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泉田・新潟県知事のアーリーベント 7月29日吉田調書、(11)爆発⑥ 13-14頁 [東電核災害検証、吉田調書]

 吉田 昌郎 2011年7月29日付 事故時の状況とその対応について  (PDF:7,170KB)
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/hearing_koukai/051_koukai.pdf
 
7月29日吉田調書、(10)東電のアーリーベント 爆発⑤ 13-14頁 の続き
http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2014-10-09

東京電力のアーリーベント (低い圧力でのベント)

格納容器の設計圧力に到達する前の早期ベント、米国流のearly ventingの手順を事故前から東京電力は整備していた。東電は新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会に次のように答えている。
「ベントについては,当社としても米国と同様アーリーベント(低い圧力でのベント)を実施する手順を整備しており,格納容器圧力が圧力開放板の設定圧力に到達したタイミングでベントする仕様としておりました。しかし,福島事故で経験したようにベントのタイミングについてはプラントの状況にあわせて柔軟にコントロールできるような設備であるべきであったと考えます。」
(圧力開放板とは、ラプチャーディスク・破裂弁のこと。福島事故検証課題別ディスカッションの6シビアアクシデント対策
http://www.pref.niigata.lg.jp/genshiryoku/1356771524701.html

東電核災害で、福島第一の2号機、3号機ではアーリーベント(低い圧力でのベント)の作業が行われている。ラプチャーディスク・破裂弁が設定圧力、格納容器の最大使用圧力で破裂しなかったのでアーリーにはなっていない。この手順、発災時アーリーベントの東電手順が米国の様に『燃料損傷が起こった場合には、PCV 内での水素爆発の可能性を減らすため、』ベントするものなのだろうか。東電のアーリーベントはメルトダウン、メルトスルーの時でも行うような手順なのだろうか。

働くのか・・柏崎刈羽原発、働いたのか・・福島第一

圧力抑制プールの水温は、非常蓄電池が枯渇する頃・約8時間以降に設計温度の138℃(マーク-Ⅰ、マーク-Ⅱは104℃)に到達すると試算されている。下図は2号機の格納容器温度のMAAPによるシュミュレーションである。同型の3号機の推移を検討する参照資料にもなる。

2号機格納容器温度.jpg


3号機のアーリーベント

3号機は13日7時43分に圧力抑制プール室で弁操作しているが、圧力抑制プール「トーラス上部に足を掛けた際に靴底のゴムが溶けた。またS/Cスプレイ弁の操作ハンドルが熱くなっており,ずっと握っていられない状態」(H23/12対応状況の72頁、http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111222p.pdf)である。この頃のD/W、S/Cの格納容器圧力は0.4MPaを超えている。0.4MPaでの水の飽和温度・沸点は143.6℃。それに近い水温と推定できる。2号機の試算値を参照して、この稿では130℃と置く。

 この24時間ほど前の12日午前中にも圧力抑制プール室で弁操作しているが、「靴底のゴムが溶けた」といった高温は伝えられていない。「トーラス室では原子炉の蒸気がS/C へ放出している音がしていた。」(H23/12対応状況の68頁)とありこの蒸気で高温化、高圧化したのである。その後にS/Cスプレイ(散水)が行われ、このその間は0.3MPa程度である。0.3MPaでの水の飽和温度・沸点は133.5℃。ここでは120℃と置く。

 3号機の耐圧強化ベント系がラプチャーディスク・破裂弁・圧力開放板を外し、米国のBWRや柏崎刈羽原発と同じであったとする。12日午後S/Cスプレイの時に、スプレイをやめてベントを開始したとする。水温は約120℃(393K・絶対温度)位でベントで1気圧に減圧される。圧力釜の安全弁を開けたと同じに、減圧沸騰が起こる。その際に微細な水滴(エントレインメント)が発生する。

 原子力安全解析所の研究を参照すると、0.05つまりS/C圧力抑制プールにある水の5%の微細な水滴(エントレインメント)が発生する。13日7時で水温は約130℃(403K・絶対温度)位では5.5%ほどである。3、4号機のプール水量は2980立方㍍で、そこに注水された水量が加わっている。1%で約30立方㍍である。研究では1時間で大体発生し、2時間かけてこの量が発生するとなっている。

