メモ 日本のPWRのメルトスルー後のデブリ冷却策 [AM-メルトスルー、CCI]
「第五十一条 発電用原子炉施設には、炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため、溶融し、原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備を設けなければならない。」
より具体的に原規技発第 1407092 号「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」で次のように定めている。
第51条(原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための設備)
「1 第51条に規定する「溶融し、原子炉格納容器の下部に落下した炉心を冷却するために必要な設備」とは、以下に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。なお、原子炉格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却は、溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)を抑制すること及び溶融炉心が拡がり原子炉格納容器バウンダリに接触することを防止するために行われるものである。
a)原子炉格納容器下部注水設備を設置すること。原子炉格納容器下部注水設備とは、以下に掲げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備をいう。
ⅰ)原子炉格納容器下部注水設備(ポンプ車及び耐圧ホース等)を整備すること。(可搬型の原子炉格納容器下部注水設備の場合は、接続する建屋内の流路をあらかじめ敷設すること。)
ⅱ)原子炉格納容器下部注水設備は、多重性又は多様性及び独立性を有し、位置的分散を図ること。(ただし、建屋内の構造上の流路及び配管を除く。)
b)これらの設備は、交流又は直流電源が必要な場合は代替電源設備からの給電を可能とすること。」
注水設備だけでは冷却が不十分な場合がある。
核燃料溶融物・デブリの上からの注水だけでは、デブリ・溶融物上面の水の沸騰による冷却のみであり、デブリの堆積厚さが厚いとデブリ底部まで十分に冷却できない可能性がある。したがって、床面積を広くとり、デブリの堆積厚さを冷却可能な厚さ以下にする必要があった。しかし、十分大きな床面積を確保することは格納容器構造上困難である原発がある。
米国のGE日立ニュークリア・エナジーは、BiMAC(Basemat-internal Melt Arrest Coolability 基盤内部溶融阻止冷却装置)である。水平方向に対して5度以上で且つ10度未満の傾きを有する冷却底面とその上にある冷却底面をデブリからの浸食から護る融除シールドが主要な構造である。この装置は米国政府(米国エネルギー省)の支援を得て開発されている。「BiMACの最終目的は、最も発生の確率が高い重大な原子力プラント事故後に少なくとも24時間格納容器の完全性を維持し、炉心とコンクリートの相互作用を伴う既知の事故シナリオにおいて0.1%又はそれ未満に格納容器破損の可能性を低減することである」(特許出願の公開番号2011-128142)
日本も次世代沸騰水型軽水炉HP-では、デブリ接触部分に高融点の耐熱材を張るとともに、静的な注水手段による静的デブリ冷却設備を設けるとして開発を進めている。
(株)東芝は、2006年2月22日にコアキャッチャーの特許出願して特許を取得している。特許登録番号4612558の「コアキャッチャーおよび原子炉格納容器」である。6日後、2006年2月28日にも特許出願して特許を取得している。この装置は東芝によれば「既設の格納容器に新たに炉心溶融物冷却装置を設置する場合など、大きな物をペデスタルに搬入することが困難なときであっても、別途製造した各構成部材をペデスタルの内部に持ち込んで、現場で組み立て施工が可能であり、施工性が優れている。」もので、特許登録番号4828963「炉心溶融物冷却装置、原子炉格納容器および炉心溶融物冷却装置の設置方法」である。
三菱重工業(株)は、2010年2月25日に特許出願している。「原子炉から流出した溶融物やデブリを小分けに堆積させて、高温の溶融物やデブリを十分に冷却することができる溶融物冷却構造、これを備えた原子炉格納容器およびこれを備えた原子力プラントを提供することを目的とする。」とする特許出願番号2010⁻064233である。
東電核災害後、資源エネルギー庁は国内すべての原発、既存炉、新設炉へのコアキャッチャー設置を目指している。2012年平成24年度発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業(薄型コアキャッチャーの開発に向けた基盤整備)である。報道によれば東芝が請け負って、直径約6m規模で開発が進んでいる。
このように日本や世界各国で原子炉から流出した溶融物やデブリとコンクリート相互作用(MCCI)を抑制など目的にした技術開発が行われている。これらは、原子炉から溶融物やデブリの流出の後に冷却を行う。日本の東京電力や関西電力などのように流出前に予め原子炉下部(BWRはペデスタル、PWRではキャビティと呼称される部分)に冷却水を張ることはしない。それは、溶融物やデブリが冷却水に触れて水蒸気爆発を避けるためである。この日本の電力会社独自の事前水張が水蒸気爆発を起こさずにデブリを冷却する方法なら、わざわざ世界各国、メーカーが上記のようなコアキャッチャー、炉心溶融物冷却装置、溶融局所化装置を開発したのだろうか?
