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DIANA(東電版SPEEDI)は避難に役立つのか [AM-放射能拡散予測・SPEEDI]

DIAINA (Dose Information Analysis for Nuclear Accident)
 
過酷事故シビアアクシデントに備えて事故炉の放射能放出率を算出するシステムを東電は持っている。名前はDIANA 原子力発電所周辺線量予想評価システム(Dose Information Analysis for Nuclear Accident)。これはIAEAの安全基準安全要件(GS-R-2)「原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応」の4.24の要件に対応したものと言える。
4.24抜粋「事業者は、以下に関する十分な情報を迅速に作成し・・
(a) 放射性物質の環境への[計画外の]排出[又は被ばく]の範囲と程度の早期予測又は評価。
(b) [原子力又は放射線の緊急事態]の進展に伴う迅速かつ継続的評価。」抜粋終了。

 日本政府・規制当局はIAEAの安全基準安全要件(GS-R-2)は、5.18、5.21、5.22での要件に対応してSPEEDI緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム( System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)を持っている。
5.18抜粋「5.18. 「緊急時計画には、適宜、以下が含まれなければならない。
(e) [原子力又は放射線の緊急事態]及びその敷地内外への影響を評価する方法と機材の説明。」抜粋終了。

日本国政府・規制当局はSPEEDIをもち、東京電力はDIANAをもっている。

原子力規制委員会はSPEEDIをお払い箱にした。ところが、東京電力はDIANAを使い続けるとしている。どうしてそんな事が出来るのだろう。
(柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉 監視測定設備について【PDF:1MB】
http://www.nsr.go.jp/data/000102549.pdf

DIANAの仕組み 
「柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉 監視測定設備について」と「福島第一原子力発電所事故における放射性物質の大気中への放出量の推定について 平成24年5月 東京電力株式会社」をもとにDIANAの性能を見てみる。
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120524j0105.pdf

DIANAは、放射性希ガス・よう素および粒子状物質が大気中に放出された場合を想定して、地形形状を考慮し、放射能放出率と気象条件より0.5MeV 換算の仮想粒子の大気拡散評価が可能であり、発電所周辺の任意の地点の放射線量率の計算を行うことができる。10分間は一定の放出率を仮定しているので、10分毎に原子力発電所周辺の3次元移流拡散現象を模擬し、任意の地点における空間線量率を評価することが可能なシステムである。

000102549_KKモニタリング装置4.3-1a.jpg


 このシステムを利用し、単位放出率あたりのモニタリング・ポスト等の位置での放射線量率を求め、実測された放射線量率との比例計算により、実際の放射能放出率を算出することができる。

000102549_KKモニタリング装置4.3-1b.jpg

発電所を含む、東西 50km×南北 50km×高さ 2kmの評価領域内の風場を、発電所内で測定された実測の風向、風速の気象データを元に地形の影響(風向変動)を考慮し1km×1km×100mの計算メッシュで模擬・デジタル化し、50×50×20の3次元のデジタル風場を作成し、0.5MeV 換算の粒子による移流拡散を計算する。事故炉に内蔵されている放射能量(インベントリ)は、原子核の特性(核分裂断面積,核分裂収率,崩壊定数など)を用いて、原子炉内の核分裂生成物の生成および壊変による放射能量を求めるORIGENコードを用いて算出する。その単位放出率あたり放出量によるモニタリング・ポストなど観測地点の位置で拡散量が得られる。その量での放射線量率を求め実測された放射線量率との比例計算により、実際の放射能放出率を算出することができる。

DIANA評価範囲_.jpg

SPEEDIと比較すると
DIANAは、事業者の放射性物質の環境への排出又は被ばくの範囲と程度の早期予測又は評価のためのシステムであり、発電所敷地内に配置したモニタリング・ポストやモニタリング・カーの観測地点の拡散量や放射線量率の予測が求められる。発電所敷地内だから精々2㎞先である。風速1.5mの微風では22分の距離。秒速2mなら約16分。システムの仕様も10分毎に再計算・再出力するようになっている。