1382370952.jpg
原子力安全解析所の研究・・http://hatake-eco-nuclear.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08-2

 原子炉での沸騰では汽水分離器で分けられ水滴は炉から出ない。ベントラインには分離器はないから、エントレインメントは配管部に流れ込む。そして配管部で捕集される。研究のエアロゾルの集塵効率を見ると、エントレインメントの数%が配管に蓄水される。配管の屈曲部や弁の複雑な構造部では捕集率は高くなる。閉塞の程度でベントによる減圧ができなかったり、速度が遅くなる。崩壊熱での高圧化よりベントでの減圧化が小さければ、格納容器の圧力は上がる。

 3号機では13日の8時41分にベント配管が構成される。8時55分0.47MPa。9時8分に原子炉のSRV・逃し安全弁が開操作。格納容器へ圧力が出て0.637MPaまで、ラプチャーデスクの破裂設定値の約1.5倍まで高圧化。ラプチャーディスク・破裂弁が破れ、格納容器の圧力低下が9時20分に確認される。発電所正門から「3,4 号機主排気筒から煙が風で流されている状況を確認」(H23/12対応状況の51頁)その直後、9時半頃に「原子炉建屋1階は,霧が充満したようにモヤモヤと白くなり,線量計の数値が上昇」(H23/12対応状況の80頁)と、建屋への大量の放出が見られる。

 ボンベに加えて、仮設コンプレッサーをタービン建屋に設置し計測用圧縮空気系を介してベントラインAO空気作動弁に圧搾空気を送り開状態にすることとし、13日19時接続終了。21時頃に格納容器減圧が確認される。20時30分に0.425MPa、21時に0.395MPa.。

 14日01時30分0.255MPaまで低下するが、02時0.265MPaと上昇。5:20 にS/C ベント弁(AO 弁)の小弁を開操作する。いったん下がるが直ぐに上昇が再開。14 日11時01分3 号機原子炉建屋で爆発発生。

3gokib2.jpg

3号機では、このように減圧速度が遅くベントラインの狭窄が示唆される。14日02時以降の圧力上昇は、ベントラインAO空気作動弁の大弁の閉塞状態に、小弁も直ぐに閉塞状態になり重なったことを示唆している。13日9時半頃の建屋1階の線量上昇が示すようにベントが行われていても建屋への放射能、水素ガスの流入は止まらなかった。

2号機のアーリーベント
経過
12日、朝方にベントを行おうとした。
00時06分、中央制御室で1号機及び2号機のベント実施に向けて弁の操作方法や手順など,具体的な手順の確認など準備が開始
01時30分頃、1号機及び2号機のベントの実施について,内閣総理大臣,経済産業大臣,原子力安全・保安院に申し入れ,了解を得る。本店対策本部より「あらゆる方策で電動弁(以下,「MO 弁」),AO 弁を動かし,ベントして欲しい。3:00 に経済産業大臣と当社がベントの実施を発表する。発表後にベントすること。」(H23/12対応状況の38頁)
03時06分、ベント実施の記者会見。
しかし2号機では実施されなかった。1号機では10時代に一旦ベントされるが、14時30分に格納容器圧力の低下が確認された。

15時36分の1号機爆発の後、
17時30分に2号機ベントの準備を開始するよう所長指示。

13日
10時15分、ベントを実施するよう発電所長指示。
11時00分、S/Cベントライン構成完了。ラプチャーディスク作動圧より格納容器S/C圧力が低く、破れずベントは失敗。

14日
13時25分、原子炉水位が低下、RCIC原子炉隔離時冷却系の炉注水が停止しただろうと原災法第15 条通報。
17時17分、原子炉水位がTAF(有効燃料上端) に到達、炉心露出開始。
18時22分、水位がBAF(有効燃料下端)になりメルトダウン進行。
21時頃、S/C ベントライン再構成完了。ラプチャーディスク破れずベント失敗。
15日
00時01分、D/W ベントライン、ベント弁開操作するが数分後に閉であることを確認。ベント失敗。
03時頃、格納容器D/Wが設計上の最高使用圧力を超える。
06時~06時10分頃、大きな衝撃音が発生。S/C 圧力の指示値が0になる。
06時14分頃、4号機爆発
07時、監視、作業に必要な要員を除き,福島第二へ一時退避することを官庁等に連絡。