電力会社が水蒸気爆発は起きない根拠にしている一連の実験は、公知の周知の実験である。世界各国の規制当局も熟知している。そして彼らはコアキャッチャーなどの設置を要求しているのである。米国は「最も発生の確率が高い重大な原子力プラント事故後に少なくとも24時間格納容器の完全性を維持し、炉心とコンクリートの相互作用を伴う既知の事故シナリオにおいて0.1%又はそれ未満に格納容器破損の可能性を低減する」ことを要求し、それに応えてBiMACが開発されている。
日本の原子力規制委員会は、電力会社の事前水張のやり方を認めるならば、日本国民のみならず世界各国、ロシア、フランス、EU、米国、中国などの規制当局にもその理由を、根拠を明らかにするべきである。
この事前水張は、2011年の東電核災害前に導入さている。東電核災害後に公開された東京電力福島第一原発1号機、2号機、3号機の事故時手順書をみると、2011年1月14日、18日付で「電力共同研究にて得られた最新知見」に基づいて事前水張が導入されている。保安運営委員会247回付議済みと記されている。手順書の「注水―3a:RPV破損前のペデスタル初期注水」である。東電核災害の2か月前である。
当時はシビアアクシデント対策に規制当局(原子力保安院、原子力安全委員会)の直接的関与、事前の同意は必要なかった。東京電力が勝手におこなったのであろう。恐らく同時期に関西電力などでも導入されたのであろう。
原子力規制委員会の審査、論議は不十分であり、審査をやり直すべきである。
「受動的安全系」は停電・電力途絶や故障の問題が少ないため信頼性の向上する利点があるが、駆動力が弱いため計画通りの注水ができない場合が想定される。非常用炉心冷却設備(ECCS)のように主として能動的安全機能と併用する。能動的・受動的安全系を組み合わせたハイブリッドな安全系に防護設計思想は進化している。
審査書案 4-1.2.2.1 のp.182[格納容器破損防止対策]について
高浜原発の重大事故想定(審査会合:2013.10.24資料1-1, p.12-29, p.12-3)では、事故発生から、
・炉心損傷(メルトダウン)開始が約19分後
・原子炉容器破損(メルトスルー開始)が約1.5時間(90分)後となっている。
これは、避難計画をどうするかという以前の問題である。住民は避難にとりかかるより相当前に放射能に襲われることになる。
それゆえ、このような事故が起こることを想定していながら、再稼働を認めることは絶対に許されることではない。
まずは炉心損傷(メルトダウン)開始、原子炉容器破損(メルトスルー開始)を遅らせる策を考えるべきである。福井県の原子力防災訓練では7時間に避難を開始している。1時間の余裕を見込んで、8時間は遅らせるべきである。避難計画と整合性を持つべきである。
PWRの非常用炉心冷却設備は、蓄圧注入系、高圧注入系、低圧注入系および燃料取替用水タンクで構成されている。事故想定は、能動的動的 active safety な安全系の高圧注入系、低圧注入系の不作動を想定ている。水タンクはこれら二つの系の水源であり、注水は蓄圧注入系による。
蓄圧注入系は蓄圧タンク(ホウ酸水)、逆止弁などで構成されている。一次冷却材の喪失などで、一次冷却系の圧力が蓄圧タンクの保持圧力以下に低下すると、逆止弁が自動的に開きホウ酸水が炉心に注入される。蓄圧タンクの気相部にある加圧された窒素ガスがホウ酸水を押し出す。外部電源等の駆動源は必要としない受動的静的安全性を具えた系である。関西電力の解析想定は蓄圧タンクの保有水量、注水量を29立方メートル(1基当り、最低保有水量)としている。それで、約19分後にメルトダウン開始である。この注水がなければもっと早まる。
