます。そこで、臨床症状が顕れる前に非常に遅くなる、非増殖性に変化する、縮小の過程に入るという津金昌一郎氏(国立がん研究センター)の「がんの想定される自然史」を玄妙氏は持ち出しています。

玄妙2141_.jpg

神経芽腫の自然退縮
 その津金氏は過剰診断の前例として、「小児においても神経芽細胞腫マススクリーニングの前例がある」。では、神経芽細胞腫はどんな病像でしょうか。

「神経芽腫は副腎や交感神経節に発生する腫瘍です。多くは5歳以下のこどもに発生しますが、稀に5歳をすぎて発症したり、また生まれたばかりのあかちゃんに発見されることもあります。」
「神経芽腫は発症した年齢により特徴的な症状や悪性度、治療に対する反応などが異なります。」
「一般に乳児早期(生後3カ月ころまで)の神経芽腫、特に病期(ステージ)4Sに分類される神経芽腫は自然に消失(自然退縮)する傾向があり、腫瘍の増大・圧迫による呼吸障害や腎障害をおこしやすい時期をのりきると治癒させることが可能です。
 腫瘍の大きな時期をのりきるため必要最小限の治療(手術、化学療法、放射線療法など)が行われます。」

「1901年、米国のDr Pepperは肝臓に転移した副腎腫瘍で苦しむ生後1カ月の女児例を学会誌に報告した。この女児は残念ながら救命されなかったが、それから70年後の1971年、同じ米国のDr Evansは肝、皮膚、骨髄などに転移があってもわずかな治療で救命しうる神経芽腫を”特別な(special)”という意味の”S”をつけて病期(ステージ)4Sの神経芽腫とよぶことを提唱した。
一般にがんの領域では転移していることは結果が不良であることを意味する。しかし、病期4Sの神経芽腫ではある時期をすぎると腫瘍も転移も自然に消えていく 自然退縮のおこることがしばしば経験されていた。
この自然退縮の理由は長いこと不明とされ、神経芽腫は”enigmatic(不可思議)な腫瘍”と言われてきた。」

 (獨協医科大学越谷病院 小児外科の神経芽腫より 
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/T_nb.html

神経芽腫01.jpg

神経系の発生では一時、数多くの神経細胞がつくられ、この中から 複数の神経細胞が「プログラム細胞死」によりぬけ落ちることにより最終的な神経系のネットワークが形成されると考えられています。自然退縮する神経芽腫では、このプログラム細胞死の仕組みが温存されており、プログラム細胞死により腫瘍細胞が消え、腫瘍自体も消失すると考えられるようになっています。いわば、自然退縮は遅れてやって来たプログラム細胞死です。
 しかも、良く知られるプログラム細胞死のアポトーシス(apoptosis)とは直接に関係のない、プログラム細胞死のメカニズムにより自然退縮がおこるとの研究*もあり、神経芽腫の自然退縮の全ての仕組みは未だ不明のままです。

*神経芽腫の自然退縮に関わるプログラム細胞死の解析 北中千史
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/51215
http://www2.lib.yamagata-u.ac.jp/kiyou/kiyoum/kiyoum-23-1/image/kiyoum-23-1-083to096.pdf
ネクロトーシス
http://www.dojindo.co.jp/letterj/145/review/01.html

神経芽腫の集団検査(マススクリーニング)の過剰診断、過剰治療
小児がんの神経芽腫の早期発見をめざす尿による集団検査(マススクリーニング)が、85年から生後6カ月の乳児を対象に全国規模で実施されました。当時は、神経芽腫は小児の悪性腫瘍の約10%を占め、単独では小児の悪性悪性腫瘍の第一位の発生頻度であった。(1987年の日本における小児悪性新生物全国登録一覧表)かつ、30%程度の2年生存率で、発見年齢が1歳を超える例では予後が不良でした。
神経芽腫1_.jpg「1歳未満で発見される神経芽細胞腫は予後が比較的良好であったのに対し、1歳以降で発見される神経芽細胞腫は、治療が困難であり、死亡に至る例が多いことも、マススクリーニングが(早期発見に)必要であると考えられた」※
対象者の約9割が受診し、毎年約200名の患者が発見されて患者累計は2001平成13年度までで2913人でした。(約8千人に1人)