2号機の耐圧強化ベント系がラプチャーディスク・破裂弁を外し、柏崎刈羽原発と同じ変更がしてあったとする。2号機でも1号機と同様にベントライン構成をすすめ12日10時までにベントを実施した場合、S/Cプールの水温は100℃を超えた超えない位だから減圧沸騰の伴う微細な水滴(エントレインメント)発生はないか
微小。ベント管の狭窄の程度も低いだろう。ベントラインの保持が次の課題になる。RCIC原子炉隔離時冷却系の停止前の炉注水の確保が残る課題。これができなければ、核燃料の損傷、溶融メルトダウン、溶融貫通メルトスルーに進み、水素ガスの大量発生、放射能の放出になる。そしてベントラインが開いているから、ダダ漏れ状態になる。格納容器は本来の放射能を外に漏らさない容器という意味を失っている。

 13日の11時のライン構成でベントが始まった場合、S/Cの水温は約130℃(403K・絶対温度)あるからS/C圧力抑制プールにある水の約5.5%の微細な水滴(エントレインメント)発生が予想される。1時間で約120トン、それから1時間で約45トン。このエントレインメントなどが管や弁、屈曲部に滞水しておこるベントライン狭窄の程度は予測できない。狭窄で減るベントの減圧効果よりも、崩壊熱などによる加圧効果が勝れば格納容器圧力は上昇するから、原子炉建屋(2次格納容器)への漏出は増える。

 炉注水の確保ができなければ、核燃料の損傷、溶融メルトダウン、溶融貫通メルトスルーに進み、水素ガスの大量発生、放射能の放出が起きる。この時に先の原子炉建屋(2次格納容器)への漏出があると、水素ガスの爆発も起こり得る。建屋内は沈着する放射能で確実に汚染される。建屋内に立ちることができなくなり、作業ができなくなる。

東電核災害のアーリーベントからの教訓

福島第一の2号機、3号機のアーリーベントを検討した。核災害全体でみると原子炉への冷却水の注水確保が最も重要である。東電核災害では海水系が津波で全滅したから、崩壊熱を海に捨てることはできなくなっていた。遅かれ早かれベントを行われた。PWRは格納容器が大きいから、いったん格納容器内に封じ込め、格納容器の外表面からの放熱で徐々に崩壊熱を出して、上手くいけばベントをせずに済む場合、放射能を格納容器内に封じ込める場合もあろう。しかしBWRは小さい。小さくするために設けられた圧力抑制プールS/Cの水温が100℃、大気圧の沸点を超えない内にベントを行う、アーリーベントが必要な操作になる。

 アーリーベントを行って炉注水が確保された場合は、炉水の水蒸気をベントすることになる。これは人為的な大LOCA、主蒸気間破断事故である。海水系の回復や代替排熱系ができなければ、格納容器の外表面からの放熱と崩壊熱が同じになるまでベントは継続しなければならない。格納容器を閉じれない。同じくなるのは東電核災害の経験からは約1年半から2年後になる。その間は、放射能の放出を止めることができない。

 炉への注水ができなかったり、不足だと、核燃料損傷(被覆管レベルの損傷)、溶融メルトダウン、溶融貫通メルトスルーにいたる。アーリーベントを行ってベントラインが開いていると放射能がそのまま周囲に出ていく。米国の様に「燃料損傷が起こった場合には、手順書ガイダンスにのっとり、PCV格納容器 内での爆発の可能性を減らすため、格納容器内の水素濃度に基づき早期ベント」の手順を採った場合、濃度に達するまで放出はないが格納容器は高圧化する。そうなると3号機を見れば、格納容器からの原子炉建屋(二次格納容器)への漏出は避けられない。

 それは、放射線被曝によって収束作業のために建屋に入れなかったり、沈着する放射能による建屋の汚染を起こす。また水素ガスも建屋内にでる。4号機建屋の水素爆発を起こすには、4号機建屋の容積で13.7立方㍍ ・約1.3kgの水素があれば十分であると算出されている。これは同型の3号機でメルトダウンで生成した水素の0.1%程である。つまり建屋の天井部の開口部から漏洩した放射能や水素ガスを出すことになる。周囲への放出はベントラインを経由するか建屋を経由するかの違いでしかない。周囲への影響には大差がないと思う。この放出も格納容器の外表面からの放熱と崩壊熱が同じになるまでは止められない。