これは、蓄圧タンクを大容量化や増設して保有水量、注水量を増やせば、メルトダウンが遅くなるということである。高圧注水用のポンプ、低圧注水用のポンプは格納容器外に設置してある。同様に蓄圧タンクを格納容器外に増設も可能である。
このようにして、炉心損傷(メルトダウン)開始、原子炉容器破損(メルトスルー開始)を8時間は遅らせるべきである。機械の都合に人が合わせるのではなく、人の都合、周囲の避難計画に機械、原子炉、原発が合わせるべきである。それが出来ないのなら、深層防護の第5層目が成立しえない、約19分後に炉心損傷(メルトダウン)開始が約19分後、原子炉容器破損(メルトスルー開始)が約1.5時間(90分)後になると想定される原発は、再稼働を絶対に認めることはできない。
原子力規制委員会の審査、論議は不十分であり、審査をやり直すべきである。
4-1.2.2 格納容器破損防止策(p178~209) について
東京電力福島第一原発1号機では、ペデスタル床の機器ドレンサンプピットに推定約80㎝と厚くデブリが堆積した。そして、デブリによってピットに設置された原子炉補機冷却系RCWが溶融損傷したと見られる。1号機の原子炉建屋では、各所の放射線量を測定したところ、RCW配管で高い線量が測定されているからである。
このような原子炉から溶融貫通し落下したデブリがドレンサンプピットに厚く堆積すること、それによる配管の溶融損傷の可能性、それが格納容器外への放射能の拡散ルートになる可能性は以前から指摘されている。ゼネラル・エレクトリック・カンパニイの1994年に出願した特許(特許登録番号3510670)の「コリウム遮蔽体」、(株)東芝の2009年出願の特許(特許登録番号5306074)の「原子炉格納容器ドレンサンプ」は、その対策の技術である。
高浜原発などPWRは、格納容器再循環サンプが原子炉格納容器内最底部にある。流出した冷却水と非常用炉心冷却設備及び格納容器スプレイからの水を溜める。注入水源(燃料取替用水タンク)が空になった後にここに溜まった水を使うので、格納容器外の注水ポンプへ通じる配管がある。東京電力福島第一原発1号機で実際に起きたであろうデブリがドレンサンプピットに厚く堆積することが、格納容器再循環サンプで起きるであろう。
1979 年に米国のスリーマイル島(TMI)原発でおこた核災害、TMI事故では希ガスとヨウ素が環境に放出された。主な経路の一つに補助建屋内に通じる配管、汚染水ドレンをピットから補助建屋内のタンクへ送る配管がある。隔離が不完全で汚染水ドレンタンクからオーバーフローして放射能が環境に放出された。
デブリの再循環サンプでの堆積、そのデブリによる配管の溶融損傷、次に不完全な隔離の段階を経て環境汚染が生じる。先ず、再循環サンプでの堆積配管の溶融損傷を防止する策を講じることが必要である。東京電力福島第一原発1号機では実際に起きているのだから、無策は許しがたい怠慢である。次に不完全な隔離を検出して隔離を完全なのにする対策である。
高浜原発の審査書(案)では、特にデブリの再循環サンプでの堆積と配管の溶融損傷を防止する策を審査していない。対処する技術は既にある。原子力規制委員会の審査、論議は不十分であり、審査をやり直すべきである。
多様性
受動的と能動的
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