 SPEEDIは緊急時計画、原子力防災の避難や安定ヨウ素剤服用と言った防護手段を採るために必要な早期予測又は評価のためのシステムであり、住民の集落や団地等での予測値が求められる。DIANAは10数分後の予測が求められるが、原子力防災の道具のSPEEDIはEPZ・5km圏の圏境に到達する時間、UPZ・30km圏の境への到達時間を考慮すると数時間後の予測が求められる。
 DIANAは39km先の地点の放射線量率も算出・評価するが、秒速2mなら到達時間は325分・約5時間半、風速1.5mの微風では433分・約7時間後。DIANAは発電所内で測定された計算時刻の実測の風向、風速が変わらないと仮定したデジタル風場を作成し評価しているから、実際と大きく食い違う不確実性が大きい。防護手段を採るために必要な早期予測としては、粗すぎる。
 SPEEDIでは気象データの予測は、気象庁が1日4回出す数値予報GPVのGSM(日本域)を用いる。GSM(日本域)は日本のある北緯20度~50度、東経120度~150度を緯度0.2度×経度0.25度、151×121の約20km×約20kmの計算メッシュでデジタルな予想を1日4回出す。これを大本の気象データにしている。
 これは余りに大まかである。地形の影響(変動)も考慮する必要がある。それでGSM(日本域)を基に計算し直して、東西 100km×南北 100km×高さ4kmの範囲を2km幅高さ130mの50×50×30の2km幅高さ130mの計算メッシュで3次元のデジタル風場を作成して、線量率や甲状腺被ばく等価線量などは更に細分化し100×100×30の1km幅高さ130mの計算メッシュで予測する「広域」。

SPEEDI広域.jpg


 より狭い範囲、東西 25km×南北 25km×高さ2kmの範囲を100×100×20の250m幅高さ100mの計算メッシュで3次元のデジタル風場を作成して、線量率や甲状腺被ばく等価線量などを詳細に予測評価する「狭域」。

SPEEDI狭域.jpg

「広域」と「狭域」の2種類のデータを防護手段を採るために必要な早期予測又は評価として提供する。、SPEEDI の線量率や甲状腺被ばく等価線量など予測精度は風場・風速場の予測精度に依存している。それは大本の気象データが気象庁の予報だから、下駄を投げるのとは違うが、予報は予測だから風雨が早まったり遅れたり、強かったり弱かったりする。それに由来する不確実性がある。それはアメダス(AMeDAS Automated Meteorological Data Acquisition System 地域気象観測システム)や原子炉施設周辺気象観測データなどの実測値で補正する仕組みがある。それでも不確実性は残る。

SPEEDIの予測.jpg

 このようにDIANAとSPEEDIは、予測手法は基本的に同じだが、それが果たすべき役割、システムの重要目的が違うから仕様性能が異なる。東京電力の10分毎に再計算・再出力するDIANAの仕様は、緻密、時間的に細密な予測値を提供する。しかし、事故炉から5km圏のEPZ圏境に到達する時刻、UPZ・30km圏の境への到達時刻が大切な防護手段を採る判断の予測値としては不確実性が原理的に余りに大きい。SPEEDIは、気象庁の予報を用い、アメダス等の実測値で補正する仕組みを持っている。それでもある程度は不確実性は残る、それの予測精度の程度はどれ位か。

避難範囲や開始決定での実用性
 安定ヨウ素剤の投与の基準を小児甲状腺で50mSvとすると、予測で50だった地帯が実際は40でしたという精度なら、ヨウ素剤投与という防護措置を採るには十分ではないか。日本原子力研究所らは「観測データから計算した濃度や線量と予測値から計算したものはおおむね一致し、実用になるものと考えられる。」と2004年、3.11前は評価している。
SPEEDI の性能向上と試験運用 https://www.jstage.jst.go.jp/article/aesj/2004f/0/2004f_0_665/_pdf

 しかし、2011年の3.11ではSPEEDIは生かされず、ヨウ素剤投与という防護措置は行われなかった。そして後から原子力規制委員会は「SPEEDI による計算結果に基づいて防護措置の判断を行うことは被ばくのリスクを高めかねない」と評価している。暗黙の裡にヨウ素剤投与という防護措置を行わなかった責任をSPEEDIのせいにしている。
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の運用について https://www.nsr.go.jp/data/000027740.pdf

 規制委の評価が正しければ、被ばくのリスクを低くする防護措置は、原発が運転しないようにする事で「過酷事故のリスクをゼロ」ではないだろうか。運転を停止していても使用済み核燃料事故での被ばくのリスクは残るが、被ばくのリスクは低くなる。ところが、2015年の原子力防災指針(改定原案)では、原発事故時にモニタリング実測値で防護措置を採る、発動するとした。つまり避難するということは基準まで被ばくしてからで、そして被曝しながら行動を開始することを意味する。「被ばくのリスクを高めかねない」から放射能影響予測を使わないようにしていながら、基準まで被ばくするようにしている。これで防災なのだろうか。


タグ:SPEEDI
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