 核災害全体でみると、アリーベントと相前後する時点での原子炉への冷却水の注水確保による核燃料損傷(被覆管レベルの損傷)、溶融メルトダウン阻止が最も重要である。またメルトスルー直後からデブリに十分な冷却水を掛けないと、チャイナシンドローム、格納容器破損が生じ、ベントだけでなく地下水などでの環境放射能汚染がおこる。

柏崎刈羽原発では・・泉田知事
新潟県の泉田知事は定例記者会見で次のように触れている。
「簡単に言うと、アーリーベントをどうするのかということです。例えばギロチン破断が起きて、水が瞬間的になくなった場合、メルトダウンは30分以内に起きるということも言われています。どの段階で格納容器が壊れるかだけで議論するのがおかしいのです。
 NHKスペシャルでも報道されていましたが、3号機がなぜ水蒸気で満たされたのかと。RCICの電源が切れると、軸受から大量の放射性物質を含んだ水蒸気が漏れて中に入れなくなるということが起きるわけです。ぎりぎりまで引っ張れば、その後で作業できなくなるわけです。(格納容器が)壊れなければよいというところだけで議論するのであればそのような議論になるのかもしれませんが、作業できなくなったらその後で何が起きるかわかりません。
 例えば、使用済核燃料プールに亀裂が入って水が抜けるという事態が起きるだけで、水がなくなった瞬間に7シーベルトくらいの線量になるわけです。人が近づけなくなった場合にどのように収束するのかと。建屋の中で活動できる環境を作るために、早めにベントするという選択肢もあるわけです。
 炉内で放射性物質が出ているかどうかや、メルトダウンが起きる前なのか後なのかによっても本来(ベントの判断は)異なるはずであり、格納容器の強度だけで議論するのが非現実的であるということに尽きます。」平成26年5月27日 
http://chiji.pref.niigata.jp/2014/05/post-f32b.html#05

「3月11日の午後3時35分か37分の津波により全電源喪失して、午後5時過ぎに行ったらもう線量が上がっていたわけです。格納容器のパッキンと言いますか、キャップと格納容器の間の隙間から出てくるわけです。
 それはぎりぎりまで引っ張るというようなことだと思うのですが、ぎりぎりまで引っ張るとどうなるかと言うと、2号機や3号機と同じような状況になるわけです。すなわち放射性物質を含んだ水蒸気が建屋の中に充満するわけです。
 その後で誰が入るのでしょうか。そんなリスキーなオペレーションをするのでしょうか。格納容器圧力が大気圧より高くなれば、放射性物質を含んだ水蒸気が大量に噴出するということになるわけですから、格納容器圧力を下げておかないと仕方がありません。
 そうしないと注水をどうするのかと。だからベントをどうするのかということと、避難計画をどうするかということの整合をとらないといけないわけで、フィルターベントが機能するタイミングだけで考えても、現実と乖離した数字になっていると思っています。これ以上の技術論は技術委員会で行っていただきたいと思います。」平成26年4月2日
http://chiji.pref.niigata.jp/2014/04/post-3068.html

「アーリーベントをどうするのかということで、アーリーベントの場合が許容できるのかどうかですが、これも様々なケースがあるわけです。燃料損傷が起きてからのベントであれば既に放射性物質をまき散らしてしまうわけです。その状況設定についての科学的な議論を技術委員会で行わなければ仕方がないのです。
 東電が言っているように、格納容器の圧力が設計の2倍ぐらいに上がるまで放っておいて、放射性物質と水蒸気を建屋内にまき散らすなどというオペレーションをすればその後取り返しがつきません。どうするつもりなのでしょうか。誰か特攻隊でも送るのでしょうか。そういった辺りをしっかり詰めていただく必要があるのではないでしょうか。事故というのは総合的に起こるものですから、ベントの担当者だけが来てベントの話だけをしてるというわけではありません。」平成26年4月2日


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