 (1)死亡率減少効果・・検査事業によって死亡率減少効果があるとする確定的な証拠が開始から15年余り経ってもなかった。「検査事業の死亡率減少効果の有無を示す十分な証拠が得られることは難しい状況にある。」※ 他方、生後12ヶ月時に検査を実施するドイツやで生後3週間と6ヶ月時に検査を実施するカナダでは、死亡率減少効果について否定的な研究結果が2002年に発表。
 (2)過剰診断と不利益
「一般的に、がんのスクリーニングに伴う過剰診断がなければ、スクリーニングの開始によって一時的に罹患率が上昇するが、その後継続すると、以前の水準に戻り罹患率は一定する。」「事業が(1985年に)開始された後、神経芽細胞腫の累積罹患率が2倍程度に増加することを示している。増加分の患者は、神経芽細胞腫検査事業が行われなければ、特段の対応が必要とならなかったと考えられる方々であり、この点から見ると『過剰診断を受けた』ということ」※
「発見された例では、積極的な治療を行わなくても、自然に腫瘍が退縮する場合がある」「2002年に日本小児がん学会が発表したデータによると、1998年に無治療で経過が観察されている82 例・・このうち、2001年まで無治療のままの例は59例・・残りの23例は・・手術を受けており、その理由は、家族の希望や、腫瘍の増大や縮小しないことなどであった。手術を受けた例の病理組織を検討すると、予後不良の兆候を示すものはなかった。」※
 治療による合併症が「死亡は手術について8例、化学療法について10例」※

「検査事業によって発見される例の中には、相当程度、積極的治療を必要としない例が含まれていると考えられている。また、治療そのものによる負担の他、治療によって合併症を生じる場合があるなど、現在行われている生後6ヶ月時に実施する神経芽細胞腫検査事業によって不利益を受ける場合があることは否定できない。」※

m_leadtime.jpgそれで2004年4月から中止になっている。

「スクリーニングの有効性を確認する十分な研究が実施されないまま、事業として導入されたことが、わが国で実施されている神経芽細胞腫検査事業の死亡率減少効果の有無が明確となっていない大きな要因となっており、この点は大変残念なことである。
 今後、この教訓を生かし、新たなマススクリーニングを公的施策として導入する際には、有効性の評価を事前に十分に尽くす必要があることに、留意するべきである。」※

※神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会報告書 平成15年7月30日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0814-2.html

神経芽腫で臨床的の周知だったが、小児甲状腺では??
このように、6か月時点でのマススクリーニング検査が始まる前から、臨床的に「1歳未満で発見される神経芽細胞腫は予後が比較的良好」。病期(ステージ)4Sに分類される神経芽腫は肝、皮膚、骨髄などに転移があってもある時期をすぎると腫瘍も転移も自然に消失(自然退縮)することをしばしば経験されていた。積極的な治療を行わなくても、わずかな治療で救命しうる”特別な(special)”神経芽腫が周知のことでした。こうした医学的知見をもとに「有効性の評価を事前に十分に尽くす必要があること」が、マススクリーニングの教訓でした。

玄妙氏が提唱するように小児甲状腺癌は神経芽腫と同様に、その多くは臨床症状が顕れる前に非常に遅くなる、非増殖性に変化する、縮小の過程に入るのだとすれば、その8千人に1人の発生の多さ、神経芽腫とほぼ同じ発生率から神経芽腫と同様に、臨床症状が顕れてからプログラム細胞死の仕組みが働いて消失(自然退縮)する例が《しばしば経験》されてなければ不自然です。それが無いのです。玄妙氏の唱える新説は、臨床的知見などに拠らない後付の後出しジャンケンな説です。

さて福島県の子供らの小児甲状腺は、どのように「がんの想定される自然史」を辿っているのだろうか。続く


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